Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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模倣犯
模倣犯をもらった。
そう書くと、模倣犯という犯罪者をもらったと勘違いする人がいるかもしれない。
もしかして、モホウハンという語感から、「模倣犯」を想像する人は、あまりいない可能性もある。

「おい、モホウハンあげるよ」
「ありがとう。モホウハン欲しかったんだよね」

この会話をそばで聞いていた人がいたら、きっと首をかしげたことだろう。
「モホウハンって、なんだ? 蒙古斑なら知っているが、モホウハンって、あげたりもらったりするものなのか? そんなハンコあったっけ?」
そんな風に考えすぎて、その人は、ノイローゼになるかもしれない。

友人のリアルイラストの達人イナバとすかいらーくで会ったときに、彼は突然私の前に文庫本を放り投げた。
イナバは旧姓シマと言って、今年になって奥さん側の入り婿になったのだが、その大変面白い顛末(てんまつ)に関しては、いつか書いてみたいと思う。
それは、とても信じられない話であるし、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、作り話だと思われる可能性もある。
だから、今回はその話はボツ。

イナバは、今年の6月に原因不明の高熱が続いて入院したことがあったが、その経緯に関しては、以前このブログに書いた。

「高熱の原因はわかったのか」
「わからない」

「体調はどうだ」
「悪くない」

そんな無味乾燥とした話題の後に、イナバは文庫本を放り投げたのだ。

「これ、気まぐれで買ったんだけど、50ページ読んで面倒臭くなったんで、Mさんにやるよ」
偉そうに言うが、イナバは私より11歳年下である。
11歳年下のくせに、いつもタメグチだ。
「Mさんって、さんづけで呼んでるんだから、一応これでも気はつかってるんだよ」と言い訳をしているが、彼は年上を敬う心を持ち合わせていない、無礼な男なのである。

初めての打合せの時、彼のあまりにも尊大な態度に腹を立て、最初の10分間は「この野郎!」と頭に来たが、すぐに冷静になって、それからはずっと友だち関係が続いている。
私は、怒りが長続きしないタイプなのである。

「この本(1)ってなってるけど、(2)はないのか?」
「あるよ」
「どこに?」
「本屋で売っている」

要するに、第1巻を読んだが、理解不能で、リタイアした本を私に押し付けに来たようである。

そもそも、イナバに複雑なミステリィは無理だ。
仕事では、精緻なリアルイラストを描きあげるが、彼の頭の中は、イラストほど精緻ではない。むしろ空洞と言っていいかもしれない。

ほとんど新品と言っていい本を見て、「お前、50ページ読んだといったが、5ページくらいしか読んでいないんじゃないか」と私は言った。
イナバの顔が、こわばった。わかりやすい男である。

宮部みゆきの本を初めて読むのなら、「模倣犯」では、荷が重すぎる。
短編から入っていく方が無難である。
それをいきなり、大長編の「模倣犯」では、劇団ひまわりに入ったばかりの子が、蜷川幸雄の舞台に抜擢されたようなものである。

「1巻だけもらってもしょうがないんだけどな」
「でも、オレが持っていてもしょうがないんだな」
「しかし、オレはD-1ファイターだぜ。2巻を買おうにも、買う金がない」
「なんだ、そのD-1ファイターってのは?」
「ドビンボウ・ファイターだ!」

イナバは、大きな溜息をつきながら、軽蔑の眼差しを私に投げてよこした。
「それを言うならD-1グランプリ、つまり、ドビンボウ・グランプリじゃないのか」

イナバに、座布団を一枚!

「そこで、ドビンボウ・グランプリの俺がお前に言いたいことがある」
「?」
「俺は昨日も今日も、ビールを飲んでいない。可哀想だとは、思わないか」
「思わない」

イナバァ! と叫びながら、私は「模倣犯」をイナバに投げつけた。
イナバは、私の剣幕に恐れをなし、イナバウアーのように体をのけ反らせ、「模倣犯」をよけたあと、生ジョッキを奢ってくれた。

私は生ビールを飲みながら、宮部みゆきの作品に関して、イナバウアーにレクチャーした。いや、イナバに抗議した。いや、講義した(しつこい)。
宮部みゆきの最高傑作は、「火車」と「理由」である。
ただ、これはお前のように頭が空洞の人間には、ハードルが高い。

以前、ミステリィ好きと自称する男にこの二つを勧めたが、「火車」に関しては、一番最後に犯人が登場する方式がフェアではない、というピントのずれたことを言われた。
その男は、「理由」についても、登場人物が多すぎて、人物の描写に力を入れすぎているからストーリーが埋没している、という言いがかりをつけてきた。
だから、バカな男には、この2つは勧めない。時間の無駄である。

初心者が読むなら、短編小説がいい。あるいは、コミカルな設定のものもいい。
たとえば「ステップファザー・ステップ」。子ども向きの設定だが、お前の頭には丁度いい。
そして、「心とろかすような マサの事件簿」。これは、犬が主人公の軽いタッチのミステリィだ。
これならハードルが低いから、お前にもわかるはずだ。

というような話をイナバにしていたのだが、イナバは、マヌケヅラを窓の外の方に向けて、人の話を聞いていない。

「おまえ、宮部みゆきの本を読む気があるのか?」
「ない」

「ところで、今日、お前は何をしに来たんだ?」
「わからない」

(怒)

「じゃあ、もう一杯生ジョッキを奢ってくれるか」
「いいよ」

新しいジョッキがやってきた。
断言はできないが、イナバは、もしかしたら、いいやつなのかもしれない、と私は水利している。
いや、推理している。


2007/08/19 AM 08:29:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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