Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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奇跡の扉
プロポーズ大作戦」というドラマがあった。
これは、「奇跡の扉」というのが、キーワードの人気ドラマで、自分の過去に後悔している男が、その奇跡の扉を開けるために、過去に戻ってやり直すのだが、結局「奇跡の扉」は過去にはなく、自分たちの未来に向かって存在していた、という話である。

小学6年の娘が、このドラマを気に入っていて、いつも一緒に観せられた。
娘は、気に入ったドラマがあると、私に観ることを強要する。
仕事が詰まっていて、どうしても観られないときは、ビデオに撮って時間が空いたときに観る。

娘は、リアルタイムで観ているにもかかわらず、ビデオも一緒に観るのである。
彼女は、このドラマの主演をしている山下智久が好きだ。
山下智久は、ファンから「山P」と呼ばれているらしい。

「『山』はわかるが、『P』って何?」
私がそう聞くと、「うるせえ! 知るか!」と答える。
ファンでも、知らないようである。

話変わって、私の友人に、タカダという天才WEBデザイナーがいる。
はたして、タカダに奇跡の扉は開くのか、というのが今回のお話。

彼については、このブログで何度か書いている。
彼は、ホームページを作る技術は天才だが、女性に関しては、臆病な33歳の独身男。

しかし、そんな彼に親しくなった女性ができたのである。
その人Tさんは、タカダと私が共通の得意先にしている会社の事務員である。
彼女は、爽やかな笑顔で、まわりを幸せな気分にする素敵な女性だ。

昨日、タカダの仕事場に行った。
そこで、これ以上ないというくらい笑み崩れたタカダの姿を見た。
「えへへ、この間Tさんが、僕の仕事場を見に来たんですよ。信じられますか。すごくないですかー」

ちょっとの間に、二人の関係は進展していたようである。
仕事場を見回すと、うるさいくらい自己主張していた上戸彩のカレンダーが姿を消し、浜崎あゆみのポスターが四隅に貼られていた。

「彼女が来ると聞いて、上戸彩を抹殺したな」
「師匠ォ、抹殺だなんて、人聞きの悪い」

しかし、上戸彩の痕跡が見事なほど消えている。
この変わり身の早さは、大したものである。
30男の必死の恋がうかがえる。

高級ステレオコンポから流れる、浜崎あゆみの歌声。
この間までは、このコンポからは、上戸彩と倉木麻衣しか流れてこなかった。
しかし今、CDラックには、浜崎あゆみのアルバムしかない。
きっと、上戸彩と倉木麻衣は、クローゼットの奥深くに追いやられたに違いない。あるいは、捨てられたか。

「きっと上戸彩と倉木麻衣が、化けて出るだろうな」
「師匠ォ、二人とも死んだわけじゃありませんから」
「しかし、君の心の中では、死んだわけだろう? いや、殺したんだ!」
私はタカダを指さして言った。
「おまえが、殺したんだな! いい加減、認めろ!」

タカダは、私の追及を完全に無視して、冷蔵庫まで歩いていき、銀河高原ビール、ありますけど」と冷静に言いながら、振り向いた。
ダルマの顔に余裕がある。
今までだったら、オドオドしていたはずだが、恋がダルマを変えたのか。

「うん、頂戴」
私は、そう言うしかなかった。

銀河高原ビールを一気に飲む。
相変わらず、うまい。喉を通るときの爽やかな切れ味が、心地よい後味を引きずって、口の中にビール本来の味が残るのである。
「師匠の好きなカマンベールチーズもどうぞ」
気持ち悪いくらい、いい待遇だ。

お土産でもくれそうな展開である。
そんなことを思っていると、本当に「師匠、銀河高原ビール、袋に入れておきましたから、帰りに持って帰ってください」とダルマが言ったのだ。

なんていいやつなんだろう。
タカダ君、成長したねえ。
上戸彩と倉木麻衣を抹殺したことは、忘れることにしよう。

ダルマの仕事場を見回してみて、壁に貼ってあるものが違うだけで、かなり印象が変わったのに驚いた。
部屋全体が、華やかになった。
上戸彩に華がないというわけではないが、訴えかけてくる存在感のボルテージは、浜崎あゆみの方が圧倒的に強いのである。
これが、オーラというものなのかもしれない。

私がそう言うと、ダルマは「師匠ォ、嬉しいことを言ってくれますね。Tさんもきっと喜びますよ」と目尻を下げながら、にやけた顔を作った。

「で、ここでTさんとどんな話をしたんだ?」
ダルマは、とろけそうな顔で、「フガガガ」と笑い、体をよじった。
その姿は、たいへん気持ちが悪い。ビールが不味くなった気がした。チーズの味も変わったような気がした。帰りたくなった。

