Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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「スパイ大作戦」が百回
仕事は忙しい。めまいは、まだ治らない。
しかし、それなりに楽しんでいる。

いつもは、用のない時は電話をかけてこないコピーライターのススキダが、一日に2回も電話をかけてくるという珍事もあった。

「からだ、どうだ?」という気持ち悪いほどの気配りを見せてくれたのだ。

照れる。
だから、「からだ、わるい」と答えた。

「じゃあ、大丈夫だな」と、完全にこちらの性格を読まれている。
私が「ナースは元気か」と聞くと、「元ナースだ。元ナースは、キムチを漬けている」と言っていた。
「じゃあ、出来上がったら少しくれと言っておいてくれ。最近旨いキムチを食っていない」
「ああ、元ナースも喜ぶだろう」
ススキダとの電話はいつも短い。そして、あまり内容がない。それは、二人が照れ屋だからだろう。

ススキダとの電話を切ると、5秒ほど遅れて電話が鳴った。
ディスプレイを見ると、川崎の実家のようだ。
母親の容態に関しての電話かもしれないと思い、すぐに取った。

しかし、聞こえてきたのは、姉の声。
「もしもし」の「もし」で切った。
姉は、緊急の時は慌てるので、言葉が支離滅裂になる。
「もしもし」で始まる時は、百パーセント彼女の愚痴話だ。

五十女の愚痴に付き合っているヒマはない。
すると、何度も電話がかかってくる。
こちらは意地でも出ない。
相手も電話をやめない。
意地の張り合いである。

しかし、今回は私の方が勝った。
十何回目かの電話で姉が諦めたのだ。
これは極めて珍しいことだ。
いつもなら、こちらが根負けするまで、電話をやめない。

異常である。
しかし、彼女はそれが異常だとは、少しも思っていない。
そこが、怖い。
だから、私はいつも姉から逃げている。

しかし、今回は勝った。
おそらく、初めてのことかもしれない。
こんなことで喜ぶ方がどうかしてるが、いつも多大なストレスを与えられているので、これは私にとってかなり痛快な出来事である。

しかし、その喜びもつかの間だった。
Cメール攻撃のことを忘れていた。
スパイ大作戦」のテーマが鳴ったのだ。

以前は、姉からのメールは「必殺仕事人」のテーマが着メロだったが、家族から「心臓に悪い」というクレームがついたので、「スパイ大作戦」に変えていたのだ。
これが、鳴った。

鳴り続けた。

間断なく「スパイ大作戦」が鳴っている。
あまりうるさいので、電源を切った。
姉の性格を考えると、こちらが返信をするまでCメール攻撃を続けるだろうが、今の私は以前の私とは違う。

今の私は、投げ遣りである。
勝手にしろ、という思いが強い。
「お前の愚痴なんか一生聞いてやるもんか」と思っている。

半日たって、携帯の電源を入れると、Cメールが蓄積されていた。
いくつ送られてきたか数えてはいないが、百は優に超えていただろう。
それを読まずに、まとめて消去した。

我ながら、強くなったものだと思う。



2006/10/31 AM 11:37:16 | Comment(1) | TrackBack(0) | [日記]

私は機嫌が悪い
今週は久しぶりに、仕事が大量に入ってきた。

前一週間の、あの暇な状態はいったい何だったのか、というくらいの盛況ぶりだ。
しかし私は不機嫌である。
いまだに持病のめまいが治らないということもあるが、突然あることに気づいてしまったせいだ。

ヨメと息子は、仕事が入ってきたことで、舞い上がっている。単純に喜んでいる。
「下旬には、仕事は大量に入る」と言っておいたのに、たった一週間、仕事が少なかったというだけで落胆し、仕事が入ると途端に嬉々とする。

どうも釈然としない。
何かが私の心にわだかまっている。
そんな気分で仕事をしている。

今週は、月曜から営業にまわり、4種類の仕事を貰ってきた。
すべてを順調にこなすには、2週間、ほとんど休まず仕事をしなければいけないくらいの量である。
しかし、それはいい。
仕事のペースは、身体に染み込んでいる。

とりあえず、取りかからなければいけないのは、毎月5日締めの小冊子の初稿だ。
他のは、少しずつデザインのイメージを膨らませていく方針なので、イメージづくりが中心になる。
イメージづくりは、家族が寝たあとの夜中がいい。

ある程度のイメージを作り、A4の紙にラフを鉛筆で書いていく。
これが、デザインのベースになるので、何度も納得いくまで書き直す。
そうしているうちに、腹が減ってきた。

今朝みそ汁を飲んでから、まともなものを口にしていなかったことを思い出した。
昼飯は食べなかった。
夕飯は、家族の食事を作る時、軽くつまみ食いをした程度で、腹に溜まるものは、今日一日何も食べていない。

時刻は、午前1時15分。
台所で何かを作るというのは、狭い家だから、子どもたちを起こしてしまう可能性がある。
かといって、スナックの類は好きではない。
このまま寝てしまって、朝まともなものを食おうかとも思ったが、空腹を一度意識してしまうと、我慢ができない。

そこで、おにぎりかサンドイッチをコンビニに買いに行こうと思った。
上着を引っかけて、自転車に乗って500メートル離れたコンビニの前まで来た。
しかし、ここで突然ひらめいた。

この先、800メートルほどいけば、私が「隠れ家」として使っている取引先の倉庫がある。
そして、その手前にはコンビニがある。
そこで何かを買って、隠れ家で食べるのは良いアイディアではないだろうか。
すぐ実行に移した。

真夜中に、寒々しい倉庫の中で、ひとり夜食を食べるのは気味が悪いという人もいるかもしれないが、私は平気である。
稲川淳二のように、怪しい霊感など持ち合わせていないから、何も見えないし、何も聞こえない。

隠れ家の古いソファに座って、コンビニで買った「UFO」を食べながら、500ccの発泡酒を喉に流し込んだ。
この季節、さすがにこの時刻は寒いので、エアコンを入れた。
エアコンのリモコンで内部温度を見てみると、16度。「急速暖房」にした。

食べ終わって、発泡酒を飲みながら、CDラジカセでエリック・クラプトンのベスト盤をかけた。
Tears in Heaven」が心に沁みる。
突然逝ってしまった我が子への鎮魂歌(レクイエム)。
ネックを滑るクラプトンの左手が、泣いているのがわかる。
フレットを押さえる時のクラプトンの指が、我が子への溢れる想いで、咽(な)いているのだ。
切なくかすれたクラプトンの声が、夜の暗がりに吸い込まれていく。
我が子への溢れんばかりの愛と、無念の想いが、天国への階段を上っていく。
名曲は、いつまでも色褪せない。

深夜なので、ライトは最小限しか付けていない。ほのかな灯りの中で、音楽を聴きながら、発泡酒を飲んでいる。
壁の薄いシミが、猫の形をしているのを見つけて、小さく笑ってみる。
近くの道路を走るトラックの音は、深夜にはかなり大きく聞こえるが、それも気にならない。
むしろ、その後に来る静寂の引き立て役になっている感じがする。

