Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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惨めな電話
ときどき自分の性格がわからなくなることがある。

基本的に大雑把だが、それなりに気配りもできる性格である、というのが自己分析だが、当然のことながら人の性格というのは、それほど単純ではない。

昨年の12月に、4年半ぶりに友人(旧友人?)から電話がかかってきた。
その電話の内容が、今頃気になっているのである。
これは、今までの私には、なかったことだ。

ササキという名の一歳年下の友人は、大手のPC販売会社の営業をしていたが、その後独立した。
彼の会社は、PC販売とメンテナンス、イベント企画、パソコン教室などを手広く扱って、一年目から黒字を出すという幸運なスタートを切った。

私が彼と知り合ったのは、彼が独立する二年前に、彼が個人的にもらってきた印刷の仕事を手伝ったのがきっかけだった。
彼は誠実な男で、相手に提示した見積書を私に見せて、「悪いけど、Mさんには、これしか出せないけど、次に必ず埋め合わせをしますから」と言って、次回には必ず約束を守ってくれたのである。

彼と仕事をしたのは、四回。
彼は毎回クライアントの我が儘を、手際よく抑えてくれたものである。

クライアントの我が儘というのは、際限がない。
たとえクライアントに勘違いがあったとしても、ミスを全てこちらになすりつけて、相手は平気な顔でいるのだ。
クライアントが勘違いを認めて謝る確率は、わずか数パーセントに過ぎない。
私は、自分が悪くない時は決して謝らない主義だから、そこでクライアントとの軋轢(あつれき)が生じる。
しかし、彼はそんな頑固な私とクライアントのご機嫌を取りながら、巧く舵取りをしてくれたのである。
そして、私のスケジュールが狂わないように、調整もしてくれたのだ。

これは、出来そうで出来ないことである。
営業のほとんどは、トラブルがあっても知らんぷりである。自分の仕事なのに、他人事の対応しか取れない人が多い。そして、クライアントの言うことしか聞かない。
だから、私はいつも、彼のその能力に感心し、全幅の信頼を置いていた。
彼は、私が知る中で、おそらく最高の営業マンだった。

そんなササキが、「俺、独立するんですよ」と言って、私に出資金を出さないか、と持ちかけてきた。
貧乏な私としては大いに迷ったが、「出資金」ではなくて、貸すということであればいいよ、と一大決心をしてその旨を伝えた。

「Mさんに役員になっていただければ、安心なんですが…」と言われたが、50万円で大きな顔をしたくないので、それは断った。
いま思えば、この金があれば新しいMacが買えたし、バイクも新しくできたのだが、ササキの志と意気込みに心を動かされて、資金を調達した。

「いつか儲かったら、返してくれよ」と、いかにも余裕のあるごとく振る舞ったが、内心は「あ〜、もったいねぇなあ」と後悔していた。
私は、ホントに小さな人間である。

ササキは、毎年律儀に「決算報告書」を送ってくれたから、彼の会社の業績は書類上で把握していた。
彼の会社は、特別儲かってはいないが、損もしていないという、丁度いい塩梅(あんばい)の会社経営で、今年5年目を迎えたのである。

そんなとき、ササキから電話があった。
4年半ぶりの電話である。

「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」
というのが、第一声だった。
ササキという名を聞いたとき、彼の顔を思い出すまでに数秒かかった。
このあたりのタイムラグは、年月の経過を考えると、これくらいは許容できる範囲であろう。
決して、私がボケたわけではない(と思う)。

「Mさんのご活躍の様子、陰ながらうかがっております」
という明瞭な発音で、ササキが言う。
すっかり経営者の口調が染みついた、口先だけの挨拶を聞き流して、「事業は順調ですか」と聞いてみた。

「それがですねェ〜」
と、妙に沈んだトーンの芝居がかった言い方は、かつてのササキにはないものだった。
「忙しいだけで、なんの実りもありません。この間も腎臓結石で入院したんですよ」

「それはそれは、大変なことで…」
何となく胡散臭いものを感じながら、私は適当に相づちを打った。
この会話は早く終わらした方がいいと、私の本能が告げていた。
そうしないと、私の中のササキのイメージが崩れていく。

そして、彼は世間話を続けながら、合間に「儲かっていないんですよ、悲しいですね〜」と強調した。
決算報告書を見れば、彼の会社の現状は把握できる。
私は、馬鹿ではないのだ。

ことさらに、それを強調しなくても、それは理解できる。
会社経営が「バラ色」なのは、一握りの人たちだけだ。
その一握りの人たちに、私とササキが入っていないのは、自明の理である。

だから、私は黙っていた。
言い訳は、とりあえず全部聞かなければ、彼の意図するところがわからないからだ。

しかし、ササキは「決算報告書」に書いてあることをなぞるだけで、彼の話はそれ以上発展しそうになかった。
要するに、貸した50万円は返せそうにない、と彼は強調したいらしいのだ。
しかし、昔も今も、私はそのことに全く執着していない。

50万円は、私にとって大変な大金だが、無理に返して欲しいとは思わない。
彼には、養わなければいけない社員や家族がいるのだから、私はそんな無理は言わない。
私は、そういう人間なのである。

この4年半、彼に「50万円を返して欲しい」と思ったことは一度もない。
無理なことは要求しない。
そんな私の性格を、彼も理解してくれていると思っていた。

しかし、言い訳がましい彼の話を聞いていると、そうではないことを現実に突きつけられた思いがした。
ここで私は、大きくヘコんだのである。

俺って、そんなに「せせこましい人間」に見られていたのか?

私は今まで一度だって、ササキに催促がましいことを言ったことがなかった。
4年半、私からは彼に何も言わなかったのに、何で今さらそんなことを言ってくるのか。

その現実が、私を打ちのめすのである。

「いいよ、いいよ! 気にするなよ! あれは君にあげたと思っているからさ」
そう言った言葉が、私を縛って、さらに私は落ち込むのである。

あまりの馬鹿馬鹿しさに、私は一方的に電話を切っていた。

忘れていたことを、思い出させやがって!

そんな私の苛立ちは、ササキの思うツボだったのかもしれない。
ササキから電話があって一ヶ月半が経つが、いまだに彼の言葉にこだわっている自分が情けなくなる。

これなら、一生電話をかけないでくれた方が良かったのに……。

そんなことを思うと、自分の愚かさが倍加されて、自分がひどく惨めになってくるのだった。



2007/01/30 AM 09:49:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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