Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








心が寒い日 その2
毎月5日締めの仕事がある。
担当者のハヤシさんとのバトルに関しては、このブログで何度か書いている。
しかし、今回、バトルはなかった。

ただ、今回の原稿の中に、故人ではあるが、ある事件に関して個人名を上げて、その家族にも不名誉なことを断言している箇所が気になった。

そこで、無駄かと思ったが、一応ハヤシさんに、こう聞いてみた。
「この箇所は、読者に誤解を与えるかもしれませんから、作者にもう一度確認してください。
印刷をした後で、『不適切でした』と言うのは避けたいですからね」

それに対してのハヤシさんの答え。
「どこが不適切なんですか? いいじゃないですか。作者がいいと思って書いてるんですから。余計なことをして、作者の機嫌を損ねたら怒られるのは俺ですから、ほっときましょうよ。こんな本、その家族が読むわけないですよ」

自分の会社が出している本を「こんな本」呼ばわりである。

しかし、人生には、どこにでも落とし穴が待ち受けているものである。
たとえ「こんな本」であっても、まわり回って、いつか目にすることもあり得る。
私は、そういうケースを1回経験したことがあるので、今回も慎重を期したい。

ハヤシさんのご意見は受け流して、その事件に関して調べようと思い、インターネットで検索してみた。
だが、詳しいことは載っていなかった。

日曜日。
さいたま市では朝から雪が降っていたが、図書館に行って調べることにした。
新聞の縮刷版を調べれば、インターネットよりも詳しいことがわかるのではないか、と思ったのだ。

我が家の近所にある図書館は、いつも人が少なくて居心地がいい。
蔵書の数は少ないが、広くて明るいところがいい。
それに、暖かい。静かだ。
たいへん、落ち着く。

カウンターで縮刷版を出してもらって、虫眼鏡を借りて、調べ始めた。
6人がけのテーブルは、誰も使っていない。私の独占状態だ。
ほかに、ソファに座って、新聞を読んでいる人が1人。雑誌を読んでいる人が3人。
館内をうろついている人が2人程度である。
たいへん、落ち着く。

ほどよい館内の暖かさが、気持ちいい。
自然な流れで、目をつぶった。
そして、眠った。

目が覚めて驚いた。
すべてのものが横になっているではないか。
地震でも起きたのか、と思った。
しかし、本は崩れていないようだ。
人々が慌てふためいている様子もない。
館内は明るく、そして、暖かい。

その時、気付いた。
右の頬が、軽くチクチクする。
それに、普通だったら何もないはずの体の右側に、じゅうたんの感触がある。

俺は、椅子に座って調べものをしていたはずではなかったか?
それなのに、なぜじゅうたんの上で横になっているんだ!
起きた。
6人がけのテーブルが、そばにあった。
その上に縮刷版が置いてある。
私が座っていた椅子は、斜めの方向を向いていたが、倒れてはいなかった。

つまり、私だけが倒れて横になっていたのである。
そして、眠っていた。

まわりを見渡してみた。
館内には、5人いた。
カウンターには、職員が2人いる。
誰も私とは、目を合わさない。
知らんぷりである。

私が寝ているとき、この人たちは何をしていたのだろう。
一応、私の様子をうかがったのだろうか。
それで、ただ寝ていることがわかって、ほったらかしにしておいたのか。

しかし、私が起きたら、何らかの反応はあっていいはずだ。
それなのに、何だこの寒い雰囲気は!

完全に無視?
完全に置いてけぼり?

柱の方を振り返って、上に掛けてある時計を見た。
10分くらい寝ていたようである。
10分間、図書館のじゅうたんの上に、置かれっぱなし?

ため息をつく。
寒々とした心を抱えながらも、縮刷版を開いて閲覧を再開した。
しかし、心が動揺して、気持ちが縮刷版の方に入り込めない。

全員の顔を窺ってみた。
やはり、誰もこちらに目を向けない。

外は雪。

寒い。

すごく寒い。
心も・・・寒い。
そう呟きながら、私は図書館を後にした。

そして、翌朝8時過ぎ。団地の駐輪場。
駅まで自転車で行こうとしたが、自転車の鍵が開かなかった。

昨日の雪と寒さで、鍵が凍ったか、と思い、コップにお湯を入れて、鍵と錠の両方にかけてみた。
しかし、鍵穴に鍵がはいらないのだ。
何度やっても、はいらない。

クソッ! ダイソーの鍵はすぐダメになるから、ヤダよ!
と八つ当たりしているときに、ご近所のご主人Kさんが後ろを通りかかった。

「あれ、鍵壊れましたか?」
「はい、まったく動かないんですよ」
「大変ですね」
Kさんの自転車は簡単に鍵がとけて、彼は「失礼」とにこやかに言って、雪道を走っていった。
彼も駅まで自転車で行くはずである。

仕方がない。
「雪のために遅れる」と取引先に連絡をして、駅まで歩いていこうと思った。
駅までは、歩きだと40分弱だが、雪道を歩くのだから1時間はかかるかもしれない。
しかし、今さら焦ってもしょうがない。のんびり行こう。

遊歩道は、ほとんど雪がまだ残っていて、サクサクと踏みしめながらゆっくりと歩いた。
目の前をノラ猫が走っていく。
こいつら、昨日はどこで夜を過ごしたんだろう。猫に、この寒さはつらいだろうな、などと思っていたら、救急車の音がすぐ近くで聞こえて、そして止まった。

誰か転んで怪我でもしたか、と思って、あたりを見回したが、それらしい事故は視界に入ってこなかった。
野次馬根性が頭をもたげたが、これ以上遅れたら迷惑がかかるので、駅まで黙々と歩いた。

その日の夕方、家に帰ると、ヨメが珍しく玄関に出迎えて、「Kさんのご主人、自転車で転んで鎖骨を折ったんですって。あなたは、大丈夫だった?」と聞かれた。

あの事故は、Kさんだったようだ。
そこで私は、朝の出来事をヨメに話した。

「ああ、それは、偶然じゃないわよ! 自転車が使えたら、あなたが怪我をしていたかもしれないわ。きっと、自転車は危険だから、乗らないようにっていう『何かの力』が働いたんだわ。絶対そうだわ!」

そんなことあり得ないよ。これは、偶然だろ。
「じゃあ、自転車の鍵を確かめてみたら? 今は直っているんじゃない? もし朝だけ壊れていたとしたら、それはやっぱり『何かの力』が働いたんだわ!」

駐輪場に行って、自転車の鍵を開けてみた。
開いた。

しかし、同時に気付いたことがある。

10日前に自転車の鍵が壊れたので、ダイソーで色違いの同じタイプの鍵を買ったのである。
つまり、壊れた自転車の鍵と、いま現在使っている鍵は、形状が同じなのだ。
錠は捨ててしまったが、鍵は残っていた。
そして、今朝は、その残しておいた鍵を使って開けようとしたから、鍵が開かなかった。
要するに、私が間違えたのだ。

何かの力が働いたわけではなかった!

「ねえ、どうだった? 開いた?」
興味津々のヨメの顔。
この顔を見て、「鍵、間違えちゃったんだ」などと、夢を壊すようなことを言えるわけがない。

「開いたよ」
それを聞いたときの、ヨメの嬉しそうな顔と言ったら・・・。

だから、私は今、とても心が・・・、寒い・・・・・。


2008/02/05 AM 06:57:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.