Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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出産には二度立ち合った
予定日よりだいぶ遅れたようだが、友人の一流デザイナー・ニシダ君に、初めての子どもが生まれた。
女の子だった。

ニシダ君はこのブログにも、たびたび登場する(たとえば、コチラコチラ)。

ニシダ君とは、6年前に、私が彼にMacの操作を教えたことで、付き合いが始まった。
しかし、彼は、わずか半年で私を簡単に追い越し、さらにデザイナーとしての感性も瞬く間に追い越していった、情け容赦ない男でもある。

いまや彼は、一流企業をクライアントに持ち、海外でも仕事をこなすという恥知らずなことをしている。
うらやましすぎるではないか。
しかも、彼には女優の仲間由紀恵ナウシカを注入したような若くて美人の奥さんもいる。

しかし、だからといって、世の中が不公平にできているとは思わない。
才能のある人間が受け入れられるのは、当然のことだ。
そして、才能のない人間が、世間から背を向けられるのも、当然のことだ。
ただ、彼に美人の奥さんがいるのは、気にくわないが・・・。

ニシダ君の奥さんのチヅルさんは、酒豪である。
私は、彼女がビールを飲んでいない姿を一度しか見たことがない。
それは、このブログで書いた。
そのときは妊娠中だったから、アルコールを飲まないのは、当然のことではあるが、チヅルさんの手にバドワイザーがないというのは、パソコンにキーボードがついていないのと同じくらい、違和感があると感じたものだった。

私は、この半年間で5回、ニシダ君の仕事場にバドワイザーを飲みにいったが、チヅルさんは5度とも私の前に姿を見せなかった。

「センセイに大きなおなかを見せたくないみたいですよ」とニシダ君は言っていたが、本当だろうか。
私の顔が胎教に悪いと思って、顔を見ないようにしていたのではないのか。
(あるいは私の顔を見ると、我慢していたビールを飲みたくなるので、見たくなかったのかもしれない)

久しぶりに会ったチヅルさんは、私の顔を見るなり、こう言った。
「バドワイザーが、20本しか残っていなかったんですけどォ!」

チヅルさんが、妊娠する前にストックしてあったバドワイザーが約70本。
そのうちの50本を私が飲んだ。
だからと言って、「20本しか・・・」と言われるのは、心外である。

古いビールを産後間もないお母さんに飲ませるわけにはいかない。
鮮度の落ちたビールは産後の体に悪いから、私が全部飲むつもりで、今回新鮮なバドワイザーを10本、手みやげとして持ってきたのだ。
だから、「20本しか、ではなくて20本も残ってしまった」というのならわかる。
私は、親切で飲んでやったのだ。

私の屁理屈に、チヅルさんは「まあ、どうでもいっか!」と早速新鮮なバドワイザーを開けて、私には古いバドワイザーを出してくれた。
しっかりした母親である。

「いつ頃から飲み始めたの」と私が聞くと、まるでそれが当然のような顔をして「もちろん、退院してすぐ」と答えた。
しかし、それはまずいだろう。
母乳に影響があるのではないか。

そうすると、チヅルさんは誇らしげに「努力はしたんですけどね、ワタシ母乳あまり出なかったんですよ。だから、市販のミルクでいいやと思って」と胸を張るのである。
まあ、酒まみれの母乳より市販のミルクの方が絶対に安全だろう。
それは、正しい選択だと言える。

あらためて、チヅルさんの顔をじっくりと見てみたが、産後2週間がたっていたが、母親の顔にはなっていないし、育児疲れの顔もしていない。
少々ふくよかになったが、7か月前に会ったときのイメージが、そのまま残っている。
むしろ、ニシダ君の方がやつれているように見える。

赤ちゃんを見せてもらったが、チヅルさん似で、酒豪顔(?)をしている。
将来が危ぶまれる。

「センセイ、聞いてくださいよ。シンジったら、薄情なんですよ。出産に立ち合ってよっていったら、ブルブル震えて、逃げちゃうんですから。センセイは、二度とも立ち合ったんですよね」
そう言いながら、チヅルさんの右のボディが、ニシダ君に炸裂した。
ニシダ君の顔が歪む。

「だって、そんなの見たら、毎晩夢に出てきそうで・・・」
今度は、左のボディが炸裂した。子どもを産んで、さらにパンチにキレが出てきたようである。

顔を歪めながら、ニシダ君が言う。
「センセイ、二度も立ち合うなんて、おそろしすぎますよ!」

私のまわりの男は皆そう言うが、私は立ち合うことが当たり前のことだと思っていた。
子どもが生まれるその瞬間に、自分が参加できる機会が回ってきたら、それを逃すのはもったいないと思っていた。
子育てに最初から関わる覚悟をしていた私にとって、このチャンスは絶対に逃したくなかった。
だから、立ち合った。

私のヨメも母乳の出が悪い体質だったので、夜中にヨメと交代で起きて、ミルクを飲ませた。
当然のことながら、寝不足になって、仕事中たまにボーッとすることがあったが、こんな経験は今しかできないと思って、その時間を楽しんだ。

子どもの離乳食も交代で作った。
この離乳食づくりが、私が料理にのめり込むきっかけを作ったのだから、何ごとも無駄にはならないと言うことだ。
いま思えば、若かったからできたことだが、この経験は貴重だと思っている。

そんな私の経験談を聞いて、ニシダ君とチヅルさんは、口をまん丸に開けて、こう言うのである。

「へ〜〜! センセイって変わっているんですねェ!」

はい! 私は変人です。
それは間違いありません。

変人は、両手に持ったバドワイザーを交互に一気飲みしながら、赤ん坊の寝顔を涙目で見つめた。
赤ん坊の顔には、命を凝縮した厳(おごそ)かさが宿っていた。
それを見て、また涙目になる。

「あのー、センセイ、泣いてる場合じゃないですよ。約束があったでしょ、半年前の」

半年前?
半年前の約束など、私には、鎌倉時代以前の出来事のように思える。
武蔵坊弁慶が、平泉で立ったまま矢を全身に浴びて息絶えたのは、確か1189年のことだったか。
あれは、壮絶な最期であった。あれこそ、男の死に様である。
アッパレアッパレ!

「おい、オヤジ! そうじゃなくて、ワインのラベルに名前を書くんだろ!」
鋭いチヅルさんのツッコミで思い出した。

そうだった。
ヴィンテージのワインボトルにみんなの名前を書いて、子どもの誕生を祝おうという約束を半年前にしたのである。

シャトーマルゴーの1977年。
名前を聞いても、なんじゃ、そりゃ! としか思わないが、とりあえず約束なので、ラベルに名前を書いて、3人で乾杯をした。

飲んでみて思った。
これは・・・・・、うまいのか?

きっと、うまいんだろうな。
でも俺は、ハイネケンの方がいいな。

ということで・・・、私だけハイネケンをリクエストした。
うまい!
シャトーなんとかよりも、こちらの方が断然キレがある。
最高だ!
ハイネケンをグビグビと呷った。

そんな私を新米の親たちは、ワイングラスを優雅に持ち、ため息をつきながら見つめていた。
そして、その二人の目線の先には、赤ん坊がいる。

「いいかい、決してあんな大人にはなるんじゃないよ」
二人の目は、間違いなく、そう語っていた。


2007/11/21 AM 06:53:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | [子育て]



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