話を聞くのをやめようかと思ったが、ビールを奢ってもらっていることもあり、我慢して聞いた。
想像通り、ほとんどが浜崎あゆみの話題だったらしいが、ダイエットの話も出て、ダルマのダイエットが順調にいっていることを、Tさんが褒めてくれたらしい。

そこでまた、「フガガガ」と笑うのである。
前は「ヘヘヘ」だったが、気持ち悪い度は、明らかに「フガガガ」の方が上である。
気持ち悪さが、バージョンアップしている。

「それでですね、師匠、お聞きしたいことがあるんですが」
気持ち悪い度9のダルマが、手に持った銀河高原ビールの缶をペコペコとさせながら、私を上目遣いに見た。

私は、ダルマの顔から目をそらして、新しい銀河高原ビールのプルトップを開けた。
その時、私は気づいたのである。
どの角度でビールを飲んでも、浜崎あゆみの顔が目にはいるのだ。
あのでっかい目に、いつも見られているという圧迫感。
これは、あまり居心地のいいものではない。

だから、適当に話を切り上げて帰ろうとした。
しかし、ダルマの勘は鋭いのである。
「師匠、飲み逃げは、許しませんよぉ!」
ダルマは、顔を私の鼻先20センチまで近づけて、私を睨むのだ。

気持ち悪い度が、MAXまで上がった。
怖い。真剣な眼差しが、私の脳髄に食い込んでくる。

しかし、私は師匠としての威厳をかろうじて保ちながら、「何が聞きたいんだ」と聞いた。
ダルマは軽くため息をついたあとで、「俺、これから先Tさんに対して、どうしたらいいんでしょうか?」と、か細い声で言った。

今年の初めには90キロ以上あった体重が、70キロ近くまで落ちて、ダルマは以前のダルマではない。
顔がシャープになったし、動作も軽くなった。
今のダルマは、結構いい感じだと思う。

「Tさんにどうしたらいいというよりも、君が自信を持つことだな。君は自分が作ったホームページには、自信を持っているんだろ?」
「ええ、まあ、そこそこ」
「そこそこ、か。じゃあ、Tさんに対しての自信はどうなんだ?」
「全然ないです」

「そこが一番大事なんだよ。まず自信を持つことから始めようぜ。君は決して魅力のない男じゃない。ただ、臆病なだけなんだ。それがいつも相手に伝わってしまうから、相手の方が嫌になるんだと思う」

ダルマは、浜崎あゆみのポスターを見つめて、またため息をついた。
「自信ですかぁ、ハァー!」

ダルマの目が浜崎あゆみを見つめている。
ハァー、と何度もため息をつきながら。
そして、軽く自分の頭を叩きながら、「どうやったら、自分に自信が持てるんだろう」とつぶやいた。

それは誰にもわからない。
自分のことなのだから、自分の心の中で解決するしかない。
ただ、自然体でいれば、相手にも何かが伝わるはずだ、と私は思っている。
格好をつけてもしょうがない。
女の人は概して、よく見ているものである。

ダルマが自然体でいれば、彼の中にある良質の部分が、必ず表に現れるはずである。
漠然とした言い方だが、それは自分で工夫するしかない。
Tさんの前で、いかに普段の自分が出せるか、それが自信につながるのではないか。

「自然体ですか。俺、ガチガチに構えてましたからねえ。自分でも不自然だと思ってたんですよ」
ダルマは、今日何度目かのため息をつきながら、ひとりごとのように言って、肩を落とした。
ダルマのため息を追いかけるように、浜崎あゆみの歌声が聞こえた。

「もう何度目になるんだろう
一体何がほしくて
一体何が不満で
一体どこに向かうのとかって
聞かれても答えなんて
持ち合わせてないけどね」(Boys&Girlsより)

答えなんかないんだよ、タカダ君。
君が君でいることが、大事なだけなんだ。
君は、君でいるだけでいいんだ。

いかんいかん。
あまりにも気恥ずかしいことを言ってしまったので、寒気がして、大きなくしゃみが出てしまった。
そのついでに屁も出てしまった(昨晩からお腹が張っていたので)。

「師匠ォ、何してるんですか。まったく、緊張感ないんだから!」

すまん、年を取ると体のあちこちが、ゆるくなってね。
でも、これが自然体というものだよ。
俺は、君に身をもって教えたんだ(大嘘だが)。



2007/07/02 AM 07:03:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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