落ち着く。

こんな暗く汚い倉庫で、ひとり発泡酒を飲んでいるのに、なぜこんなにも気持ちが安らぐのか。
その感覚に、私は愕然とした。

今まで、ずっと我が家こそ安らぎの場だと思っていたのが、そうではなくなった、という現実。
それに気づいたとき、狼狽した。

たった一週間でも、ひとの感覚はガラリと変わる。
仕事が少ない時でも、まわりが平然としていたら、居心地の良さは変わらなかっただろう。
月末の仕事のための「休養期間」。
それで済んでいたはずである。

しかし、それから先は愚痴になる。突然眠気が来たので、そのまま毛布をかぶって寝た。
目覚ましはなかったが、6時前に目が覚め、家族が起きる前に家に帰った。

いつも通り、息子の弁当を作り、みんなの朝飯を作った。

しかし、今も私は機嫌が悪い。



2006/10/28 AM 08:20:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

プチ家出記 その4
大地の揺れを感じながら、自然と眠っていたようだ。

うつつの中で、Janne Da Arcの「月光花」が流れるのが聞こえた。
娘からのCメールは、「月光花」を着メロにしてある。メロディは10秒で切れたから、Cメールであることは間違いない。

携帯電話を取ろうと目を開けたら、ススキダのひげ面が間近にあった。
「おい、どうした。具合はどうだ」

私は、上体をゆっくりと起こした。
ひとに心配されるのは好きではない。
平気だ、ということをアピールするために、携帯を開いてメールボックスを覗いてみた。
周囲も携帯の液晶画面も揺れていたが、気分が悪いほどではない。

Cメールは、やはり娘からだった。
「おい、今どこにいる。連絡しろ」という表示を、目を液晶画面すれすれまで寄せて、時間をかけて読んだ。
発信時刻を確認したら、4時3分だった。娘は金曜日は、いつも4時前後に帰ってくる。
学校から帰ってすぐ、メールをしてきたようだ。
つまりは、心配しているということだ。

「悪いな、ピクニックの途中だが、娘からラブコールが来た。帰らないと」
私がそう言うと、ススキダが首を強く振った。
「アンタ、自分がどれくらいノビていたのか、知らないのか。2時間だぞ、2時間! 普通じゃねえぞ。うちでもう少し休んでいけよ」

よく見ると、身体にタオルケットが掛かっていた。
わざわざ家から持ってきて、掛けてくれたのだろう。
この体調で遠出をするのは、軽率だったようだ。
「悪いな、迷惑を掛けた。でも、帰るよ。娘も心配しているみたいだ」

「それなら、車で送るから、ちょっとここで待っていてくれ」
ススキダが今にも走り出しそうだったので、彼の腕を掴んだ。
「いや、電車で帰る。もう治った。だから、大丈夫だ」

「あのなあ、いい加減にしろよ。もっと素直になろうぜ。無理だよ。無理! 今のアンタじゃ、途中でぶっ倒れるぞ、ひとの言うことは聞けよ!」
しかし、これ以上の厚意を受けるわけにいかない。
立ち上がろうとした。

そんなとき、迫力のある声を聞いた。
「Mさん、言うことを聞かないと、お付き合いはこれっきりにしてもらいますよ!」
あまりに大きな声だったので、最初は誰が怒鳴ったのか、わからなかった。
しかし、ここにはススキダの他には、彼の奥さんしかいない。
声がした方を見ると、大きな目をつり上げて、ススキダの奥さんが私を睨んでいた。

彼女は、素早く私の左手首をつかみ、右手の人差し指と中指を当てた。
脈を診ているようだ。
私はおとなしく、されるままにしていた。彼女の姿に、何となく威厳のようなものを感じたからだ。

「脈は普通ですね。寝てる時の呼吸も正常でしたから、心配はないと思いますが、今日は、私たちの言うことを素直に聞いてください」
そして、顔全体で笑ったあと、一呼吸おいて「いいですね」と付け加えた。

「はい」と答えるしかない。
救いを求めるように、ススキダの顔を見ると、頷きながら嬉しそうに、あご髭を撫でていた。
「こいつ、ナースだったんだ。お前がぶっ倒れたから、俺は慌てて救急車を呼ぼうとしたんだが、こいつは冷静に『もう少し様子を見ましょ』って、お前の鼻に耳を近づけたり、首に指を当てて脈を診たりしてたよ。大したもんだろ」

「無駄話はいいから、早く車を回してきなさい」
ナースは、ススキダの背中を軽く叩いて、右手の指を三笠公園の出口の方に向けた。
「はい」
ススキダも、ナースの命令には逆らえないようだ。

ススキダの運転(A級ライセンスの持ち主)、奥さんの介護という、贅沢なドライブが始まった。
車はトヨタのエスティマ
シートを倒せば、楽に横になれる広い後部座席で、休ませてもらった。
横には、ナースが付いている。

「何か飲み物は?」と聞かれたので、まだ2本残っているはずのビールをリクエストした。
「Mさん、あなたの性格は、今日ですべて把握しましたよ。あなたがススキダと友だちでいられる理由がよくわかりました。似たもの同士です」

それを聞いてススキダが、運転席から「俺はそんなにひねくれてねえぞ」と吼えた。
「彼とは違うからこそ、ビールを飲みたいんですよ。単純に喉が渇いただけです」
「でも、残念ながら、ビールは置いてきてしまいました。あるのは、アップルジュースとお茶だけです」
毅然として言うので、「じゃあ、アップルジュースを」と言うしかない。

コップ一杯のアップルジュースは、身体全体にしみ渡るようで、ざわざわと乱れた血が落ち着くような感じがした。
奥さんはさらに、アイス枕を私の首の下にあてがってくれた。
冷たくて心地よい。さらに落ち着いた。
毛布を掛けてくれたので、また眠った。

起きた時は、我が家まであと10分ほどのところに来ていた。
携帯電話で我が家に電話しようとした。
すると、「私たちはお家の近くに送り届けたらすぐ帰りますから、Mさんは電車で帰ったということにしておいてください」とススキダの奥さんが強い口調で言った。

「いや、それはできませんよ。これほどご迷惑をかけて、そんなこと、できるわけがない」
それは、私に不誠実な人間になれ、と言っているのと同じだ。
いくら何でも、そんなことはできない。

「だってよぉ、家族に心配かけたくないだろ。アンタ、ひとに心配かけることが一番嫌いなんじゃなかったっけ。俺たちは心配なんかしてないからさ、夜のドライブができて楽しかっただけ。家族に心配かけたくないなら、俺たちの言うことを素直に聞いた方がいい」
「そうですよ、私たちはMさんの心配なんて、全然してないんですから。無理矢理、車に乗せただけですからね」

ご厚意に甘えて、団地のバス通りで下ろしてもらった。
「今度無茶したら、注射しますから」
ススキダの奥さんが腕まくりをして、大袈裟に注射する格好をすると、ススキダがのけ反って笑っていた。

