Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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すかいらーく にて
「会いたいんだが」
友人のススキダが遠慮がちに、電話をかけてきた。

ススキダは、奥さんの里帰りに付き合って香港に帰っていたが、二週間前に戻ってきたらしい。
帰国後、律儀なススキダは、何度か連絡をくれたが、先週から今週にかけて私の方が営業で出回っていることが多かったので、時間が取れなかった。

ススキダには、先月世話になったので、近いうちに、こちらから出向こうと思っていた。
「今度の日曜日に行くから」と言ったが、「ダメだ、俺の方が行く」と強く言われた。
おそらく、私の体調を気遣ってくれたのだろうが、私は、そういうのは苦手なタチである。
心配をされていると思うと、居心地が悪くなって、わけもなく不機嫌になる。
自分でも、厄介な性格だとは思うが、これだけは子どものときから直らない。

小学・中学生のときも、心配されるのが嫌なので、39度近い熱があっても、学校へ行っていた。
「お前、熱あるだろ」と言われても、「うるせえ! ねえよ!」と言って怒るのである。

そんな風に、私は昔から可愛げのないやつだった。

そんな私の性格をススキダは知っているので、「ちょうど、レイコの友だちが川口にいてね、そこに行ったあと、ついでに寄るから」と言ってきた。
そして、「ついでじゃ、申し訳ないがな」と付け足した。
あくまでも、ついでに寄るという方式を取らないと、私がへそを曲げると思ったのだ。

レイコというのは、ススキダの奥さんのことだ。
彼には不似合いなくらいの、芯の強い良妻である。しかし、賢母かどうかはわからない。彼らに子どもがいるか、知らないからだ。
彼女は元ナース。目の奥に、安らいだ光を持っているひとだ。

「そうか、元ナースにまた会えるのか。それは楽しみだな」

ということで、近所の「すかいらーく」で会うことにした。

4時の約束で、10分前に行ったが、ススキダ夫婦はもうすでに来ていた。
一ヶ月ぶりに会うススキダの顔は、相変わらず怖かった。
剃り込みっぽく見える髪型と薄い眉が、その筋(スジ)のひとを連想させる。
スーツの下にカラーのワイシャツを着ているから、尚更それっぽく見える。
四年前、ススキダと初めて会ったときは、その姿を見て「回れ右」をする寸前だった。
ススキダが最初に丁寧な挨拶をしなかったら、きっと逃げ出していただろう。

「俺、顔で損してるんですよ」
とススキダが笑いながら言ったとき、細い目がV字形になって、目尻の皺と一体になったのを見て、妙に安心したのを覚えている。

「よお、ビールは、ジョッキでいいか」
ススキダは、いきなり飲み物を聞いてきた。
彼は、紅茶を飲んでいるようだ。
「何で、俺だけ、ビールなんだ」
「こいつがさ」と言って、ススキダがアゴを奥さんの方へ振った。
「アンタは、友だちが少ないんだから、数少ないお友達を大事にしなさいって言うんだ」
「だから、それがなぜビールなんだ」
「ビール飲みたくねえか」
「飲みたいよ、そりゃ」
「じゃ、決まりだ、おごるよ」

奥さんの方を見ると、「私もMさんが来たら、ビールを頼もうとしてたんですよ。一人だけビールは嫌ですよ」と口に手を当てて笑っていた。

ジョッキが来て、奥さんと乾杯をした。
「お帰りなさい」
「ただいま」

話題は当然、香港のことが中心になった。
奥さんの実家は、観光客相手に土産物屋をやっているらしい。
旧正月を含めて、一年に二回は必ず帰るようにしているという。
ススキダも香港に得意先があるので、年に三、四回は行っていると言っていた。
驚いたことに、ススキダ夫婦は、広東語と英語が喋れるのだという。
四年付き合っていても、知らないことは多いものだ。

「驚いた! そんな顔で随分インターナショナルなんだな」
「語学と顔は関係ねえよ」と、照れながら顎髭を撫でる様子が、怖い顔とアンバランスで、笑える。
そして、照れた顔のまま、「これ」と言って、私の前に紙袋を置いた。

香港土産かと思ったが、そうではないらしい。
「ギンナンだ。めまいとか貧血にいいらしいんだ……な」
最後の「な」は、奥さんに向かって言った。
奥さんが頷きながら、「粉末になっていますから、毎日少しずつ飲んでください。民間療法ですが、意外と効きますよ」と看護師の顔になって、説明してくれた。

「ありがとう」
ナースの言うことは絶対である。
言い付けを守らなければ、注射をされるだろう。だから、大きく頷いた。

「そして、これ」と言って、大きな紙袋を渡された。
「チャイナ服だ」と、ススキダが含み笑いをして、開けろ、という仕草をした。
開けてみると、中国語で書かれた包装紙で包まれた四角い箱と本が二冊入っていた。
香港土産のようだ。

「な〜んだ。チャイナ服じゃないのか。期待してたのに」
「悪いな、一番つまらないものを選んできた」

四角い箱の中身は、中国のスパイスセットらしい。
本は、中国のデザイナーを紹介するもののようだ。
珍品と言っていいだろう。スパイスはともかく、本の方は日本で手に入れるのは、おそらく難しいのではないか。

ススキダが考え抜いた土産物だということは、感じ取れた。
「ありがとう、大事にするよ」
頭を下げた。

「やっぱり、チャイナ服が欲しかったんじゃないのか」
ススキダが笑いながら、両手でドレスの形をなぞった。

「まあね。自分でも似合うと思っていたんだが」
私が上半身だけ、ポーズを取りながら言うと、
ススキダの奥さんが、飲んでいたビールを吹き出しそうになった。


2006/11/26 AM 08:20:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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