Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








讀賣のせいで
我が家のレーザープリンタは、両面印刷ユニットがついていないので、両面プリントができない。
手差しトレイを使えば、一応両面プリントは可能だが、表と裏が微妙にずれてしまう。
毎回ずれ方が違うから、調整するのが面倒臭い。

1枚2枚の時はいいが、大量の時は、紙の無駄が多く、経済的でない。
そこで、両面プリントをしたいときは、近所の印刷会社のレーザープリンタを借りることにしている。

そこの印刷会社の社長とは長い付き合いで、いつも格安で仕事を請け負っているし、Mac周辺のメンテナンスも一手に引き受けているので、フリーパスである。
会社の鍵を預かっているから、いつ行ってもいい。
いつでも使える、コンビニエンスな会社である。

しかし、私は図々しさとは無縁な性格をしているので、大量にプリントするときは、枚数に応じて必ず使用料を支払う。
誰も見ていないから、誤魔化そうと思えば誤魔化せるのだが、社長との信頼関係を裏切ることは、自分さえも否定することになると思っているので、そういう意地汚い真似はしない。

私生活では、充分に意地汚くて、オヤジ臭い男だが、ビジネスではクリーンでありたいと思っているのである。

家族に夕飯を食わせて、一段落してから、印刷会社へ行った。
印刷会社へは、自転車で5分もかからない。
時刻は、午後10時過ぎ。

昼間使わせてもらっても、誰も文句は言わないが、営業時間内に機械を占領するのは、気が引ける。だから、いつも営業の終わった時間に行くことにしている。
しかし、誰もいないときに入るのは、こそ泥みたいで嫌なので、あらかじめ社長には「今日の夜、使わせてもらいます」という電話だけは入れておく。
そうすれば、気がねなく、侵入できるからである。

明かりをつけて、機械の電源を入れる。夜はさすがに寒いので、エアコンもオンにする。
そして、冷蔵庫に保管してある「極旨(ゴクうま)」を取り出す。
これは、私がいつも、ここの冷蔵庫にストックしているものだ。
350と500ミリリットルの缶を6本ずつ入れておくのだ。なくなれば補充する。
そして、「ご自由にお飲み下さい By M」という紙を貼っておく。

この印刷会社は、めったに残業をしないが、たまに残業をしたときなど、社員の人たちは500ミリの缶を飲んでいるようである。
いつも、500ミリ缶の方が減りが早い。
私は、たいてい350ミリ缶の方を飲む。

家族に夕飯を食わせたが、私は食っていない。
今日の夕飯は、カジキの唐揚げとメバチの竜田揚げ、メバチのお刺身サラダだった。(マグロづくし!)
私も食べたかったのだが、他の三人が勢い込んで食べるのに圧倒されて、ひとくちも食べることができなかった。
ご飯だけを食べるというのも、虚しいので、食べるのを諦めた。

印刷会社の冷蔵庫に、カラシナ菜の花の和え物が入っていたので、それをつまみに「極旨」を3本飲んだ。
私の夕飯はこれだけである。
カラシナは、当たり前だが辛い。鼻の奥に強烈な刺激が来て、涙が出る。
それを「クーッ、きたきた!」と言いながら、ビールで流し込むのが、いいのだ。
それを人気(ひとけ)のない広い空間で、一人寂しくやっているのだから、間違いなく馬鹿である。

今日は、クォークで組んだ30ページのマニュアルを2部プリントする。
これは、慣れているので完璧に表裏の位置を合わせることができる。
モノクロのデータなので、プリントも早い。
10分もかからなかった。

プリントされたものをチェックしているとき、入口のドアがガタン! と大きな音を立てて開いた。
振り返ると、40年配の太った男が、入ってくるところだった。
不機嫌な顔をしている。
眉間に皺が寄って、肩を怒らせている。
その雰囲気だけを見れば、喧嘩を売りそうな危うさがある。

私は、得意の右フックが出るような態勢を取りながら、立ち上がった。
時刻は、午後11時前。
こんな時間に、印刷会社に用のあるヤツは、普通はいない。
入ってくるとき、「ごめんなさい」も「すみません」も言わないやつは、間違いなく怪しいヤツである。
だから、こちらも声をかけなかった。

右のこぶしを握りしめた。
武器になるのは、このこぶししかない。
蹴りを入れたいところだが、サンダルなので、足場が悪い。
蹴りは使えないだろう。

男は、肩を怒らせたまま、ゆっくりと入ってきた。
右手に紙袋を持っている。
ということは、右手で攻撃は仕掛けてこないということだ。
コイツは、左が利き腕なのかもしれない。

私は、男の左手に意識を集中した。
左足を斜め前に出し、心もち腰を落として、男との間合いをはかった。
場合によっては、掌底を出すつもりだった。
体格のいい相手には、掌底の方が効く場合があるからだ。

完璧な構えを取って、息を少しずつ吐き始めたとき、男が口を開いた。
「Mさんですかぁ、ここだと伺ったので来ました。すみません、夜分遅くに」
と言いながら、紙袋を私に差し出した。
声だけ聞くと、声変わり前の中学生という感じの甘い声である。
心の中で、ズッコケた。

紙袋をよく見ると、見覚えのあるものである。
毎月5日締めの仕事をくれる会社の紙袋だ。
ということは……?

「あのー、担当のものが交通事故に遭ってしまって、朝うかがう予定でしたが来られなくなったので、私がピンチヒッターで持ってきました。ホントに遅くなってすいません!」
70度の角度で頭を下げられた。
頭のてっぺんが禿げていた。可哀想である。

そうだった。
担当者が、午前中に原稿を持ってきてくれる約束だったのに、来ないのでおかしいと思っていたのだ。
しかし、私は寝不足だったので昼寝をしてしまい、先方に確認の電話をかけるのを忘れてしまったのである。

それを今持ってきてくれたらしい。
我が家に行ったらいなかったので、家族にここの場所を聞いて、わざわざ届けに来てくれたのである。

「ああ、大変でしたね。『極旨』飲みます? ゴクうまですよ」
と言ったが、「車なので」と、心底残念という顔をして断られた。

その後、細かい打ち合わせを手短にして、彼は帰っていった。

彼が帰った後で、交通事故にあった担当者の具合はどうだったか、聞くのを忘れたことに気付いた。
彼も何も言わなかったから、大事故ではないとは思うが、念のため、新聞を見て確かめることにした。

印刷会社に置いてあるのは、讀賣新聞だけだった。
讀賣新聞がうずたかく積まれている。
思わず、「ケッ!」とつばを吐きそうになったが、人の職場なのでかろうじて我慢した。
私は、ちまたに蔓延する花粉症以上の「讀賣アレルギー」だから、触るのも嫌だったが、確かめないと落ち着かないので、手に取ってみた。
またたくまに、手が痒(かゆ)くなる。

痒さを懸命にこらえて、夕刊を開いた。
一応、ひととおり目を通したが、それらしい事故は乗っていなかった。
朝刊も見てみたが、出ていないようである。

新聞に出ていないからといって、事故がたいしたことがないとは言いきれないが、とりあえずホッとした。
確かめてしまえば、新聞に用はない。
ゴミ箱にポイした。

そして、今日の朝、印刷会社の社長から電話があった。
「Mさん、困るねえ、新聞をゴミ箱に捨てちゃ。うちは、新聞は新聞でまとめておくことにしてるんだよ。今度から気をつけてね」

すみません。
すべては、讀賣が悪いんです。



2007/03/27 AM 07:39:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.