私は、すごくいい友だちを持ったのかもしれない。

私は、走り去っていくエスティマに向かって、頭を下げた。
下げ続けた。
地面が揺れていたが、気にならなかった。
滲んだ視界が、むしろ心地よかった。

携帯電話が震えたので、頭を下げたまま出た。

「おい、腹減ったぞ、早くメシ作れ!」
「わかった。2分で帰る」

私のプチ家出が、終わった。



2006/10/23 AM 08:03:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

プチ家出記 その3
三笠公園にピクニックに行くことになった。

私とススキダと、彼の奥さんと。
ススキダに子どもがいれば、「お子さんも」と誘うところだが、彼に子どもがいるかどうかは知らない。
余計なことは聞かない主義なので、三人で行った。

私が、「お弁当を作ろうか」と言ったら、ススキダは「殺す気か」と真面目に怒っていた。
「言っておくが、俺は金がないぞ」と威張ったら、「アンタの貧乏は有名だからな」と鼻で笑われた。

近所の総菜屋で、惣菜とおにぎりを買い込み、酒屋で缶ビールを6本買った。
いや、買ってもらった。
奢られるものの礼儀として、一応、最敬礼はしておいた。

ススキダは顔に似合わず、酒を飲まない。
この6本は、私と奥さんとで飲む。
青空の下で飲むビールは、さぞ美味いことだろう。

三笠公園には、その名の通り、戦艦「三笠」が置いてある。
船には興味があるが、有料と聞いたので、途端に興味を失った。
ススキダに「アンタの分も払ってやるよ」と言われたが、奢られっぱなしというのは、後味が悪い。
「外から見るだけで充分だよ」
強がりを言ったら、「アンタはきっと、偏屈ジジイになるな」と、また鼻で笑われた。(言われるまでもなく、すでに偏屈ジジイになっている)

昼飯の前に公園をブラブラとした。
三笠公園は、コンセプトがわかりやすい公園なので、公園としての佇まいは悪くない。

自治体が作る公園の多くは、「一応公園でも作っておくか、金もあることだし」というお気楽さで作ってあるから、腹立たしさを感じることが多い。
だが、この「三笠公園」は、戦艦「三笠」への敬意が見て取れるし、かといって、「三笠」だけが浮いているわけではなく、公園としてのバランスはそれなりに取れている。

池があったり、噴水があったり、モニュメントがあったりの、パターン化した記念公園とも言えるが、横須賀という地理的なものも左右して、海を望むパノラマは、エキゾチックな趣があって文化を感じさせる。

しかし、一時間も歩くと、さすがに気持ちがだれてくる。
そんなとき、いいタイミングで、ススキダの奥さんが「Mさん、ビール飲みたいんじゃありませんか」と聞いてきた。

普通の大人なら、多少は遠慮するのだろうが、私にその方程式はない。
「飲みましょうか」
即答した。

米軍基地が遠くに見えるベンチに腰掛けて、奥さんと乾杯した。
ススキダは、ペットボトルのお茶。「生茶」だ。
私は奥さんと競うように、ビールを一気飲みした。

こんなときは、とりあえず焼き餃子かな、と思っていたら、奥さんが総菜屋の紙袋から「焼き餃子」を出した。
ススキダには、もったいないくらいの奥方だ。

焼き餃子を喰い終わったところで、本格的に昼食にしよう、とススキダが言うので、野外ステージのそばに移動した。
シートを敷いて、2本目の乾杯をした。
今度は、一気飲みはしない。惣菜を味わいながら、ゆっくりと飲む。
潮の香りを肌に感じながら飲むビールも美味いものだ。
スモークサーモンと焼きナスのマリネが意外なほど美味い。ビールに合う。

ススキダの奥さんが松本市に以前住んでいたということを聞いて、二人で上高地の話題で盛り上がった。
それを見ていたススキダが言う。
「何か、アンタらの方が夫婦みたいだな」

ススキダが拗ねるので、ススキダの得意なポーカーをすることになった。
ススキダはなぜか、ポーカーが得意だ。
なぜ得意なのか、と聞いてみたが、「俺はこれで運を使い果たしているからさ」と意味のないことを言うだけだ。

この日も、ススキダのひとり勝ちだった。
ススキダの機嫌が直った。
わかりやすい男である。

気が付くと、日が陰ってきた。空を見ると、太陽の顔が見えない。雲が多い。
今の私の体調は、この程度でも微妙に変化を起こすようだ。
気分が悪くなってきた。

「悪いけど、横にならせてもらうよ」
そう言って、仰向けに寝た。

「Mさん、顔色悪いですよ」
「おい、どうした」

横須賀の地面が揺れていた。
空も揺れていた。
そして、おそらく横須賀の海も揺れていた。

(その4に続く)



2006/10/22 AM 08:30:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

プチ家出記 その2
めまいは治まらないが、隠れ家で休んでいて、退屈だ、と突然思った。

そこで金曜日、朝の6時に起きて、息子の弁当を作り、家族の朝飯も一緒に作った。
そして、皆が起きる前の6時50分に家を出た。
財布には、890円しか入っていないが、SUIKAには、4千円以上チャージしてある。

自転車に乗って、東大宮の駅まで行き、駐輪場に自転車を預け、7時25分の湘南新宿ライン「大船行」に乗った。
電車は混んでいたが、運良く大宮駅で座ることができた。
そして、すぐに眠った。

起きたのは、「新川崎駅」の手前。携帯を開けて時刻を確認したら、8時半近かった。
乗り換えの「横浜駅」までは、もうすぐである。
危ないところだった。
一瞬、終点の大船まで行ってもいいか、とも思った。
別に、目的があって電車に乗ったわけではない。

しかし、目が覚めてしまったので、一応、横浜駅で京急本線に乗り換えた。
車内で、横浜駅のキオスクで買った、MEIJIの「ミルクチョコレート」をかじった。
これが朝食代わりだ。

車内はそれなりに混んでいたが、座れた。
家から持ってきたステンレスボトルに入れた熱い珈琲を飲みながら、チョコをかじった。
京急に乗るのは久しぶりだ。
横須賀に行く時は、いつもJRで行く。
JRの方が何となく馴染んでいるし、海に近いからだが、今回は目的がないので、京急に乗った。
少しでも違ったことをすると、気持ちが沸き立つ。新鮮な気がする。
暇なデザイナーであることを忘れる。(めまいのことは忘れないが)

汐入駅に着いた。
ススキダの事務所は、汐入駅から4、5分のところにある。
近くに「ベイスクエアよこすか」という複合施設があるが、丹下健三氏が設計しただけあって、見事にまわりから浮き上がっている。
さすが巨匠のやることは違う、と見るたびに感心する。

駅を出て、ススキダに電話した。
目的がないとはいえ、近くまで来て友人に挨拶をしないというのは、仁義に反する。
ススキダとは、先月も会った。それから一ヶ月もたっていない。

