Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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柴咲コウのクリアファイル
桶川の得意先に行って来た。
今年2回目である。

「たいした仕事じゃないんで、申し訳ないんですけどね、これはMさんにしかできない仕事なんで…」
と言いながら、フクシマさんが私の前に資料を置いた。
バイクの写真である。
写真の上に「さいたまのM氏にリアルイラストを依頼」と書いたポストイットが貼ってある。

これは、私がイラストが苦手だということを知っての、嫌がらせか!

怒りを心の奥底に封印して聞いた。
「これを、そっくりそのまま描け、と言うんですね」
「もちろんです」
フクシマさんは、大袈裟に首を大きく縦に振って頷いた。
目が真剣である。
ということは、つまり……、これは冗談だということだ。

「わかりました。ギャラは、200万いただきます」
「はい、いいですよ。でも、分割でお願いします」
「何回のご予定ですか」
「3600回で」
「300年払いですね。うけたまわりました」
と私は頭を下げてから、資料を手に取って、ゆっくりと立ち上がった。
そして、30度の角度でもう一度頭を下げて、フクシマさんに背を向けた。

午前11時。
営業はほとんど出払っていて、事務所内にいるのは、フクシマさんと社長だけである。
事務の女性は、二人ともお使いにでもいっているのだろう。
事務所を出る前に、社長に一礼してから、ドアの前のカウンターを回り込んで、ドアまで来た。

このあたりで、「チョット、チョットチョット!」と声をかけてくれないと、格好がつかない。
今までも2回、こんなお馬鹿な遊びをしたことがあるが、2回とも、このあたりで必ず声がかかっていた。
これが、私とフクシマさんとの間のお約束なのである。

ドアノブに手をかける。
しかし、声はかからない。

まさか!
これは新しいサプライズが用意されているのか!

少し不安になってきた。

ドアを半分以上開けて、一歩踏み出した。
あと一歩踏み出したら、事務所の外である。
ドアを閉めなければならない。
ドアを閉めて、私が出ていってしまったら、シャレにならないではないか。

ためらった。
しかし、一歩踏み出したまま、ずっと止まっているのも間抜けである。
仕方なく、あと一歩踏み出そうとした。

そんなとき、笑いを含んだ大きな声が聞こえた。
「シバサキコウ(?)」

フクシマさんの声ではない。
ということは、社長か。
まさかと思って振り向くと、社長が目を細くして微笑みながら手招きをしていた。
まるで、ベトナム産の招き猫(?)のようなポーズだ。

わけがわからないが、呼ばれたら行かないわけにはいかないだろう。
しかも、空耳かもしれないが「シバサキコウ」と言ったような気がする。
普通、ここは「シバサキコウ」が出てくるシチュエーションではないが……。

私は、東大の合格発表を見に行く受験生のような不安感を胸に秘めて、社長の前に立った。
私より四歳年下の、この社長とは、ほとんど話をしたことがない。
事務所にいないことの方が多いからだが、いたとしても、マルチーズのお世話をしていることの方が多い。
それも、ほとんど溺愛に近い様子で世話をしているから、声をかけづらいのである。

今日はマルチーズはいない。
トリミングでもしてもらっているのかもしれない。

「これ」
社長が目尻を下げて、私にクリアファイルを渡した。
目に飛び込んできたのは、柴咲コウ
柴咲コウが、微笑んでいる。

しかし、私は思うのである。
この状態で、どんなことを言ったらいいのだろう。

「わあ、柴咲コウだぁ!」
「これは、し、し、し、柴咲コウ!」
「なんじゃこりゃぁ!」
「社長、ご冗談を!」

どれを言ってもしっくりこないので、黙っていた。
すると、
「私もね、内緒にしていましたが、柴咲コウのフアンなんですよ」
そう言って、社長が握手を求めてきた。
同類のようである。
ここにもいたのか! 世を忍ぶ柴咲コウフアン。

手を握るしかない。
「以前、EPSONさんの機械を入れたら、そのクリアファイルをくれましてね。こっそり取っておいたんですよ。余分にありますので、Mさんに差し上げますよ」
確かに、左上に「EPSON」のロゴがある。

「しかし、なぜ、私にこれを……」
「うちのフクシマが教えてくれたんですよ。あいつはアサダマオっていう若い子が好きらしいが、女優といえば、柴咲ですよね、Mさん」
ちなみに、社長さん。それはアサダマオではなく、井上真央ですよ。
それからは、応接セットに場所を移して「柴咲コウ談義」である。

12時前に社長に電話がかかってきたのを潮時に、談義はうち切られたが、有意義な会談だった。
6カ国協議も、これくらい友好的にできれば、核の脅威とも無縁である。
北朝鮮に柴咲コウフアンはいないのか!
フクシマさんの方を見ると、あきれ顔でこちらを窺っていたが、社長に文句を言うわけにはいかないだろう。

社長は、「Mさん、また、いらっしゃい。次も語りましょう」と言って出ていった。

社長の姿が見えなくなってから、フクシマさんが「まったく、しょうがないなあ。肝腎なことを言い忘れて!」と言った。
肝腎なこと?

「そのシバザキコウのクリアファイルの中に、Mさんに頼む仕事が入ってるんですよ」

ちょっと待て!
シバザキコウではなく「シ・バ・・キ・コ・ウ」だ!

心の中で軽く舌打ちをしながら、ファイルの中を見ると、確かに仕事の原稿が入っていた。
こんなおふざけをしながら仕事をくれる会社に、悪い会社はない、……(と思う)。
しかも、社長みずからが、である。
馬鹿馬鹿しいが、私の波長には合っている。

しかし、できれば原稿は、他のファイルに入れて欲しかった。
これは、真っさらのまま、取っておきたかった。

社長。
次に来たときには是非、未使用のものを下さい。


2007/03/24 AM 08:04:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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