Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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176万円の笑い話
災いは突然やってくる。
そして、連続してやってくる。

9月の終わりのことだった。
東京の弁護士事務所から一通の封書が届いた。

弁護士事務所? まさか? あれか?
と思ったら、本当にその「まさか」「あれ」だった。
長い付き合いの美術書出版会社が倒産したというお知らせである。

寒々とした心で文面を読むと、倒産に至った理由が綴られてあり、最後に債務整理のため、細かな請負代金を教えて欲しいと書いてあった。
教えてあげましょう。
114万3千7百円です。

その会社は、6か月ごとに6か月分の額を支払ってくれていたが、今年の3月と9月の支払いが滞っていた。
それが114万円強!

この会社に関しては、支払いの督促は頻繁にしていたし、部分的に少額訴訟を起こす準備もしていた(そのあたりのことは、このブログに書いた)。
また、我が家の財政が逼迫する前に、マイカーを売って、当座の生活に困らない準備はしていた。
だから、こうなることは、ある程度予測していた。

これは想定内の出来事だ。つまり、いつか倒産するだろう、という心の準備はあったのである。
しかし、そうは思っていても、心の中で膨れあがっていくストレスだけは、抑えようがない。
そして、そのことは誰にも言えない。
せいぜい仕事部屋で「ギャオー!」と叫ぶ程度である。
それで気分が晴れることはないが、とりあえず叫ぶことだけはしてみた。

友人に話したら、気分は多少収まるだろうが、聞かされる方はいい迷惑に違いない。
ひとのストレスのことを喜んで聞くやつはいない。
私も、他人のストレス話なんか聞きたくない。

そんなストレスまみれの1か月が過ぎた10月の終わりに、新たな事態が発生した。
5年以上のお付き合いがあるハウスメーカーからの入金がなかったのである。
ここは今まで、支払いが遅れたことは滅多になかった。
私の取引先の中では、優良と言っていい会社だった。

しかし、約束の日に入金がなかったので、電話をしてみると、社長に信じられないことを言われたのだ。
「不渡りを出しましてね。もう駄目ですよ」

最初は、冗談か、と思ったが、この社長は冗談を言うひとではない。
しかし、わずか5日前に、仕事の打合せをしたばかりである。
デジカメで出来上がったばかりの家を撮って次回のチラシに使う、という話までした。
それなのに、倒産?

青天の霹靂寝耳に水、とはこのことである。
まさか自分の身にこれほどの不幸が襲いかかってくるとは、思いもしなかった。
思いもしなかったが、私の心は冷静に「ああ、これで10社目だな」と思ってしまったのである。

独立して10年、自分が関わった会社が倒産するのを見るのが、10社目という意味である。
これはキリのいい数字だ。なかなか味わえない経験ではないか。
受話器から流れてくる社長の声を聞きながら、そんなことを思った。

現実問題として、ハウスメーカーには62万円の債権がある。
もう一つの会社の114万円と合わせて176万円
それがわずかひと月の間にゼロになるという現実は、笑えない出来事だが、あまりにも唐突なことなので、笑うしかない。

私の経験上、倒産した会社からは、一銭も取れない。
過去、一円でも払ってくれた会社は、一社もない。
仕事というのは、対価があるからこそ仕事なのであって、対価のない仕事は、帳簿だけで処理される「汚点」でしかない。

10回目の汚点。
この汚点は、私の生活にさまざまな影響を及ぼす。
家賃、生活費、子どもの学費、外注先への支払いなどなど。

しかし、「この176万円さえあれば、これほどの苦労は・・・」などと思ってみても、この先何の解決にもならない。
また、10社で500万円の損だな、と汚点の数を積み上げて眺めてみても、何の意味もない。
相手を呪ってもいいが、呪うにはエネルギーを必要とする。
私は、元々そんなエネルギーを持ち合わせていない。

倒産した会社も大変だよ、と思ってしまうタチなのである。
俺の方が大変だよ、とは思えないのだ。

この変に物わかりのいい思考方法は、私の父と姉のおかげだと思っている。

父は、働いた金を家に入れず、その全てを自分の遊びのために使った。
なんで俺が働いて得た金を家族に渡すの? 俺の金だろ?
子ども? 勝手に大きくなるよ。俺には関係ないね。
彼はそう言いながら、結核の手術で左肺の半分を失った自分の妻の前でも、平気で煙草を吸った。
私の父はそんな人だった。

だから、私はそれを見て、こんな風にはなりたくないと思った。
私の母は、そんな夫に何も言わず、勝手放題にさせていた。
「だって、私は働くのに精一杯だからね。それに、文句を言うのも疲れるし」と言って笑うのである。
だから、私は「俺に家族ができたら、できるだけ家族と濃密に接していたい」と思った。

姉の方は、少しでも困難なことがあると、すぐ引きこもり、自分は世界で一番可哀想な人間だと言って、ひとに呪いの言葉を吐いた。
何をしても、自分は悪くなくて、人が悪いと決めつけて世間から背を向けた。

こんな姉を見て、私はひとのせいにしない生き方をしようと思った。
大変なのは自分だけじゃない。息をしている限り、人間はみな大変だ。

しかしそれは、口で言うほど容易ではないから、いつも自分の甘い性格を呪っているが、他人を呪うよりはいいだろうと開き直っている。

人を呪っても、176万円は、どこからも湧いて出てこない。
ゼロになってしまったものにこだわっても、何も生まれてこない。

だから、こんなことは、笑い話にしてしまった方がいい。
笑っていれば、笑いながら生きていれば、笑いながら働いていれば、ゼロは必ずプラスになる。

だから私は、176万円分、笑ってやろうと思っている(まわりからは、気が狂っていると思われるかもしれないが)。


2007/11/09 AM 06:46:13 | Comment(4) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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