Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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カミナリは人を悩ませる
ここ二日は、まったく平穏な日を過ごしていた。
だから、ブログネタがない。

仕方ないので、初めてのことだが、何ごともない日を過ごしました、ということを書こうとした。
しかし、朗報(?)が飛び込んできた。

得意先のS課長が、一身上の都合で退職したというのだ。
本来なら、退職したからといって、何を書いてもいいということにはならない。
しかし、書くネタがない。

だから、S課長のことを書くことにした。
素人ブロガーは、モラルが低いのです(開き直り)。

7月はじめに、東京のイベント会社から、ほぼ2年ぶりに仕事をいただいて、2種類の仕事を仕上げた。
両方とも9月に行うイベントのチケットだった。
いずれも枚数が千枚だったので、A3に10面付けして、レーザープリンタでプリントした。

それを印刷会社に持ち込んで断裁してもらい、ミシン目を入れてもらった。
そして、8月のはじめにそれを納品した。
そのときのことである。

納品したのは、午後5時過ぎだったが、事務所内にはS課長しかいなかった。
そこで、S課長に「できましたので、置いていきます」と言って、帰ろうとした。
雲行きが怪しかったので、早めに帰ろうとしたのだ。

しかし、S課長は暇を持て余していたらしく、近くのカフェからコーヒーをわざわざ取ってくれて、応接セットに私を誘った。

S課長は、いい男である。
42歳。
男として、魅力全開の年齢だろう。

オールバックに整えた髪は艶やかに光り、陽に焼けた顔は血色がいい。
眉が太く、口元も引き締まっている。
友人の京橋のウチダ氏は、爽やかなイケメンだが、S課長は、少し「ワルの入った」イケメンである。

六本木あたりのバーでもてるタイプ、と言ったらわかりやすいかもしれない(わかりにくい?)。
自信たっぷりで、すべてのことを自分のペースでやらないと気がすまない感じの人だ。

そのS課長が、タメ口でこう言う。
「オレ、早めの夏休みを取って、マカオに行ったんだよ。カジノに行ったらさ。大きく当てちゃって、ホテルは普通の部屋を頼んでいたんだけど、スイートにしてもらったよ。スイートに泊まって、毎日5、6人の女の子を呼んで、夜は騒ぎまくったね。リムジンも借りて豪遊さ。楽しかったよ! 嫁さんと行ったんだけど、ほったらかしにして、遊びまくったね。俺、バツ2なんだけどね。バツ3になってもいいって気分だったね。ああ、今年の夏休みは、本当に楽しかったなぁ!」

人間は、見た目と性格がまったく違うという人もいるが、まったく同じという人もいる。
S課長は、同じ、というタイプの人である。
だから、そんな話を聞いても、まったく違和感がなかった。
カジノで大もうけをして豪遊する様が浮かぶような、少し崩れた感じのする人だった。

出前で頼んだコーヒーは、美味かった。
「このコーヒー、美味いですね」と私が言うと、「むかし、パリのカフェテラスで飲んだコーヒーの方が、はるかに美味いよ」と、胸を反らしながら言う。
そんな姿も、似合っているのである。

そんなとき、雷鳴が・・・。

遠くから聞こえる雷鳴だが、窓の外は確実に暗くなっていた。
雨は降っていない。
しかし、それも時間の問題だろう。
雷が近くを通過する可能性は、かなり高い。

早く帰るべきだったか・・・・・。
そう思いながら、S課長の顔を見ると、端正なS課長の顔が歪んでいた。
目が、あちこち泳いで、血色のいい顔は、徐々に白くなっていった。

沈黙の時間。

そして、雷鳴が一気に近づいてきた。
ゴロゴロゴロ、ではない。
ガラッ、ガッシャーン! である。
かなり、近い。雨も激しく降ってきた。

S課長のきりっとしていた眉が八の字になって、目は、絶えず瞬きを繰りかえしている。
そして、ゴロッ、ガッシャーン!
窓ガラスが震える。
続いて、ガラガラッ、ドッシーン! という腹に堪える音と稲光。

「ギャァーーーーーーーー!!」
S課長が、両耳を塞いで、テーブルに顔を伏せた。
S課長の上半身全体が震えていた。
特に首が、まるで別の生き物のように激しく震えていた。

雷は誰だって嫌いだ。
稀に好きな人はいるかもしれないが、好きだと嘯(うそぶ)いていても、好きこのんで雷の中に飛び込む人はいない。

20年以上前、日光の霧降高原に行ったとき、2百メートル先に雷が落ちた。
その衝撃のすさまじさに、立ちつくした。体がしびれた。ヨメは、泣き出した。腰が抜けた。
雷の怖さは、身をもって知っている。
だから、雷を怖がる人を笑えない。
怖くて、当たり前なのだ。

S課長は、10分以上同じ姿勢で震えていた。
少しずつ雷は遠ざかっていっているように思えたが、まだ音は止まず、頻繁に光っている。
12階建てビルの10階から見る空は、暗い。そして、雨が窓ガラスを激しく叩いている。
ビルの上階から見る稲妻は、見とれるほど綺麗だったが、感心している場合ではない。

