Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








どうしたもんかねえ
「顔がひと回り小さくなったね」と言われた。

もともと貧相な上に、体重が大幅に減ったせいだろうか、あちこちでそんなことを言われている。

今回そう言ったのは、得意先の工務店の社長である。
「Mさん、髪の毛も増えたんじゃない?」とも言われた。
それは、先週桶川の得意先に行ったとき、担当のフクシマさんにも言われた言葉だ。

「あれ、Mさん。入院って、髪の毛を増やすためだったの?」と笑えない冗談を言われたので、いつものとおり無視した。

ただでさえ、貧相で小さい顔が縮んだものだから、髪の毛が増えたように見えるのだろう。

髪の毛が少ないとお悩みの方、長期入院で痩せてみてはいかがでしょうか。
髪の毛が増えて見えるという「錯覚の世界」に浸れますよ。

「俺なんか、毎日テカリが増すばっかりで、うらやましい限りだよ」と言いながら、工務店社長は、自分の頭を軽く叩く。
そして、そう言いながら、どこか憐れむような目を私に向ける。

もしかして、私の身の上に降りかかった災難を知っているのか?
いや、この社長から以前お呼びがかかったのは、今年の2月のこと。
それ以来、連絡はしていない。

だから、私が災難にあったことも入院したことも知らないはずである。
社長と私との共通の知り合いというのも、いないはずだ。

おそらく、知らないはずだ。
だが、社長の目は、知っているような光を持っている。

なんか、居心地が悪い。
早く帰りたい。

天井のスピーカーから流れる、有線放送の演歌が鬱陶しい。
思わず舌打ちをしそうになった。

そんなとき、社長が後ろを向いて、「おい!」と言った。
この会社の従業員は、社長の奥さんと経理の女事務員、そして営業一人の総勢3人だが、今日は女事務員と営業はいなかった。

だから、その「おい」は、奥さんに向けて言ったものである。
社長は、芦屋雁之助に雰囲気が似ていた。
そして、その奥さんも雁之助に似ていた。

雁之助夫婦の片割れが、身軽く立ち上がって、私のそばに立った。
そして、小さく振り絞るような声でこう言うのだ。

「あたしは、失礼じゃないかって思ったんだけど、お父さんがどうしてもって言うから」
そう言いながら、おんな雁之助は、分厚い封筒を応接テーブルの上に置いた。

その封筒を見て、私はなぜか中身を想像することができた。
それは、以前のことを思い出したからだ。
それに関しては、以前このブログに書いた。

封筒の厚みから推測すると、以前のものより量は確実に多そうである。
意地汚い想像だが、「5万円?」という数字が、頭に浮かんだ。

貧乏をすると、思考が下品になる。
すべてが、「金」に結びつく。

それは、確実に自己嫌悪に結びつくが、かといって、その現実を否定することができないくらい、生活は「金」が左右している。

ただ、下品であることに変わりはない。
かぎりなく下品である。
下品だとは思いつつ、驚きの表情を作って、私は封筒を開けた。

前回は図書カードだったが、今回は商品券だった。
金額は、思ったとおり5万円分。

社長の顔を見ると、「どうしたもんかねえ」と困った顔で、私を盗み見ている。
あげた人間が「どうしたもんかねえ」と言うのである。

おんな雁之助も「ごめんなさいね。どうしましょうかね」とため息をついている。

そんな姿を見て、私は胸の奥の渦をかき回されたように、体全体が苦しくなった。

この人たちは、俺のことを心配してくれているのだ。
誰から聞いたかわからないが、私の窮状に対して、何かをしてあげたいと思ったのだろう。
それは、まったくの純粋な気持ちからであるというのは、二人の「どうしたもんかねえ」という呟きが証明している。

どうしたもんかねえ・・・・・。

その言葉が、私の胸の渦を、大きくかき回す。
そして、二人の優しさと、自分の卑しさに、いたたまれなくなる。

だから、封筒をそのままにして、私は逃げ出してしまったのだ。

どうしたもんかねえ・・・・・。

あのあと、すぐに社長から電話がかかってきた。
失礼を詫びて、また会社にうかがうことを約束したが、私には、その勇気がまだ湧いてこない。

「どうしたもんかねえ」が、私の下品な胸の中で、ずっとこだましている。







2009/05/31 AM 11:15:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

空白の十分
自転車を盗まれた。

それは、退院して次の日。
どれくらい手持ちのお金があるか確かめに、朝早く駅前のATMまで自転車で行ったときのことだ。

駅前のみずほ銀行ATMの前は、適度なスペースがあって、自転車をとめやすい。
しかし、駅前全体が駐輪禁止区域になっていて、パトロールのシルバー隊が、黄色いベストのようなものを着て、時々目を光らせる場所でもある。

