Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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青島・夏目・奈保子
むかし話を少しだけ。

13、4年前の冬のことだった。確か2月の終わり頃のことだ。
私はまだ独立はしていなかった。
会社から日帰り出張を命じられて、京都に行ったことがある。

朝早く出かけて、京都駅に着いたのは10時過ぎ。雪が降っていた。
そして、ひと仕事終えたのが午後3時過ぎ。外に出ると大雪で、すでに10センチ以上積もっていた。
京都の雪景色は風情がある。
雪の銀閣寺清水寺などを見るのもいい、こんなチャンスは滅多にない、そう思って銀閣寺に行こうとしたが、交通機関が麻痺しているという情報があり、その目論見は外れた。
そこで、帰れなくなったら困ると思って、その時いた河原町から一番近い八坂神社を見るだけで我慢した。

白く化粧をした八坂神社は、時代を受けとめた重みが感じられて、ため息が出るくらい美しかった。
20分ほど散策しただけだが、サクサクと雪を踏む音が耳に心地よくて、気持ちが和んだ。

京都駅までタクシーで行こうと、通りでずっと待っていたが、空車を掴まえるまで20分かかった。
しかし、この時はまだ事態を楽観視していた。
焦ったのは、京都駅に着いてからだ。
関ヶ原付近で大雪が降っているので、新幹線が大幅に遅れているというのだ。

私の予定では、5時〜6時台の新幹線に乗るつもりでいた。
時計を見ると、5時10分前。
とりあえず切符を買って、ホームまで行った。
列車はホームに停まっている。しかし、発車のめどは立たない、というアナウンスが流れていた。

列車はもうすでに満杯状態。
中で待つのは鬱陶しいので、待合室に行って待つことにした。
待合室は比較的空いていて、座ることができた。

見回すと30人ほどの人が、眉間に皺を寄せながら黙って座っていた。
しかし、その中で私の斜め横の席にいるサラリーマン二人のうちのひとりが、しきりに「遅ぇ、遅ぇ、やばいっすよ、今日中に帰らないと資料をまとめるヒマがない」などと言って、隣の同僚らしき人に顔を赤くして愚痴をこぼしている。
いや、愚痴をこぼしているというより、ダダをこねている。

同僚は彼より明らかに5才くらい上で落ち着いた雰囲気を持っていたが、彼をなだめるでもなく、ただ上を向いて煙草をふかしていた。
その態度が気に障るのか、彼は余計ナーバスになって、ワンカップの日本酒をあおっていた。
足元を見ると、ワンカップの瓶が2つ転がっていた。おそらくそれが3本目の酒なのだろう。
要するに、ただの酔っぱらいである。

隣が相手にしてくれないとわかると、この酔っぱらいは、近くの人間に声をかけ始めた。
「JRは何をしてるんだ! たかが雪で何で新幹線が止まるんだ! なあ!」

しかし、当然のことながら、誰も酔っぱらいの相手などしない。
誰もが、「コイツ、うるせえ!」と心の中で思っているはずだ。

私も相手をしなかったが、運悪く彼と目が合ってしまった。
そして、彼が言う。
「ねえ、そこのインテリっぽい人。そうは思わないかい?」

インテリ? なんだそのインテリっぽいってのは?
初めて言われたし、古くさいし……。
私は思わず軽く笑ってしまった。彼を笑ったわけではないのだが、酔っぱらい相手に道理は通用しない。
それが彼の不機嫌さに火を付けてしまったようだ。

いきなり立ち上がって、私のそばまで来て、私の襟を掴んで立たせようとした。
「何、笑ってやがるんだよ!」
しかし、彼の力では私を立たせることはできなかった。彼は酔っぱらっているのだ。無駄に力を入れているだけだ。

私は彼の同僚に目を走らせたが、彼の同僚は知らんぷりをしている。
なんてやつだ。
私はこの酔っぱらいより、その同僚に腹を立てた。
そこで、こう言った。
「おい! 知らんぷりかよ! お前、友だちのお守りもできないのか!」

