Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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アホのイナバ
毎月5日締めの仕事で、いつも担当者の悪口ばかり書いている。
今回も2稿目を出したときに、険悪な雰囲気になって、お互い爆発しそうになった。

あまりにも馬鹿馬鹿しい言いがかりをつけられたので、今回も腹立ちまぎれに書いてやろうと思ったが、まだ校了になっていない。
おそらく校了時に、また一悶着あるだろう。
その時に書けばいい。
そう思って、今はグッとこらえている。

だから、書くことがなくなった。
そこで、馬鹿馬鹿しい理由で、奥さんの入り婿になった男・イナバのことを書こうと思う。
彼のことは、以前このブログで書いた。

イナバの旧姓はシマと言う。
彼は、リアルイラストを得意とするイラストレーターだ。
最初は、手書きで描いていたが、4、5年前から手書きの絵をパソコンで仕上げるという工程を踏むようになってから、技術が格段に上がった。

彼の作品は、大変精密に描かれていて、写真と見間違うほどだが、写真と明らかに違うのは、光の反射が強調されて作品全体に輝きがあるところだろう。
これは、見事と言うしかない。
まさしく「プロ」の業師(わざし)である。

ただ、イナバは、イラストレーターとしてはA級だが、人間はB級である。
彼は、カメさん一家のように、先輩に対する言葉遣いを知らない。
最初会ったときから、横柄で態度がでかかった。
彼は私より11歳年下だが、彼の言葉遣いを聞いて、何度か得意の右フックをお見舞いしてやろうか、と思ったことがあった。

礼儀を知らない人間というのは、大抵は世間知らずで、脳味噌のシワが少ない人が多い。
イナバもそうである。
ただ、私は怒りが長続きしないタチなので、なぜかすぐに仲良くなって、今も付き合いが続いている。

そのイナバが、シマからイナバに姓が変わったのが今年の2月のことだった。
その理由は、おバカ丸出しのイナバにふさわしいものだった。

イナバは、それまで東京世田谷の若林というところにあるマンションに住んでいた。
奥さん一匹、子ども一匹、犬一人(?)。
彼の奥さんは、家庭菜園を趣味としていたが、マンションの小さいベランダでは、あまりにも世界が狭くて、不満を持っていた。

そこで、彼女は、「家庭菜園ができる環境が欲しい。欲しい! 欲しい!」と毎日のように駄々をこねて、イナバを責めまくった。
普段は、人の言うことをまったく聞かないイナバだが、奥さんには、きっと弱みを握られていたのだろう。
彼は、奥さんの言うことを聞いて、東京都下に一戸建てを買うことにした。

近くに「貸し農園」があることを条件に、物件探しをし、手頃な物件があったので今年の1月末に引っ越した。
広い庭のある家を手に入れたが、彼の奥さんは「庭で家庭菜園はしたくない。だって貧乏くさいでしょ」というわけのわからない理由で、「貸し農園」にこだわった。
(マンションのベランダで家庭菜園をするのは、貧乏くさくないのか?)

彼は、引っ越したが、その場所には一つだけ問題があった。
普通は、何の問題にもならないものだが、彼はその問題を大きく受け止めた。
引っ越し先の隣の家も「シマ」姓だったのである。

「俺は、幼稚園の時からシマという名前のやつと一緒になったことがない。大学時代もいなかった。社会に出てからもシマという名前に遭遇したことはなかった。だから俺には、そのことに関しての免疫がなかった」
(余談だが、私には他にもう一人、同業者でシマという男がいたが、今は行方不明になっている。もしかして、シマというのは不吉な姓なのかもしれない)

ただ、私から見れば、どうでもいいことである。
誰だって、同じ姓の人に遭遇することは、数限りなくある。
今までなかったとしても、よほど地域的に珍しい名字でない限り、必ず遭遇する。
たとえ遭遇したとしても、「ああ同じですね」で済むことだ。

しかし、アホのイナバには、それが我慢できなかった。
さらに追い打ちをかけるように、彼が年間1万8千円で借りた貸し農園の隣の人が、「シマさん」だったのだ。
そのシマさんは、彼の隣人とは違うシマさんである。

30数年間遭遇しなかった「シマ」に、引っ越した早々二度も遭遇することになったアホのイナバ。
彼の頭は、一気に混乱した。
そこで、彼は常人には思いつかないことを思いつく。

俺が名字を変えればいいんだ!

普通は、誰もそんなことは考えない。
しかしイナバは、とびっきりのアホだから、そういう発想になる。

奥さんは驚いたが、彼女もイナバが「アホ」だということを知っているから、その提案をすんなりと受け入れた。
そして、奥さん以上にそれを喜んだのが、奥さんの両親だった。

イナバの奥さんは二人姉妹の長女だった。
両親は、当然のことながら、イナバ姓を残すには、二人の娘のどちらかに婿を取るのが一番いいと思っていた。
しかし、両親はそれを娘に押し付けなかった。
無理に婿を取るよりも、娘たちの幸せの方を優先したのである。
そして、二人の娘は、嫁に行った。

イナバ姓は、自分たち限りでいい。そんな寂しい覚悟をしていたときに、長女のアホ婿が突然「婿になる」と言いだしたのだ。
両親の喜びがどれほどのものだったか、想像できる気がする。

娘の婿がアホで良かった!
両親は、そう言って跳び上がって喜びを表したに違いない。
アホな婿に、キスの嵐を降らせたかもしれない。
イナバもキスの嵐を喜んで受け入れて、恍惚の表情を浮かべたことだろう。

そういうことで、シマが、イナバになった。
彼の方も4人兄弟の末っ子だったから、入り婿になることには何の抵抗もなかった。

彼がイナバ姓に変わった時、「今までシマで仕事をしていたんだから、名字が変わると不便じゃないか」と聞くと、アホのイナバは、鼻くそをほじりながらこう言うのである。

「いや、全然! シマのころは失敗すると『シマらねえな』と馬鹿にされたが、イナバになってからは、『イナバさん? じゃあ、イナバウアーできますか』って言われるんだよ。だから、得してるかもな」

イナバ君。
君って、ホントに幸せなやつだねえ(私はつくづく思うよ。君は正真正銘のアホだって)。


2007/11/03 AM 07:58:34 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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