Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
[TOP] [RSS] [すくすくBLOG]








たったの0.09パーセント
年末、一番最後になって嫌な仕事をした。

独立当初、頻繁に仕事をいただいていた印刷会社がある。
その時の営業は気配りの利く人で、校了までのスケジュールを勘案しながら、コスト面をキッチリとそれに反映してくれる人だった。

しかし、四年前に、その人が他の部署に移って、営業(担当者)が変わった。
営業が変わってからは、見積もりの電話は年に十数回かかってくるのだが、交渉がまとまるのが、年に一回か二回になった。
この営業は、毎回理屈に合わない価格設定を提示してくる。そして、態度も横柄である。

中堅の印刷会社だが、そこの社長は苦労人らしく、いつも腰が低い。
毎年、年賀状なども自筆で内容の籠もったものをいただいている。
しかし、そんな社長に相反して、この営業は仕事の単価の話しかしないのである。
安い額で人を使うことが優秀な営業である、という観念に凝り固まっている。
だから、交渉をしている最中に、「こんな仕事いらねえよ!」と思ってしまって、こちらも歩み寄ろうという気にならない。

仕事だから、儲けが重要なのはわかるが、そんな話ばかりでは気持ちのいい仕事は出来ない。
昨年もこんなことがあった。
変形のリーフレットのデザインの見積もりを依頼された。
制作内容は、ロゴをこちらで考え素材もこちらで調達して、6日間で作ってほしいというものである。

ロゴというのは、重要である。
だから、見積額にその分を上乗せしたのだが、彼はそれが気にくわなかったらしい。

ロゴは簡単なものでいい。それに関してはクレームが来ても自分が抑えるから、見積もりはロゴ抜きでお願いしたい、といつもながらの強引さで押してきたのだ。

しかし、こちらの経験上、ロゴがそんなにすんなりと行くとは思えない。
それに、彼が相手のクレームを抑えてくれたことは過去一度もない。

ロゴというのは、会社の、あるいは商品の顔である。
場合によっては、ロゴこそがすべてと言ってもいい。
それを、簡単に考える方がおかしい。
だが、彼は自分の考えを全く譲らないのである。
ロゴは、あくまでも「おまけ」というスタンスだ。

その額では無理ですね、と私も譲らなかった。
仕事は、気持ちよくしたい。
得意先の営業の方針が気にくわなければ、断固として拒否する。フリーランスにもそれぐらいの気概は必要である。

相手は、それ以上何も言わなかった。
他に頼めばいい、と思ったのだろう。
仕事をするやつは他にいくらでもいる。頑固な三流デザイナーなど放っておこう、そう思ったに違いない。

しかし、それから二日後、彼から電話がかかってきた。
「Mさんの見積もり、オーケーです。でも、お願いがあります。ロゴのデザイン料、500円ほど負けてくれませんか。納期そのままで…」

他のデザイナーに当たったが、結局私の見積もりが一番低かったのだろう。
しかし、それでも私の見積額をそのまま受け入れるのには抵抗がある。だから、値切ってきた。

たった500円にこだわっていやがる! 小せぇ野郎だ! と思ったが、一応相手が折れてくれたのだから、こちらも折れるのが礼儀というものだろう。
その仕事は、受けることにした。
これは、仕事もスムーズに運んで、ロゴの修正を一回しただけで校了になった。

だが、この担当者、それだけでは終わらせてくれないのである。
「あのロゴは安ぽかったですね。いくら時間がないとはいえ、よくあれで通ったと思いますよ。あれは奇跡に近い」
ロゴは「おまけ扱い」のはずなのに、散々嫌みを言われた。
そんなにひどいロゴだとは思わなかっただけに、後味の悪さだけが残った。

そして、27日の夕方の電話。
「文字入力をお願いしたいんですが、大変急いでいます。一日でしてくれませんか。四百字詰め原稿用紙、110枚分です」

当方では、文字入力だけというのは受けていない。
もともと、文字入力は得意分野ではない。
だから外注になる。
しかし、この外注の人が神業的な達人で、いつも助かっている。
私の場合、一時間に4〜5千字が限度だが、この人「ナガイさん」は、8千字を平気で打つのである。
しかも、正確なのだ。
もっと早く打つ人は沢山いるかもしれないが、正確さと言うことを考えたら、ナガイさんこそ、「プロ中のプロ」と言えるだろう。