ただ、ATM前くらいは、自転車をとめてもいいのではないか、と普通は思う。
だから、私はとめた。

朝8時50分。
記帳をして、残金を確かめ、端数を残して全額引き出した。

次は、りそな銀行。
50メートルほど離れたところに、やはりATMがあった。

50メートルだから、わざわざ自転車に乗ることもない。
歩いてATMまで行き、同じように記帳して、残金を引き出した。

朝早くだったから、ATMは空いていた。
2つの作業に、おそらく10分もかかっていないだろう。

私は、みずほ銀行ATM前まで、歩いて戻った。

だが、そこにあるはずの自転車が消えていた。
あたりを見回してみた。
周りを歩き回ってみた。

しかし、自転車は見つからなかった。

盗まれたのか?
鍵は、かけた。
だが、100円ショップで買った安い鍵だったので、壊すのは容易だったかもしれない。
「こんな短時間に、たいしたもんだ」と思った。

親切な団地の住人から譲り受け、盗難登録の名義も変えた愛着のある自転車。
それを盗まれた。
間違いなく、それは、私の不注意だろう。

盗難のことは忘れて、痛い出費だったが、新しい自転車をディスカウントショップで買った。
そして、その新しい自転車は、息子に使わせて、私は息子の古い自転車を使うことにした。

そんな風に、普通に自転車のある生活を続けていた昨日、一枚の葉書が我が家に届いた。

裏面を見ると、放置自転車撤去のお報せだった。
要するに、駅前に放置した自転車を「邪魔だから撤去したので、心当たりがある人は、保管場所まで取りに来い」という通知書である。

放置自転車? 撤去?

金を下ろす用があって、わずか10分足らず自転車をATM前にとめることが、違法行為?

駐輪禁止だから、ATM前であっても、それは邪魔ってこと?

詳しく読むと、保管所に自分の自転車を取りにいく場合は、身分を証明するものと千円が必要と書いてある。

私は、これを「ぼったくり」だと思うが、常識的な人間は、10分であっても、駐輪禁止箇所に自転車をとめるほうが悪い、と考えるんでしょうね。

馬鹿馬鹿しいね。
だから、葉書は、破いて捨てた。

きっと役所に何を言っても無駄だろう。
役所は、小学校低学年男子と同じで、反省をしない集団である。

「だって俺は悪くないもん! 先生の言うとおりにやったんだもん!」

世間の皆様、ゴミを増やして申し訳ありません。
本当は、千円を払って、自転車を回収すべきでしょうが、今の私には、その千円が、とても惜しい!

だから、自転車は、取りに行きません。
地球を汚す私を、お許しください。



2009/05/29 PM 04:08:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

定額給付金とストラトキャスター
昼夜なく、働き続けた(少々オーバーか)。

もちろん、膨らんだ借金を返すためである。
あちこちに頭を下げて、仕事をもらった。
「こんなやつからは、二度と仕事なんかもらうもんか」と絶交宣言した人間からももらった。

その結果、24時間が、かなり窮屈になった。

普段は、メシのしたくは、ほとんど私がしていたのだが、この2週間は、ヨメに任せた。

ヨメの得意料理は、和食。洋食は不得意である。
毎日食卓に並ぶ和食。
はじめのうちは、「ああ、たまには和食もいいな」と言っていた子どもたちであったが、5日もすると悲鳴を上げた。

「洋食、カンバーック!」
「和食は一週間に一度でいい!」

しかし、君たちは幸せものだ。
和食は、おふくろの味。
洋食は、おやじの味。
二つの味を知っているのだから・・・。

「おふくろの味が、洋食だったら、もっとよかったのに・・・」

そんな子どもたちのボヤキを背に受けつつ、我ながら「よくぞここまで」というくらい仕事をこなした。

今回稼いだ請負代金は、来月の10日と20日に入金される。
これにより、借金の半分は返せる目途がついた。
義母の入院代も、友人のタカダ君の助けを借りなくても払えそうである。

