Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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二重人格
得意先に行ったら、絵を描いてくれと言われた。
パソコンで? と聞いたら、「いや、手書きで」と言われた。
それも、「今日中に」という大変無茶なリクエストである。

先方の話では、いつも書いてもらっている挿し絵の先生が、子どもが入院したので、今回は絵を描く心境になれない。だから、今回だけ他の人に描いてもらって欲しい、と言ったらしい。

それは、子どもを持つ親の心境としてわかる。
しかし、なぜ、私に?
この人は、私の手書きの絵を見たことがないはず。なぜいきなり、そんな飛躍した話になるのだろうか。

そうすると、彼は「パソコンで絵が描けるんだから、手書きでもかけるんじゃないですか」と頷きながら言うのだ。
世の中には、こういう単純な考え方をする人が多い。

パソコンはパソコン、手書きは手書きだ。
まったく別物ではないか。
しかも挿し絵だ。文章の内容に沿った絵を描かなければいけないはずだ。
それは、かなりの力量を必要とする。

「今日中に」などと簡単に言うが、それは一等航海士に、今すぐセスナの操縦をしろと言っているようなものだ。
無理に決まっているではないか。
心の中では、そう思った。

しかし、そんな心とは裏腹に、私の口は「どんな挿し絵を描けばいいんですか」と聞いているのである。
我ながら、信じられない。つき合いきれない。困ったもんだ。
そう心の中でボヤキながら、クライアントの説明を聞いた。

絵は、携帯電話をかけている女性のポーズだという。
クライアントが親切にも雑誌の切り抜きの中から、同じようなポーズを選んでくれたので、これを描き写すだけでいいようだ。

「ああ、これなら簡単ですね」
と言ったが、簡単なわけがない。今日中とはいっても、午後4時までにというご要望だから、あと3時間くらいしかない。
本当に出来るのか。無理じゃないのか。

私の心はそう思うのだが、口は「頑張ってみます」と言ってしまうのである。
こんな自分が嫌になる。
しかし、自己嫌悪に陥っている暇はないので、早速下絵を描き始めた。

久しぶりのデッサンだ。
しかし、思ったよりも快適に進んだ。
ラフを描いてみたが、なかなかいい。

そんなとき、クライアントが「ああ、そうだ。いつも頼んでいる先生の画風に似せてもらわなくちゃね。画風が違ったら変だもんね」と言ってきた。
それは、最初に言うことではないのか。じゃあ、早くその先生の絵を見せろよ。まったく、段取りが悪いなあ。

そう思いながらも、私の口は「ああ、そうですね。それは似せないとまずいですよね」と言葉を返すのである。
まったくのイエスマンではないか。
情けない。恥知らずにも程がある。

と思いながら、黙々と描き続ける。
かなりいい感じである。俺ってこんなに絵がうまかったんだ。自画自賛。
作家のタッチを似せて描くと、プロっぽい雰囲気が出て表現力が増したような気になる。
描き始めて1時間で、9割方完成した。
線からわざとはみ出して色を塗るのだが、それが立体感を出して、リアリティを感じる絵になっている。

クライアントが覗きに来て、「Mさん、すごいねえ。まるでY先生が描いたみたいだよ。これは、見分けがつかないかもしれないね。よくこれだけ、雰囲気を真似できるねえ。さすがプロだねえ」

そうですよ。私はプロですよ。今頃わかったんですか。
そう思ったが、口では「いやあ、まぐれですよ、まぐれ。こんなにうまくいくなんて、自分でもビックリしてますよ」と言うのである。
深い自己嫌悪を感じながら、1時間半で描きあげた。

出来上がった絵は、自分でもうまいと思う。
プロの絵だと思う。
しかし、これは結局は真似である。
私の絵ではない。

「Mさん、俺、Mさんのこと見直したよ。今までは、何か頼りないと思ったけど、やるときはやる人なんだねえ」
頼りなくて悪かったですね!
まあ、確かに頼りない男ではありますが。

「今度は、Mさんのオリジナルの絵をぜひお願いしたいと思うんで、その時はよろしく」
どうせ、社交辞令だろ。
たとえ絵の仕事があったとしても、絶対Y先生に頼むに決まってるんだから、期待しないで待っていますよ。

しかし、口では「ああ、お願いしますよ。その時は、すぐ駆けつけますんで、よろしくお願いします!」と言うのである。
心の中で、自分を罵った。
二重人格者め!

帰り道、重いため息をつきながら、足どりまで重くなって、腹は減っていなかったが、駅で立ち食いそばをヤケ食いしてしまった。
それも、竹輪の天ぷらとイカの天ぷら、コロッケをトッピングをするという節度のないメニューだった。

家に帰ったら、胃がもたれて、気持ちの悪いことといったら・・・・・。


2007/11/01 AM 06:59:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | [フリーランスの心得]



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