Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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警官が教えてくれた拡大解釈
誰にでもミスはある。
ミスのない人間なんていない。
もしそんなやつがいたとしたら、まったくつまらない人間である。

しかし、そのミスを見苦しいほど責める人は大勢いる。
私のヨメの場合、人のミスは備前の銘刀長船居合いを抜くように、バッサリと斬り捨てるのだが、自分のミスは簡単に笑って済ませる。
大抵の人は、そうである。
次に同じ間違いを起こさないように、ということを言い訳に、ここぞとばかりにミスを責めたてる。
まるで、肉食動物が一度捕らえた獲物は放さない、ここで逃したら、いつ肉にありつけるかわからない、というような執拗さで。

しかし、私の場合は、ミスを責めることはしない。
「これから気をつければいいさ」
それでおしまいである。

誰に対しても、私のこの方針は変わらない。
自分の子どもに対しても、そうだ。
人に迷惑をかけたときは叱るが、それ以外は簡単な注意だけしかしない。
その結果、子どもたちの父親に対する態度と母親に対する態度にかなりの差ができてしまったが。

誰だって、間違えようと思って間違えているわけではない。
時に相手の人格を否定するほどの怒り方をする人がいるが、むしろ私は、怒っている人に対して哀れさを感じる。

教育というのは、教えて育てることである。
決して、怒って育てることではない。

昨日、今月7日締めの仕事にミスがあったと言われたので、得意先に呼ばれて行った。
私はミスをした覚えはないが、思い当たることはあった。
それは、古本、中古ゲームソフト、古着などを扱うショップのポイントカードのデザインと印刷の仕事だった。
赤と濃紺の2種類のポイントカードを作った。

その仕事は、6日の午後校了になったはずだったが、7日の昼前に、担当者のNさんから「色を臙脂(えんじ)と濃緑色に変えて欲しい」という電話があった。
彼にはあらかじめ、急な修正がある場合は、7日の朝までに報せてくれれば、何とか修正できると伝えてあった。
しかし、電話があったのは、昼前。
その時間では、もう間に合わない。
すでに、フィルム出力をしたあとだった。

だから、「無理です。もう私の手を完全に離れてしまいました」と答えた。
相手は、納得してくれたが、彼はそのことを社長に伝えていなかったようである。

いきなり社長から「どうしてくれるんだ!」と怒られたので、とんがった目を見つめながら経緯を説明した。

私が言った、朝までなら修正は間に合うという「朝」をNさんは拡大解釈をして、「12時前なら、まだ朝だろう」と判断されたのでしょう。
朝、という曖昧な表現をした私も悪かったかもしれない、と社長に頭を下げた。

しかし、社長は怒鳴る用意をはじめからしていたようなタイミングで、Nさんを大声で怒鳴り始めたのである。

「アホか! 12時前が朝のわけねえだろう! おまえ、小学校からやり直せ!」

眼球が飛び出すほどの勢いでNさんを睨みつけ、言葉を浴びせかける。
昔の失敗まで、蒸し返して責め立てる。
その姿に、社員に対する愛情は微塵も感じられない。
昔のことをここで持ち出さなくても、Nさんは十分に反省しているではないか。
これは、怒り方を間違えている。
そう思ったが、クライアントに意見をするわけにはいかない。

いたたまれない、とはこのことである。
社長は怒鳴り散らし延々と罵声を浴びせかけ、社員はふて腐れた顔でうなだれる。
これは、人前で見せる光景ではない。

社長の一方的な怒鳴り声を聞きながら、「じゃあ、私はこれで失礼します」、そう頭を下げて、部屋から出ていったが、二人ともまったく知らんぷりである。
ドアを蹴飛ばしたくなった。

こんなときは、隠れ家でシャドーボクシング。

たまに、真っ直ぐ家に帰りたくない気分になるときがある。
そんなときは、隠れ家に寄って、シャドーボクシングをする。
これが、私のストレス解消法だ。

付き合いのあるOA流通会社の倉庫が、我が家から1.5キロのところにある。
その会社の社長のPCメンテナンスを無料でするという条件で、昨年から自由に使わせてもらっている。
倉庫には中古のOA機器が山積みになっているが、倉庫の隅に衝立で仕切られた事務所があって、そこにはソファもあり、エアコンも付いていた。

私は、そこに毛布や電熱器やジャージ、いいちこなどを持ち込んで、心を洗濯するための隠れ家にしているのである。
腹の立つことがあったときは、ジャージに着替えて、シャドーボクシングをする。
汗を大量にかいたら、倉庫の外、隣の倉庫との隙間に水道の蛇口があるので、素っ裸になって水を浴びる。
そこは死角になっているし、フォークリフトの陰になっているから、人の目を気にしないで、水を浴びることができる。
夏は、これが爽快なのだ。

そのあとの発泡酒の美味いことといったら!