雷が去ったあとのことが心配だ。
異様に恐がる姿を晒したS課長に対して、私はどんな態度をとったらいいかと考えたのだ。

通常なら、「ああ、雷は去りましたね。すごかったですね」で、済む話である。
しかし、これほどの強面(こわもて)イケメンが蒼くなってブルブルと震えたのだ。
それも、「ギャー!」という叫び声を発して・・・。

私は何も見ませんでした、という態度は、あまりにも白々しすぎるだろう。
「私も実は、雷は大の苦手なんですよ」というのも、取って付けた言葉のような気がする。気を遣っているのが、見え見えだ。
雷の話題に触れずに、「じゃあ、急ぎの用があるので、また」というのも、何か変だ。

どうすればいい?

冷めたコーヒーを口に運びながら、断続的に光る空を見ながら、私は途方に暮れていた。
俺は、つくづく不器用で応用の利かない男だな、と自分を罵ってもいた。

そんなとき電話が鳴った。
S課長の携帯電話だ。
S課長は、体を震わせたまま、ポケットの携帯電話を取り出した。

そして、「アサミ〜!」と叫んだ。
次には、S課長は、顔を伏せたまま立ち上がって、「わかった。すぐ降りていく。目隠しと耳栓は持ってきたな!」と言いながら、腰をかがめるようにして、ドアに向かってダッシュした。
S課長の姿が、瞬く間に、目の前から消えた。それは、ウサイン・ボルトも驚くほどの見事なダッシュだった。

おそらく、奥さんが目隠しと耳栓を持って、車で迎えに来たのだろう。
S課長の3人目の奥さんは、よくできた人のようである。
バツ3にならないことを祈る。

S課長が帰ってくれたので、先ほどまでの悩みは消えた。

誰もいない他人の会社で、ソファに座って、一人雷鳴を聞きながら、稲光を見る。
冷えたコーヒーを一口すすろうとした。
しかし、コーヒーは、もう残っていなかった。

少し目線を動かすと、そこにはもう一つのコーヒーカップがあった。
8分目まで注がれた褐色の液体。
私の記憶に間違いがなければ、S課長は、このコーヒーに口を付けていなかったと思う。

のどが渇いている。
コーヒーが飲みたい。しかし、このコーヒーは他人のコーヒーである。
今は、風のようにいなくなってしまった人だが、間違いなくこのコーヒーはS課長のものだった。
それを飲んでいいわけがない。

悩んだ。
悩みまくった。

そんなとき、ズン、ドッドーン! という音。
それとほぼ同時に、事務所の電気がすべて落ちた。
停電だ。

稲光があるので、真っ暗ではない。
暗いが、妖しくて綺麗な闇だ。
その妖しく綺麗な闇が、私の理性を奪った。

私は、反射的に、S課長の残したコーヒーを一気飲みしたのだ。

冷えてはいたが、渇いた喉にコーヒーが心地よかった。
そして、明かりがついた。
我に返った。

会社に、ただひとり。
それも、他人の会社。

私の頭に、もう一つ新しい悩みが浮かんできた。

俺は、もう帰っていいのだろうか。
誰もいないまま、このまま帰っていいのだろうか。
誰かが帰ってくるまで、待っているべきではないのか。

稲光を見ながら、私は30分以上、同じことを考えていた。



★カミナリ嫌いの人は、CG「暴走三輪車」



28日の関東地方は、集中豪雨を受けた場所がかなりあったようです。

大宮駅から少し離れた得意先に行った帰りのことです。
不意打ちのように、激しい雨が降ってきました。
傘は持っていましたが、ほとんど傘が役に立たないような視界を塞ぐほどの雨です。

大宮駅まで歩きで20分程度かかる距離。
その間に、店があったら入ろうと思って、早足で歩いていましたが、雨のカーテンが厚くて、店が見つかりません。

暴力的に落ちてくる雨の圧力。
傘をさしていても、全身は、もうびしょ濡れです。
そんなとき、電話ボックスを見つけました。

携帯電話に押されて、今では激減した電話ボックスですが、雨宿りには最適です。
中に入りました。
びしょ濡れの全身と湿気で生暖かいボックス内は気持ち悪かったですが、贅沢は言えません。
雨がしのげるだけでも、ありがたいと思わなければ。

電話ボックスの外を、まるで生き物のように激しくつたう強烈な水の流れ。
外の景色は、まったく見えません。

まるで、自分ひとり取り残されたような錯覚。
異次元に拉致されたような感覚。

備え付けのバーに腰掛けながら、目をつぶりました。
そして、眠っていました。
目が覚めると、雨は上がって、人々が行き交っています。

しかし、空はどんよりとして、またいつ降り出してもおかしくない空模様。
慌てて、電話ボックスを飛び出し、駅に向かって早足で歩きました。

その途中で、また大雨。
その結果、また途中で見つけた電話ボックスで雨宿り。

わずかの間に、2回も電話ボックスで雨宿りをした人は、私くらいでしょう。
威張ることではないですが・・・・・。


2008/08/30 AM 06:57:31 | Comment(1) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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