安堵・・・・・。


ところで、定額給付金。

「定額給付金、まだ来ない。手続きしたのに、全然来ない!」とうるさいのは、わがヨメである。

私とヨメ二人で、2万4千円。
子ども二人、4万円。
合わせて、6万4千円をいただけるというのだが、そのいただける理由が、私にはいまだに、わからない。

ヨメは、「もらって、当たり前」と言うが、高額所得政治家は、この程度の金額で、下々のものに、いったい何を望めと言うのか。

本気で景気浮揚策を考えるのなら、一ケタ少ない気がしますよ、アソウさん。
俺たち、真面目に税金払ってきたんですからね。
官僚さんの僕(しもべ)じゃないんですからね。

そんなことは別にして、「なぜ、来ない」とヨメが騒ぐ。
私は、そんなヨメに向かって、「子どもたちの分は、子どもたちにそっくりあげようよ」と提案した。

ヨメの顔が、固まった。
「ウソでしょ?」

ウソでは、ありません。
子どもたちがいなければ、4万円は手に入らない。
だから、これは、子どもたちにもらう権利がある。
いたって、単純な理屈である。

「なに、奇麗ごと言ってるの! 貧乏にまみれた我が家の現状を知っていて、よくいい子ぶれるわね!」
というような顔で、睨まれた。

貧乏は、百も承知。
しかし、子どもたちまで貧乏にしたら、親失格である。
世間並みの暮らしは、していると思うが、それは「親目線」「親の一方的な思い込み」かもしれないのだ。

子どもたちは、「くそ貧乏な生活させやがって!」と思っているかもしれない。
もちろん、満足している可能性もあるが、そこは親としては、聞きづらいところである。

そのあたりに自信がないので、とりあえず今回は、全額使わせてあげたいのだ。
別に、自分の懐が痛むわけでもないし・・・・・。

「いいえ! 私の懐は痛みます!」

いや・・・・・、しかし・・・・・。

そもそも私の場合、独立してから、自分のために何かを買ったということが、数えるくらいしかない。
ジョギングシューズぐらいである。

自分の口座に請け負い代金が払い込まれても、それはすべて私の横を素通りしていくだけだ。
だから、通帳に刻まれた金額に、現実感がまったくない。

ただ数字が並んでいる、としか思えないのである。

定額給付金?
なに、それ?

ただの数字でしょ?

ただの数字で、子どもたちが喜んでくれるなら、私は、それだけで嬉しい。
だから、子どもたちに使わせたい。

「じゃあ、今回は1万2千円、全額パパにあげるから、好きに使っていいわよ」
ヨメが、やけくそで言う。

でも、ケタがひとつ違うんだな。

俺は、そんな安っぽい男じゃないんだよ。

1万2千円じゃ、ストラトキャスターは、買えないんだから・・・。


2009/05/28 AM 11:01:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

ヒヨコの意地
私は、確実にバカである。

19日間入院していた男が、少し体調が良くなったからといって、ジョギングをした。
しかし、500メートルも行かないうちに、目の前が真っ暗になった。

慌てて道路脇の自動販売機にもたれかかって、倒れることを防いだ。
もし、自動販売機がなかったら、私はものの見事に倒れて、頭を打っていたかもしれない。

自動販売機さん、ありがとう!

自動販売機にすがりつき、目の前真っ暗なまま、ゆっくりと腰を落としていく。
ゼエゼエゼエ・・・・・。

5分くらいそうしていただろうか。
視界が戻ってきたので、ゆっくりと立ち上がり、打ちひしがれながら家に戻った。

そんな私を見て、中学2年の娘が言う。

「よく考えて見ろ! 能のない鷹は、隠す爪さえもないのだ。間違っても、自分を鷹だとは、思うな! お前は、学習能力のないヒヨコだ。ピヨピヨのヒヨコなのだ!」

そんなヒヨコは、ある日、仕事の打ち合わせで、浦和に行くことになった。
暑いので、スーツの上着は、持っていかなかった。
それが、間違いだった。

最寄りの東大宮の駅に着いたとき、SUIKAを忘れたことに気づいた。
私の場合、スーツの上着の内ポケットに、スイカを入れる癖があった。
そのことを完全に忘れていたのである。

