Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








ハイエナとドブネズミ
人間の感性というのは、当然のことながら、人それぞれ違う。
だから、同じデザインを人に見せても、人それぞれ受け取り方が違う。

ただ、もちろんのことだが、ある程度の基準はある。
バランスが崩れたものは、誰が見てもいいデザインとは思わない。
中には、わざとバランスを崩して、全体の調子を外して成功しているものもあるが、これは高等技術である。
考えもなしにバランスを崩して、「このバランスの乱れがわからないかな〜、これは、そういうテクニックなんですよ」と言っても、誰も感心しないのである。

バランスを崩すには、理由がなければならない。
ただ自分の技術の無さを誤魔化すために調和を崩しても、それは稚拙にしか見られない。
人の目は以外とシビアなものである。
それは、素人でもプロフェッショナルでも、シビアさは変わらない。

しかし、デザインというのは、ただそれだけではないのである。
他にもっと、根本的で奥深いものも潜んでいる。
今回は、そういうお話である。

昨日、京橋に事務所を構えるウチダ氏に、以前彼に頼まれた仕事の初稿を持っていった。
それは、彼が新規に立ち上げる会社のロゴと会社概要の表紙だった。

私は正直言って、ロゴは得意ではない。
だから、友人の一流デザイナーニシダ君に、その仕事を丸投げした。
ついでに、会社概要の表紙も丸投げした。
その方が、統一感が取れると思ったからだ。

ニシダ君が考えたロゴは、大変ダイナミックなもので、一目見て「躍動感」を感じるものだった。
それは、若い会社に相応しく、「希望」や「未来」が、ロゴの隙間から浮き出てくるような、好感の持てるロゴだった。

誰が見ても、文句を言う箇所はない。
これで決まりだ、と思っていた。

しかし、ウチダ氏は、「これじゃ、駄目だ」と言うのである。

なぜ?

「立派すぎる。確かにロゴだけを見れば、どこの一流会社かと思わせるほど、力を感じる。しかし、俺がやる仕事は、そんなご立派なものじゃないんだよ。世間の隙間を身を細くしてすり抜けながら、おこぼれを拾っていくような、まるでハイエナのような意地汚さに満ちた仕事だ。こんなご立派なロゴを付けてできる仕事じゃない」

私は、ウチダ氏の顔をじっと見つめた。
いい男である。爽やかな清潔感も持っている。
着ているスーツも上等だし、着こなしも洗練されている。
声も滑らかで上品だ。その声は、人に安心感を与える。
彼は、決してハイエナ的な仕事をする男ではない。

いいロゴを作って怒る人を、私ははじめて見た。
立派なロゴのどこが悪い!

「おまえ、俺がどんだけ背伸びして見栄張ってるか、わからないのか。吹けば飛ぶような男が、京橋に事務所持ってよぉ、肩肘張って精一杯カッコ付けてるだけだよ。おまえだから言うけどな。俺は空っぽな男だよ。それは、俺が一番よく知っている。外見は、大事だからな。このスタイルを変えるつもりはないが、会社のロゴは別だ。ロゴまでカッコを付けるのは、俺はイヤなんだ!」

しかし、ロゴは会社の顔ではないのか。
むしろ、こっちの方こそ、カッコを付けるべきではないのか。
それが、ビジネスの本質だろう。

私がそう言うと、ウチダ氏は、横を向いて、真っ白い壁を見つめた。
髭のそり跡も綺麗である。そり残しなど、一つもない。
有能なビジネスマンを絵に描いたような感じだ。
あるいは、彫刻的な顔、と言ってもいいかもしれない。

その作り物のような顔に向かって、私は言った。
「おまえがハイエナなら、俺はドブネズミだな。汚いドブの中にいても、何の苦痛も感じない。そこから這い上がろうとも思わない。綺麗な水が、この世の中にあることが想像できないんだ。ドブしか知らないんだからな」

ウチダ氏は、顔をゆっくりと私の方に向けて、頷いた。そして、いつもの爽やかな笑顔をつくって言った。
「おまえと俺は、同類だよ。だから、俺はおまえにロゴを頼んだんだ。悪いが、ドブネズミの発想でロゴを考え直してくれ。ひとに頼んだ分も請求してくれていい。ドブネズミの目から、ハイエナがどう見えるか。それが今回のテーマだ」

そして、笑顔のまま私を指さして、ウチダ氏はこう言った。
「わかったかね、ドブネズミ君」

私はこう答えた。
「わかったよ、ハイエナ君。
じゃあ、まず哀れなドブネズミに、ビールを恵んでくれないか」

乾杯をした。
ハイエナは、コップにエビスビールを注いで飲んだ。小指が立っていた。
ドブネズミは、エビスビールの瓶をラッパ飲みした。

「いいな、ドブネズミは」
「ハイエナも大変だな」

ふたりは貧乏揺すりをしながら、また乾杯をした。


2007/07/20 AM 07:07:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.