Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ウナギが嫌いな理由
ウナギが嫌いだが、食わず嫌いというわけではない。

毎日ウナギを食っていたころがある。

それは、30年以上前にさかのぼる。
高校一年の夏休み、一人で祖母の墓参りのため出雲に行った時のことである。
そのとき、母の従兄弟の家に泊めてもらった。

その家には子どもが二人いて、長男が何かと私の面倒を見てくれた。
自転車を貸してくれたり、バイクの運転を教えてくれたり、畑仕事を一緒にしたり、時々キャッチボールもしてくれた、いい兄貴と言っていい人だった。
私は、その人を「タダ兄(ただにぃ)」と呼んでいた。

タダ兄は、料理が上手だった。
彼は、高校を卒業したあと東京に出てきて、ウナギ屋さんに就職した。
10年近く、その店で働いていたが、自分自身が体を壊したり、母親の具合が悪くなったりが続いて、故郷に帰ってきた。

ウナギの他、料理全般もプロレベルだったから、彼が作ってくれる料理は、いつも美味かった。
当然ウナギの蒲焼きなど、見事なものである。
朝自分でウナギをつかまえてきて、昼さばいたものが昼メシとして出るのだが、最初食ったとき、感動した。

それまで、ウナギを食ったことがなかった。
ウナギは、昔も今も高級な食べ物である。
それに、子どもには、それほど縁のない食材であるとも言える。
うな丼、と言われても、どこの国の料理だ、くらいにしか思っていなかった。

しかし、それが高級料理店並の味で食えるのである。
実に、贅沢だ。
しかし、その贅沢も、毎日続くと「勘弁して欲しい」という気分になる。

昼メシが、毎日うな丼。
いくらウナギが好きな人でも、果たして毎日「うな丼」を食っていられるだろうか。
うな丼を世界で一番愛している、という人なら食えるかもしれないが。

母の従兄弟の一家は、みな満足顔で食っていたから、おそらく彼らは、世界で一番ウナギが好きな家族なのだろう。
しかし、うな丼を初めて食った日から6日続けて、昼うな丼は、初心者にはきつい。

7日目の昼メシに、出雲名物・荒木屋の割子ソバをご馳走になった。
これは、サッパリしていて美味しかった。
「うな丼」6連発のあとだったから、余計そう感じたのかもしれない。

しかし、満足、満足、と安心したのもつかの間、あたりに漂う晩メシの匂いを嗅いで、私は愕然とした。めまいがした。
これは、もしかして・・・・・、ウナギの蒲焼きの匂い?。

普通、ウナギの蒲焼きの匂いを間違えることは、まずない。
うな丼を知らない1週間前だったら間違えたかもしれないが、すでにウナギ臭さが体に染みついてしまった当時の私が、この匂いを間違えるわけがない。
昼食わなかったから、夜にスライドしたのか・・・・・。

その匂いを嗅いで、私は人生で初めての絶望感に、ドップリと浸かった。

そして、夕食の食卓に並んだ、うな丼。
もう、匂いを嗅ぐのも見るのも嫌だったが、居候の身として、それを拒否するのは、あまりにも非常識な行為だと観念した。

脂汗を流し、吐き気に耐えながら、完食した。

出雲には、2週間滞在する予定でいたが、十日でリタイアした。
私が、「もう帰る!」と言いだしたとき、タダ兄一家は、「えーっ、どうしてぇ?」と、うろたえた。

80過ぎの爺ちゃんがいたが、入れ歯をモグモグさせながら、「にゃんで、にゃんで!(何で何で)」と叫んでいた。
タダ兄の嫁さんは、子どもに母乳を与えていたが、乳首から子どもの口を無理矢理はがして、立ち上がった。

ど〜してぇー!

まさか、そんな盛大なリアクションが返ってくると思わなかった私は、同じようにうろたえながら、「しゅ、しゅ、しゅ、しゅ、宿題を忘れた」と、説得力のない嘘をついた。

しかし、そんな説得力のない嘘でも、彼らは簡単に信じてくれた。
純朴な人たちなのである。

「あー、そうか、宿題か。宿題じゃしょうがないな」
「仕方ないか」
「高校生は、勉強が大事だからな」


うな丼は、もう飽きた。
そう素直に言っていれば、そんな嘘をつくことはなかった。
しかし、言えなかった。

そんな後ろめたさがあるから、なおさら私はウナギが嫌いになった。

そんなウナギ嫌いな男ひとり・・・・・。

目の前に同業者のミナミさんがいる。
彼は、よく私をメシに誘う。

昨日も「ウナギ食わない?」と、誘われた。
「奢るから」と、毎回言われる。
だが、私は毎回断る。
そして、いつも申し訳ない気持ちになる。

私がウナギが嫌いな理由を教えれば、話は早いのだろうが、果たして信じてもらえるかわからない。
ウナギ好きのひとから見れば、「そんなことでウナギ嫌いになるか?」と思われる可能性もある。
だから、ウナギ嫌いの理由は、誰にも言っていない。

人のいいミナミさんは、断られても、いつも軽く頷くだけである。
ただ、今回は、少々展開が違った。

「ああ、それじゃあ、Mさんの好きな立ち食いそばを一緒に食べませんか」と、無邪気な笑顔で言うのだ。
そして、「割り勘で」とも付け加えた。

この言葉を聞いて、私はわけもなく感動してしまったのである。
ミナミさんは、食べたいウナギを諦めて、一緒に立ち食いそばを食おうというのだ。
それはまるで、普段ロールスロイスに乗っている人間が、原付自転車に乗るようなものではないだろうか。
ミナミさんは、私が思った以上に、人間の器が大きい人なのかもしれない。

私の行きつけの立ち食いそば屋で、肉ソバを完食し、コロッケソバを追加注文したミナミさんを見たとき、私は「一度くらいウナギに付き合ってもいいかな」という気になった。

それが、彼の誠意に答える唯一の方法ではないかと思ったのだ。

うな丼を前にしたとき、はたして自分がどうなるか。
吐き気を催すか、脂汗が出るか、それとも、「久しぶりに食ううな丼って、意外にうめえな」と思うか。

さあ、どっちだろうか。



★うな丼に悩んだら、CG「木立を走る看護師」

2008/04/26 AM 07:53:15 | Comment(5) | TrackBack(0) | [日記]



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