Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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増殖するエイリアン
少し前のことになるが、9月6日に、恩義ある人の葬儀に参列した。

場所は、茨城県の水戸
ヨメともどもお世話になった方だったので、夫婦二人で行ってきた。

古臭い表現だが、私たちの結婚は、駆け落ち同然だった。
いま同居中の異星人が、私たちの結婚に理解を示してくれなかったので、お互い勝手に家を出たのだ(若気の至り)。

当時、私は弁護士事務所で働いていた。
ヨメは、大手の信販会社の社員だった。

その信販会社でヨメの上司だったK氏と、私が勤めていた弁護士事務所のボスが、偶然にも大学の同期だった。
ヨメは、K氏を大変尊敬していて、よく相談事を持ちかけていた。

K氏とは、駆け落ち前に、数度会ったことがある。
彼は、鋭い目をした、いかにも「切れ者」という感じの人だが、笑うと途端に目が柔和になって、相手の心を確実に落ち着かせる雰囲気を持っていた。

ヨメの母親は、ヨメが家を出た後、何度もヨメの勤める会社に電話をかけてきた。
(親だから心配するのはわかるが、一日に5度以上かけてきたこともあったらしい。それは、少し常軌を逸していると思うのだが)

K氏は、我々が勝手に家を出たというのを聞いたとき、ちょっとした茶目っ気を見せながら、こう言った。

「冷却期間が必要ですね。逃避行しちゃいましょうよ」

ここからが信じられないことなのだが、彼は我々の逃避行のすべての段取りを整えてくれたのである。
そして、ヨメの母親に対しての防波堤になってくれたのだ。

信販会社の支社が、神戸にあった。
そこにひとり欠員ができたのである。
まず、K氏は、ヨメをそこの支店に急遽、配置転換したのだ。
人事部でもない彼がそこまでの権限を持っていたのが不思議だったが、一週間も経たないうちに、ヨメに異動の辞令が出た。

そして、次が私だ。
今までの弁護士事務所に籍を置きながら、神戸の他の弁護士事務所に派遣という形で移るという、チカラ技を私のボスに対して発揮したのである。

我々がヨメの母親の前から完全に姿を消した時、彼女は会社までやってきて、K氏をなじったというが、K氏は彼女に言わせるだけ言わせて、お引取り願ったという。
それを聞いて、我々は自分たちの行動を後悔したが、K氏は「もう走り始めたんだから」と言って、私たちの尻を叩いた。

神戸で住んだのは、市内で写真屋を営むSさんの家の「離れ」だった。
Sさんは、K氏の奥さんの兄である。

離れは、1DKの平屋の家。
台所もあれば、広々とした風呂もある、快適な家だった。
我々が用意したのは、布団だけ。
調理器具や食器類その他は、Sさんが貸してくれた。

Sさんは、週に一度は、奥さんと二人で離れにやってきて、すき焼きをご馳走してくれた。
そして、彼はこんなことを我々に言った。

「Mくん、人間は、考え方が違うのが当たり前。説得なんか無意味ですよ。理解し合えない人もいるんです。だからといって、それは誰が悪いわけでもない。誰も悪くありませんよ。ただ、お互いの存在を認めることは大事です。認めることで、ひとは人にやさしくなれます」

そんなことを言ってくれたSさん夫婦は、阪神大震災のあと、水戸に住む長男夫婦の家に身を寄せた。
そして、81歳の大往生。

今回の葬儀で、かつての法律事務所のボスと再会した。
5年ぶりだった。

今年77歳のボスは、背筋が伸びて健康そうに見えたが、隠しようのない老いが、その顔を覆っていて、私を愕然とさせた。
時は、残酷である。

「Mくん、Sさんは、掛け替えのない男だったね」
はい。

そして、5年前に亡くなったK氏のことを話したとき、ボスの目から、涙があふれ出てきた。

二人して、抱き合って泣いた。
ヨメも泣き崩れた。

この一週間、どこか心に厳かなものを抱えながら、仕事をしていたような気がする。
それは、去って逝ったひとへの感謝の気持ちかもしれない。

合掌。

ここで話が終われば、この話は、綺麗なもので終わっただろう。

しかし、終わらないのですよ。
綺麗な話のまま、終わらしてくれないのだ。

葬儀のため、ほぼ一日家を空けた。
その日は、子どもたちに朝メシを食わせてから、出かけた。
昼飯は、冷凍庫にあるものを適当に温めて食うか、コンビニで好きなものを買って食え、と二人にお金を渡しておいた。
もちろん、異星人の昼食も用意しておいた。

「もし、バアちゃんの身に何かあったら、すぐに知らせろ。スガワラさんに頼んであるから、我々が帰るまで面倒を見てくれるはずだ」
そう言い残して、家を出た。

そして、感謝の気持ちを胸いっぱいに膨らませた一日が終わった。

しかし、一週間近い時がたったいま、悪意の噂が、我々を取り巻いていた。
「家族だけで温泉旅行よ。私ひとりだけ置き去り。自分たちだけ、美味しいものを食べて、いい思いして、平気なんだからね。まったく自分勝手なもんだよ、あの二人は!」

え? なんで、そうなるの?

普通、喪服を着て、旅行はしない。
我々に、そんな趣味はない。

私の姿を見つけて、「おばあちゃんも連れて行ってあげればよかったのに」
親切顔で言う、近所のご隠居さん(異星人の信者仲間)。

いや、私たちは、お葬式に行ってたんですよ。
「あらあら、オホホホホ」

最初から、信じる気は、ないようである。

「Mさん、ダメだよ。おばあちゃん一人残して、日曜日に家族で温泉行ったんだって? しかも、おみやげも買ってこなかったって? そりゃ、可哀想だよ。ダメだわ」
声が、やたらでかい70歳過ぎのおじいさん。

「えらいわよねえ。あの歳で家族みんなの三食のご飯作ってるなんて(大嘘です)。それなのに、ひとり置き去りじゃ、泣きもするわよ」
団地の上の階の信者仲間(推定45歳)。

私のまわりに、異星人が増殖している。


2009/09/12 AM 07:24:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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