「忙しいか」
「いや、ヒマだ。今どこにいる」
「君の事務所のすぐそばだ」

ススキダの女っぽい笑い声が聞こえた。
ススキダは、外見はひげ面の強面(こわもて)だが、笑い声は可愛い。
彼の笑い声を聞くと、他の人が笑ったのではないかと思って、一瞬、回りを見回してしまう。
それほど顔と笑い声とのギャップがすごい。
これは、一つの芸だと言っていい。(ゲイではない)

事務所に入る。
ススキダと一ヶ月も経ずに再会というのは、私の記憶にはない。
知り合って4年たつが、おそらく初めてだ。
彼は友人のひとりだが、彼との付き合いは、大抵は仕事のやり取りだけで終わることが多い。
私は彼にコピーライティングを頼み、彼は私に組み版の仕事を出す。
彼とは一緒に酒を飲んだことはないし、食事をしたこともない。

唯一の共通の趣味は、スピーカーか。
以前、オークションに自作のスピーカーを出したことがある。
気まぐれで作ったものの、大きすぎて持てあましていた。そこで、オークションに出したのだが、それに食いついてきたのが、ススキダだったのだ。
しかも、こちらの予想の倍以上の値段で落札した変わり者だ。

興味を持って、メールのやり取りを何回かしたら、仕事でクロスする部分があることに気づき、それから仕事を出し合うようになった。
年に2、3回のやり取りだが、仕事はさておき、スピーカーを大事に使ってくれているというのが、何よりも嬉しかった。
それだけで、友人になる資格はある。

前回来た時は、奥さんはいなかったが、今日はいた。
型通りの挨拶をしながら、土産を持ってくるのを忘れたことを悔やんだ。
ススキダひとりならいいが、奥さんも、ということになると、手ぶらでは失礼になる。
そういうことには、私はこだわる。
しかし、ないものはない。
だが、私は幸運な男だ。

バッグの中に、昼飯の代わりにしようと思って、先日土産でもらった「鮭サブレ」が入れてあったことを思い出した。
梱包は解いてなかったので、それをそのまま渡した。
奥さんはこの珍品を、いたく喜んでくれた。

「家出してきたのか」
ススキダが、あごひげを撫でながら嬉しそうに言う。
「うそでしょ」
奥さんが口に手を当てて、驚いている。
目に愛嬌がある人だ。

三笠公園を見てみたかったんですよ」
思いつきで言ったのだが、ススキダはのってきた。
「いいね。今日はいい天気だ。ランチ作って、出かけるか」

ススキダの奥さんが、私たちの顔を交互に見て、まん丸の目で頷いた。

(その3に続く)


2006/10/21 AM 07:44:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

プチ家出記 その1
暇な状態は変わらないが、6年前から仕事を頂いている、熊谷のハウスメーカーから仕事の打ち合わせの電話が来た。

すぐにでも打ち合わせをしたいところだが、こちらの体調が今ひとつなので、来週にしてもらった。

私は、毎年6月頃になると、原因不明のめまいに悩まされる。
これは「突発性難聴」に罹ってからの症状だから、病気と因果関係があることは容易に想像できる。
ただ、それがなぜ6月だけなのか、ということが今もってわからない。
医者に聞けばわかるのかもしれないが、医者のもっともらしい顔を見るのは嫌いなので、いまだに原因不明のままである。

この原因不明のめまいが、10月中旬の今、突然やって来たのだ。
症状は、いつもと同じだ。
立っていても、座っていても、寝ていても、何をしても周りが揺れている。
頭痛や吐き気はない。

ただとにかく、揺れる。
譬(たと)えて言えば、小さな舟で波高3〜5メートルの海上を常に彷徨っている状態、と言ったらいいかもしれない。
6月の場合は、それが半月前後続いて、突然治まる。

誰に言ってもその不快感はわからないだろうから、誰にも言わない。
ひとり耐えている。
しかし、必ず治ることがわかっているから、それほど深刻に捉えてはいない。
嵐が過ぎ去るのを待つ心境である。
ただ、その嵐の期間が少し長いだけだ。

今回6月ではなく10月にめまい、というのが若干気にかかるが、今のところ新しい症状はないので、安静にしていれば治ると楽観している。どうせ、ヒマなんだし。

しかし、寝込むのは嫌だ。
というより、寝込んでいるところを人に見られるのが嫌いだ。
そもそも、私がめまいに苦しんでいるということは誰も知らないのだから、寝ていたらサボっていると思われるのがオチだ。

そこで、昼の間は、隠れ家に籠もることを思いついた。
取引先の倉庫が、我が家から1.5キロほどのところにあることを、先日思い出したのだ。
その倉庫は、20帖くらいのスペースに、使わなくなったパソコンや、デスクなどが置いてある。
それらの不要物は、倉庫の隅に山積みにされているだけなので、倉庫自体はかなり広く感じる。
衝立で仕切られた事務所風なものもあり、そこにはエアコンがある。電話はない。

綺麗ではないが、格別汚くもない。(少々床に埃が溜まってはいるが)
都合がいいのは、ほとんど誰もその倉庫には近づかないし、事務所には、若干汚れてはいるが、ひとり寝るには充分な大きさのソファが置いてあることだ。
コンビニが近くにあるという利点もある。
一昨日、その会社の社長の了解を取って、鍵を預かってきた。
社長には、「創作意欲をかき立てたいので」という、わけのわからない理由を言ったのだが、普段の行いがいいと、こんな馬鹿げた話でも信じてくれる。(そんなわけないか)

昨日の午後4時過ぎ、毛布とラジカセ、文庫本8冊を運び込んで、早速安静状態に身を任せた。
要するに、寝た。
起きたら、6時半になっていた。壁に直径70センチくらいの大きな時計が掛けてあるので、時刻はすぐ確認できる。

何にも煩わされずに寝たというだけで、気分はいい。
めまいは消えないが、ススで汚れた壁を見ながら珈琲を啜っても、不快感はない。むしろ、笑いたくなるくらい爽快だ。
誰もいない、というのと、私の所在を誰も知らない、というのがいいのかもしれない。
携帯電話はONにしておいたが、かかってこなかったようだ。
それでも、少しも寂しく感じないのが、不思議だ。

家に帰って、鼻歌交じりに夕食の支度をしていると、娘が「おい、何かいいこと、あったのか」と聞いてきた。

「フ・フ・フ」
笑いながら娘の顔を見ると、娘は私の尻に回し蹴りをして、「バカ親父」と言ったあと、「じゃねえ、キモ親父だ」と捨てぜりふを残して、自分の部屋に籠もった。

私は、今日も昼から、「我が隠れ家」に籠もる予定だ。
週明けには、めまいが治ってくれることを祈りつつ、自分用の弁当を今せっせと作っている。

しかし、隠れ家に籠もるというだけで、こんなにもウキウキするのは、なぜ?




