Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








すごみのある嘘と悲しい嘘
「おい! 随分と寂しいところに住んでいるんだな」

そう言うノナカは、仙台に住んでいる。
仙台市さいたま市、どちらが寂しいかは、人それぞれ判断の基準が違うだろう。
仙台市は、街の中心にある広瀬川が、人々を見守るように優しく流れる、趣のある街である。

美しい街だ。
米がうまい。ラーメン屋も、ハズレがない。
牛タンもうまいし、街並みが整っていて「落ち着いた都会」というイメージがある。
先日行った名古屋は面白い街だと感じたが、仙台は居心地がいい街である。

だが、さいたま市だっていい街だぞ!
どこがいい、と具体的に言えないところがつらいところだが、古い表現でいえば、「住めば都」である。

だから、私はノナカに言ってやった。
「東北の田舎町から来て、偉そうなことを言うんじゃないよ!」
「どっちが田舎だ!」


すかいらーくで、延々と1時間、お互いの街の悪口を言い合い、その間にジョッキを3杯空けた。
ノナカは、年を取って酒が弱くなったのか、真っ赤な顔をしている。
そして、段々と呂律が回らなくなってきた。

「センライ(仙台)のワルウチ(悪口)を言うやつは、ウルサ(許さ)ねえじょ!」
と怪しげな口調で叫びながら、ノナカは突然鞄を開けて、デジカメを取り出し、紙ナプキンでテーブルを綺麗に拭いたあとで、それをそっとテーブルの上に置いた。
酔っぱらっても、几帳面さは変わらないようである。

3枚のクニコの画像を見せられた。
大学時代の同級生ハセガワの妹。そして同じ大学の1学年下(こちらを参照)。

26年ぶりに見るクニコは、大学時代の面影を色濃く残していた。
顔全体で作る笑顔が、歳月を超越して、私を26年前に戻してくれるようなそんな錯覚さえ覚える弾けた笑顔。

薄い紫色のスーツに身を包んだ姿は、昔と変わらぬ体型を保っているように思えた。
クニコは、170センチ以上の長身だったが、大きな体型の割りに肩幅が狭かった。
ただ、華奢、という感じではない。
立ち姿や歩く姿が、毅然としていたので、「颯爽」という言葉がよく似合う娘だった。

3枚の画像のクニコは、もちろん、それなりに年を感じさせたが、「颯爽」としたイメージは変わらなかった。

私が画像に見入っていると、ノナカが「どうだい? 10才以上若く見えるだろ? 変わってねえだろ?」と、酒臭い息を吹きかけながら聞いた。

「うるせえ! 変わってなかったから、なんだって言うんだ!」

ノナカの、にやけた笑い顔。
本当にヘチマ顔だ。
赤いヘチマ。笑うしかない。

「おお! 喜んでるな! そうかそうか! やっぱりつき合ってたんだな。それを認めるんだな。クニコは白状したぞ。はっきりつき合っていたって言ったぞ!」

・・・・・?

嘘だろ?
それを聞いて、私は、思わず得意の右フックをノナカの貧弱なアゴにお見舞いしようとするところだった。
右手のこぶしを握ったところで、注文した新しいジョッキが来たので、思いとどまった。

「クニコ、仕事が忙しいらしいぞ。ハセガワが取引で中国や東南アジアに行く機会が増えたから、クニコが国内の仕事をまとめているらしいな。忙しすぎて婚期を逃すなんて、俺からは想像できないが、あれだけ動き回っていたら、そんなこともあるかな、って思うよ」

ヘチマが、腕を組んで考え込む仕草をすると、緊張感がまるで感じられなくて、自然と笑いが出てくる。
新しいジョッキを口に運ぶ。
なぜか、少し苦く感じたが、その苦さが何から来ているのかを考えることに、何の意味もない。

ジョッキを一気に半分空けて、ノナカを見ると、ノナカが私を見つめていた。

「おまえたち、本当につき合っていたのか?」
目が真剣である。
なぜ、そんな小さなことにこだわるのか、と鬱陶しくなりかけたが、それも一つの友情の表現だと思えば、腹は立たない。

私は、面倒臭くなって、小さく頷いた。
「ああ、つき合っていたよ」

ノナカが、目を細めて、私の目を窺っていた。
細い目の奥に、慣れ親しんだものではない「何か」が見えた。
ノナカは、彼なりに私とクニコのことを心配してくれているようである。
それは、「何故」という意識を超えて、ただ「友だちだから」という感覚だけで表現されるものなのかもしれない。

クニコと私がつき合っていたかそうでないかなど、どうでもいいことである。
しかし、彼にとって、友だちの「過去」と「今」が、何故繋がらなかったかにこだわることは、私が思う以上に大事なことかもしれない、と思った。

ノナカは、時に辛辣なことを言って人を断罪する男だが、根は優しい男なのである。

ノナカが、細い目で私を見つめ続けている。
そして、ジョッキに少しだけ残ったビールを飲み干し、突然叫んだ。

「くそ! クニコにだまされたか! つき合ってなかったのか!」
悔しそうに、テーブルを軽く叩く。

「なんでつき合わなかったんだよ!」
こいつ、真剣に怒っていやがる。
目が充血して、細い目が殺気立っていた。

「つき合ってたって、言ったろ!」
私が言うと、ノナカは窓の外に目を向けて、舌打ちをした。

無言。

店内のスプーンやフォークを使う音だけが、耳に入ってくる。
ランチタイムのすかいらーくは、規則的な食器の音が、いいリズムをかもし出して、優雅な空間を作っていることに、今回初めて気付いた。

私が、そんな食器の音に心を奪われていると、ノナカがまるでスローモーション映像のようにゆっくりと、私の方に顔を回した。

「俺は、お似合いだと思っていたんだよ、おまえたちのこと・・・・・」
そして、「クソッ!」と、もう一度軽くテーブルを叩いた。

「だから、つき合っていたって・・・」

ノナカは、今度は大きく首を振って、私を睨んだ。

「クニコの嘘にはスゴみがあるが、おまえの嘘は、ただ悲しい。だから、おまえたちは、嘘をついている」
ヘチマ顔が、私の視界一杯に広がっていた。
その顔には、有無を言わせぬ迫力があった。

ノナカの言ってることは支離滅裂だったが、核心をついていると思った。

確かに、私の嘘は、悲しい。

それは、私が一番よくわかっていることだ。



★悲しくなったら、CG「水槽を持ち上げる女」


2008/02/22 AM 07:08:15 | Comment(4) | TrackBack(0) | [日記]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.