家に取りに帰る時間はない。
ズボンのポケットには、小銭入れがある。
札には縁がないので、札入れは持っていない。

小銭入れの中を探って、懸命に数えてみると、994円あった!(珍しく多いぞ)
浦和までの往復にかかる運賃が、460円だから、十分間に合う。

そこで、切符を買って、電車に乗った。
しかし、ここでも私は、ヒヨコだった。

浦和駅に降り立ち、改札の前まできたとき、ポケットに切符がないことに気づいたのである。
ズボンの後ろ前に、ポケットが4つ。
ワイシャツの左胸に、ポケットが1つ。

探ってみたが、切符は見あたらない。
ズボンの左右のポケットなど、みっともなくも「ビヨーン」と中身を出してみたのだが、見あたらなかった。

階段、通路、ホームを逆にたどってみたが、東大宮発の切符は落ちていなかった。
もし車内で落としたのだとしたら、切符が見つかることはないだろう。

仕方がない。
もう一度、230円を払うしかない。

私は、改札の駅員に、恥を忍んで切符を落としたことを告げた。
しかし、この駅員、無言で20秒近く私を見つめてきたのである。
年は、20代前半だろうか。
真面目そうな、しかし、融通のきかなそうな硬直した顔をしていた。

駅員は、しっかりと20秒ほど溜めたあとで、早口でこう言った。
「よく探した?」

お客様に対しては、「よく探した」ではなくて、「よく探しましたか」だよね、坊や。
私は、急に気持ちが、ささくれ立ってくるのを感じた。

改札事務所の壁の上には、モニターがあって、ホームの様子が映し出されていた。
私は、それを見ながら、右足で、高速な貧乏揺すりを始めた。
しかし、そんな私の不快感に気づかず、若い駅員は、言葉を投げつける。

「自分では、よく探したと思っていても、ズボンの奥の方にある場合が多いんですよね」
「ズボンの中を裏返すような感じで探してみた?」
「靴にくっついていたなんて人もいたなあ」
「実は、手に握りしめていた、なんて人もいたかな」
「本当によく探した?」

高速貧乏揺すり。

私が、反応しないのを見て、駅員はあきらめたように(ため息をつきやがったんですよ)、「どこから乗りました?」と聞いてきた。

私は、モニターから駅員に視線を戻して、目に軽い敵意を浮かべながら答えた。
「東大宮」

すると、今度は10秒ほど溜めた後で、駅員はこう言った。
「いくらの切符を買いました?」

要するに、遠くから乗ってきて、不届きにも運賃を誤魔化す客がいるということだろう。
とりあえず、乗った駅からの運賃を聞いたときの反応で、キセルかどうかわかる、とマニュアルに書いてあるに違いない。
私も、ずっとそんな目で見られていたようだ。

「230万円」
たちの悪い私の答えを無視するように、駅員は、眉一つ動かすことなく、「じゃあ、決まりなので、230円またいただきます」と言った。

負けたな。
ヒヨコは、負けた。
若い駅員に、見事にヒヨコ扱いされてしまった。

ピヨピヨピヨ・・・・・。


しかし、ここでいきなり話は変わるが、長い付き合いのスドウくん。
先日、君は言ったね。

「なんで、マツさんが、奥さんのお母さんの入院費用まで面倒見なくちゃいけないんだい? 兄貴たちがいるんだろう。そっちに払ってもらえばいいじゃないか。俺には、マツさんが無駄なことをして消耗しているように思えて仕方ないんだが・・・」

そうかな。
私は、義母のことは、長兄、次兄たちが、私に喧嘩を売っているんだと思っている。

私は、売られた喧嘩は、絶対に買う主義である。
もし、長兄、次兄たちが、「お願いですから、自分たちに母親の面倒を見させてください」と私に頭を下げるなら、面倒を見させてやってもいいと思っている。
しかし、そうしないのならば、私は今の状態を続けるしかない。