すると、酔っぱらいは自分のことを無視されたのかと思って、余計熱くなったようだ。
私を殴ろうとした。
私は咄嗟に、彼の腹に頭突きを食らわした。
酔っぱらいが尻餅をついた。
彼は事態が把握できなかったのか、一瞬痴呆のように無表情になったが、また立ち上がると、私に襲いかかろうとした。

そのとき、止めに入った男がいた。
小柄な男だ。
その男は薄茶のコートを着ていた。彼は酔っぱらいを羽交い締めにして、軽く振り回したと思ったら、近くの椅子に座らせるという器用なことをした。

酔っぱらいは、なおも立ち上がろうとしたが、男は彼の肩を強く押して、「やめなさい。君が暴れたって、新幹線が動くわけじゃない」と言った。
まだ酔っぱらいは暴れようとしたが、男の顔を見て固まった。
知っている顔だったようだ。
もう一人知り合いがいて、止めに入ってくれたのか。そう思ったが、そうではなかった。

酔っぱらいが「暴力だろ、今の。俺はコイツに殴られたんだぞ」と言って、私の方を指さした。
男がゆっくりと私に顔を回した。

青島幸男だった。
彼は私を見つめながら静かに言った。
「俺はほとんど見てましたがね、先に殴ろうとしたのは君の方だ。彼はそれを防いだだけだ。誰が見ても、君の方が悪い」
すると酔っぱらいは、また大声で「痛ぇんだけど、ケツが! 骨が折れてたらどうすんだよ。コイツのせいだろ!」と喚く。

「わかった。じゃあ、何かあったら私のところに訪ねてきなさい。私は『青島だぁ!』の青島だ。わかったね」
青島は彼の肩に両手をおいて、顔をのぞき込んだ。
酔っぱらいは、素直に頷いていた。

そして、青島は私の肩を一回ポンと叩くと、待合室を早足で出ていった。
アッと言う間の出来事だった。礼を言う間もなかった。
あの時の青島は格好良かった。
まだ都知事にはなっていなかった。おそらく参議院議員の時代だろう。しかし、取り巻きは一人も連れていなかったように思う。
それがさらに、格好良く映った。

その時礼を言えなかったことを、今でも悔やんでいる。

その青島幸男が亡くなった。
ご冥福をお祈りする。

さらに……。
今から20年以上前のことになる。
南青山の比較的庶民的なイタリアンレストランに行ったとき、店が混んでいて、店の外で順番を待っている人が5、6人いた。

その中に夏目雅子がいた。
有名な女優が、普通に一人で並んでいる姿が面白くて、「『時代屋の女房』二回見ました」と気安く声をかけた。
そうすると、彼女は振り返って私を真正面から見た。
そのあまりの美しさに、頭が空白になって、その時彼女が何と言ったかわからなかった。

ただ、「あ、ああ…」と声を返しただけで、私は逃げるようにその場を去ってしまった。
今思えば、悔しい。
なぜ、何も言えなかったのか。
ずっと、それを悔やんでいる。

二人とも亡くなってしまったので、もう話す機会は永遠に訪れない。
もっとも、生きておられたとしても、話す機会などは巡ってこなかったろうが……。

そう考えると、もうひとり会話したことがある有名人を思いだした。
河合奈保子である。
25年くらい前、目黒に大きなスタジオがあった。
そこの駐車場の前に、彼女がいたのである。
人待ち顔で立っていたので、気楽に声をかけた。
「何してるの?」

すると、彼女は普通に答えてくれた。
「マネージャーを待ってるんですけど、まだ来ないんです」
笑顔が素敵だった。

たしか、河合奈保子はまだ生きてましたよね……?



2006/12/23 PM 12:26:51 | Comment(12) | TrackBack(0) | [日記]



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