2006/10/19 AM 08:48:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

プチ家出願望
書き飽きたが、暇である。

先日、同業者が同情して、仕事をくれた。
カラーの会社概要だ。A4の4ページ。
篤(あつ)い友情に、涙を流しながら仕事をした。

しかし、それも一日で終わった。

他にボリュームのあるホームページ作成の仕事はあるが、アップするのは来年だから、急がなくていい。
ストックの仕事がない状態は、続いている。

ただ、私自身はまったく焦ってはいない。
焦っているのは、ヨメと高校一年の息子だ。

人間の感覚というのは、不思議だ。
何ヶ月も忙しく仕事をしていると、それを当たり前のこととして受け取る。
しかし、少しでも「仕事がない」状態に陥ると、それまでいくら懸命に仕事をしたとしても、それは記憶の中ですべてリセットされる。
毎日仕事をしていたことは、ものの見事に忘れ去られる。
仕事のない今の状態だけがクローズアップされて、今までの貢献度はゼロになるのだ。
しかし、だからといって、ヨメと息子が仕事を持ってきてくれるわけではない。

どうしよう、どうしよう……。

オロオロするだけである。

小学五年の娘などは、話し相手ができたと言って、単純に喜んでいる。
最近興味を持ち始めたadobe社の「Illustrator」や「Photoshop」のわからないところが聞けるので、質問攻めである。

また、大のドラマ好きの娘は、私が同じドラマを見ると喜ぶ。
娘は、夜になると、一人で見るのはつまらないと言って、よく私を誘いに来る。
普段は仕事を抜けられないので、一緒に見る機会は少ないが、今回は時間があったので見た。

日曜日は「鉄板少女アカネ」。月曜日は「のだめカンタービレ」火曜日は「役者魂!」だ。
前2作は、原作が漫画らしく、出てくるキャラクターがすべてが漫画っぽくデフォルメされている。「役者魂!」は、シナリオがキッチリしていて、テンポがいい。
深刻な内容より、私はその方が好きなので、結構楽しめた。

ただ、「のだめカンタービレ」を見ていて、途中、オーケストラの練習のところで、フジテレビのアナウンサーが指揮者として出ていた箇所がある。
それを見た途端、一変に興味が薄れて、目を瞑った。そして、寝た。
娘の笑い声で目が覚めたが、ドラマはほとんど終わろうとしていた。

娘に「寝てただろ」と言われたので、「ごめん」と謝った。
局のアナウンサーがなぜドラマに出る? 何を勘違いをしているんだ! と思ったが、娘に言っても仕方がないので、黙っていた。

三日続けて、午後11時過ぎに寝たのは、何年ぶりか。
寝酒を飲む気にもならない。
まあ、寝酒を飲もうが飲むまいが、目を瞑れば、数秒で寝てしまうから、関係ないのだが。

定期ものの締切が毎月5日。その仕事の原稿が、23日にまとめて入ってくる。
そうなると、忙しくなる。
それが、今から待ち遠しい。

しかし、それまでを、どうするかだ。

小さな旅(プチ家出)にでも出てみようか。
それとも、フルタイムでアルバイトでもするか。

いらっしゃいませ〜。

真剣に悩んでいる。




2006/10/18 AM 07:49:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

iTunesでシャッフル
何度も言いたくはないが、暇である。

不動産のチラシの仕事(2色)と、カラオケパブの招待状の仕事は来たが、半日で終わった。
見積もりが一件あるが、仕事が欲しいからといっても、大幅なディスカウントはしたくない。
常識的な額より少々引いた額を出したが、仕事をとれる確率は少ない。

永年仕事をしていると、これは見積もりだけだな、というのはわかるものだ。
形だけの見積もりを出す、という儀式。
おそらく、今回もそれで終わるだろう。

「iTunes」からは、木村カエラの「OH PRETTY WOMAN」が流れている。
タイトなリズムと、心地よいギターのリフに合わせて、カエラのノリのいいボーカルが疾走する。
その煌めく個性と躍動感は、「才能」の二文字で表すのも陳腐なほどだ。カエラの替わりは誰もいない。

次に流れたのが倖田來未の「1000の言葉」。
至極のバラードだ。倖田來未の艶のある高音が効果的な、スケールの大きな楽曲である。
彼女がブレイクするはるか昔の曲だが、アーティストしての完成度の高さを随所に感じることができる佳品だ。

次は、サザンオールスターズの「殺しの接吻(キッス)」。
まるで映画のワンシーンのように、情景が浮かぶ桑田佳祐の歌詞。
どうせ愛など幻影 一人芝居のようなもの あなたのものになった瞬間 すべてが終わってた 嗚呼 肉体と魂を 優しく切り離して 嗚呼 私を殺る前に お別れの接吻をください
桑田らしからぬ描写的な歌詞が、ねちっこい桑田のボーカルとマッチして、今までと違ったサザンを聴かせてくれる。

Salyuの「風に乗る船」。
圧倒的な声量。表情豊かな天性のトーン。歌手としての才能を溢れるほど持ち合わせたこの天才歌手は、どんな歌でも名曲にしてしまう力がある。小林武史の作るこの曲は、他の人が歌えば普通の曲だが、Salyuが歌うとメロディに熱い血が流れる。歌手の力量を実感できる曲だ。

Janne Da Arc「月光花」。
小学五年の娘が気に入っている曲だ。癖のない高音が聴きやすい。バラードにあった声質をしていると思う。楽曲自体は、何の冒険もしていない。売るために作られた曲という感じがするが、演奏やアレンジは悪くない。曲全体のバランスの良さは、ユニットとしてのバランスの良さだろう。

柴咲コウの「Sweet Mom」。
自作の歌詞がいい。
もろい芯 見せずにつよく そう思うほどに崩れる 立ち直る術を知らずに 何度も溺れた…
詩人というものが、言葉を紡ぐ人ならば、柴咲コウは紛れもなく詩人に属する。
歌い手としては、高音の苦しさは、ボイストレーニングでカバーできる。それさえ克服すれば、一流のアーティストになれる可能性を秘めている。

Bz「恋心」。
これは、いつ頃の歌だったろう。10年以上前かもしれない。Bzの曲はすぐわかる。これはミュージシャンにとって、おそらく一番必要なものだ。口語調の稲葉の歌詞。それをキッチリしたメロディーに乗せる松本の職人芸。どちらもプロだ。これこそ彼らの真骨頂と言えるだろう。

竹内まりやの「返信」。
大ベテランと言っていい人だ。名曲「駅」から、歌謡ポップスのメインストリートを突っ走って、その才能は枯れることがない。ある意味、桑田佳祐と双璧というポジションにいる人ではないだろうか。ご主人の山下達郎が職人なら、この人は明らかに天才肌だ。どんなときも「竹内まりや」というポジションを崩すことがない。