決して、彼らを頼ることなく。

なぜって?
それが、私の意地だから。

たとえ、それで体の具合が悪くなったとしても、私はこの意地を貫き通すつもりだ。

それが、ヒヨコの意地なんですよ、スドウ君。

わかってくれるだろうか。


2009/05/15 PM 02:29:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

おつりは、ないよ!
ミニロトは、当たらなかった。
わが身に奇跡は舞い降りなかった。

しかし、小さな幸運はやってきた。
おそらく、こんな経験は誰も、したことがないであろう。
それは、馬鹿馬鹿しくも、ささやかな幸運だった。

中学2年の娘とツタヤに行った。
娘は、最近はまっているヴィジュアル系のバンドのCDを5枚借りてご満悦である。

その帰り道、ラーメン屋がある。
どこから見ても、行列のできるラーメン屋ではない。
店構えは、それなりにラーメン屋の顔を作っているが、「素人が頑張りました」という程度のものでしかない。

だから、入りたいとは思わない。
通り過ぎようとした。
しかし、その時、店から男が飛び出してきた。
そして、彼は早口でこう言うのだ。

「お兄さん、ラーメン食べない?」

最近のラーメン屋は、客引きもするのか?

しかし、男の風体を見ると、高そうなスーツを着て、高そうなバッグを左手に持ち、右手には携帯電話を握っている。
歳は、30代後半だろうか。
こんな格好で客引きをする人は、おそらくいない。

娘を見ると、敵意を持った目を硬直させて、男を見つめていた。
「この親父、怪しいぞ」
眉間の皺が、深い。
全身で、警戒している顔である。

そんな警戒心丸出しの親子に向かって、男は、困ったような顔で、右手に持った携帯電話を振りながら、こう言った。

「いきなりこんなことを言って悪いんですが、お腹すいてませんか? ラーメンを頼んだんだけど、家から、すぐ帰ってこいって電話があってね。ラーメン、食べられなくなっちゃったんですよ。だから、ボクの変わりに、そのラーメン食べてくれませんかね」

なんじゃ、そりゃ?!

なんと風変わりなお願い。
それなら、ラーメンをキャンセルすればいいじゃないか。
そんなおかしなことを頼まれたのは、私の人生で初めてのことだ。
我ら親子は、ほとんど銅像のように固まってしまった。

カチンカチンですよ。

そのカチンカチンの親子に、男は「ああ、隣にいるのは、娘さんですね。キミ、ラーメンは好きかな?」と撫でるような声で聞いてきた。

銅像だった娘は、首だけで頷いた。

「ああ、じゃあ、これでラーメン食べてよ。まだ、お金払ってないから、好きなだけ、食べて」

「これで」と言って出された右手の先には、あまり見覚えのない紙幣がピンと、その存在を主張していた。

まさか、1万円!!!!!!!!

その気品ある紙幣を見て、私は完全にボケた。

「ええ! おつりは、ないよ!」

それを聞いて、男は、札を持った手を大きく振って、「いや、おつりは、いいですから」と、微笑んだ。

本当に?

私は、半信半疑だったが、いち早く正気になった娘は、男の気が変わらないうちに「ごちそうになります」と、普段私が聞いたことがないくらいの優しい声を作って、それを受け取った。

「ああ、助かった!」と言った男は、ラーメン屋の前に停めてあった大型のスクーターに乗って、私たちの前から高速で消えた。

我々は、1万円札を握り締めながら、戸惑いの表情を浮かべて店内に入った。
そして、「いま出ていった人のピンチヒッターなんだけど」という、間抜けな表現でテーブル席に座った。

男が頼んだのは、ネギ味噌ラーメンだった。
それは、私が食べることにして、娘は、しょう油ラーメンを頼んだ。

「餃子いっちまうか?」
「いっちまおうぜ」

餃子2人前を頼んだ。
「ビールはいいのか?」と娘が聞くので、遠慮がちに「いいのかな、飲んで」と答えた。
「体調がいいなら、飲んでみな」

生ビールを頼んだ。

少々埃臭い店内ではあったが、小さな幸運に有頂天の我々に、それは気にならなかった。
麺が練り込まれていないような気がしたが、それもたいして気にならなかった。

食い終わって勘定を済ませると、掌には、7650円が残った。

7650円の重み。
たいへん、気持ちがいい。

「2650円、やるよ。ママには、内緒だぞ」

掌の2650円を見て、娘が満足げに言う。
「まあ、妥当なセンだな」
そして、私を見上げて、苦笑しながら、こうも言った。

「しかし、『おつりは、ないよ』は、よかったな」

うん・・・・・・・、ちょっと、恥ずかしい。



2009/05/07 PM 04:10:58 | Comment(5) | TrackBack(0) | [日記]

