Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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「あ」で始まる新婚旅行
社内報の仕事は、画像データとテキストデータを一括で貰ったので、進行は早い。
とりあえず12頁組み終わって、3部プリントしたものを宅急便で送った。
先方は、それを明日中に校正して、修正箇所をファックスで送ってくれるはずだ。

その合間に、私は昨年の10月から取りかかっている、新規開店のブティックのホームページの仕上げをしていく。
そして、iTunesから、季節はずれのWham !の「Last Christmas」が流れているとき、電話が鳴った。

「おめでとうございます」
ショウコの声である。

ショウコは、大学時代の友人カネコの娘である。
彼女は、カネコの奥さんの連れ子だ。
ショウコのことは6歳の時から知っている。テニスや料理、勉強を教えたこともある。
昭和記念公園のレインボープールに連れて行ったこともあった。

ショウコは、昨年の7月に18才の若さで結婚をした。
結婚を急いだ理由は知らない。
聞いたら答えてくれるだろうが、私にそれを聞く趣味はない。
ショウコは高校を出て、大学に進学した。私とカネコ、そして彼女の旦那と同じ出身大学に。

「年賀状、くれないのか」
と私が言うと、憤慨したようにショウコが早口で言う。
「だって、サトルさんは、世話になった人には年賀状は出すけど、友だちには出さない・貰わないのが俺の主義だ、っていつも言ってたじゃない」
そして、少し間を開けて、「私はサトルさんの友だちだったよね」と鼻を鳴らすように言った。

そうだった。
私は友だちには年賀状を出さない。
新年の挨拶をハガキでするなど、他人行儀としか思えない。意味がないと思っている。
しかし、世話になった人には、礼儀として出す。
年賀状とは、そういうものだと思っている。

私は、慌てて弁明した。
「いや、君のさ、ほら、新しい住所を教えてもらってないだろ。だから、年賀状をもらったら、わかると思ってね」
「メールで教えますから」
「ああ、じゃあ、こちらのアドレスを教えるから」
「知ってます。パパに聞きました」

どうやら、ショウコは本気で怒っているようである。
ショウコとは、カネコの娘としてより、本当に友だちとして付き合ってきた。
だから、ショウコがむくれるのは理解できる。
完全に私の失言だった。

「ごめん。謝る。俺が無神経だった。本当にごめん」
こういうときは、素直に謝る。不器用な男には、それしか方法はない。

「許します」
あっさりとショウコが答えた。
「ありがとう」

「ねえ、サトルさん、新婚旅行、行った?」
突然、話が変わるのがショウコのすごいところである。
「行ったといえば、行った」
ヨメとは、結婚前に10回以上旅行に行っていたから、あらたまって新婚旅行に行くこともないと思ったが、運良く懸賞でJTBの旅行券が当たったので、それを新婚旅行に使うことにした。

秋保温泉に行ったよ」
「アキウ? どこ?」
秋保温泉は宮城県にある、仙台から車で40分くらいのところにある温泉街だ。
温泉街としての規模は大きくないが、旅館はみな立派なものばかりである。
ただ、設備は豪華だが、宿泊料金は伊豆・箱根ほど高くはない。見所もそれなりにある。

行く場所は、「あ」のつくところならどこでも良かった。
「あ」ということで、最初に思い浮かんだのが、この「秋保温泉」だっただけのことだ。

「『あ』の付くところに何で?」
「アイウエオ順の『あ』は、始まりの『あ』でもある。結婚のスタートには相応しいと思わないか」
「さすが、サトルさん、変わってるね」
「ありがとう、ほめてくれて」
「じゃあ、秋田でも青森でもアラスカでも良かったわけだ」
「そう言われれば、そうだな」

ショウコが笑い始めた。
ショウコは一度笑い出すと止まらない。
笑いが終わるまで待った。
カネコは、この笑いを嫌がるが、私はショウコの笑い方が好きである。ひとの笑い顔を見るのは楽しい(電話では見えないが)。

笑い終わって、ショウコが言った。
「私たち、式も披露宴もしていないから、新婚旅行くらいはしようかって相談してたところなの。私たちもその秋保温泉にしようかな。『あ』から始まる新婚旅行に、ね…」
「ね」は旦那に言ったようだ。ということは、そばに旦那がいるということか。

「サトルさん、私の旦那と話したい?」
ショウコのパートナーだ、一度くらい話をしてもいいだろう。
電話を代わってもらった。

「ショウコから、いつもお話は聞いています」
という滑舌のいい声が聞こえてきた。
確か彼は中学の英語の教師をしているはずだ。声だけで判断するなら、教え上手な教師という感じである。

ここで私が、彼にかける言葉は、一つしかない。
「ショウコがしたいと思っていることを、自由にさせて上げてください。結婚がその障害にならないように」
ショウコはまだ19才になったばかりだ。結婚で夢を途切れさせるのは、もったいない。
彼女が何を夢見ているか知らないが、結婚はゴールではないし、出産がゴールでもないはずだ。
結婚したために、それ以外のゴールへの道を閉ざさないでもらいたい。その思いを言葉に籠めた。

「わかりました」
簡潔だが、彼は力強く応えてくれた。

また電話を代わったショウコに、私は言った。
「合格だな」
ショウコのパートナーに相応しいという意味である。
余計なことを言わない点も、合格である。

「ありがとう、サトルさん。涙が出そうだよ」
ショウコが言葉に詰まった。

本気で泣かれたら困るので、「カネコにも、たまには電話しろと言っておいてくれ、元気かどうか教えろってな」と言って、慌てて電話を切った。

切った後で、予想していなかった寂しい感情が、体の奥から渦を巻いてこみ上げてきた。
まるで嫁いだ娘から電話をもらった父親の心境である。
友人の娘相手でさえこうなのだから、実の娘の場合はどうなってしまうのか。

ハァ〜〜〜〜〜・・・・・(怯)



2007/01/08 AM 09:27:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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