文字入力、と言われてナガイさんのことを思い浮かべたが、彼女は主婦である。年末は忙しい。
その忙しい人に、一日で四百字詰め110枚(4万4千字)をお願いするのは、気が引ける。
だから、断った。

しかし、この担当者は、そんなことでは引き下がらない。
「急いでるんですよ。今年中にテキストデータを上げないと、スケジュールが狂うんです!」
勝手に吠えている。

それはお前の事情で、俺には関係ねえよ!

「他にも頼む人はいるでしょう。フクザワさんは、顔が広いんですから」
一応、おだててやった。

「まあ、他にもいるんですがね。今回はMさんにお願いしたいんですよ。付き合いも長いんで」

これ以上、嘘くさい会話をしたくなかったので、一応ナガイさんに聞いてみるということで、電話を切った。
背筋に悪寒が走る。
私が一番嫌いな展開である。

ナガイさんに電話をしてお願いしたら、「じゃあ、やってみます」と言われたので、受けることにした。
こんなことは書きたくないが、今回私の儲けはまったくない。
一文字「0.5円」。ナガイさんに支払う額だが、私の方も先方にはその額しか請求はしない。
特急料金も取らない。
仕事を取り次ぐだけで、私にはまったく「うま味」のない仕事である。

ナガイさんは、責任感が強い。
27日の夜、原稿を渡して、翌日の朝にはテキストデータをメールで送ってくれた。
内稿をしてみたが、4万4千字のうち、私の見た限り80文字くらいしか打ち間違いがなかった。
手書き原稿なので、判読不能な文字がある。それを入れても、たった80文字なのである。
つまり、0.18パーセントの間違いである。
これは驚異的だ。
普通、どんなに正確な人でも、打ち間違いは0.5パーセントはある。これでも奇跡に近い。
つまり1万字打てば、50文字の打ち間違いはある。4万4千字なら、220だ。
重ねて言うが、これでもかなり優秀な部類に入る。

内稿したあと修正をして、昼間のうちにデータを送った。
超特急で仕上げたのだから、普通なら感謝の言葉の一つもあっていいはずだ。
年末の切羽詰まった時期に仕事を受けて、約束の時間より4時間早くデータを送ったのだ。
しかし、相手はこう言うのである。

「40文字近い打ち間違いがありました」

コイツ、喧嘩売ってるのか!
40文字の打ち間違いと言ったら、細かいことを言うが、たった「0.09パーセント」だぞ!

感謝の言葉の変わりに、わずかなミスをあげつらう。
この時点でもう私は嫌になったのである。
こんなやつとは一秒たりとも会話したくない。
そこでこう言う。

「上司を出せ!」

上司は物わかりのいい人で、謝ってくれたが、それだけで済む問題ではない。
今回は、無理を聞き入れて、超特急で入力をしてくれたナガイさんの名誉、ということもある。

だから、「あの営業がいる限り、そちら様とのお付き合いはご遠慮させていただきます」と言った。
年末だから、嫌な思いはしたくない。
仕事を貰う側としては、「もっと耐えるべきだ」という考え方も出来る。
耐えるのが大人、と言われたら返す言葉もない。
しかし、だからといって、我慢できないものはできない。年末に悔いを残さないためにも、ここは譲れない。

まったく、損な性分だと思う。
おとなしく言うことを聞いていれば、これからもそれなりに仕事は回ってくるだろうに…。

上司は、「また是非お願いしますよ。Mさんには、いつも助けてもらってますから…」
と言ってくれたが、二度と仕事は来ないだろう。それは確信できる。

この会社が私に仕事をくれる確率は、「0.09パーセント」以下だと思っている。



2006/12/29 AM 08:27:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



(C)2004 copyright suk2.tok2.com. All rights reserved.