Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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ひ弱なボディ
久しぶりにボクシングジムに行った。
取材のためである。

出身大学の起業家のネットワークに形だけ参加しているが、そこで知り合った6年後輩のミナミから時々仕事を貰っている。
私は不熱心なOBなので、そのネットワークの会合には2回しか参加したことがなかった。

その種の会合で、自分の居場所を見つけるのは大変である。
みんなが偉そうにしているので、偉くない私は隅へ隅へと移動してしまうのだ。

二回目の会合に出たとき、そんな風に隅っこで壁をお友だちにしていたとき、ミナミから声をかけられた。
「スプリンターのM先輩ですよね」
「はい、スプリンターのMです」
この種の会話にすぐ乗ってしまうのが、私の軽薄なところである。

名刺交換をして、ミナミとはすぐに打ち解けた。
彼は高校では陸上部にいたが、大学では部に入らなかったらしい。私のことは、高校のときから噂で聞いていたと言う。
先輩OBの自尊心をくすぐる方法を知っているミナミは、業界紙のオーナーをしていた。
一社で4つの業界紙を出しているというから、たいした社長さんである。

それ以後、彼の会社から取材の仕事の依頼がたまに来るようになった。
デザインではなく、取材記事を書く仕事である。
これは私の得意分野ではないので、3回に1回くらいしか仕事を受けない。
得意でもない仕事を受けて、ひとに迷惑をかけるのは申し訳ないし、取材は精神的に疲れるということもある。

彼から、一番最近仕事を頼まれたのは、一年半前だった。
パティシエへの取材とインタビュー記事だ。これはパティシエが若い女の子だったので、楽しくやらせて貰った。
その後一回仕事の依頼が来たが、私の趣味に合わない相手だったので断った。
今回も病み上がりだったから断ろうかと思ったが、ボクシングジムと聞いて、即座に引き受けた。

何故かというと、29歳の時、約一年間ジムに通っていたことがあるからだ。
当然のことだが、プロになる気はなかった。
ただ、ジワジワと衰えていく肉体を少しでも生き返らせることができれば、という思いだけで通っていた。
だから、私にとってボクシングは、陸上競技に次いで馴染みの深いスポーツなのである。

久しぶりに足を踏み入れたボクシングジムは綺麗だった。
都心の一等地にあるということもあって、仕事帰りのOLなどがボクササイズをしに来るらしく、半数以上が「健康のために」ジムに通っている人だという。
ロッカールームも男女別に分かれていて、女性用の方も覗かせて貰ったが、大きな鏡が置いてあったり、カラフルな椅子が置いてあったりして、ボクシングジムという感じはしない。
そして、ボクシングのジメッとした汗くささが、ほとんどない。

こんなジムからは、カメダ兄弟は出てこないだろうな……。

ジムのオーナーも若い。
つい何年か前までランキングボクサーだったが、昨年の春にスポンサーの薦めで、ジムを始めたという。
彼は、口数は少ないが、的確な受け答えをする人だった。一見すると、ボクサーというタイプでも経営者というタイプでもない。
どちらかと言えば、信用金庫の営業マンという感じだ。

インタビューが終わった後、オーナーが「Mさん、実際にやってみませんか、やりたそうな顔をしてますよ」と悪戯っぽく笑った。
目が本気ではないので、冗談のつもりで言ったようである。
年寄りが困る様を見てやろうか、という気持ちも少しはあったかもしれない。

私が「ああ、やらせてもらえますか」と言うと、一瞬、彼の目が泳いだ。

「ほんとに、やるつもりですか?」
「はい、取材しに来たわけですから」

呆れた顔をしていたが、Tシャツとトランクス、靴を貸してくれた。
シャドーボクシングは今でもしているので、これはオーナーを驚かせたようである。
だが、ロープスキッピング(縄跳び)とパンチングボールは、以前から苦手だった。
リズム感がないので、すぐに動作が止まる。
そんな私の姿を、40歳前後のちょっと苦み走った、イケメン・トレーナーが妙に安心したような顔で見ていた。

へっ、所詮はトウシロ(素人)か!

そんな目である。
しかし、そんな目で見られると、私の負けじ魂に火がつく。

トレーナーに「じゃあ、ちょっとだけ、ミット打ち、してみるかい?」と言われて、リングに上がった。グローブをはめると気が引き締まる。
病み上がりで息は上がっていたが、ムキになってトレーナーの動かすミットにパンチを浴びせた。
ほとんどがミットの真ん中に当たったので、いい音がする。
合間のウィービングもぎごちないが、徐々に体が思い出して、それほど上体を動かさずに出来るようになった。

そうすると、相手もムキになるのである。
どんどん前に出て、圧力をかけてくるのだ。
普通、初心者相手の練習のとき、ミットは受けるものであって、押すものではない。
だが、このトレーナーは少しずつ押してきたのだ。

彼はきっと、私が少しボクシングが出来るのが気にくわなかったのだろう。
モタモタ・ヨロヨロとしていれば彼の機嫌は良かったに違いない。
しかし、こちらも久しぶりなので嬉しくて仕方がない。
相手の自尊心など、完全に無視していた。

さらに、最後のロードワークでは、見事に彼の期待を裏切ってしまった。
ロードワークは、トレーナーが自転車で後ろを走りながら、練習生を見守っている。
このジムでは、毎回最後に、皆で代々木公園まで走って戻るのがきまりらしい。
今回は私以外に練習生が5人いた。つまり、6人で走った。

その時、約8キロのランニングで、私は先頭で帰ってきてしまったのである。
最後はトレーナーの自転車と競争という形でジムに帰ってきた。
何と大人気ないことをしたのか、と思うのだが、走った以上は負けたくない性分なのだ。
それによって、トレーナーの自尊心はズタズタになったようである。

彼は、4、5分遅れで帰ってきた、私よりはるかに若い練習生を睨みつけ、大きく舌打ちをしていた。
(こんな中年に負けやがって!)という悔しさが、彼の顔から滲み出ていた。

それから、私はシャワーを貸してもらい、着替えて、オーナーに挨拶をし、別れの握手をした。
トレーナーとも同じようにした。

彼と握手したとき、その目が笑っていなかった。
端正な顔は、口だけ笑っていて、頭も下げなかった。目は私を凝視していた。
「もしかして」という気配を感じて、私は腹筋に力を入れた。
我ながら、いい勘をしていると思った。
彼は、握手を終わってすぐ、軽く私のボディを打ってきたのである。

予測していたので、ある程度は躱(かわ)すことができた。
「勘弁してくださいよ」と笑って、余裕の表情でジムを後にした。

しかし、今になって鈍い痛みが!
前屈みになると、さらに痛い!


腹筋は毎日やっているが、パンチを想定した腹筋はしていないから、突然のパンチには弱い。
かすった程度だと思ったが、相手は素手である。結構効く。

痛いぞ! あー、痛いぞ!
くっそー、あの野郎〜!!



2007/01/14 AM 10:12:33 | Comment(1) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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