Destinys Child 「Survivor」。
アメリカのショービジネスは、腐った果実だ。熟した時期を遥かに過ぎて、腐臭を放っている。ティーンの小娘が腰を振り、セクシーさを強調するだけの幼稚さ。すべてが亜流 だ。男性歌手は、風刺が空回りして、時代を読めないほど、堕落し始めている。その中で、デスティニーズ・チャイルドだけは、まだましだ。かろうじて洗練されたエンターテインメント性を維持している。しかし、他のアメリカのショービズの多くは、明らかに退行して、その姿に先駆者の姿を見いだすことはできない。少なくとも、ショービズの世界では、アメリカに見倣うべきものは、ほとんど存在しない。

iTunesをシャッフルで聴いていると、面白い。
どれもが好きな曲なのだが、流れる順番によって、曲の感じ方が微妙に変わる。
ただ確かに言えるのは、現代の日本の歌手は、上手くなったな、ということ。

私の友人たちは、最近の流行をまったく受け付けない人間が多い。
まるで、流行に背を向けることが趣味ではないかと思うほど、流行に対して頑(かたく)なである。
カラオケに行くと、自分の青春時代のフォーク(死語か)などを、思い入れタップリに歌う。

絢香の歌唱力に関して、私がどんなに力説しても、彼らの「昔は良かった」という思いこみを覆すことはできない。
彼らが認めるのは、かろうじて宇多田ヒカルあたりまでだ。

映画やドラマに関しても、「昔は良かった」方式を改めない。
「昔の俳優は、ほとんどがセリフを棒読みしていた」などと私が言おうものなら、「非国民」を見るようなきつい眼差しを向ける。

「無理して、若ぶりやがって!」と言われたこともある。

しかし、どう言われようと、やはり今がいい。
昔は良かったかもしれないが、今もいい。
歌の世界に限って言えば、才能ある若い世代を見るのは、私の楽しみの一つだ。

そんなことを思っていると、「昔は良かった」世代の友人から、仕事の依頼が来た。

「お前の才能も、昔の方が良かった」と言われないように、スイッチを切り替えなければいけない。


2006/10/16 AM 11:46:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

酒豪チヅルさん
一流デザイナー・ニシダ君のPCを直した話の続き。

PCは無事直り、私は彼にビールをおねだりした。
仕事で使っている1DKから、彼の生活の場である隣の2DKに行こうとした。

その時、突然思い出したことがある。
彼の2DKの部屋に行くのは約2年ぶりだが、あの時は、たしかニシダ君には同棲している彼女がいた。

今もその同棲は続いているのか。
あれ以来、聞いていない。
確かチヅルさんと言ったが、とてつもない酒豪で、前回は一時間足らずのうちに缶ビールを5本あけていた。

私も付き合ったので、当然私も5本飲んだ。
その時は何でもなかったが、電車に乗っている最中に体が熱くなって、大宮駅でいったん降りて、ホームでミネラルウォーターを立て続けに2本飲んだことを覚えている。

あの酒豪はまだいるのか。

部屋に入る前にニシダ君に聞こうと思ったが、私はそういうことを聞けないタチだ。
聞けないまま、部屋に入った。

そうしたら、ダイニングに「酒豪」がいた
ソファに座って、ダイニングのテーブルに置いたノートパソコンをいじりながら、左手にはしっかりとバドワイザーの缶を握りしめていた。

酒豪は、私の顔を見ると「わー、お久しぶり」と言って立ち上がった。
覚えていてくれたようだ。
しかし、そんなときも、バドワイザーの缶は離さない。
そして、次に言った言葉が、「乾杯しましょ!」

三人で、バドワイザーで乾杯した。

チヅルさんは、相変わらず焦げ茶色したフレームのダテ眼鏡をかけている。
彼女の年齢は知らない。姓も知らない。
彼らがどんな風にして知り合ったのかも、知らない。

チヅルさんが、調査会社の契約スタッフだということだけは聞いた記憶がある。
しかし、それがどんな仕事なのかは、詳しく聞かなかった。
要するに、何も知らないに等しい。

「以前、センセイが来た時、彼女、センセイのこと『いまどき珍しい人だ』って感心してたんですよ」
ニシダ君が言った。
それを聞いて、チヅルさんは大きく頷いた。
「そうそう。だって、私たちのこと、何にも聞かないんだもの。普通は、結婚はするの、とか、年はどれくらい離れているの、とか、いつどこで知り合ったの、とか聞くのに、Mさんは全然聞かなかった。私みたいに調査の仕事をしてる人間にとって、それはすごい新鮮なことだったわ」
首を振りながら、外人のように肩をすくめるチヅルさん。
シャープな顎のラインが、チャーミングな人だ。

私としても、彼らに興味がないわけではない。
ただ、踏み込んだ質問というのが嫌いなだけだ。
自分が踏み込んだことを聞かれた時は、「ほっとけ!」と思う。だから他人もそう思うはずだと、思っているだけだ。

「聞いて欲しいんなら、聞くけど」
「いえいえ、遠慮します」
二人で顔を見合わせて、笑いながら首を振った。

ニシダ君は、あまり酒が強くない。だから、付き合うのは最初の一本だけだ。
チヅルさんと私は、二本目はハイネケンを飲んだ。三本目はクアーズライト。四本目はまたバドワイザー。
チヅルさんは、外国のビールが好きなようだ。

飲みながら、三人の好きな東野圭吾の作品の話題で盛り上がった。
私は「分身」が好きだと言ったが、ニシダ君は「秘密」、チヅルさんは「パラレルワールド・ラブストーリー」だという。
自分が映画監督だったら、絶対傑作を作ってみせる、とみんなで力んだ。
キャスティングでも盛り上がった。
こういう話題は楽しい。
他人の暮らしを詮索するよりは、ずっといい。

2年前も、すべて外国製のビールで、締めはギネスビールだった。
「次なに飲みます?」
「ギネスがあるなら、ギネスを」

前回もギネスで締めたことを思い出したのだろう。チヅルさんが、また肩をすくめた。
「Mさんって、本当にユニークですよね。でも、そのユニークさは、嫌みじゃない。ね、シンジ」
彼女は、ニシダ君の肩に手を置いて、軽く揺さぶった。
ニシダ君は、嬉しそうに頷いていた。

「ニシダ君の下の名は『シンジ』というのか、初めて知った」
私がそう言うと、二人とものけ反って大笑いした。

短かったが、楽しい一時だった。

しかし、二人は結婚はしないのか。
気にはなるが、結局聞けなかった。



2006/10/15 AM 08:38:10 | Comment(0) | TrackBack(1) | [Macなできごと]

置き去りにされた悲しみは…
暇だ。

単発で仕事は来るが、すぐ終わる。
仕事のストックがない状態は、久しぶりだ。
一年ぶりか、それ以上だろう。

景気は、良くなったんじゃなかったか。
もしかして、置き去りにされた?

