Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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高崎線の車内にて
熊谷のハウスメーカーが傾いてしまったので、高崎線に乗る機会が減った。

他に、高崎市には懇意にしていただいていたデザイン事務所があって、年に1、2回手伝いに行くことがあったが、その事務所も先週閉鎖されたというメールが届いた。

私のまわりは、景気が悪いようだ(私が一番景気が悪いが)。
もしかしたら、私は彼らにとって疫病神で、関わる人すべてを不幸にしてしまう忌まわしい運命を持っているのかもしれない。

そんな余計なことを思っていたからだろうか、大宮駅で宇都宮線に乗り換えるつもりが、高崎線に乗るというヘマをやらかしてしまったのである。
そして、それに気づかず、電車に乗るとすぐ眠ってしまったものだから、目が醒めたときは籠原駅を過ぎて、深谷駅に到着する寸前だった。

夢も見ずに寝てしまったから寝起きは良かったのだが、「フカヤ」というアナウンスを聞いて、身体全体が瞬時に反応して、飛び跳ねるようにして立ち上がってしまった。
無数の目が私を射るように見る。

なんだこいつ!?
という冷たい視線。

あなたは、そんな幾つもの蔑みの視線を投げかけられたことが、過去一度でもありましたか?
私は、一度だけあります。

20年近く前、友人の結婚式で、1時間遅刻して会場に入り、いきなりピンチヒッターでスピーチをやらされることになったときのことである。

新婦の名前を間違え、新郎が勤めている会社名も間違え、彼が留年をしていないのに、2年遅れて大学を卒業したという勘違いを披露し、新婦の両親が健在にもかかわらず、祖父母の愛情を一杯受けて育てられたと自信満々に語ったとき、まるでシベリア地方のツンドラの真ん中に放り出されたように、まわりが凍りついた。

スピーチの終わり近くに、それは先月出席した結婚式でのスピーチだったと気づいたのだが、時すでに遅し!
新婦の名前を間違えた時点で、なんで俺を壇上から引きずり下ろさねえんだよ! と、ピントのずれた逆ギレを列席した友人にまき散らしたのだが、誰もフォローしてくれなかった。

二次会にも呼ばれずに、背を丸めて結婚式場をあとにした、あの時の惨めさを私は、高崎線の車内で久々に体感した思いがした。

深谷駅でドアが開くと同時に、時速42キロで飛び出した私は、階段を猛スピードで上がり、線路を隔てた反対側のホームに立った。
それから一分もたたずにやって来た上りの電車に乗ると、今度は目をしっかりと開けて、車窓を眺めた。

無駄な時間を過ごしたせいで、心の奥に、とんがった感情が居座っている。
このツンツンした感情は、のどかな車窓を眺めていても、癒されることがなかった。
世界の車窓から」の音楽を頭に思い浮かべたが、ツンツンは消えなかった。

見慣れた高崎線の車窓を見ていると、電車の走る音が「ガッタントウサン、ガッタントウサン」と聞こえるような気がして、耳を塞ぎたくなった。
しかし、車内で耳を塞いだら、また好奇の視線にさらされることになるので、かろうじて我慢した。

耳を塞ぎたくなる衝動と闘っているうちに、熊谷駅に着いた。
午後6時前だったから、学校帰りの学生や仕事を終えたサラリーマンが乗ってくる。

みんな平和そうな顔をしてやがる! と心の中で悪態をつくと、小腹がすいてきた。
私は、怒ると腹が減るたちなので(昼メシを食う金がなかったので、抜いたせいもあるが)、得意先でもらった「ぬれ煎餅」とワンカップ月桂冠(なんでこんなものをくれたのだろう?)をバッグから取り出して、煎餅を一口二口三口かじり、ワンカップのプルトップを引いた。

フタを開けたとき少々酒をこぼしたが、幸い両隣には誰も座っていなかったので、人に迷惑はかけなかった。
私は、酒をチビチビ飲むのが嫌いである。
飲むときはグイグイ飲む派だ。

チビチビでは、酒の味もつまみの味もよくわからない。
ワンカップの3分の2ほどを一気に飲み、煎餅の残りをバリバリと噛み砕いた。
途端に胃が熱くなって、煎餅の芳醇な味と香りを日本酒の匂いが押しのけ、口中に酒臭さが充満した。

自分が臭く感じるということは、他人も臭く感じるということである。
ひとり分の席を置いた左隣の50年輩のサラリーマンが、「なんか、臭せえ!」というような表情をして、私を素早く見た。

すみませんねえ、ワンカップなんか飲んで。
でも、これは私が「いや、こんなものもらっても・・・」と懸命に拒んだのに、得意先のシミズさんが無理矢理押し付けたものなんですよ。
シミズさんは、変わった人ですから、常識が通じないんです。
だから、私は仕方なくもらったんですって!

そう心の中で言い訳をしながら、残りのワンカップを飲み干して、容器にフタをしてバッグにしまった。
そんな私の姿をサラリーマンは、ずっと見つめていた。

まだ、臭いですか?
そうですよねえ、私も臭いと思いますよ。
でも、しょうがないじゃないですか!
シミズさんがくれたんだから、飲まないわけにはいかないでしょう!
人の好意を無にしてはいけないと、幼いころ祖母にいわれたことを私は忠実に守っただけですよ。

ぬれ煎餅が入っていた袋もカップの容器も自分のバッグにしまったのだから、車内を汚してはいない。
私は、誰にも迷惑をかけていない!
文句があるか!


サラリーマンの方を向いて、眉間に皺を寄せて目を細めると、彼は脅えたように目をそらしたあと、慌てて立ち上がって、車両の端まで歩いていき、空いていた席に腰を下ろした。
たまに私の方をチラチラ盗み見るが、そのたびに私は眉間に皺を寄せて、軽く舌打ちをしながら、彼に「優しい視線」を送った。

はたして、彼の目には、私がどんな人種に見えただろうか?
下品な酒飲み? アル中? 職にあぶれたリストラ男?

まだまだ、私は修行が足りない。
頭を丸めて、謝罪会見を開きたいくらいである(古い?)。

懺悔の言葉を呟きながら、大宮駅で乗り換えのため降りようとしたとき、「トウサン」という声に鋭く反応して、声のした方を振り返った。

「うちのオトウサンが、珍しく風邪ひいて寝ているのよ。バカでも風邪はひくみたいよ」
市原悦子に激似の女性が、連れの女の人と肩を寄せ合って、真っ白な差し歯を誇らしげに露出しながら、話をしているところだった。
(どうでもいいことだが、私はよく市原悦子に激似の女性を見かけるのだが、他の人はどうなのだろうか?)

しかし、「トウサン」と「オトウサン」を聞き間違えるなんて、まるで小学校低学年レベルのダジャレ的反応だな。

まだまだ、私は修行が足りない・・・・・。


2007/11/19 AM 06:53:50 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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