Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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銀座で財布を落とした日
今年初めて、京橋のウチダ氏に呼ばれて行った。

ウチダ氏との付き合いは長いが、彼が私に仕事を出すことは、ほとんどない。
いつも、スーパードライを飲みながら、彼の愚痴を聞くだけである。

彼はそれでスッキリするかもしれないが、私はストレスが溜まる。
ひとの心配事を聞いて喜ぶ人など、この世の中にいるだろうか。
いるとしたら、相当スケールが大きなひとに違いない。

私は、極めてスケールが小さい男なので、スーパードライだけを目当てに、いつも足を運んでいる。
そして、ビールを飲みながら適当に相づちを打って、適当なアドバイスをして事務所をあとにする。
これでいいのか、と思うのだが、ウチダ氏は結構喜んでくれているようだ。

だから、これでいいのだ、と思う。

事務所に顔を出すなり、「よし、銀座2丁目まで歩くぞ」と言われた。
彼の事務所の京橋から銀座2丁目までは、たいした距離ではないが、まるで「お供についてこい」というように言われると、カチンとくる。

「遠くから来たんだから、少しくらい休ませろ。ビールくらい飲ませろよ」
悪態をついたが、ウチダ氏に鼻で笑われた。
「これから行くのは、銀座のグリルだが、ちゃんとビールはある。好きなだけ飲ましてやるから、それまで我慢しろ」

偉そうに言っているが、ウチダ氏は、私より5歳年下である。
それなのに、タメ口だ。
考えてみると、私の友人は、尾崎といい、ススキダ、カネコといい、みんな私より年下なのに、私に対して遠慮なくタメ口を使う。

こいつら、俺を一体なんだと思ってるんだ!
俺は、人生の先輩だぞ!
無礼者!

と心の中で罵るが、冷静に考えると、私の場合、ただ彼らより年が上だというだけの存在でしかない。
だから、まあいいか、と思う。

京橋から、銀座2丁目までゆっくりと歩いていく。
途中で「ああ、そう言えば・・・」と呟く。
「なに?」とウチダ氏。

私のコートの左ポケットに違和感がある。
触ってみると、あるべきはずの財布がない。
たいした金は入っていないからいいか、と思うが、ウチダ氏は「なんだよ、落としたんじゃないか!」と騒ぐ。

「どこで落とした? ちょっと戻ってみようか」とウチダ氏が騒ぐので、来た道を戻りかけた。
そのとき、二人連れのサラリーマンが「あのー」と言って、駈けてきた。
右手に、私の財布を持っている。

「これ、落としましたけど・・・」
追いかけてきてくれたようだ。

ありがとうございます、と言って受け取った。
財布の中身は、おそらく400円弱とポイントカードが数枚。
落としても、あまり残念ではない金額である。
とは言っても、あるのとないのとでは、気分が違う(特にポイントカードが)。

深く腰を折って、感謝の意を表した。
外人だったら、ハグをするところだろうが、いくら銀座でも日本人同士でそんなことをしていたら、好奇の目で見られる。
日本人らしく淡泊に挨拶をして別れた。

「『ああ、そう言えば』って言うから何かと思ったら、財布を落としたのか。だったら、もっと慌てたらどうだ!」
ウチダ氏が、呆れた顔で私を責める。

「いいじゃないか、戻ってきたんだから。一所懸命探しても、適当に探しても結果は同じだよ。親切な人がいたら拾ってくれるし、無関心だったら、そのままだ。これは、慌てても仕方がないことだ」

「しかしなあ・・・、俺だったら、大騒ぎしてるところだぞ」
「それは、財布に福沢さんがいらっしゃるからだろ? 俺の財布には、丸いやつしかないから、騒ぐのはみっともない。銀座で400円の財布を落として騒いでいるやつを見たら、君ならどう思う? 哀しいだろ? みっともないだろ?」

「しかしなあ・・・」
釈然としない面持ちで、ウチダ氏が首をかしげる。
彼は、もしかしたら、真面目に心配してくれているのかもしれない。

しかし、私にはどうでもいいことだ。
「とにかく、腹が減った。何か食わせろ。ビールを飲ませろ」と催促したら、「Mさんは、俺の規格外のひとだな」と呟いて、また歩き出した。

歩いている最中に突然、「おい、帰りの電車賃はあるのか? 400円で足りるのか?」と聞かれたので、スーツの内ポケットからSUIKAを出して、ウチダ氏の目の前に突きつけた。
「これさえあれば、どこでも移動はできる。ええい! 頭が高い!」

そんな私の姿を見て、「Mさん・・・、あんたほど銀座が似合わないやつはいないな」と感心された。

俺もそう思う。

銀座が似合わない私は、ウチダ氏の友だちが経営しているグリルで、マグロの唐揚げを食いながら、生ビールを2杯お代わりした。

まわりの人たちは、優雅にランチを食っていたが、そんなことは、私には関係がない。
昼間からステーキを食う姿が似合う人は、ステーキを食えばいい。
似合わない私は、唐揚げで十分である。

「マイペースって言葉は、Mさんのためにあるんだって、俺はいま初めてわかったよ」

そうですか。やっと、わかってくれましたか。
じゃあ、ビールをもう1杯!



★マイペースな人は、CG「丘の上の家」


2008/02/24 AM 08:46:42 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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