Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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家なきオジさんはケケケと笑う
勘違いもここまで来ると、笑える。

今年の1月、オープン前のレストランのメニューの依頼を受けた(こちらを参照)。
クライアントは、かなりこだわりを持った人、というより相当思い切りの悪い人だった。

2月の中旬に、全体のイメージも決まり、レイアウトも決まった。
メニューの内容も決まり、画像も揃い、ロゴも決まった。
あとは、料理の金額を決めるだけである。

しかし、開店準備をしている段階で、食材費がジワジワと高騰を続け、値段設定が何度も変わった。
2月末までに、4度価格を書き直した。
時に、朝なおしたものを夕方なおすということもあった。

開店はゴールデンウィーク前だから、まだ余裕はある。
だから、「少し、ゆっくり考えませんか」という提案をした。
その結果、1か月以上、この仕事は、ほったらかしにされた。

「価格が決まりました」という連絡があったのが、先週の土曜日のことだった。
そして、「来週の水曜日までに現物が欲しい」という、大変性急なリクエストを受けた。
ただ、大急ぎとはいっても、価格を入れるだけだから難しくはない。

6頁のメニューの所定の場所に価格を入れて、ファックスを送った。
これで決まりだろう、と思ったが、また価格改定。

どんだけ悩むんだ! 価格が決まったから、電話をかけてきたんじゃないのか!

舌打ちをしながら、直したものをファックスしたら、また10箇所以上を価格改定。
「これでは、水曜日には間に合いませんよ。もう限界です!」と、威してやっと価格が決まったのが、火曜日の午後10時過ぎだった。

価格が決まれば、このメニューをカラーレーザで14部プリントして、パウチ(ラミネート)をし、あらかじめ箔押しをしておいたファイルに閉じればいい。

プリントに要する時間は、たいしたものではない。
しかし、パウチは結構時間がかかる。
真夜中、近所の印刷会社に忍び込み、パウチの機械を貸してもらった。
機械が温まるまで、それなりに時間がかかる。
慣れていないから、余計時間がかかる。

その間は、何もすることがないので、さけるチーズをつまみにして発泡酒を飲んだ。

季節は春。

深夜の印刷会社は、冷える。
暖房を入れようかと思ったが、パウチをただで貸してもらって、さらに暖房を付けるというのは、あまりにも図々しい行為なので、それは思いとどまった。
ずっとここにいるわけではないのだから、少々の寒さなど、我慢すればいいだけのことである。

機械が温まったので、操作を開始した。
メニューは14部あればいいが、一回でパウチを成功する自信はないので、3部余計にプリントしてある。

つまり、102枚分、パウチすることになる。
地味な作業である。
しかも、意外と時間がかかる。
静かにゆっくりと熱で圧着して、一枚一枚排出されるメニュー。

全部終わったのが、午前4時過ぎだった。
さけるチーズを2本食い、発泡酒を3本飲んだ。
何となく胃が膨張した感じになったので、印刷会社の救急箱から胃薬を借りて飲んだ。
スッキリした。

出来上がりを全部点検して、不具合がないことを確かめ、出来上がりを紙袋に入れて、印刷会社を後にした。
印刷会社に来たときは、小雨が降っていたが、今は雨は上がっている。
空も少しだけ明るくなってきた。

今回は、自転車ではなく、徒歩で印刷会社まで来たから、当然帰りも歩きである。
「つっかれた〜〜!」と呟きながら、薄明るい朝の冷気の中を歩いていた。

そんなとき、白い軽のバンが私の横で止まったのである。
団地まであと100メートルというところだった。

白いバンだから、警察ではない。
以前何度か、真夜中に自転車をすっ飛ばしていたら、職務質問を受けたことがあった。

おそらく、全身から「あやしいオッサン・オーラ」をまき散らしていたのだろうから、職務質問を受けるのは仕方がない。
しかし、今回はパトカーではないから、職務質問ではないだろう(覆面パトカーの可能性もあるが)。

では、何か?

この時間に、道を聞かれるということは、まずないと思う。
では、某国家の工作員が、私を拉致しようとしているのか?
あるいは、親父狩りか?

そう思って、私の全身は、完全に戦闘モードになった。
紙袋をサツキ(?)の葉の上に置き、両手はグーにした。
右足を斜め後ろに下げて、腰を落とし、ジャブと右フックが出やすい態勢を取った。

俊足を飛ばして逃げてもいいが、工作員に我が家を突きとめられるのは、できれば避けたい。
だから、闘うことにした。

助手席側のドアが開いた。

降りてきた男の年格好は、60歳前後。
背が低く禿げた貧弱な男が、鼠色の作業着のようなものを来て、目を何度も瞬きしながら、こちらに歩いてきた。
運転手の方を見ると、彼も年は60歳前後の貧相な男だった。

これが、工作員?

貧相な工作員がいても不思議ではないが、彼らには強い「気」が、まったく感じられなかった。
波紋のない池のように穏やかな雰囲気を漂わせて、男が私に近づいてきた。

だが、害が無さそうに見えても、武道の達人は、寸前までそれを人に感じさせないものである。
突然、後ろ回し蹴りが飛んでくる場合もある。
だから、私は緊張をとかなかった。

両手をグーにしたまま、相手の様子をうかがった。

すると、男は、頭を少しだけ下げて、東北なまりを残した声でこう言ったのである。
「私たちは、○○協会のもので、ボランティアで家のない人の世話をしているものなんですがぁ・・・」

最初は、言っている意味が、全くわからなかった。
家のない人って、何だ?
誰のことを言ってるんだ?

両手をグーに構えたまま、私は男の顔を睨むように見た。

男は、「だぁからぁ〜」と、また同じことを繰り返した。

家のない人?
まさか、俺のことを言っているのか?

冷静になって、考えてみた。
明け方の5時前後に、紙袋を抱えて、疲れた足取りで歩いている男。
使い古したトレーニング用の上下のウィンドブレーカー。
貧相な顔。疲れ切った顔。

要するに、ホームレスに間違われた、ということか。

「家のない人?」
私が、魂が抜けたような声で聞き返すと、男は、慈悲深い光を湛えた目で頷きながら、「4月とはいえ、まだ寒いですから、大変ですよねえ」と言った。

俺って、今、確実に「家なきオジさん」に間違われているよね?

しかし、こんなことが、あり得るのか?

俺は確かに疲れてはいるが、仕事を終えて、我が家に帰ろうとしているところだぞ。
それなのに、男には、俺が「家なきオジさん」にしか見えないのか。

笑うしかない。

だから、笑った。
ハハハ、ではない。
ケケケ、と笑った。

ケケケ、ケケケ、ケケケ、ケケケ、ケケケ・・・・・。

その笑いを聞いて、男は、逃げるように去っていった。

ケケケ、ケケケ、ケケケ、ケケケ、ケケケ・・・・・。

明け方の街に、家なきオジさんの笑い声が、こだました。



★頑張る人は、CG「車いすのある風景」

2008/04/10 AM 07:38:50 | Comment(4) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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