Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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パンダのお父さん
一匹のノラ猫と仲がいい。

顔の模様がパンダに似ているので、私はその猫のことを、密かに「パンダ」と呼んでいる。
パンダは、オスだ。
小さい頃から人なつっこいヤツで、私の顔を見ると「ニャアニャア」といつも鳴いていた。
そして、すぐ腹を見せるのである。

猫の世界で腹を見せるのは、「あんたに服従します」という意味がある。
こんな風に懐かれてはいるが、私は彼にエサはやらない。
近所に猫好きの人が何人かいて、エサをあげているから、特別私があげなくても、彼らが食料に困ることはないからだ。

だから、私とパンダの関係は、エサを抜きにした関係である。

団地のノラ猫たちは、結構いい毛並みをしているし、やせ衰えた猫も見たことがない。
そして、みんないい面構えをしている。
パンダも子どもの頃はあどけない顔をしていたが、4年もたつと、不敵な面構えになってきた。

しかし、そんな強面(こわもて)になっても、私の顔を見ると「ニャアニャア」と鳴いて、すぐ腹を見せるのである。
私が、彼の耳を裏返したり、尻尾を掴んだりしても、怒らない。
「パンダ」と呼ぶと、必ず「ニャア」と応える。

ときに3ヶ月以上見かけないことがあって、「交通事故にでも遭ったか」と心配することがあるのだが、いつも何ごともなかったように姿を現して「ニャア」と鳴く。

そんなときは、妙にホッとするのである。

猫のテリトリーは狭いと言われているが、パンダの場合、半径2キロくらいをウロチョロしているようである。結構広いテリトリーだ。
その半径2キロ以内に、彼のエサ場が何カ所かあるようだ。
思いがけないところで、エサを食っている姿を見かけて、「パンダ」と呼ぶが、そんなときでも彼は、律儀に「ニャア」と鳴いてくれるのである。

昨日の昼間、遊歩道をジョギングしていると、長い尻尾をピンと立てて歩く黒い後ろ姿を発見した。
普通の猫は、ジョギング中に遭遇すると、足音に驚いて、大抵は「なんだ! なんだ!」というような顔をして、ササッと逃げる。

しかし、パンダは悠々とした歩きを変えずに、足音の方を振り向くだけである。
そして、「なんだ、騒々しいな」というような顔をして、見上げるのだ。

「おい、パンダ」
「ニャアー!」

「ニャア」と鳴いた途端、もうすでに私に腹を見せている。
そんな、カワイイやつだ。

遊歩道には、木のベンチがある。
私がジョギングをやめて、木のベンチに腰掛けると、パンダもベンチに上がってきた。
そして、また腹を見せながら、体をクネクネさせるのである。

その腹を、ツンツンと軽くつついてやると、私の指に両手をからめて、また「ニャア」と鳴く。
ノラ猫のくせに、大変な甘えん坊である。
「今日の飯はどこで食った」と聞くと、「ニャウワウ」と応える。
何となく、人の言葉がわかっている風情(ふぜい)である。

そして、驚くべきことに、このパンダ、私のヒザの上に乗ってきたのである。
いくら親しくしているとはいえ、用心深いノラ猫が、ヒザの上に乗ってくるとは思わなかったから、ビックリした。

パンダは、そんな私の驚きなど意に介さずに、私のヒザの上で、丸くなった。
首筋を撫でてやると、恍惚の表情でノドを鳴らしている。
「ググググググ」

まるで、コタツの中でご主人様に可愛がられている飼い猫のようである。
そんな風に思っていると、「わぁー、カワイイ!」という声が聞こえた。
声の方を見ると、女子中学生が二人、立ち止まって、丸まったパンダを見ていた。

「ええっ、俺ってそんなにカワイイ!」
と私がボケたら、我が娘なら「お前じゃネエよ!」とツッコんでくれるところだが、そんな漫才を他人に期待するのは無理というものだろう。
だから、黙っていた。

すると、二人のうち、いかにも「ワタシ、動物が好きで好きでたまりません」という感じの女子が、「触ってもいいですか」と聞いてきたので、「汚いから手が汚れるかもね」と言ったが、彼女は全くかまわずに触ってきた。
パンダは触られるままにしていたが、何となく「面倒臭ェなぁ」というような顔をしている。

撫でながら、彼女が「名前は何というんですか」と聞いてきた。
私の飼い猫だと勘違いしているようである。
しかし、そんなことはたいした問題ではないので、「パンダ」と応えた。

「パンダ! パンダ!」
女の子は、何度かそう呼んだが、パンダは知らんぷりである。
「気安く呼ぶなよ」という感じで、眉間に皺を寄せて(?)、丸まっている。
尻尾も振らない。

私が「パンダ、お前、可愛い女の子が呼んでるんだぜ、もっと愛想よくしろよ」と言うと、「ニャアニャニャ」と鳴きながら、私の顔を抗議するように見る。
「勘弁してよ、いちいち愛想よくしてらんネェよ」という感じ、か。

「ああ、やっぱり飼い主にしか、返事をしないんですね。頭いいーっ!
女の子は、感心してパンダの背中をまた撫でる。
その姿を、もう一人の女の子が携帯のカメラで撮ろうとしたら、パンダはいきなり体を起こして、遊歩道を全力で走っていった。
プライバシーを撮られるのは、嫌いのようである。

「あー、もうちょっとだったのにぃ!」
女の子が悔しがる声が聞こえたのか、パンダは20メートルほど行ったところで止まって、こちらを振り向いた。

私が彼に手を振ると、私をジーッと見てから、「ニャア」と一回鳴いて、車道を超えて向こう側にわたっていった。

「またな」という意味かもしれない。

「パンダは、自分の家、覚えてるんですか?」
女の子は私の隣に座ったまま、私を見上げて聞いてきた。
「そうだね、頭がいいからね」と私が答えると、彼女は大きく頷いて「ああ、やっぱり」と言った。

そして、「でも」と言って、少し言いにくそうに、もう一度私を見上げた。
「体、かなり汚かったですから、お風呂に入れてあげた方がいいですよ。そうすれば、もっと可愛くなると思う」
そう言いながら、私の顔を見上げて、同意を求めるように何度も頷いていた。

「うん、ありがとう、今度そうするよ」
そう言うしかない。
私が「じゃあ」と言って立ち上がると、女の子は「さよなら、パンダのお父さん」と言って、手を振ってくれた。

パンダのお父さん、か。
きっと彼女は、私を見かけるたびに「パンダのお父さん」と言って、声をかけてくるのだろうな。
まあ、それはそれで、面白いかもしれない。

じゃあ、パンダのお父さんは、もうひとっ走りしてくるか。



2007/01/22 AM 09:48:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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