Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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黙りのプロ
祝日だというのに、嫌な声を聞いた。
Sデザインのスドウ氏の声だ。

「この間の見積もりだがね、もう少し下げてもらえんかな」
私が「もしもし」という前に、いきなり要件を切り出すいつものスドウ氏のペースには、辟易(へきえき)させられる。
これに乗せられたら、ろくなことがない。

だから、黙っていた。

今月の中旬に、Sデザインに、仕事の見積もりを出した。
以前なら、相場より三割程度低い見積もりを出すのだが、今回は常識的な額にした。
Sデザインからは、もう二年近く仕事を貰っていない。
二年前の仕事は、案内状だった。
請求した額は、家族4人でマクドナルドでセットを食ったら、なくなるほどの額である。

今さら、ディスカウントする理由はない。
それに、この仕事は17日校了で、22日に折り込みを入れるはずだった。
もう過ぎているではないか。

だから、黙っていた。

黙るのは、得意だ。
いつまででも、黙っていられる。
この分野で、世界一になる自信はある(?)。

「この電話、壊れてるのか、反応がないが……」
隣に誰かいるようだ。電話を叩きながら、話しかけている。

「あの仕事は、もう終わったんじゃないですか」
私が話しかけると、いかにもムッとした声で、「なんだ、聞いていたのか」と言ったあとで、すぐさま「何ですぐ返事をしないんだ!」と怒鳴られた。

黙っているこちらも悪いが、だからといって、怒鳴られる筋合いのものでもない。
私は彼の部下ではない。
黙秘権はあるはずだ。

「けんか腰では、まともな話はできませんね。切りますよ」
本当は、こちらの方がけんか腰ではあるが、とりあえず言ってみた。

すると、信じられない言葉が返ってきた。
「いや、すまんすまん。そんなつもりはなかったんだが……」
スドウ氏がひとに謝るのを初めて聞いた。

いつも尊大な態度で、「俺様キャラ」のスドウ氏から、謝罪の言葉が出るとは思いもよらなかった。
錯覚? 幻聴? 耳鳴り?
今度は、びっくりして黙った。

「あの仕事は、先方の都合で2週間先に延びた。だから、もう一度見積もりを考え直して欲しいんだが」
長生きはするものである。あのスドウ氏が、下手に出ている。
相手も年を取ったということか。

しかし、二年ぶりの仕事である。
しかも、急ぎの仕事になりそうだし、三割もディスカウントしたら、結局いつもと同じことになる。
だから、こう言った。

「スドウさんのところに仕事の依頼がありました。相手はせいぜい二年に一回小さな仕事を出すだけです。いつも急がされるだけの仕事で、儲けはまったくない。しかも、相手は図々しくも、いつも『まけろまけろ』と言う。二年に一回、小さな仕事しか出さないのに、スドウさんは、その仕事をやりたいと思いますか。どうでしょう?」

少々間があいたあと、スドウ氏は言った。
「いや、言いたいことはわかるが……、これからも必ず出すから、今回だけはぜひ、もう少し下げた額でやってもらいたいんだが」
一応、下手に出ているようである。
やってみようかな、という気に、少しはなった。

だが、こちらも素直に頷くのは癪(しゃく)である。
「本当に次も出してくれるか、保障はないですからね、次も二年後では、結局同じことです」

すると、スドウ氏は「この俺が、そう言っておるんだから、何を疑うことがある! 俺が責任を持つと言ったら持つんだ!」と怒鳴ってきた。

今どき、「この俺が」などという古いフレーズを聞くとは思わなかった。
「この俺が」今まで一度でも、まともな仕事をくれたことがあったか!
この言葉で、確実に「否」の方に、私の心のメーターが振れた。

「申し訳ないんですが。空手形は結構です。確実な保障がないのなら、たとえアベ氏だろうが、ブッシュ氏だろうが、キム氏に頼まれようが、割り引くつもりはありません」
プーチン氏も加えようと思ったが、KGBが怖いので、やめた。

スドウ氏は、黙っている。
仏頂面が、頭に浮かんでくる。
しかし、黙ることにかけては、私はプロである。
いくらでも、黙っていられる。

スドウ氏も、意地になっていたのかもしれない。電話を切る気配はない。
だからといって、こちらから話しかける気はないし、こちらから電話を切る気もない。

黙っていた。

意地の張り合いである。
だが、私はこの勝負にだけは、勝つ自信がある。

しばらくすると、舌打ちとともに、スドウ氏が言った。
「何があったか知らんが、あまりいい気になるなよ!」
そして、電話が切れた。

捨てぜりふはみっともない。
人間が小さく見える。

「ハハハ、勝った! 勝った!」
そう喜ぶ私も人間が小さいが、これで確実にスドウ氏と縁が切れると思うと、つい、そう言いたくなる。

だが、今の電話の様子を隣で聞いていた高校一年の息子は、怖いものを見るような顔をして、仕事部屋からそっと出ていった。

数分後、今度は小学五年の娘が顔を出した。
「お兄ちゃんが、『パパが狂った』って言ってるけど、私はそんなことはないと思う」
「うんうん」
「だって、お前は最初から狂っているし」

「………」



2006/11/24 AM 09:51:12 | Comment(2) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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