Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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桶川西口公園にて
めまいは突然やってくる。

桶川の得意先の帰り、東武ストアの前を歩いていた時、右目が回るのを感じた。
これは、年に数回ある一過性のめまいの症状だ。
10分から30分程度で治まるものなので、じっとしていれば治るはずだ。
近くには休むところがなかったから、少し歩いて、西口公園まで行った。

木のベンチに横になった。
汚いベンチだったが、20年近く着ているスーツだから、汚れても構わない。
横になったが、目は瞑らなかった。気温が低いので、眠ってしまったら、風邪をひく。薄目を開けて、めまいが通り過ぎるのを待った。

10分ほど、そうしていると、かなり楽になった。
体を起こすと、四才くらいの男の子が私のそばに立って、私を見ていた。

「だいじょうぶ?」と聞かれた。
心配してくれているようだ。病人のような顔をしているのかもしれない。

「リョウ君!」
声の方を見ると、少し離れた隣のベンチに女の人がいて、男の子を手招きしている。
変なおじさんに関わっちゃダメ、ということだろう。
顔を小さく横に振っている。

「ありがとう、大丈夫だよ。ママが呼んでるから、行った方がいいね」
「ホント、だいじょうぶ?」
「リョウ君、優しいんだね」
「優しいだけじゃダメ、っていつもママに怒られてる」
口をとがらせ、うつむいて言う姿が可愛い。

余計なお世話だが、つい言ってしまった。
「優しいというのは、強いことなんだよ」

リョウ君は、首を傾げている。口はとがったままだ。
「どうして? ママはもっとしっかりしなさいっていつも言うけど」

「リョウくんは、乱暴な子の方が強いと思っているの?」
「うん、力が強いし」
「乱暴な子は、ただ人が怖いだけだ」
「どうして?」

「リョウ君は、ゴキブリは好き?」
「大っ嫌い!」
「もしゴキブリを見つけたら、どうする?」
「パパに頼んで、つぶしてもらう」
「ねっ、怖いからつぶすだろ。人間もそうなんだよ。相手が怖いから乱暴するんだ。本当に強い子は乱暴なんかしないんだよ」
「そうかな?」
子どもに、こんな論理はわからない。それがわかっていても言ってしまうのが、私の軽薄なところだ。

「リョウ君は、今日初めて会った、このおじさんのことが怖いかな」
「全然、怖くない」
「じゃあ、リョウ君は弱くないよ。しかも、おじさんのことを心配してくれたんだから、優しくて、そして強いんだ」
「へぇ〜、・・・、でも、よくわかんない」
納得がいかないようだ。
この年の子は、母親の存在が大きい。
母親の言うことが絶対正しいと思っている。
だから、私の言うことは、彼のためにも彼の母親のためにもなっていない。
言うだけ、無駄である。お節介はしない方がいい。

「じゃあ、ママのことは好きかい?」
「うん、大好き!」
「それなら、ママのところに行きなさい。君のママは、リョウ君が変なおじさんと話をしているから、心配なんだよ。ね、早くママのところへ」
「でも、ホントにだいじょうぶかな?」

立ち去りそうにないので、適当な嘘を言った。
多少、鬱陶しさもあった。
「ああ、今日はお財布をおウチに忘れちゃってね。朝から何も食べてないから、力が出ないだけだよ。ウチに帰ってご飯を食べれば、元気になるから。心配してくれてありがとう、じゃあね」
手を強く振ったら、彼も手を振ってくれて、母親の座るベンチに帰った。

目の端で、二人が手を繋いで去っていくのを見ながら、空を見上げて深呼吸をした。
風はないが、寒い。気温は10度を切っているかもしれない。
眠らないでよかったと思った。
一度眠ったら、30分は寝ていただろう。確実に風邪をひく。

座ったまま、手足を軽く動かしながら、体調が完全に戻るのを待っていたら、「おじさん」と言う声が聞こえた。
見ると、先ほどの男の子が手を振っている。
「おじさん」と言うからには、私のことだろう。
あたりを見回してみたが、「おじさん」らしき人は見あたらない。
だから、手を振り返した。

リョウ君は、右手に持ったコンビニの袋を私にくれた。
「なに?」
「おなかすいてるんでしょ? だから、あげる」

中を覗いてみると、サンドイッチとペットボトルのお茶が入っていた。
私が彼の母親の方を見ると、彼女は心底申し訳ない、という顔をして言った。
「こんなことしたら、失礼かと思ったんですが、この子がどうしても、と言って聞かないもんですから、すみません、あの、お気を悪くしたら、ごめんなさい」

思いがけない展開である。
子ども相手に嘘を言ってはいけないということだ。
失礼なのは、こちらの方だ。
立ち上がって、頭を下げた。
そして、リョウ君の厚意を無にしてはいけないので、有り難く頂くことにした。

おそらく、こちらが食べるところを見ないと子どもは納得しないだろうから、慌ててサンドイッチをパクついた。
お茶も一気に半分ほど飲んだ。

リョウ君は、満足げに私を見ながら、私の隣に座った。
「ありがとう、ホントに君は優しい子だ」

「でも、頼りなくて」
これは、お母さんのことばだ。

「さっきもリョウ君に言いましたが、優しいのと弱いのとは違いますよ。私が見る限り、リョウ君は弱くはない。強い子です」
「でも、将来いじめられるのではないかと心配で」
メディアが最近頻繁に取り上げるので、いじめに関して過敏になっている親が多い。
弱い子はいじめられる、という報道の仕方は、弱い子はいじめられる確率が高いという謝った認識を生んで、逆にいじめる側に言い訳を与えているのではないか。

弱いから、いじめる。
弱い子は、いじめていいんだ!

負の連鎖である。

「親が守るという強い意志を持っていたら、子どもはいじめられないと思いますよ。同じように、子どもに対する親の意志が強ければ、いじめる側にもならない。教師や社会は当てにならない。肝腎なのは親の強い意志だと、私は思います」

自分の子育てのことを言おうとしたが、今日初めてあった人に語ることではない。
そうでなくても、余計なことを語った、と反省している。

「サンドイッチ、おいしかったよ。これは忘れられないご馳走になった」
リョウ君の小さな手を握って、握手をした。
柔らかい手。

将来、この子がいじめられないように、祈ります。


2006/11/18 AM 11:20:44 | Comment(3) | [子育て]



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