Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ニシダ君、ごめんなさい
あまり書きたくなかったが、心に溜めておくと身体に悪いので書くことにした。
多少、クライアントに対して批判的なニュアンスが含まれるので、仕事を受ける側としては、こんなことを書くのは少々後ろめたい気がする。

昨年、得意先からある会社を紹介された。
そこは、関東に6件の飲食店を持っている会社である。
業績がいいかどうかはわからない。得意先の担当者に言わせれば、「料理の味はそこそこだよ」ということだ。

そこそこ、というのは「まずくない」という意味だろうから、まあ「そこそこ」なんだろうな、つまりは美味くないんだな、と意味のないことを考えた。

昨年の9月にその会社に出かけて、社長に挨拶をした。
彼は、年は30代後半から40代前半くらいだろうか。
一見して、「危険な世界を渡り歩いてきました」という雰囲気を感じさせる人だった。
つまり、堅気(かたぎ)には見えない風貌をしていた。
目つきが鋭い。まばたきをしない。その目で人を値踏みするように睨む。両足を180度開いてソファに腰掛けている。葉巻を吸っている。薄いオレンジ色のレンズのサングラスをかけている。左手にシルバーのブレスレットを付けてジャラジャラさせている。シャツの前をはだけている。そこから濃い胸毛とシルバーのネックレスが覗いている。

挨拶もそこそこに、「先生さあ、とりあえず見積もり出してよ。それで決めさせてもらうからさぁ。他にも3社、見積もりを出させてるんだ。人の紹介なんて当てにならないから、俺は見積もりだけで判断するよ。ビジネスだからね」と大声で宣言した。
最初から、「先生」呼ばわりである。背筋が寒い。

しかし、彼の言うことは、大声で言うほどのことではない。
私もビジネスとはそういうものだと思っている。
最初は、見積り金額が判断材料になる。
我々が電化製品を買うときも、同じ製品なら安い方がいいに決まっている。
それと同じだ。それが経済原則だからである。

仕事の内容は、新規にインターネット喫茶を開店するので、チラシと割引券、パンフレット、メニューをデザインしてほしいというものだった。
開店日は11月の初めを予定している、と言われた。

私は先方の言う期日までに、細かい見積書を出した。9月中旬のことだった。
だが、それからまったく音沙汰がない。
一度だけ、社長の携帯に電話をかけたが、「あとでかけ直す」と言われたまま、その後完全に無視された。

きっと他に頼んだのだろう、と思って、こちらもそのことは忘れていた。
ところが、12月の下旬に、社長から突然電話がかかってきたのである。
ただその時は、あのインターネット喫茶の件は11月に終わっているから、違う件で電話をしてきたのだと思った。

社長に大声で「ああ、先生、ネットの件だがね」と言われたとき、「ネット? 何だネットって、熱湯じゃないよな、いやナットーかな」と心の中でボケた。

「先生、ネットのやつ、パンフレットとメニューは他に頼んだから、チラシと割引券だけ、やってくんない?」

「ヤダ、やってくんない!」と言ってしまったら、メシの食い上げだから、「細かいことをお聞きしたいんですが」と言って、打ち合わせの日時を聞いてみた。

「俺、年末は忙しいから、打ち合わせできなくてね。資料を宅急便で送ったから、そこに書いてあるとおりにやってくれる? ああ、できれば、チラシは2種類考えてみてくれるかな。その中から選ばせてよ。1種類だとイメージ湧かないからさ」
と言って、電話を切ろうとしたが、慌てて付け加えた。
「時間ないんだよ、先生。1月26日がオープンだから、三日前までに印刷上がってないとね。わかるだろ、段取りよく頼んだよ

どうやら、オープンが予定より延びたようである。
しかし、こちらが仕事を受けるかどうかもわからないのに、資料を宅急便で送ってくるというのだから、羨ましい性格である。
私が断ったらどうするつもりだったのだろう。ヤキを入れるつもりだったか……。

こちらも、社長同様、年末年始は忙しいので、2種類のうち一つは、友人の一流デザイナー・ニシダ君に頼むことにした。

「センセイ、了解です。やっとお役に立てるときが来ましたね」
ニシダ君は快く引き受けてくれたが、同じ「先生」でもニシダ君が言うと、格段に品がよく聞こえるのはなぜだろう?

ニシダ君は、約束通り今月の12日に「さすが一流!」という出来栄えのものを創ってくれた。
私の作ったものと比べると、明らかにランクが二つは違う。
パッと見て、一目で捉える表現力、カラーリング、テキストの配置、テキストの読ませ方、そのすべてが光っている。

私の場合、6つの書体を使っているが、ニシダ君は3書体だけだ。
私の半分の書体しか使っていないのに、文字が目立つのである。
余白も上手に活かして、余白自体がデザインを形づくっている。
全体のトーンはおとなしめだが、全体が無理なく目に入ってくる。だから、読みやすい。

完敗、と言ってもいい。
これは、2種類出さなくてもいいのではないか、ニシダ君のだけで充分ではないか、と思った。
そんなことを考えながら、15日の夕方、先方に出向いて、プリントしたものを見せた。

しかし、ここで私は大きなミスをしてしまったのだ。
「これは、大手の会社のパンフレットなどを数多く手がけている、一流のデザイナーがやったものです」と言って、プリントを社長の前に置いた。
そのプリントを見て、出した私がビックリした。
それは、私がデザインしたものだったからだ。

ここで素早く訂正すればよかったのだが、社長が「ああ、ホントだ。これは素晴らしい。一流の輝きを感じるよ」と言ったため、訂正がきかなくなってしまったのである。

「先生、これでいいよ! いいのを作ってくれたね。割引券もいいジャン!」
そう言われると、ニシダ君のデザインしたものを出しづらくなる。

しかし、せっかく作ってくれたものを出さないわけにはいかない。
「あのぉー、もう一つデザインしたのがあるのですが……」
自分でも情けない声を出しているのがわかる。みっともないうろたえぶりである。

私がニシダ君の作品を封筒から出そうとしたところ、社長は顔の前で大きく手を振って、「いいよ、これでいい! だって、一流の人が創ったんだろ、これで充分だから」と言って、満面の笑みである。
この笑顔は怖い。だから、結局出せなかった。

その後、数カ所の直しをしただけで、その仕事は今日の朝校了となった。
しかし、私はちっとも嬉しくない。
いま、私の心の中には寒い風が吹いている。
流氷ツアー地吹雪ツアーに行ったとしても、これほどの寒風は吹かないであろう。
ハァー、とため息をつくと、その息さえも寒く感じる。

社長、そしてニシダ君。
このボケ・デザイナーをおゆるし下さい。



2007/01/18 AM 09:48:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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