Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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梅干しとアンラッキー
「去年、梅干しを漬けなかったのがいけなかったのかなあ」
ヨメが、遠慮がちにつぶやく。

我が家では、毎年梅干しを漬けている。
同じ時期に、梅酒も作る。

らっきょうも漬ける。
去年、らっきょうは漬けた。
しかし、梅干しは漬けなかった。梅酒も作らなかった。
理由は簡単だ。
なんとなく、作る気にならなかったから。

これは、いま高校2年の息子が生まれる前から続けていた行事だから、17年間続けていたことになる。

それをしなかったから、得意先が2件倒産した。
だから、我が家が貧乏になった。

ヨメは、そう言いたいようである。
彼女がそう考えたくなるのは、わからなくもない。

当たり前のことだが、梅干しと取引先の倒産は、まったく関係がない。
誰が考えたって、それはわかるだろう。

ヨメも、もちろんわかっているはずである。
しかし、何か理由を見つけたい。
毎年続けていたことが途切れたから、不幸になった。
そう思うことで、納得したい。

だが、私にはそれができない。
取引先が倒産するのを見抜けなかった自分が悪い、と思ってしまうのである。

我が家が貧乏な理由は、明白だ。
それは、私の能力が足りないからで、私の努力が足りないからだ。

だいいち、梅干しのせいになんかしたら、自分がさらに惨めになるだけではないか。
ヨメのつぶやきを聞いて、「今年も梅干しを漬けるのは、やめよう」と思った。
それは、つまらない意地だったが、そう思った。

ただ、我が家で漬ける梅干しは、けっこう評判がいい。
毎年15キロの梅を漬けているから、4人家族では消費しきれない量だ。
そこで、知り合いに配るのだが、毎年楽しみにしてくれる人が2人いる。

「Mの梅干しを食べたら、他のは食べられないよ」と、いかにもお世辞丸出しでいうやつがいるが、言われて悪い気はしない。
だから、梅干しづくりに、毎年力が入ったのである。

しかし、昨年は配らなかった。
相手も大人だから、「なんで」とは聞いてこなかったが、一度世間話の中で「市販の梅干しは、何か物足りないなあ」と言われたことがある。

友人のサカイが家に遊びに来たときに、手打ちうどんにカツオダシをかけて、その上に我が家で作った梅肉をのせただけのものを出したことがあった。
彼は、ひとくち食べて、「うまい!」と叫んだ。そして、「うまい!」と何度も言いながら、それを瞬く間に平らげた。

彼は、自宅に帰って、それを市販の梅を使ってやってみたが、まったく感動を味わえなかったと言う。

それを聞いて、「どうせ、お世辞だろう」と思った。
そこまで、自分が作った梅干しがすごいとは思っていない。
話半分に聞いておいた方が無難である。
私は、疑り深い性格なのだ。

ただ、先週末、違う友人チバが我が家にやってきて、「あれを食わせろ」と言ったのである。

あれ?

「うどんに梅をのっけただけのやつ。サカイが感動して言ってたよ。『あれはすごい! Mのうちに行ったら、絶対あれを食え! だまされたと思って食ってみろ』ってな。だから、食わせろ!」

あまりにもうるさく言うので、リクエスト通り作って出した。
うどんの上にのせたのは、一昨年作った梅干しをペースト状にして、梅肉として保存したものだ。
それは、サカイに出したものとは少々違うが、チバは2杯お代わりをした。

食い終わった後で、チバは遠慮がちに「今年は、漬けろよ」と言う。
「楽しみにしている人がいる限り、それは、必要とされているということだろ? だから、続けろよ。おまえの性格は、よくわかってるけどさ。たかが梅干しだけど、その『たかが』が大事なときもあるんだよ」

彼らは、私が梅干しを漬けなかったことを、特別な意味を感じて、そう言ってくれているようである。
それは、大きな勘違いだったが、その言葉は嬉しかった。

「わかった。作ってやる」

「よし、うめ〜梅を頼んだぜ!」
Vサインを出しながら、気持ち悪い顔で微笑んだチバ。
前歯に、梅肉がこびり付いていた。

私はそれを見て、近くにあった麺棒で、チバの出っ張った腹を叩いてやった。


2008/02/01 AM 07:04:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | [料理]



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