Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ハゲとオール電化住宅
友人のハゲが、家を建てた。
ハゲには、シバタという名前があるのだが、30歳を過ぎて激しくハゲだしたので、それからは愛情を込めて「ハゲ」と呼んでいる。

ハゲとは大学が同じだったが、学部は違うし、クラブも違った。
我々は本当だったら、接点はないはずだったが、大学3年の冬、アルバイト先で偶然知り合い、よく話をするようになった。

当時ハゲは、アルバイト先の女の子に惚れていて、ものの見事に振られたあとだった。
打ちひしがれたハゲの姿があまりにも哀れだったので、その日は明け方までヤケ酒につき合ってやった。
それから、友だち付き合いが続いている。

ただ、友だち付き合いと言っても、私の記憶ではこの5年間に2度しか会っていない。
メールもしないし、電話もしない。
たまにハゲから長文の手紙が届くだけだ。

ハゲは字がうまい。
私は、男でこれほどきれいな字を書く人間にお目にかかったことがない。
たとえ激しくハゲていたとしても、ハゲの美しい字を見ると、心が落ち着いてくる。
字が美しいだけでなく、時に散りばめられる詩的な表現が、ハゲしい知性を感じさせる。
その点だけでも、尊敬できる。

今回、便せんに4枚の手紙をもらった。
家を建てたので、ぜひ見に来て欲しい、と書いてあった。
そして、最後に息子のことで相談がある、とも書いてあった。
高校3年の息子との関係に悩んでいる、というのだ。

これは、行かなければならない。
ハゲの場合、これ以上悩んでも髪の毛が抜けることはないだろうから、放っておいてもいいかもしれないが、新築の家は見てみたい。

ハゲが、髪の毛が抜けるほど苦労して建てた家だ。
見る価値はある。
そこで、横浜の三ツ沢に行って来た。

薄い茶のサイディング
屋根にはソーラーユニットが乗っている。
エコキュートも付けたというから、今流行のオール電化住宅である。

ハゲとオール電化は、とても似合っている。
いつも太陽を浴びているハゲの頭と、いつも太陽を受けているハゲの家の屋根。
どちらも、キラキラと輝いて、まぶしい。

あまり、ハゲハゲとハゲしく繰り返すのは気が引けるので、これからはシバタと書く。
シバタの奥さんは、友だちと韓国に行っていたので、今回は会えなかった。
彼女は、リエさんと言って、名字と名前を続けて読むと、有名人の名前になる。
ただし、シバタの奥さんのリエさんは、かの有名人よりも格段に美人である。
歯は出ていないし、スリムだ。

20帖近いリビングのふかふかのソファに向かい合って座り、キリンのラガーを飲んだ。
つまみを用意するのを忘れたと言うので、シバタの頭を軽くはり倒したあと、台所を借りて、ピ−マンの肉詰めとイカキムチを作った。

IHクッキングヒータを使って本格的な料理を作ってみたかったが、シバタの奥さんよりも美味い料理を作ったら、彼女の立場がなくなるので、やめた。
シバタは、肉詰めが気に入ったらしく、6個作ったうちの5個を一気に平らげた。
「うちのやつのよりも、うま・・」と言おうとしたので、また頭をはり倒した。

そんなとき、リビングに彼の長男が入ってきた。
6年ぶりに会う長男は、頭以外は、シバタにそっくりだった。
彼は、私のことを覚えていたらしく、私の顔を見ると、「お久しぶりです」と頭を下げた。
頭のてっぺんが見えたが、頭髪はまだ大丈夫のようである。
その部分は、これからも父親に似ないことを祈る。

照れた笑顔が6年前のままだったので、安心した。
「座るかい?」と聞いたが、「いえ」と言って冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを手に取り、そのままリビングを出ていった。

親子の会話はない。
目も合わさなかった。
シバタの顔を窺うと、下を向いて、フォークで最後の肉詰めを乱暴に突き刺していた。

私が「断絶か」と聞くと、シバタは顔を上げて気弱な笑いを作った。
「まあ、それに近いな。母親とは喋るんだが、俺のことは2年近く避けている。どこが気にくわないかわからないんだ。リエが何度か聞いたらしいんだが、『なんとなく』としか言わないんだな」
そう言いながら、肉詰めをまるごと口に放り込んだ。

「おまえのところはどうだ。うまくいってるのか」

私の高校2年の息子は、私に反発することはまったくない。
たまに、ヨメに対して声を荒げることはあるが、それは鉈(なた)で心を切るような無神経な言葉に反応するだけだから、一瞬である。口論まではいかない。
彼がわけもわからずに反発したのは、小学校の低学年までで、それも長い期間ではなかった。

息子も小学6年の娘も、私のことを友だちと思っているらしく、学校で起きたことを中心に何でも話してくれる。
娘は私に対して乱暴な口をきくが、鬱陶しい存在とは思っていないようだ。

