Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ハイエナのボス
京橋に事務所を構えるウチダ氏に頼まれた仕事ができ上がったので、見せに行った。
彼が自分の事務所を法人化するので、そのロゴと会社概要を頼まれたのである。

前回のブログで、ロゴのやり直しを命じられたことを書いた。
だから、今回はまったく新しい発想で作り直したものをウチダ氏に見せた。

ウチダ氏は、ロゴを一目見るなり「こりゃ、シンプルでいい。おい、やればできるじゃないか」と、テーブルを軽く叩いて言った。
気に入ってもらえたようである。

アルファベットのRoman系のUの文字の上に社名の欧文をのせただけのものだが、社名がシンプルなので、意外と印象深いロゴに仕上がったと、自分でも気に入っていたのだ。

「やっと、普段のおまえの顔に戻ったな。これを見せる前は親のカタキでもとるような顔をしていたぞ」

これをボツにされたら、こいつとは絶交だ、というくらいの気合いを入れて彼の事務所に乗り込んだのだが、それが顔に出てしまったようである。

ウチダ氏が、私の前にスーパードライの350缶を置いた。
「ごくろうさん。いいものを作ってもらった。さすがドブネズミ君だ。ハイエナの心がよくわかっている。完璧だよ!」

お褒めの言葉をいただいたが、ひねくれ者の私は、非常識にもこう言い返すのである。
「おい、ビールだけかよ。つまみはないのか!」

ウチダ氏は、私の性格をよくわかっているから、余裕の笑いを見せて、「キャビアか、それともブルーチーズか」と言って立ち上がった。

「キャビアなんてのは、人間が食うもんじゃない」
以前、ウチダ氏にキャビアを2缶もらった恩を忘れて、ドブネズミは悪態をつく。

「ブルーチーズだって、臭くて嫌いなやつの方が多いだろ」
「知らないのか。アメリカのマンガでは、チーズはネズミの大好物なんだ」
「あれは、ブルーチーズじゃねえ!」
「ドブネズミは、ブルーチーズが好物なんだよ」

馬鹿げた会話を交わしながら、ふたりでブルーチーズをつまんだ。
ウチダ氏は、これから車を使うというので、彼は烏龍茶である。
しかも、100グラム4千円という、いかにもハイエナが好みそうな成金趣味の烏龍茶だ。

烏龍茶とブルーチーズは合うのか?
ブルーチーズに合うのは、ビールだけじゃないのか。
私はスーパードライを一気に飲み干した。

「普通、ブルーチーズには、シャンパンかワインだろ。その次が烏龍茶だ。ほかはあり得ない。ビールなんて問題外だ!」
ウチダ氏は、鼻の穴を膨らませて、熱弁を振るったが、これ以上この話を掘り下げても意味がない。
だから、軌道修正した。

法人化は、はかどっているのか。
社長としての心構えはできているのか。
それに対して、ウチダ氏は、私の前にもう1本スーパードライの缶を置いて、首を横に振った。

「やることは今まで通りだ。仕事は全部俺ひとりでこなす。法人化したからといって、何も変わらないさ。ハイエナはハイエナらしく、サバンナの残飯を処理するだけだよ」
「その残飯のおこぼれは、ドブネズミには回ってこないのか」

ウチダ氏は、にやりと笑って、腕を組み、私を見つめた。
その姿を見ると、社長の風格のようなものを感じて、私は少々気後れを感じた。
このハイエナのボスは、ハイエナだけで終わる男ではない。
いつの日か、ライオンに勝負を挑む野望を、心の奥深くに秘めているに違いない。

「まあ、俺にはドブネズミ君しか相談相手はいないからな。頼りにしてるよ」
調子のいいことは言わない男なので、それは本心に近い言葉なのだろう。

私はいい気分になって、缶ビールを呷りながら、まわりを見渡した。
本棚がある。
本棚の一番下の棚に、宮部みゆきの「模倣犯」があった。
ハードカバーだ。

先日、同業者のイナバに文庫版の模倣犯(1)をもらった。
成功するやつは、やっぱりハードカバーを読むのか。
そう思いながら「模倣犯」を見つめていると、ウチダ氏はその視線をたどって、腰を上げると、分厚い本を2冊持ってきて、私の前に置いた。

「これ、読みたいのか?」
「いや、そうじゃないが・・・」

ウチダ氏が、「なんだこいつ! はっきりしないやつだな」というような目線を送って、私の目をのぞき込んだ。
正直に言わないと、納得しない目である。
だから、先日のイナバとの経緯を話した。

ウチダ氏は、「ハハハ」と軽く笑った。
「俺も実は『文庫本派』なんだ。ここではカッコつけて、ハードカバーを置いてあるが、うちには文庫本ばっかりさ」
そして、模倣犯をパラパラとめくった。

「きれいなもんだろ。ここの本はほとんど飾りだからさ。カッコばっかつけて、自分が嫌になるよ」
ウチダ氏は、顎を撫でながら、皿の上に残った最後のブルーチーズのかけらを私の方に押して寄こした。
そして、顎で「食えよ」と合図をした。

普通は、遠慮をするのだろうが、私はすぐにそれを口に入れた。
ウチダ氏が頷きながら、笑う。
「ドブネズミ君は、そこがいいところだよな。くだらない遠慮や演技はしない。見てて気持ちがいいよ。だから・・・」と言って、彼は立ち上がり、新しいビールをまた私の前に置いた。

「うちに文庫本の『模倣犯』が全巻ある。それをやるよ。宅急便で送る。いつ送るかは、はっきりは言えないが、近いうちに必ず送るから。ただ、ページが汚れているところがあるかもしれないが、そこは我慢してくれ」

私に異存はない。
喜んで受け取る。
儲けた。儲けた。

しかし、よく考えたら、私はウチダ氏には、もらい物ばかりして、何も返したことがない。
ドブネズミ根性が、身に染みついて、人から恵んで貰うことに慣れすぎてしまったか。

しかし、ウチダ氏は、そんな私の考えを見透かすようにこう言うのである。
「おまえに小細工はいらないんだよ。有り難がる必要もない。胸を張って、何でももらっとけ。それが、おまえだ。そこだけは、ハイエナの俺が、どんなに頑張っても、ドブネズミ君に敵わないところだ」

これって、褒められたのかな?
いや、そんなことはないか・・・・・。
でも、今回は褒められたことにしておこう。


2007/08/25 AM 08:10:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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