Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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オカンが走った
建国記念の日。
池袋の得意先に行った帰りに、急激に寒気がしてきたので、赤羽駅のコーヒーショップに避難して、ホットミルクを頼んだ。
温かくて美味しかったが、寒気は消えない。

体の節々が痛む。
頭も痛い。頭の両側に、重い痛みがある。
熱もある。
朝、熱を計ったら、38度以上あったような気がしたが、朦朧としてきたので正確なことは覚えていない(これは名古屋風邪か)。

寒気がする。
視野も狭い。
果たして、我が家まで無事にたどり着くことができるだろうか?

私は、痛いとかつらいとか、自己申告をしない人間だから、人から心配されることがない。
「痛いよー!」「つらいよー!」と、世界の中心で叫べる人を羨ましく感じることがある。

痛いとかつらいとか言っても、それで治るわけないんだから、無駄じゃない?
それに、あまり騒ぐのも、鬱陶しいんじゃない?

そう思ってしまうタチなので、痛みや辛さはすべて、自分の中で処理するようにしている。
だから、当たり前のことだが、誰も心配してくれない。

やせ我慢は、つらいよ。

しかし、たとえ「おまえ、具合悪そうだな?」と聞かれても「うるせえよ! 具合なんか悪くねえよ!」と、可愛げのないことを言うから、自業自得でもある。

変人は、つらいよ。

などと思っていたとき、「これ読んで」という声が聞こえた。
声の方を見ると、革ジャンを着た男が、私の座ったカウンター席の上に、紙袋を置こうとしていた。

は?

男は、私の返事を待たずに紙袋を置き、店を足早に出ていこうとした。

「チョット!」
と言ったが、男は振り向かなかった。
元気なときなら、俊足を飛ばして男を追いかけるところだったが、立ち上がるのも面倒だったので、男が出ていくのを狭い視野の中で、ボーッと見送っていた。

紙袋がカウンターの上にある。
表に「伊良湖岬」と印刷された手提げ袋だ。

「見ず知らずの人に、伊良湖岬のお土産をもらってもなあ」と思いながら中を覗くと、エロ漫画雑誌2冊とカバーされた本が1冊入っていた。
見るのも恥ずかしい表紙のエロ漫画雑誌。

寒気が増す。

このセンスの無さは、犯罪的である。
絵が下手だ。
配色も最悪だ。
吐き気を催す。

だから、それは無視して、もう一つの本の中身を確かめようとした。
「エロ本だったら、速効でゴミ箱だな」と思いながら、表紙をめくったら、あのベストセラー「ホームレス中学生」だった。

私は、ベストセラーは読まない主義だから、何が世間で読まれているかには、まったく興味がないが、さすがにこの本のことは知っていた。
確か200万部近く売れていて、映像化も計画されていることを、インターネットの記事で見た記憶がある。

この本を私に渡して逃げた男は、きっと旅行中にポテトチップスでもつまみながら読破したのだろう。
ところどころ小さく折れたところや、油が付いて薄茶色になったところがあった。

そして、一度読んで満足して、家に持って帰るのを面倒に思ったのかもしれない。
面倒には思ったが、捨てるのももったいない。
何しろベストセラーである。
もしかして、有り難がって読むやつがいるかもしれない、とでも思ったか。

有り難がりそうなやつを物色していたら、ちょうど熱で朦朧としている私を見つけた。
彼は、私が朦朧としている姿を、「ヒマ」と勘違いして、私に押し付けたのではないだろうか。

折角もらったが、私は読む気はない。
どうしようか、と考えた。
このまま、席に置いて立ち去るという手もあったが、それは無責任な気がした。

身体全体がだるくて、立ち上がるのも億劫だったが、ずっとここにいるわけにはいかない。
すぐに体調が良くなるとも言えない状態だから、これを機に、この紙袋を「落とし物」として店内スタッフに預けて、店を出ようと思った。

気合いを込めて、ドッコイショウイチッ、と立ち上がる。
女性スタッフを見つけて、「落とし物ですが」と、紙袋を渡そうとした。
振り向いたスタッフの顔を見て、「オオ!」と思った。

私の好きなタイプの顔だったのだ。
エビちゃん似の子だった。背も高い。170センチはありそうである。
モデル体型だ。立ち姿も美しい。
そのエビちゃん似が、いかにも作り笑い的な笑顔で、「ハイ!」と明るく応対してくれた。
五月晴れの笑顔。
まぶしいほどである。

「落とし物ですね」
紙袋の口を開けて、中身を覗く。
しかし、五月晴れの笑顔が、途端に曇った。2月の日本海だ。

それはそうだろう。中にはエロ雑誌が入っているのだ。
見事なほど「エロ雑誌」ということを主張した表紙が、一気に目に侵入してきたはずだ。
笑いも凍るだろう。

「落とし物なんです」

・・・・・。

「カウンターにあったんですよ」

・・・・・。

エビちゃん似は、まだショックから立ち直れないようである。
目線は、紙袋から離れ、その曇った目が私を見つめていた。
顔から微笑が消えると、エビちゃんとは違う顔になった。
美形ではあるが、エビちゃんではない。
そして、徐々に目が、エイリアンに遭遇したときのシガニー・ウィーバーのようになってきた。

それを見て、背筋に悪寒が走った。
一瞬気持ち悪くなりかけたが、そのとき「悪寒が走った」を「オカンが走った」と書き換えると、面白いブログが書けるかもしれない、というアイディアが突然浮かんだ。

しかし、すぐにそれを打ち消した。
それでは、あまりに馬鹿馬鹿しすぎる。
この場面で、なんでそんな言葉が浮かぶんだ?
信じられない発想である。

熱のせいだ、熱のせいだ・・・。

そう呟きながら、私はコーヒーショップを後にした。

熱のせいだ、熱のせいだ、熱のせいで・・・。

オカンが・・・走った・・・・・。


2008/02/12 AM 07:03:16 | Comment(3) | TrackBack(0) | [日記]



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