Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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セブンイレブン裏の公園にて
小さなトラブルが多い。

大きな人間は、大きなトラブルに遭遇するが、小さな人間のトラブルは小さい。
私に隙があるのか、それとも、基本的に小さなトラブルを私が欲しているのか。
いずれにしても、そんな自分をたまに鬱陶しく感じることがある。

今日もそうだった。
週末恒例のジョギングをしていた。
団地の外側を大きく1周すると、約7キロ。
普段はそれを34分前後で走るが、今日は風もなく、空気もそれほど乾燥していなかったので、調子よく走れた。
1周を29分で走った。

このペースなら、10キロくらいでやめるのが丁度いいタイムである。
先週初めてわかったのだが、コース沿いのセブンイレブンあたりまで走ると、大体10キロなのである。
私は、吸い寄せられるように、セブンイレブンの店内に入った。

そして、肉まんと「極旨(ゴクうま)」を買った。
先週は風が強かったので、風よけに駐車場の片隅で食ったが、今日は風はない。
そこで、セブンイレブン裏の公園のベンチに座って、肉まんとビールを堪能することにした。

公園は、遊具は少ないが、広い。
ベンチも効率的に配置してある。休むにはいい空間であるが、子どもたちにとってはどうなのだろうか。
土曜日なのに、子どもの姿は数えるほどである。
この公園は、むしろ大人のために作ったのではないかと思えるほど、落ち着きすぎた空間に感じる。

ベンチに座ると、汗が噴き出してきた。
ジョギングの時は、いちいちタオルを持つことはしないので、汗は流れるままである。
それが心地よい。

プルトップを開け、発泡酒を一気に3分の2ほど飲む。
身体が欲していた水分が、頭からつま先まで、一気に染み渡る感じがする。
この一瞬があるからこそ、ジョギングは楽しい。
大学の陸上部時代、30メートルダッシュを50本繰り返した後の水道水も美味く感じたが、今考えると、発泡酒の比ではない。
身体のためには、水の方がいいのだろうが、発泡酒の誘惑には勝てない。この幸福感を放棄したくはない。

次に肉まんを食い始めた。
その時。
私の目の端に、10歳くらいの男の子が、黒い猫を蹴飛ばそうとしているのが目に入った。
私は咄嗟に、「何してるんだ! 馬鹿野郎」と怒鳴った。

本当に蹴飛ばしたわけではない。
彼にも、そんな気はなかったかもしれない。
しかし、それさえも私には許せなかった。
だから、怒鳴った。

その声を聞いて、近くにいた母親が「何ですか!」と詰め寄ってきた。
背がミニチュアである。おそらく150センチもないかもしれない。
年は30代半ばというところか。容姿は、若い頃は、かなり男を泣かせたのではないかと推測できるほど、可憐な部分を残している。

しかし、今は眉と目が吊り上がっている。
可憐だが、ヤンキーっぽい部分も少々感じさせられる危うさもある。
子どもが母親の背に隠れた。
隠れながらファイティングポーズをとっている。

ろくな餓鬼じゃねえ!

その姿を見て、小さな怒りが全身に回った。
大人気ない、というのはわかっている。
しかし、こういう餓鬼は好きではない!
その意識だけは、抑えようがない。

「猫を蹴飛ばそうとした。だから、怒鳴ったんですよ。子どもが悪いことをしたら、叱る。当たり前でしょう」
私が言うと、母親はさらに目をつり上げて、「ノラ猫なんだから、いいでしょう」と言う。

