Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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断った仕事
なんと大人気ないことをしたことか。

ただ、今回に関しては、反省はしていないし後悔もしていない。
自分の流儀に会わないことは、拒否したい。
たとえお客であっても、見境なく尻尾を振ることはしない。

新宿の広告代理店からメールをもらった。初めての客である。
そこで、昨日の午前10時、本社を訪問した。
担当の人は、若くて歯切れのいい話し方をする人で、姿勢も良く髪型の乱れもない、できるサラリーマンを絵に描いたような人だった。

私ができる仕事とできない仕事を丁寧に説明して、大まかな納期などを話し合った。
そして今回は、パッケージをデザインする仕事を請け負ったので、現場の人間と、とりあえず相談して欲しいと言われた。

現場は、神保町にあるという。
担当者が、「申し訳ないですが、私は急用ができたので、地図を書きますから、一人で行っていただけますか」と、すまなそうな表情をつくって言った。

神保町は土地勘があるので、迷うことはない。
相手に連絡をしてもらって、1時間後に伺うことにした。

ほぼ20年ぶりの神保町。
予想以上に雰囲気が変わっていたが、道筋は変わっていないので、目的地を間違えることはなかった。

古本屋街の道を1本外れた通りは、サラリーマンや学生風の人たち、土地の人たちが、それぞれの速度で歩いていて、この雰囲気は昔のままだな、と思った。

訪問先は、すぐに見つかった。
社名を書いた看板が、くすんだクリーム色をしていて、年季を感じさせる。
ビル自体もかなり古いようだ。
4階建てだが、「昭和」を色濃く残したセピアのイメージがある。

その古いビルの1階と2階が作業場のようだ。
ビルに足を踏み入れると、すぐ前の壁一面に下駄箱があり、下にスノコが引いてある。
あとは、横に長いスチール製の傘立てが置いてあるだけの、殺風景な入口だ。

スノコが引いてあるということは、靴を脱いで上がるのだろう、と判断した。
「土足厳禁」とは書いていないが、靴でそのまま入ってはいけないような気がした。
しかし、スリッパやサンダルの類は、置かれていない。
「履き物」とマジックで書かれた箱が、コーナーに置かれてあるのを見つけたので覗いてみた。
しかし、何も入っていなかった。

下駄箱の棚は6段あって、空いている箇所があったので、そこに靴を置いた。
もう一度、全体を見渡してみたが、スリッパなどはない。

私は、「すみませ〜ん! どなたかいらっしゃいませんか〜!」と叫んだ。
間をおいて、4回叫んだが、誰も出てきてくれなかった。
見渡したところ、呼び鈴などもないようだ。

だから、靴下履きのまま廊下を歩き、奥にあった1階のドアを開けた。
入ってすぐのところに人がいたので、本社の担当者の名を告げ、作業場の責任者を呼んでもらった。
その人に「スリッパがなかったんで」と足下を指さしたら、彼は「アハハ」と笑っていた。

責任者は、すぐにやってきた。
しかし、すぐに私は怒られてしまったのである。
それも、あり得ないほどの大声で、怒鳴られたのだ。

相手の年は、30を少し超えたくらいだろうか。
長い髪を後ろで束ねた、顔が丸々とした男だった。
背は160センチくらいだろうか。身体は太っているというほどではない。
ただ、顔だけが異様に膨張していて、血色がいい。
だから、顔の大きさだけが、目立つ男だった。

顔もでかいが、声もでかい。
その男が、私の足下を指さして、眉をつり上げるのだ。

「なんで、靴下なんだよ!」

はぁ?

私には、なぜ彼がこんなに怒っているのか、まったく理解できなかった。
土足で入ったら悪いと思ったから、靴を脱いで入っただけのことである。
何しろ、スリッパもサンダルもなかったのだ。
私に残された選択肢は、それ以外にないではないか。
宙を浮いて来い、とでも言うのだろうか。

私は憮然として、そう言った。
だいたい、初めて訪問した人間に対して、これほどの大声で怒鳴る男を私は見たことがない。

靴下で、会社に入ることがそんなに非常識なことなのか。

「非常識だろ! ここは大事な作業場なんだ! 汚い靴下で上がられたら、床が汚れるじゃないか!」

俺の靴下って、そんなに汚い?
まあ、穴が開きそうになっているところはあるが、格別汚くはないと思うのだが・・・。
それに、「大事な作業場」と言っても、それほど綺麗な床には見えないし・・・。

これは、意味不明な出来事だ。
「俺の会社に来るときは、上履きを用意してこい」ということなのか?
しかし私は、そんなことは一言も聞いていないし、入口にそんなことは書いてなかったではないか。
普通は、「ああ、スリッパなかった? 悪いですね」と言うのが先ではないのか。

「見ず知らずの会社に入るときは、まず声をかけるものだろ!」

かけましたよ!

「聞こえなかったよ!」

聞こえるまでずっと叫んでいろ、と言うのか!

これを世間では、「言いがかり」と言う。
この男は、いったい今日、どんな気にくわないことがあったのだろうか?
なんで、私に八つ当たりをしているのだろうか、と思った。

しかし、面倒臭くなったので、「はいはい、私が悪うございました」と謝った。
どの会社にもルールはある。
そのルールを踏みにじった私が悪かったのだろう。
だから、話を早く進めるためにも、ここは謝った方が無難である。
納得はできないが、私はそんな大人の対応をした。

そんな私に、相手は舌打ちで応えた。
その姿を見て、私は「俺は大人、俺は大人・・・」と呪文を唱え続けた。

冷え冷えとした空気の中、心に「怒りの爆弾」を抱えたまま、打ち合わせを終えた。

しかし、帰りの電車に揺られているときに、私の心の中で、抑えていた爆弾が発火してきたのである。
たいていは、時間が経てば冷静になることの方が多いと思うが、段々と腹が立ってくることも、時にはあるのではないだろうか。

今回は、とにかく腹が立って仕方がなかった。
なんだよ、あの言いがかり! アホか! あいつ!
という感情が、どんどんと膨れあがって、自分でもコントロールできなくなってきたのである。

その結果、この仕事は、断ることにした。
本社の担当者は、私の言い分を聞いて、「ああ、彼はちょっと独特ですからねぇ〜」と曖昧な表現をしたが、「そうですか、では、今回の話はなかったことに。次回またお願いします」と言って、あっさりと私の申し出を受け入れた。

新宿。そして、神田神保町。
都会の真ん中に、言いようのない理不尽なものが、未だに存在する不思議さ。
都会は、怖い。

その話を、小学6年の娘にすると、「都会は怖い、じゃねえよ! まったく、いい年をして我慢できないやつだなあ! いい加減大人になれよ!」と怒られた。

はい・・・、まことに申し訳ございません。

でも、反省してないよ。
後悔もしてないよ。



★後悔しない人は、CG「逆光のカップル」


2008/02/26 AM 07:05:32 | Comment(3) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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