そんなとき、売れっ子デザイナーのニシダ君から電話がかかってきた。
彼からの電話はいつもSOSだ。
つまり、彼の機械の調子が悪い時だけ呼ばれる。
仕事にはならないが、本物の売れっ子デザイナーの仕事ぶりを見るのは大変参考になるので、呼ばれたら大抵は行くことにしている。

暇つぶしには、丁度いい。
いつも、ビールをご馳走してくれるし。

ニシダ君の仕事場は、浦和駅から10分もかからないところにある。
オートロックのマンションの1DKの仕事部屋、そして隣の2DKの部屋も借りて、そちらを生活の場としている。
さすが、一流のデザイナーである。
私の知り合いで、一流企業をクライアントに持っているのは彼だけだ。

格が違う。

「お待ちしてました、センセイ」
彼は、私のことをいつもそう呼ぶ。
私が彼より上なのは、年齢だけ。

「センセイ」の方が、はるかに格下という現実。

普通の人だったら、「センセイ」と呼ばれたら嫌がるだろうが、私は普通の人ではないので、気にしない。

早速、彼のPCの症状を聞いてみた。
電話でもあらまし聞いたが、現場で詳しく聞いた方が、イメージが湧きやすい。
彼によると、昨日から、外付けのFirewireのハードディスクとDVD-RUSBのMOがコピーの途中でエラーになるという。

ということは、おそらく原因はあれだ。
私は彼のG4の筐体を開けて、我が家から持ってきたFirewireとUSBがコンボになったカードを空いているカードスロットに差し込んだ。
そして、G4を起動させる。
その後、外付けの機器を新しいカード端子に繋いだ。

そして、ハードディスク、DVD-R、MOの順に100MB程度のデータをコピーしてみた。
同じことを三回繰り返したが、エラーはなかった。
それでお終いである。
要は、FirewireとUSBの端子が、調子悪かっただけだ。
20分もかからなかった。

それを見てニシダ君が大袈裟に、感嘆の声をあげた。
「センセイ、まさかもう終わったなんてことは」
「終わったよ」

ニシダ君は、デザインは一流だが、機械音痴だ。
自分が使っているマシンのことも、ソフトの仕組みもよく知らない。
彼の仕事部屋のネットワークも私が組んだ。
サーバーという概念も、WEBの概念も全くわからない。

しかし、それでも彼は一流である。
デザイナーは、そんなことは知らなくていいのだ。
デザインができればいい。才能があればいい。

才能がないことを知識で誤魔化している私などは、厳密な意味でのデザイナーとは言えない。
だが、ニシダ君は、そんな私を頼ってくれている。
私は、それだけでいい、と思っている。
必要とされる、というのは嬉しいものだ。

ニシダ君が言う。
「この間、センセイと連絡が取れなかった時、業者にサポートを頼んだんですが、直るまで5時間以上かかりましたよ。それなのに、センセイは何でそんなに簡単に直せるんですか」

「彼らと俺とでは、仕事の意味が違うからだ」
「えっ、どういうことですか」
「彼らにとって、君の機械が直っても直らなくても、大したことではない。機械の替わりはいくらでもある。彼らがこの機械で仕事をするわけではないからね。
だが、少なくとも俺の場合は、機械の替わりはない。自分の機械を直さなければ、仕事に差し障る。時間がかかるほど、自分の首を絞めるようなものだよ。
だから、気合いが違う。できれば、一時間以内に直さないと、仕事のダンドリがどんどんと先にずれていく。サポートの人たちは、直さなくてもいいが、俺の場合は直さなければいけないんだ。
大袈裟に言えば、背負っているものが違うんだ。俺の時間は、彼らより大事なんだよ。その違いだ」

これは言わなくてもいいことだったかもしれない。
ニシダ君は、恐縮して、しどろもどろになった。

「ああ、センセイの仕事の邪魔をしてしまったんですね。貴重な時間を割かせてしまって、何といったらいいか……あのぉ」

私は、慌てた。
「いや、今はさ、そのぉ、何だ、無茶苦茶ヒマだから……、むしろ喜んでかけつけた、っていうか」

それを聞いても、ニシダ君は、申し訳なさそうな顔を崩さず、泣き出しそうな顔をしている。
私は、さらに慌てて言った。

「あのさぁ、ビールを楽しみにしてきたんだけど、もらえる?」

図々しい申し出だが、これは効果があったようだ。
ニシダ君は、途端に笑顔になって、頷いた。

「飲みましょう、飲みましょう。じゃあ、我が家に移動しますか」
我が家といっても、隣だが。

ニシダ君は、景気から置きざりにされたデザイナーの背中を押しながら、嬉しそうに歌っていた。
「ビール、ビール、ビールを飲むぞ」

一流デザイナーは、ひどい音痴だった。




2006/10/14 AM 10:10:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

さよなら、キクチ
プリンターの調子が悪いので、夜、近所の印刷会社のレーザープリンタを使わせてもらった。
会社の鍵は預かっているので、いつでも使える。だから、助かっている。

夜の11時半過ぎ、広い印刷所の中で一人作業していると、心細さを感じる。
幸い今日は出力するデータも少ないので、順調にいけば30分もかからないで終わるはずだ。
何もトラブルがないことを祈りつつ、イラストレータを開き、データをMOから直接読み込み、プリンターに送った。

出力するのは、B4が4枚。
画像データは軽く作ってある。データは、順調にプリントサーバの方に行ったようだ。
あとはプリントされるのを待つだけだ。

喉が渇いてきた。

印刷会社の冷蔵庫には、私が以前入れておいた缶チューハイがあるはずだ。
10本買って入れておいた。
私が今までに飲んだのは、3本。
残りは7本のはずだが、「喉が渇いたら、飲んでください」と貼り紙をしておいたから、きっと誰かが飲んでいるはずだ。

まあ、1本残っていればいいか、と思って冷蔵庫を覗いたら、BINGO! 本当に1本残っていた。
しかも、私の好きなグレープフルーツのチューハイだ。
中に6Pチーズがあったので、それを一個失礼して、一口かじった。
6Pチーズは、久しく食べていない。懐かしい味がする。
グレープフルーツ味のチューハイとは合わないかもしれないと思ったが、そんなことはなかった。
ベストではないが、いいマッチングだ。

思わず鼻歌が出る。
最近気に入っている、絢香の「三日月」のサビだ。

プリンタも順調に動いている。
一枚目がプリントされたようだ。

またチーズをかじって、チューハイを飲んだ。
そんなとき、ジーパンの尻に入れた携帯が震えた。
ずっとマナーモードにしたままだった。
発信人を見ると、印刷ブローカーのキクチだ。

キクチは、図々しい男だ。
気配りを知らない。
彼は、むかし大手自動車会社の営業マンをやっていたと言う。係長までいったと聞いたが、その割りに人の心が読めない男だ。
どんな場合も自分の都合を最優先する。
俺は押しが強いんだよ、と自慢気に言っているが、私に言わせれば、自分勝手なだけだ。

キクチは、真夜中でも平気で電話をしてくる。
仕事の相談が多いが、私には一文の得にもならない内容の場合がほとんどだ。
だから、あまり出たくはない。
だが、出ないと何度でもかけてくる。
舌打ちをしながら、出た。