その言葉に、私はまた腹を立てるのである。
ノラ猫だから、蹴飛ばしていいのか、と。

「それは、俺の猫だ!」
見え見えの嘘だが、つい言ってしまった。

そうすると、彼女は、「嘘ばっかり!」と、顔を歪めていかにも憎々しげに吐き捨てた。

確かに私は嘘つきである。
しかし、嘘ばかりついているわけではない。

いじめっ子の母親のお前に言われる筋合いはない!
と思ったが、ここで急に私は冷静になったのである。
なぜそうなったかは、自分でもわからない。

肉まんを頬張った。
もう、どうでもいい気持ちになっている。
発泡酒の残りを一気に飲み干した。

もうどうでもいい。早くこの場を立ち去りたい、そう思いながら、肉まんにかぶりついた。
しかし、母親の背後から、「どうした」という声がした。
見ると、これまた、背の低い男が近寄ってきた。
おそらく、子どもの父親だろう。
背は低いが、肩幅は広く、胸も厚い。
角刈りの30代半ばの男である。

吊り上がった目の母親が、小さな声で男に事情を説明している。
聞き終わった男は、私を見下ろす形で、私の前に立ち、私を睨みつけた。
ただ、殺気は感じられない。
睨んでいるだけである。
怖い顔だが、私くらいの年になると、相手が本気かどうかは雰囲気で判断できる。

彼はただ睨んでいるだけである。
そうしなければ、妻や子どもに体面が保てないからだろう。
その心情は、私にもよくわかる。

しかし、睨まれた以上、こちらも睨み返さずにはいられない。
睨み返した。
向こうも睨み返す。
双方、無言である。

こういう状況は、私の得意分野だ。
怒鳴るよりも、睨み合っている方が楽なのだ。

彼がどんなに怖い顔をしたとしても、私の友人には、もっと怖い顔の男がいるし、内面から凄みのオーラを出す友人もいる。
この程度の顔に、臆することはないのである。

私は、いくらでも、黙って睨み合っていられる。
これは、私の数少ない特技のひとつである。
それに、得意の右フックが届く距離でもある。
安心して、睨んでいられる。

ただ、私は本当に怖いお兄さん相手の時は、そんな態度はとらない。
なぜなら、目を合わすことさえもできないからである。
目さえ合わなければ、彼らも理不尽なことはしない。
臆病な羊を狩るほど、彼らも暇ではないことを知っているからだ。

睨んでいる最中に、子どもが、母親の背から父親の背に移動するのが見えたが、顔までは確認できなかった。
舌を出している気配があったが、定かではない。

父親は、依然言葉を発しない。
私も、何も言わない。
これもまた、私の一番楽な展開である。

汗は引いた。発泡酒を飲んで、肉まんも食った。
ジョギングの疲れも、それなりに取れた。
一番充実しているときだから、何時間でも睨み合っていられる。

ただ……、上を向いて睨み合っていると、首だけが疲れる。
首が強張ってきたので、首を左右に動かした。目線はそのままである。
その時、私の首の骨がゴキッ、ゴキゴキッと大きな音で鳴った。

目の前の父親は、まるでその音で目覚めたかのように、ビクッと反応して、まばたきを繰り返した。
父親が、後ろを振り返る。
子どもが彼の腰に手を回している。
その手を掴みながら、「ユウキ、おうちに帰ろうか。宿題しなくちゃ……、ね」と震える声で言った。
私を睨みつけたことで、彼の体面は保たれたはずである。

それを合図に、三人とも私の目を見ることなく、足早に遠ざかっていった。

まったく、つまらない時間だった、と思う。
ノラ猫を蹴飛ばすことは許されないことだが、子どもを怒鳴ることはない。
穏やかに諭(さと)せばいいことではないか。
そんな簡単なことさえできない自分は、結局は、小さなトラブルを欲しているとしか思えない。

本当に愚かである。

しかし、最後に残った肉まんの小さなかけらを口に放り込みながら、私は思った。

餓鬼の名前は「ユウキ」
もし「勇気」だとしたら、出来の悪い冗談である。
猫にとっては、「幽鬼」と書いたら、ピッタリくるかもしれない。
あるいは、「憂忌」か……。




2007/03/03 PM 06:42:59 | Comment(2) | TrackBack(0) | [日記]



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