Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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つき合ってねェよ!
友だちの数は少ない。
十人に満たないだろう。

友だちが少ないのは、私の心が狭いからである。
その自覚は、いつも持っている。

昨日の夜かかってきた電話で、さらにその思いを強くした。
昨年の10月に、大学時代の友人タカハシと10数年ぶりに遭遇したが、急いでいたので、その場はすぐに別れた。
そして一ヶ月後の夜遅い時間に、タカハシに「大宮に出てこないか」と言われたとき、運悪く子どもたちの晩飯を作っていたので、しつこく誘われたことに腹を立て、邪険な態度を取ってしまったのである。

あとで謝って、それはそれで収まった。
一件落着して、完全にそのことは忘れていた。

忘れてもいいことは忘れる。
そうしないと、脳のハードディスクが一杯になるので、肝腎なことが記憶できなくなる。
私の脳は、回転数も容量も一昔前のハードディスク並みなので、古いデータからサッサと捨てていかないと能率が著しく落ちてくる。

情けない脳ミソである。

そして、昨日の夜の電話。
「あのさあ、俺、オオバだけど、憶えてるか?」

もちろん、憶えている。
大学時代の同級生だ。忘れるわけがない。
大学時代の思い出は、他のハードディスクに保存してある。

当時私は陸上部の人間との付き合いを優先していたが、クラスではオオバを含め、いつも5、6人で行動していた。
オオバは、その中のリーダー格だった。

オオバは、三浪して入ったから、当然年は私より3歳上である。
ただ、同級生だから、敬語は使わない。みな「オオバ」と呼んでいた。彼もそれでいいと言っていた。
気の小さいタカハシも、遠慮がちに「オオバ」と呼んでいた。

オオバとは、大学卒業以来、2回しか会っていない。
オオバの1回目の結婚式と、2回目の結婚式だけである。
私は二次会には行かなかったから、オオバとの会話は、披露宴で交わしたほんの短いものだけだった。
だから、オオバと親しく話をするのは、大学時代以来になる。20年ぶり以上のことだ。

オオバは、タカハシから私の家の電話番号を聞いて、懐かしくなってかけた、と言った。
「デザインやってるんだって?」という話から始まって、お互いの近況報告をした。
オオバは2度目の奥さんの実家で働いているらしい。
「近いうちに養子になって、嫁さんちの家業を継ぐつもりだ」と言う。

大学時代のオオバは、モテた。
彼は外見は背も低いし、イケメンでもないが、女性に対しは優しくてマメだった。
いつもモデルのように綺麗な女の子を連れているので、皆で羨ましがったものである。
1度目の結婚相手も、実際にモデルをしている人だった。

彼の家は裕福ではなかったが、なぜかいつも札入れの中は「万札」が賑(にぎ)わっていた。
そして、我々に頻繁に奢(おご)ってくれたものである。
そのカラクリはいまだにわからないが、当時の我々には、「奢ってくれる人」イコール「いい人」であるから、余計な詮索はしなかった。

「ハセガワの妹、クニコって言ったっけ? ハセガワが会社を引き継いで社長をやってるんだが、実権はそのクニコが握っていて、会社、すごくでっかくなったらしいぞ」
オオバが興奮した口調で、いきなり言い出した。

ハセガワは、大学時代のグループの一人である。
中堅商社の御曹司だから、いかにもお坊ちゃんという感じだったが、性格は穏やかで思いやりのある男だった。
私がグループの中で一番親しく話をしたのが、このハセガワである。

クニコというのは、このハセガワの一歳下の妹で、同じ大学の英文科に通っていた。
170センチ以上の長身だったが、今で言えば女優の「榮倉奈々」のような感じで、我々のマスコット的存在だった。

「おまえ、つき合ってたよな」

は!?

「ほら、クニコとつき合ってただろ、惜しかったな」

つき合ってた? 惜しかった? なんだ、それ!
どこから、そんな話が出てくるんだ。
私の頭は、一気に混乱してきた。

「ちょっと、待て! それは冗談で言ってるんだろうな!」
「いや、何でこんなつまらない冗談を俺が言わなきゃいけないんだ。なあ、つき合ってたんだろ、クニコと?」

「つき合ってネェよ!」
「隠すなよ、昔お前とクニコが仲良く話しているところを何度も見たぜ」

ハセガワの妹クニコとは、学食で顔を会わせれば話をしたし、話しながらキャンパスをうろついたこともあった。
しかし、大学内だけのことだ。
大学の外で話をしたことは、一度もない。

友人の妹であり、社長令嬢であり、みんなのアイドルだった子とつき合う勇気は、当時の私にはなかった。
クニコの方も、そんな気はなかったと思う。

「今さら、嘘を言ってもしょうがないだろ、だから、本当につき合ったことはない!」
私はムキになって言った。

それに対してオオバは、教師が落ちこぼれの生徒を諭すように、こう言う。

「そんなに熱くなるなよ。いいじゃないか、マツ。つき合っていたことにしておけば。
それで誰に迷惑をかけるわけでもない。
ハセガワの妹も、今では立派な実業家だ。お前が『昔、クニコとつき合っていた』と言ったって、笑って受け流すさ。たいしたことじゃない。
大昔のことなんだから、誰も傷つけるわけじゃないだろ。
大学時代のマツは、クールで落ち着いていて、俺たちはお前が怒ったり慌てたところを一度も見たことがなかった。
運動神経もいいし、カッコイイと思っていたんだぜ。クニコともお似合いだった。ガッカリさせないでくれよ」


返す言葉がなかった。

オオバも、私が思っている以上に大人になっていたのだ。

大人になっていないのは、私だけなのかもしれない。
その現実は、自分の器の小ささを目の前に突きつけて、私を冷笑する。

ハセガワの妹の無邪気な笑顔が思い浮かんだが、それは私を憂鬱にさせるだけだった。

そして、実業家になったクニコの笑顔を、今の私には想像することができない……。
それは、とてつもなく、悲しいことだった。


2007/01/16 AM 09:48:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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