Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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サボテンに話しかける男
「ネギシのやろう! 4ヶ月もたつのに校了にならねえ! こんなに時間のかかる仕事じゃねえだろうが! 何をもたついてやがる! ボツにするつもりか!」
Macの上のサボテンに話しかけるというより、罵倒していたとき、電話が鳴った。

「ああ、コバヤシだが・・・・・、Mさん?」
ぶっきらぼうで、抑揚のない声。
思わず舌打ちをする。
何も言わずに、電話を切ってもいい相手だったが、何とかこらえた。

「昨日は・・・、あ〜、何と言いますか・・・、あ〜、すみませんでした・・・、ねぇ・・・」
字にしてみると、謝っているように見えるが、言葉の調子はとても謝っている人のものではない。
ふて腐れている、と言っていい調子である。
あるいは、穏やかに喧嘩を売っている、という判断もできる。

昨日の昼、高校二年の息子の高校で三者面談があった。
その帰りの電車の中で、この男とトラブルがあったのである。
私と息子は並んで座っていたのだが、息子の前に男が立っていた。

男は、ペットボトルの水を飲んでいるところだった。
そのペットボトルの水を、男が息子の膝にこぼしたのである。
「あっ」と男が言った。
そして、男はその水が、どこにこぼれたのかも認識していた。

それなのに、「あっ」と言っただけで、男は知らんぷりをした。
男は、年齢は40〜50歳くらい。身長は低い。160センチあるかないかというところだろう。
顔は、私以上に貧相で、ガイコツ顔。目に傲慢さがあからさまに見えるタイプだ。

それを見て、私は「おいおい、知らんぷりかよ!」と言った。
しかし、無視された。

この日の三者面談で、息子の担任から、無神経な指摘を受けて、私は担任とバトルを繰り広げたばかりだった。
息子がいつもニコニコしているのを見て、担任が「M君は、なんか緊張感がありませんよね〜、男はあまり歯を見せない方がいいですよ」と因縁を付けてきたからである。

気が付いたら、15分の面談予定が一時間以上かかっていた。
バカを相手にすると疲れる。

電車に乗っている間も、気持ちの中に嵐が吹き荒れていて、怖いお兄さんに絡まれても、立ち向かっていきそうな精神状態だった。
そんなときだったから、なおさらこの無神経な男をほうっておくわけにはいかなかった。

私は、立ち上がって、男を上から睨みつけた。
男は160センチ弱。私は180センチ。
男から見れば、私は大男に感じたことだろう。大きいというだけで、威圧感を感じるものである。

しかし、男は「な、な、な」と、のけ反りながらも、私を睨み返してきたのだ。
そうなると、こちらも意地になる。
気持ち悪かったが、男の顔すれすれまで顔を近づけて、睨み返した(ヤクザか!)。

「し・ら・ん・ぷ・り・か・よ」
にらめっこである。
息子は、私のズボンの膝のところを掴んで「やめようよ、やめようよ」とオロオロしている。

息子にしてみれば、普段は温厚(軟弱)な自分の父親が、ついさっきまで自分の担任とバトルを繰り広げ、今は見知らぬ男と睨み合っているのを見るのは、耐え難いことかもしれない。
トラウマになる恐れもある。

威張ることではないが、私は子どもを怒ったことがない。
怒ることで、子どもが何かを理解したとしても、それはフェアではない。
関係が対等ではないからだ。
頭ごなしのお説教は、そのすべてが感情論だと私は思っている。
だから、私は怒らない。

ただ、他人に対しては怒る。
対等だからだ。

私は、血管が切れそうなほど力んで、男を睨みつけた。
そして、男が少し怯んだ目を見せたときである。
「ちょっと、いいですか」と私たちの間に、入り込んできた男がいる。

30歳前後の角刈り。肩幅の広い色黒の顔。紫色の趣味の悪いTシャツを着ているが、怪しいやつには見えない。
その男が、私たちの肩に手を置いて、耳元に口を近づけてこう言うのである。

「オレ、今日は非番だけど、警官なんですよ。もういい加減にしたらどうですか。これ以上いくと、収まりがつかないでしょう」
私たちは、機械仕掛けのロボットのように、ギクシャクした動きで、彼の顔を見た。
確かに、そう言われれば、警官に見えないこともない体型と容貌である。

彼の肩越しに、私は男と見つめ合った(見つめ合ったからといって、もちろん愛を感じたわけではない)。
男が目線を下げた。おそらく、了解したということだろう。
その雰囲気を感じ取って、警官(自称)は、男の方に向かって言った。

「水をこぼしたのは、あなたが悪いんだから、謝った方がいいと思いますよ。それに、もし、彼のズボンにシミが付いたら、それはあなたが弁償すべきです。だから、あなたの名前と電話番号を彼に教えるのが誠意というものです」
柔らかな物言いだったが、その口調には有無を言わせぬものがあった。

男は、子どものように口をとがらせて、名刺をくれた。
一応、礼儀なので、私も名刺を渡した。
表面上、友好的に名刺交換はしたが、男は謝らなかった。
男は名刺交換が終わってすぐ、電車が駅に止まったので、逃げるように降りていった。

そして、今日の電話である。
謝っているとは言えないような、感情のこもっていない声。
腹が立つ。男のガイコツ顔を思い出して、また舌打ちをする。
こちらも同じように、感情のこもらない声で答えた。

「もう、いいですよ」

ガチャン!
同時に電話を切った。

私は大きく息を吸い込み、「ボケッ! 謝る気がないなら、電話してくるんじゃねえよ!」と叫んだ。
そして、サボテンに向かって、穏やかな声で「なあ、サボちゃん」と話しかけた。
「まあ、電話をしてくるだけ、ましなのかなあ。少しは誠意があるってことなのかなあ・・・。どう思う?サボちゃん・・・」

気配を感じて、仕事場のドアの方を見ると、息子が顔を引きつらせて立ちつくしていた。

トラウマにならなければいいのだが・・・・・。



2007/07/26 AM 07:52:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | [子育て]



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