Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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結婚した理由
「サトルさん、老けたよね」
久しぶりに会ったショウコの口から出てきたのが、その言葉だった。

場所は、大宮駅東口の居酒屋だ。
ショウコの亭主・マサも一緒だった。
マサは酒が飲めない。
ショウコも昨年までは未成年だったから飲めなかったが、今は二十歳。

「サトルさん、酒飲もうよ」と言うので、一緒に飲むことにした。
ショウコとマサは、秋保温泉の一泊旅行の帰りに大宮駅で降りて、私を呼び出したのだ。

「旅館でも、お酒飲むのは私だけだったから、なんか物足りなくてね。飲める人と飲みたかったんだ」ということらしい。

二人は、日帰りのドライブは、たまにしているらしいが、泊まりがけでどこかに行くのは初めてだという。
ショウコは、私が以前「新婚旅行は、秋保温泉だった」と言ったことを覚えていて、いつか秋保に行ってみたいと思っていたようである(そのことに関しては、こちら)。

「まさか、新婚旅行は、これでお終いなんてことはないよな」
「これで、おしまい。ね!」

「ね!」は、隣のマサに向けて言っていた。
マサが頷く。
中学の英語の教師。
穏やかな光を放つ目が、ゆっくりと私に向けられる。

マサが、ビールの瓶を手にして、私に酌をした。
「先輩と同じことをしたかったんですよ、ショウコは。最初の旅行は、絶対に秋保温泉って、完全に決めていたんです。これは、動かしようがない決意なんです。誰にも止められません」
目を細めて笑うマサの目尻の皺が、丸みのある声と相まって、心地よい空気をかもし出す。
こちらの顔も自然とほころぶような、引き込まれる笑顔である。

「お土産はないけど、今日はマサの奢りだよ。じゃんじゃん、飲もうよ!」
ショウコが手酌で、ピッチを重ねている。
その姿を、マサが小さく頷きながら見ていた。

その様子は、私に「夫婦」を強く実感させた。
6歳のショウコが、結婚していま二十歳になった。
そして、一緒にいま酒を飲んでいる。
ソバカスの散った頬をピンク色に上気させて、グラスを傾けている。

その姿を見て、カネコのことを思った。
血の繋がりのない娘を、カネコがどんなに愛しているか。
ショウコのことを話すときの、カネコの誇らしい顔。
14年前、ショウコがカネコの子どもになった日から、その誇らしい顔は、ずっと変わっていない。

「パパ」と初めて呼ばれた日のことを、カネコに何度聞かされたことか。
初めて授業参観に行った日のことを嬉しそうに話すカネコ。
バレンタインデー。「ショウコがチョコくれたんだよ」と、ガッツポーズをしたカネコ。
そして、「ショウコが入籍した」と、すべての感情を消し去ったような声で電話をしてきたカネコ。

「パパは、元気だよ」
私の考えていることがわかったのか、ショウコが携帯電話の画面を私に見せながら言った。
画面の中で、カネコは、ショウコと腕を組んで、誇らしげな顔をしていた。
また、太ったようである。

私は、ショウコが答えにくいことを聞いてみた。
「親父とは会っているのか」
「親父」というのは、ショウコの本当の父親のことである。
ショウコは、本当の父親のことを「親父」と言い、カネコのことを「パパ」と言って使い分けていた。

ショウコは、ビールを飲む動作を止めて、少し上目遣いに私を見た。
そして、軽い口調で言った。

「会ってるよ」
また、グラスを傾ける。

「先月、会った。結婚してから、初めて会ったんだ。でもね、いきなり『なんでそんなに早く結婚したんだ』って言われて、驚いちゃった。パパやサトルさんは、絶対にそんなこと聞かないからね」
手酌をしながら、首をかしげる。
長い睫毛が、子どもの頃のショウコを感じさせて、少し郷愁がよみがえる。

「で、どう答えたんだ」
「答えなかった。笑って誤魔化した」
そう言ったあとで、ショウコは少し身を乗り出して、私の目をのぞき込んだ。

「パパがそれを聞かないのは、怖いからだと思うけど、サトルさんが聞かないのは、面倒臭いからだよね」

茶色の目が、悪戯っぽさを湛えて、私を探るように見ている。
この目は、6歳の頃のショウコの目だと思った。

「まあ、面倒臭いということも確かにあるが、俺にはわかっているからね。なんで君が18歳で結婚をしたのか」

ショウコが、小さく微笑みながら、私を見つめる。
そして、何度か瞬きをしたあとで、頷きながら言った。
「じゃあ、言ってみて。絶対、当たってないと思うから」

私はショウコの目を見つめながら、ゆっくりと、一語一語噛みしめるように言った。
「マサ・・・、だからだよ。相手が、マサだから・・・結婚した。これは、笑えるくらい、当たり前のことだ」

ショウコとマサが、顔を見合わせた。
笑っている。
二人とも、いい顔をしていると思った。

ショウコは、私の推測が当たっているとも違うとも言わずに、私の目を見ながら、私のグラスにビールを注いだ。
私がそれを飲み干すと、今度はマサが注いでくれた。
二人の仕草が似ていると思ったとき、何かが私の心の中を吹き抜けたが、私はそれを無視することにした。

帰り際、大宮駅で、ショウコに肩を強く叩かれた。
「今日から、サトルさんは私の飲み友だちだよ! こんなに若い飲み友だちがいて、嬉しいでしょ。老後が楽しみになったでしょ」
ショウコの酔って充血した目が、私を覗き込んでいる。

「カネコとも親父とも飲まないのか」
「うん。お酒を飲むのは、サトルさんとだけ。いいでしょ。これって、最高のプレゼントだよね」

ショウコが私の右手を掴んで、無理矢理握手をしてきた。
左手はマサの手。

二人の温かさが、細胞のすみずみにまで染み込んできて、私は、自分の身体が軽くなったのを感じた。

私は、二人と別れたあとで、宇都宮線の車内で自分の両手を見つめていた。
ショウコとマサの温かい手の感触が、今も克明に残っている。

そして、車内の窓ガラスを見ると、そこには、微笑んでいる私がいた。



★微笑みたくなったら、今日のCGインテリア・・・。


2008/02/18 AM 07:02:08 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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