Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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自転車が落ちてきた
団地内の風というのは、時に殺人的な強さになることがある。

駐輪場を見渡すと、自転車だけでなくオートバイも見事になぎ倒され、雄々しく立っている二輪車はひとつもない。
補助輪を付けた幼児用の自転車など、逆さまになって、前輪と補助輪がクルクルと回っている。

近所のドラッグストアに洗剤を買いに行くため、ぶざまに転がった自分の自転車を起こそうとした。
風が怒り狂っている。
右から来た風は、壁に跳ね返って、左からの風に変わり、右からの風と喧嘩をする。

右から 右から何かが来てる
僕はそれを左に受け流すぅ〜
いきなりやってきたぁ〜
右からやってきたぁ
ふいにやってきた 右からやってきたぁ
僕はそれを左へ受け流すぅ〜 ♪


ムーディー勝山のそんなメロディを、つい思い浮かべてしまうほど、笑える強風である。
上に乗っかった自転車を引きはがして、自分の自転車を起こそうとするが、ドミノ状態なので、端から起こしていかないと、無理なようである。

左端から「左から 左から起こしていきぃ〜」と歌いながら、一台一台起こしていった。
目指す我が愛車にやっとたどり着いたときは、手がかじかんで、指が痛くなった。
そして、手を何度もニギニギして、ついでに首をポキッと鳴らしていたときのことだ。

身体が浮き上がるほどの強風が吹いて、自転車が落ちてきたのである。

団地の駐輪場は2段式になっている。
狭いスペースに、たくさんの自転車を収納する場合は、2段式にするしかない。
これは賢い。理にかなっている。

しかし、2段目に自転車を格納するのは、力仕事になって面倒臭いので、2段目を使う人はあまりいない。
2段目には、どうでもいい自転車が格納されていることが多い。
置きざりにされた自転車ばかりである。
いきなり現役引退を申し渡されたスポーツ選手のように、錆びたくないのに無理矢理錆びつかされた姿が「哀れさ」を誘う。
まるで自分を見ているようである。

しかし、自転車が落ちてくるなど、誰が想像できるだろうか。
ひとの長い一生の中で、自転車が落ちてくる場面に遭遇するなど、普通はありえない。
おそらく、隕石が落ちてくる可能性と同等ではないだろうか。

真っ当な人生を歩んでいたら、決して自転車など落ちてこない。
やはりヤクザなMac稼業に憂き身をやつしているツケがこんなところに回ってきたか。
あるいは、これはWindowsの呪いか(?)

ガタンッ!!
と大きな音を立てて滑り落ちてきた自転車は、せっかく私がきれいに立ち直らせた自転車を再びドミノ倒しにした。
しかし、それだけならまだいい。
私の右膝に、落ちてきた自転車の荷台が当たったのである。

ひとの長い一生の中で、自転車の荷台が膝に当たることなど、あり得るだろうか。
普通はない。
絶対にない。
誰かが藁人形を使って、夜ごと呪いをかけない限り、そんなことはあり得ない。

呪いをかけそうな男に心当たりはあるが、今はそれどころではない。

当たったときは、一瞬何が起こったか、わからなかった。
だから、痛みは感じなかった。だが、事態を把握すると、その痛みは強烈である。
まず、声が出ない。
地面にペタンと座り込んで、足を投げ出し、悶える。

心の中で「クッソー」と叫ぶが、呼吸をするのもつらいほどの痛みだ。
膝にひびが入ったかもしれない。
すべての意識が膝に集中して、膝が10倍に膨れあがったような感じがする。

悶え苦しむ中で、私の目の端に、落ちてきた自転車が見えた。
荷台だけがなぜか大きい。
普通の荷台の3倍はありそうな感じで、荷台だけが自己主張をしている自転車だった。

