Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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居酒屋で泣く
夜7時過ぎ。
友人のカネコから電話がかかってきた。

お互い滅多に電話を掛け合わない友だち。メールさえも面倒臭がる友だち。
その男が、私の家の最寄りの駅まで来ていると言う。
それは、「珍しい」という言葉で表現するのが陳腐なほど、奇妙な出来事だった。

だから「奇妙だな」と言った。
カネコは「悪いな」と答えた。

駅前の居酒屋を指定して、自転車を飛ばした。
カネコは、半分ほど埋まった店の真ん中の席で、ウィスキーの水割りを飲んでいた。
店の真ん中は、客の会話が上から降ってきてうるさいので、隅っこの柱の影に移動した。
ここなら、落ち着いて飲める。

私は、カネコの奢りだということを確認してから、大ジョッキと焼きおにぎりを頼んだ。
ジョッキが運ばれてきたが、乾杯はしない。
何を祝っていいか、わからないからだ。

カネコとは、25年以上の長い付き合いだが、まともな会話をした記憶が、ほとんどない。
4年以上音信不通だったこともあるし、5年以上会わなかったこともある。
だが、カネコの娘のショウコとは、たまに会う。電話もする。酒も飲む。

カネコとは、話さないことが当たり前になっていたから、会わなくても疎遠になった気がしない。
たとえ5年ぶりに会っても、昨日の続きを話しているような気がしてくるのだ。
それは、いい関係だと思う。

1年ぶりに会ったカネコは、また少し太ったようだ。
好意的に見れば、貫禄が付いたと言うことか。
少したるんだ顎を震わせて、カネコが口を開いた。

「仕事、順調か」
どん底を這い進んでるよ。
「そうか。よく続いてるな、一人で。感心するよ」
俺もそう思うよ。
人一倍、不器用で世渡り下手で人付き合いの悪い俺が、よく続いていると思う。

そして、思い出したように、カネコが言う。
「ブログ、書いてるんだって」
ああ・・・。ショウコから聞いたんだな。
「おまえのブログなんて、読むやつがいるのか」
ひとり確実に読者がいる。ショウコだ。

カネコは、私のブログを読まないだろう。
私の友人や同業者にもブログを書いているのが何人もいるが、私は読んだことがない。
照れくさいからだ。
だから、カネコも親友のブログは読まないはずだ。
それは、断言できる。

カネコが3杯目の水割りを頼んだ。
今日は、いつもよりペースが早いようだ。
なぜか、ということは聞かないし、推測もしない。
それに意味はあるのだろうが、それはカネコの事情だから、私の方に聞く気はない。

3杯目の水割りを半分ほど飲んだところで、カネコが小さく息を吐くようにして言った。
「犬を飼ってるんだ」
なぜ? ショウコが飼いたいと言ったときは、反対したくせに。

カネコが私の目を見る。
今日はじめて目を合わせた。そして、すぐに目線を下に落とす。
「ショウコは、犬を可愛がるだろう。そして、犬もショウコになつくだろう。でも、ショウコがもし突然いなくなったら、犬は混乱するんじゃないか。あんなにも自分を可愛がってくれたご主人様が、突然、自分の前からいなくなるんだ。犬が可哀そうだろう。俺は、そんな残酷なことはできなかった」
目線を下げたまま、箸でおでんの卵をもてあそんでいた。

つまり、おまえは、ショウコが突然いなくなると思っていたんだな。
「突然かどうかはわからないが、外国の大学に行くかもしれないとは思っていたな。自立心と好奇心の強い子だったからな」
確かにな。
「外国には行かなかったが、まさか18で結婚するとは・・・、驚かせてくれるよ」
卵を箸で崩したあと、箸を置いて、カネコはウィスキーの残りを飲み干した。

4杯目。
目のまわりが、赤くなっている。
そして、もう一度、崩した卵を箸でもてあそぶカネコ。

カネコが、顔を上げて、私を見た。
遠いものを見ているような目。焦点がぼけているような目だった。

「この間、ショウコを抱きしめたんだよ」
カネコは、自分の両手を見ていた。
「久しぶりだった」

子どもができたからか。
「ああ、『よくやった』って、抱きしめた」
両方のこぶしを握るカネコ。その手が震えていた。

ショウコは、泣いたな。
「ああ、泣いた。でも・・・な。亭主のマサのほうがもっと大泣きをしていやがった」
それは、いかにも想像できる、目の前に鮮明に浮かぶ情景だった。

マサは、いいやつだろ。
「ああ、腹が立つくらいに・・・・・な」
ショウコは、幸せだ。
「ああ」
カネコの答えには、迷いがなかった。
しかし、カネコは顔をゆがめて下を向いた。
両手は、まだ震えている。

私は、カネコが残したおでんを食った。
牛タンを食った。ヘルシー・ツナサラダも食った。
2杯目の大ジョッキを飲み干した。
3杯目を注文した。
店内に流れるジャクソン・ファイブの「ママがサンタにキスをした」を聞いた。

そして、あとは、一緒に泣くしかなかった。


2008/12/16 AM 11:21:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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