「そうか、うらやましい限りだな」
シバタが、ハゲしく落ち込んだ。

そこで私は、長男の部屋に行って話をすることにした。
シバタは無駄だと言っていたが、かえって他人の方が話しやすいということもある。
親子の関係は、繋がっているようで繋がっていない。
意識すればするほど、むしろ遠く感じる場合がある。
親子だ、と肩肘を張るより、血の繋がった同居人だと思ったほうが、気楽である。
そのほうが、相手を尊重できる。
別の人格として、意識できる。

2階に上がってすぐのところに、長男の部屋があった。
ノックをすると、いきなり長男が顔を出した。
戸惑ってはいないようである。私が来ることを予測していたのかもしれない。
「入りますか」と言われた。

入った。

いきなり目に飛び込んできたのが、壁中に張られたポスター。
Gackt、L\\\'Arc〜en〜Ciel、Dir en greyなどのヴィジュアル系アーティストのものが、壁といわずドアといわず、部屋全体に充満していた。

「すごいね、この景色は」
私は、思わず呻った。
机の引き出しのところにも、器用に切り抜きが張られていて、まさにヴィジュアルである。

折り畳みの椅子を出してくれたので、それに座ったが、背もたれの狭い部分にも、どぎついメークをしたアーティストのシールが貼られていた。
見事だ。これだけ、徹底していたら、拍手をするしかない。
事実、私は拍手をしてしまった。

それを見て、長男は「ハハハ」と笑った。
それをきっかけに話が弾んだ。
彼は、学園祭のときだけ、バンドを組んで、ヴィジュアル系もどきの歌を歌っているらしい。
普段聞くのも、ヴィジュアル系だけ。

私が、「俺は、GacktもL\\\'Arc〜en〜Cielもみんな同じに聞こえるんだよね」と言っても、怒ることなく、「それはそうでしょう。ヴィジュアル系の音楽全体を引っくるめて、一つのムーヴメントだから、どうしても似ちゃうんですよ」と笑っていた。

普通は、自分の趣味を少しでもけなされたら、この年頃の子は怒るものだが、彼は平然としている。
性格の穏やかさは、シバタに似たのかもしれない。

「親父は、嫌いか」と、突然聞いてみた。
それに対して、彼は「いいえ」と、やはり笑いながら答えた。
そして、ひととおり自分の部屋を見渡したあとで、まばらな無精髭を撫でながらこう言った。

「俺、学校の成績、いいんですよ」
「一番かい?」
「いや、一番ではないけどトップクラスです。中学のころから、成績も良かったし、スポーツもよくできた。生徒会長をやったこともある」
おそらく、照れたときの彼の癖なのだろう、そう言って、また無精髭を撫でた。

「いい子だったんですよ。学校でも家でもね。でも、それが少し嫌になったんです。だから、少しだけでも嫌なやつになりたかった」
「それが親父だったわけか。親父に対してだけ、嫌なやつでいてやろう、と」
「まあ、そうです」
無精髭を撫でる。
そして、大きくため息をついたあとで、こう言った。

「親父は悪くないんです。俺の勝手な事情で、親父を避けているふりをしているだけなんだ。それも、高校を卒業するまでって、決めてるんですけどね」
おかしな理屈だったが、私には何となく理解できた。
私も、子どもの頃から手間のかからない子どもだとまわりから言われて、それをもの凄く気恥ずかしく感じていたことがあった。

要するに俺は、大人にとって、都合がよくて、ただ安心できるだけの人間なんじゃないか。
そんな人間なんて、意味があるのか。存在価値があるのか。
そう思ったことがあった。

彼もどこかで、形だけでもねじれなければ、落ち着かなかったのだろう。
その矛先が、親父だっただけのことだ。

「俺も若いころ、君と似た感じだったな。俺はいい子で終わってしまったから、大人になって、ひねくれてしまったが、君の場合は、ちゃんと闘っているんだな」

事情は、よくわかった。
シバタには今回の話は隠しておくことを約束して、私は長男の部屋をあとにした。

リビングに戻ると、シバタは赤い顔をして鼻歌を歌っていた。
演歌だった。
息子はヴィジュアル系、親父は演歌。

「なるほど、断絶だな」
私が呟くと、シバタは赤唐辛子のような顔になって、「ああ、断絶、断絶!」と叫んだ。

私はシバタが手にしたラガーのボトルをひったくるようにして手に取り、自分のコップに注いだ。
そして、聞こえるか聞こえないかの小さな声で言った。

「あと6ヶ月の辛抱だ」
「ん?」

長男との会話を教えてやってもよかったが、約束は守るべきだろう。
私は、シバタのコップにビールを注ぎながら、「いい息子だよ」と言った。

シバタの顔が赤からピンクになった。
そして、ハゲ頭を縦に大きく揺らしながら、頷いた。
笑み崩れた顔で、私に乾杯を強要した。

「飲もうぜ! 飲もうぜ!」

親父ってやつは・・・、どんなに子どもに邪険にされても、自分の子どもを褒められたら嬉しいものなのである。


2007/09/12 AM 07:05:52 | Comment(4) | TrackBack(0) | [日記]



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