よりによって、なぜそんな自転車が落ちてくるのだ。
また、呪いをかけそうな男の顔が思い浮かんだが、強烈な痛みが襲ってきたので、すぐに打ち消された。

割れてる。絶対に割れてる、ひざが…。
しばらく松葉杖が必要になるな。
25年ぶりの松葉杖。
カッコ悪いなぁ〜、などと思いながら、痛みと闘っていた。

そんなとき、女の子の話し声が聞こえた。
小学生のようだ。それも、おそらく高学年の。
声の種類は二つ。二人で話しながら、こちらに来るようである。
もし、娘の友だちだったら、どうしよう。
こんな姿を見られたら、学校で噂になるに違いない。
噂は今日の強風以上のスピードで広まるだろう。

「Mさんのお父さん、団地の駐輪場で泣いてたわよ」

私は、スクッと立ち上がった。
ジーパンのケツの部分をパシパシとはらい、手をパンパンと打って、自分の自転車を起こしにかかった。

右膝は、痛みで膨張した感じだったが、立ってみると、痛みが少し和らいだ。
そのとき、私の後ろをちょうど女の子が通り過ぎようとしたので振り向くと、一人は娘が三年生の時、同級だった子である。
「やあ」と言ったが、昔から無愛想な子で、一度も挨拶を返してくれたことがない。

「なに? この変なオヤジ」という顔で見られただけである。
変なオヤジであることは間違いないから、腹は立たない。
それよりも、膝が動くかどうかの方が心配である。

とりあえず、自転車に左足をかけて漕いでみた。
次に右足をあげて、サドルにまたがる。
曲げたとき、膝に金属バットで殴られたような痛みが走ったが、漕いでいるうちに直るだろうと楽天的に考えて、歯を食いしばって痛みに耐えた。

ドラッグストアまでは300メートル。
いまいましいほどの逆風にさらされながら、漕ぎに漕いだ。
自転車から降りるときに、右膝に全体重がかかったせいで、激痛で体が震えたが、歩き出したら、何とか歩けた。
膝は割れていないようである。割れていたら、歩くことはできないだろう。

足を引きずらないように意識しながら歩いて、洗剤を手に取り、ついでに湿布薬を手に取った。
レジに並ぶと、レジでは息子の中学の時の同級生がレジ打ちのアルバイトをしていた。
彼は、夏休みもここで働いていた。

「ああ、マッちゃんのお父さん。こんにちは」
いつも、必ず挨拶をしてくれる。
娘の元同級生の無愛想さと比べると、ついチップをはずみたくなるくらい、いい子である。

「期末試験は終わったのかい?」
「はい、マッちゃんはどうですか」
「水曜日に終わったよ。数学を教えてやったけど、玉砕だったみたいだね」
玉砕?

意味がわからなかったようである。
玉砕って、もしかして死語

「マッちゃんは、いいなあ。俺の父さんなんて、勉強教えてって言っても、逃げるだけだから」
「ほら、うちは狭いから、逃げ場がないだろ、ハハハ……」
「?」

不穏な気配を感じて後ろを振り向くと、後ろに4人並んでいた。
無駄話は、営業妨害になる。
「じゃあ、頑張って」と言って、レジを離れた。

ドラッグストアを出て、自転車置き場に行って驚いた。わずかな時間に自転車がすべてなぎ倒されていたからである。
見ると、一番端に置いた私の自転車が起点となって、ドミノ倒しになっていた。
端だったので、自転車を起こすのは、比較的簡単だった。
自分の自転車だけを起こして、サッサと帰った。
(言い訳になるが、膝が痛いので、人のものまでは起こせなかったのだ)

いま、右の膝は普段より1センチ以上膨張している。
熱も持っている。
口内炎が治ったと思ったら、今度は膝を強打。
家族にバレないように、コソコソと湿布薬を変える姿は、我ながら滑稽である。

「自転車が落ちてきて、膝を怪我したんだよ。ひどいだろ」
そんなことを言っても、我が家の人間は誰も信じないだろう。
言うだけ無駄である。みじめになる。

普段、いい加減なことばっかり言っていると、信用は限りなくゼロに近くなる。
自業自得というものである。



2007/03/12 PM 01:13:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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