Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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使えねえやつ
仕事をいただきました。
いい条件の仕事です。
この厳しい不況の時代に、ありがたいことです。

はずむ気分で、得意先のビルの階段を降りていった。
ビルの前の駐車場を通って、道に出ようとした。

そのとき、大きな声が聞こえた。
「おい! ちょっと! これが邪魔で車出せないんだけどな!」

その言葉は、誰に言った?
私は、あたりを見回してみた。
誰もいない。
つまり、オレ?

30代半ばで、高級そうなコートに身を包んだ、オールバックの男が私を見て睨んでいた。
指は、得意先の社名の入った車を指さしている。
そして、その車は駐車場の外の道に停車していたのだ。

営業は、すぐ車を出すつもりで、とりあえず道に停めておいたのだろう。
だから、営業はすぐに戻ってくるはずだ。
しかし、怒りの声の主は、すぐに車を出したいらしい。
すぐに車を出したくなくても、その車は明らかに邪魔だ。
だから、彼は怒っている。

わずか一秒の間に、私はそんなことを考えた。
だから、営業を探しに回れ右をしようとした。

「なに! 動かさないのかよ! どこ行くんだよ!」

どこ行くんだと言われても、それは私の車ではない。
だから動かすことはできない。
私は、オールバックに向かって、親指を上に向けて「呼んできますから」と言った。

しかし、男は、舌打ちをした。
「何なんだよ! この会社! あんたたち、人の迷惑を考えたことがあるのかよ!」

何をおっしゃいます。
私は、いつも人の迷惑を考えている。
だから、私には何の謂れのないことでも怒らずに、あんたと向き合っているのだ。
普通の人間だったら、「俺には関係ないよ」と知らん振りして素通りしているところである。

しかし、そんな人間のできた私に、男はさらに追い打ちをかけるのだ。
「早くしてくれよ! ボーッとしてるんじゃねえよ!」
声のトーンが、高くなって、やや喧嘩腰だ。

私は、確かにボーッとしていたかもしれないが、喧嘩を売られる筋合いはない。
少なくとも、車を動かすための努力はしようとしたつもりである。
眉と目のつり上がった男を前にして、私の心に小さな渦が巻いたが、「勘違い、勘違い」と唱えて、営業を呼ぶために階段を上ろうとした。

私は、大人なのだ。
この程度では、怒らない。
怒っても、何の得にもならない。

私は、若い頃から「沸騰点の高い男」と言われてきた。
この程度では、沸騰はしませんよ。
本当です。滅多に沸騰することはありません。

しかし、そんな滅多に沸騰しない私にも、沸騰するためのいくつかのキーワードは存在する。
それを人に言われたら、私は確実に沸騰する。

そのことば・・・・・。

「何だよ! 使えねえやつだな!」

使えねえやつ!?

言ったな! この野郎!

私は、途中まで上った階段を大股で下り、オールバックの前に立ちはだかった。
顔を寄せる。
相手は、いきなり私が反転してきたので、驚いたようだ。
しかも、貧相な顔が目の前にある。

男は、首から上を後ろに反らし、口を真一文字に結んだ。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに「何だ、お前!」と睨み返してきた。

鼻腔が膨らんで、目のまわりが紅く染まっている。
その顔は、結構、迫力がある。
そして、煙草臭い息を荒く吐いている。

だが、「使えねえやつ」と言われて引き下がるほど、私は軟弱な男ではない。
両足を踏ん張って、顔をさらに男に近づけた。
こういうときの私は喋らない。
喋ると「気」が体から抜け落ちてしまいそうになるので、黙って睨むだけである。

どれくらい睨んでいたかは、覚えていない。
五分ということはないだろう。そんなに長くはなかったと思う。
もしかしたら、一、二分だったかもしれない。

短い睨みあいを心のどこかで楽しみながら、私は踏ん張っていた。
遠くから、カラスのグワッグワッという鳴き声が聞こえてくる。
そんなとき、後ろで、足音が聞こえた。
そして、戸惑ったような関西なまりの声。

「あれ、Mさん、何してるんですか?」

私は、男の目を睨みつけながら、答えた。

ニィ〜ラメッェ〜コォ〜〜!!!

メロディーをつけて言ったが、明らかに調子はズレていた。しかし、顔は真剣。

それが、男の「気」を骨抜きにしたようだ。
男が、横を向いて、「プホッ」と吹き出した。

営業も「ハハハ」と笑った。
間の抜けた空気が、駐車場に充満した。
営業は、まだ笑っている。

しかし、私だけが笑わずに、営業に向かって「車が邪魔なのでどかしてください」とニヒルに答えた。
そして、無表情に得意先を後にした。

歩きながら思った。
今回の場合、何も睨みあいをしなくても、「私はここの会社の人間ではない。営業を呼んでくるから待っていて欲しい」と、丁寧に説明すれば済んだのではないだろうか。

私は、間違いなく無駄なことをした。
無駄なエネルギーを使った。

大宮駅近くの公園のベンチに座って、空を見上げながら、私は反省の時を過ごした。
右手には、金麦の500缶を握っている。

無意味な怒りを、泡とともに一気に飲み下した。
そんな私の前を60代と思われるオバちゃん4人が通り過ぎた。
そして、通り過ぎる時、4人が4人とも、私の姿を眉をひそめて見ていた。

その目は、「使えねえやつ」と言っていたような気が・・・。


2009/02/03 AM 08:33:16 | Comment(1) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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