この日も、そうしようと思って、倉庫のそばのコンビニで発泡酒の350缶2本とおでんを4種類買った。
しかし、倉庫まで歩いていく途中で、気が変わった。
コンビニから倉庫に行く間に、公園がある。いや、遊具が一つもないから広場と言った方がいいのか。
10メートル四方の小さな空間だが、木のベンチが二つ置いてあった。

そこに腰掛けてみた。
夜の七時。もう完全に暗くなっていたが、街灯が2つあるので、暗すぎず明るすぎずの丁度いい塩梅だった。
白い雲が薄ぼやけて見える空を見上げて、たまには屋根のない空間でのんびりするのもいいかもしれない、と思った。

ゆったりした気分でベンチに腰掛け、発泡酒のプルトップを開けた。
半分を一気に飲む。
そのあと、大根を食い始めた。
コンビニのおでんは、なんでこんなに美味しいのだろう。
サッパリとしているが、噛んでいると濃厚な汁が口の中に充満して、幸せな気分になる。
タコ足も、最初のひとくちは歯ごたえがあるのだが、噛んでいるうちに柔らかくなって、ダシの味が口の中を満たしてくる。

心地よい気持ちで、ビールの残りを飲み干した。
軽く吹き過ぎる風が、優しく肌を撫でる。気持ちがいい。
心の中の苛立ちは、ほとんど消えかけていた。
こんなことでご機嫌になるのだから、何と安上がりな男なのか、と自分を笑いたくなるが、それは悪いことじゃない。

2本目のプルトップを開けて、ゴボ天を箸でつまんだときだった。
「ちょっといいですか」という声とともに、懐中電灯の光が私の顔を照らした。

何だ! 強盗か! と身構えた。
俺は金はないぞ。むしろ、貰いたいくらいだ。
もしも強盗なら返り討ちにして、身ぐるみ引き剥がしてやろうか、と思ったが、その声は何となく聞き覚えがある気がして、思いとどまった。

だが、すぐには思い出せない。
懐中電灯が近づいてくる。
1メートルほど手前まで来ると、懐中電灯が消された。

予想はしていたが、警官だった。
あたりを見渡してみると、この広場は、住宅に囲まれている。
私が座っていたベンチの後ろは2階建てのアパートだった。
おそらく誰かが、広場に怪しい人間がいる、と通報したのではないだろうか。

私は、この近辺でパトカーや警官を見かけたことが、年に数回しかない。
大きな団地であるにもかかわらず、団地内には交番がない。
空き巣に入られたという噂は頻繁に聞くが、物騒なので交番を設置しましょうという要望は、いつも無視されているようである。
頻繁にパトロールしている気配もない。
埼玉では、警官が不足しているのかもしれない。

その希少価値の警官が、私の目の前にいた。
そして、「すみませんねえ。身分を証明するものをお持ちですか」と柔らかな物腰で聞かれた。
今日は、何も持っていない。
ただ、「ない」というのも高飛車なので、ツタヤのカードとみずほ銀行のキャッシュカードを見せた。

警官は、また懐中電灯をつけて、裏表をあらためた。
私は、人の良さそうな警官に「誰か通報しましたね」と聞いた。
警官は、「ハハハハハハハハハハハハハハハハ」と、やたら長く笑って、カードを返してくれた。

「お住まいはどちらですか」と聞かれたので、住所と名前を正直に答えた。
すると、警官は、「ああ、もしかして以前、夜中の1時頃職質しませんでしたか」と聞いてきた。
そこで、私の壊れかけた脳細胞のシナプスの回路が繋がった。

確かに一年以上前、真夜中に近所の印刷会社で仕事をした帰り道に、職務質問を受けたことがあった。
深夜、自転車をすっ飛ばして帰る途中、パトカーから出てきた警官に呼び止められたのである。

「あの時は、すごい勢いで自転車を漕いでましたね。確かお仕事は、デザイン関係でしたよね」
すごく記憶力のいい警官だ。
警官にしておくには、もったいない。

しかし、警官は納得できないという顔を作って、こう言った。
「ここは、団地からかなり離れていますよね。この近所に誰かお知り合いでもいるんですか」
顔は穏やかだが、嘘を言うと承知しないぞ、という迫力のようなものを感じた。

嘘を言うつもりはないので、正直に答えた。
すると、警官はまた「ハハハハハハハハハハハハハハハハ」と長く笑って、大きく頷いた。
そして、ベンチの方に目を移して、「まだおでんが少し残っているようですね。じゃあ、あれを食べ終わったら、できるだけ早く家にお帰り下さい」と言って、小さく頭を下げた。

それは無理だ。あと1本発泡酒が残っている。
2本目の発泡酒は、ゆっくり飲むことにしている。
残りのおでんも、のんびり食いたい。

私が首をかしげていると、人の良さそうな警官は、また長い笑いを引きずったあとで、私の肩を軽く叩いた。
「まあ、できるだけ早くというのは、どうとでも解釈できますからね、これは常識的な時間ということでして、まあ、ある程度拡大解釈してもよろしいんじゃないでしょうか。速やかに、と言ったら、いま直ちに、ということですが、私はそこまでは言っておりませんので」

それを聞いて、警官が少しだけ好きになった。

そうか。
彼の言葉を拡大解釈すれば、こういうことになる。
おでんをゆっくりと食べて、発泡酒をゆっくり飲んで、できるだけ早く帰ればいい・・・・・と。

わかった。
警官が認めてくれたのだから、夜の闇の中で一人の時間を満喫しながら、できるだけ早く家に帰ることにしよう。


2007/09/16 AM 08:26:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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