ありふれた奇跡?
ゴールデン・ウィーク。

私は、テレビニュースなどで流される、成田空港での映像や行楽地での家族の楽しそうな映像を見るのが好きだ。
それは、平和で幸福感漂う映像。

しかし、今年は楽しそうな映像の後に、必ず「怖いですね」という深刻な感想が付け加えられる。
メディア側が、自分たちに都合のいいコメントを返した人の映像だけを流しているのだろうか。
皆一様に深刻な顔で、ほぼ同じ答え方をしていた。

メディアが、「新型インフル」と10回唱えたら、まるで世紀末のような世界が訪れる。
メディアが、議員秘書の逮捕を10回報道したら、その議員は「首相にふさわしくない」人になる。
メディアが、「全裸泥酔」を10回繰り返したら、彼は「孤独な奇人」になる。
メディアが、「人殺し」と10回推論を唱えたら、彼(あるいは彼女)は、確実に世間から「人殺し」と誹られる。

怖いですね。

怖いと言えば、生々しい話だが、借金。

まだ、人から借りたお金を返していない。
だから私は、ろくでなし。

台所が焼けてウィークリーマンション生活をしたとき、友人6人から総額15万円を借りた。
それを返していない。

出火のショックで入院した義母の入院費用は、1回目の支払は、臨時費用保険金というのが出たので、それで支払った。
しかし、いまだ入院中の義母のこれからの入院費用は、WEBデザイナーのタカダ君(通称ダルマ)に用立ててもらうことになっている。

その詳しい金額は不明だが、ダルマに迷惑をかけることだけは間違いがない。

ろくでなし・・・・・・・。

先日の私の入院費に関しては、テクニカルイラストの達人・イナバ君が、その費用を立てかえてくれた。
イナバ君には、昔のブログに書いたように、姉の癌治療の費用も借りている。

心の広い友人を持って嬉しいが、情けない、という思いも強い。

俺は、たかり屋か!

いっそ、このまま野垂れ死んで、保険金を家族のために残した方がいいのでは、なんて・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・冗談にもならないですね。

さらに話変わって、「奇跡」のお話。

念願のiPhoneを手に入れた。
2年半ぶりの携帯電話だ。
ギザウレシス(ショコタン風)。

携帯電話のない生活に完全に慣れきっていたが、いま、我が家の電話の調子が悪い。
電話会社に、現状を細かく説明して、お越しいただいたのだが、「ルーターを新しくしてみましょうかね」と、いきなり言われた。

はい、そうですね。
で、そのルーターは?

「今日は、持ってきていません。状態を見てからでないと判断できませんから」

しかし、私は症状について、相当細かく説明しましたよ。その説明で、ルーターの不調が想像できるのではないですか?
たとえルーターのせいではなかったとしても、持ってくるくらいのことは、してもいいのでは?

だが、サービスマンは、私の目を見ずにこう言うのだ。
「見てみないと、わかりませんから」

あーあ! お前さんたちは、気楽でいいねえ。

帰れ、この役立たずめが!

ということで、買ったiPhone 3G。

その機能に関する感想は、省きます。
私が思わず右手でガッツポーズを作ったのは、その番号のことである。

なんと娘の携帯電話と、1番違いだったのだ。
ただ、1番違いといっても、下一桁が1番違いだったわけではない。
だから、私がどんなに騒いでも、周りの反応は、極端に薄かった。

「下一桁じゃないの? 真ん中の番号? なんか中途半端だな。それは別に珍しくないんじゃないの」

しかし、娘がauからソフトバンクに機種替えしたのが、1年と少し前のこと。
こんなにも時間的に離れているのに、娘と1番違いの番号が残っていたなんて、これを奇跡と言わずして、何と言う!?

私は、これを「奇跡」だと思った。
だから、この奇跡にあやかって、私はナンバーズ4を買った。
しかし、ハズレた。

今日は、ミニロトを買った。
その結果は、まだわからない。

私の身に、もし思い通りの奇跡が舞い降りてきたら、借金の何割かは返すことができる。
だから、娘の携帯電話と1番違いのiPhoneを握りしめて、いま私は祈っている。

祈り続けている。

私のゴールデン・ウィークは、そんな感じです。



2009/05/04 PM 05:48:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.