「ああ、起きていましたか」
キクチは、いつも鼻が詰まったような声をしている。感じのいい声ではない。夜なら、なおさらそう感じる。
「ああ」
不機嫌な声で答えた。
しかし、そういったことには無頓着な男だ。こちらが不機嫌でも、キクチはまったく意に介さない。
自分の要求が相手に伝われば、それでいいのだ。人の感情など、どうでもいい。

「プリンタのトナーが切れてしまいましてね。A4で130枚プリントしたい。緊急を要するので、おたくのプリンタでしてもらえませんか」
「残念だった。うちも壊れてるんだ。だから、近所の印刷会社のプリンタを貸してもらっている」
言ったあと、しまった、と思った。
キクチは、この印刷会社を知っていたのだ。

案の定、彼は食いついてきた。
「ああ、もしかして、今そこにいるんですか。じゃあ、俺もこれからそこへ行きますから、使わせてください」
キクチは、嬉々として言った。彼の家からここまでは、車で20分くらいだ。すぐにも来そうな勢いだった。
私は怒鳴った。キクチは、機先を制して釘を刺しておかないと、つけ上がるタイプだ。

待て! 言っておくが、タダだと思うなよ。誰も見てないからって、それはできないぞ」

「いいじゃないですか、A4でたった130枚だ。見逃してくださいよ。Mさんさえ、黙っていてくれたら、いいことじゃないですか。友だちなんですから」
薄汚い自分勝手な理屈だ。

それを聞いて、私の何かがキレた。
深夜に自分勝手な言い分を主張されるのは、ご免だ。

「友だちなら、そんなセコイことはしないだろうが! 俺はこの会社の社長に信頼されてるから、こうして真夜中でも、機械を使わせてもらっている。裏切ることはできない」

「Mさん、頼みますよ、この埋め合わせはきっとしますから。今回は目を瞑ってください。俺とMさんの仲なんだから」
鼻の詰まったような声で懇願しているが、きっと向こう側では舌を出しているに違いない。

「悪いが、俺の友だちにはそんな勝手なことを言うやつはいない」
「なに格好つけてんですか。ビジネスでしょ」
「さっきは友だちで、今度はビジネスか! ビジネスなら金を払えよ」

キクチは、もったいを付けるような感じで、笑いを含んだ声でこう言った。
「Mさん、どうしちゃったの、本当に…。本当に、それでいいんだな?

脅しを含んだその物言いに、私は完全に爆発寸前だった。目の前にいたら、おそらく思い切りぶん殴っていただろう。

私は声を低くして言った。こんなときは、低い声の方がいい。
「おい、キクチ、わかったよ。来いよ。そして、いま俺がどんな顔をしているか確かめてみな。話はそれからだ。絶対来いよ!

私は電話を切った。
図々しいキクチのことだから、来るかもしれないと思った。
どちらにしても、もうこれから先キクチと付き合うつもりはない。

プリントされた4枚をゆっくり校正しながら、私は一時まで待った。

しかし、キクチは来なかった。

さよなら、キクチ。



2006/10/13 AM 07:39:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

徹夜はしたけれど…
ドタキャンされた。

9月末に電話があって、見積りもして、納期も確認した。
メールでも打ち合わせをして、文字原稿ももらっていた。
今週中に商品画像を撮影し終わるので、来週半ばまでに初稿を出す予定を立てていた。

しかし、一昨日の夜
「企画が変更になりました。練り直しをしますので、年内にまたご連絡します」というメールが来て、仕事は白紙に。

8ページのパンフレット2種類と、100ページ近いカタログ。
久しぶりにボリュームのある仕事なので、年内は安泰、と思っていたが、ぬか喜びに終わった。

暇になる。
そして、ヨメがうるさくなる。
ヨメは、私が二日ものんびりしていると、途端に機嫌が悪くなる。
二日続けて徹夜をしても何のねぎらいの言葉もないが、たまに休むと、両目と口からトゲが出る。
そこで、営業に出かけるのだが、営業に行けばすぐ仕事がもらえると思っているところが、世間知らずである。

「どんな仕事もらってきた?」

よほど腕のいい営業マンでも、訪問したその日に仕事をもらえる確率はゼロに近い。
今のご時世なら、なおさらだ。
自慢ではないが、私程度のデザイナーなど、世間には掃いて捨てるほどいる。
買いかぶってもらっては困る。

しかし、仕事は欲しい。
そこで、ヨメが花屋のパートから帰ってくる前に、営業に出かけることにした。
以前仕事を貰ったことがある、大宮、浦和あたりの会社を回ってみようと思ったのだ。
一着しかない夏物のスーツ(秋なのに?)を着て、三本しかないネクタイのうち、茶色のを締めた。
足元を見ると、灰色の靴下の親指の部分が少し破れて、爪がのぞいていたが、靴を脱がなければいいだけのことだ。大したことではない。
そして、一足しかない革靴を履いて、外に出た。

私は右目が0.01以下の超弱視、そして右耳がほとんど聞こえないので、よほどのことがない限り、車の運転はしない。
目の場合は、眼鏡をかければ何とかなるが、耳が聞こえないというのは、かなりのストレスだ。
疲れがピークの時は、平衡感覚が突然なくなる場合がある。
そんなときは、眼鏡をかけていても、右目は強烈なめまいを感じて、視界が完全にぼやける。
そうなったら、自転車でも危険なのだが、我が家は最寄りの駅までかなりの距離がある。

だから毎回、最寄りの東大宮の駅までは自転車で行くことになる。
数十回、危険な状態になったことがあるが、自転車をすぐ止めて、人の迷惑にならない場所で休んでいれば、元に戻るので、毎回そうしている。

東大宮駅について、地下駐輪場に自転車を預けて、地下の階段を一段飛ばしで駆け上がった。
地下駐輪場内では携帯電話が繋がらないが、出口が見えるくらい明るい場所まで来れば、携帯は通じる。

あと階段15段くらいのところで、浜田省吾の「モノクロームの虹」のメロディが聞こえてきたので、発信者を見た。
桶川の得意先の担当者からだった。
「Mさん、いまどこですか?」
快活なフクシマさんの声が聞こえた。
「東大宮の駅ですが」
「ああ、ちょうど良かった。俺、今大宮に来てるんですよ。急ぎの仕事があるんですけど、どうですか。納期は今日を入れて五日。押せ押せの仕事ですが、Mさんなら、慣れたもんでしょ。どうですか。原稿いますぐ渡せますけど…」

渡りに船とは、まさにこのことか。
わざわざ営業に行かなくても、仕事が飛び込んできた。

これも普段の行いがいいから、と調子よくニヤける中年男。

貰った仕事は、B4のカラーのチラシが4件。
初稿は早ければ早いほど、喜ばれる。
だから、勢い込んで、半分徹夜で仕上げた。

しかし、当然のことだが、ヨメからねぎらいの言葉はなかった。



2006/10/12 PM 01:25:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

地下核実験を強行(兄と弟の立場)
成功したのか、失敗したのかは定かではないが、北朝鮮が核実験をしたのは確かなようだ。
ニュースを見ていると、コメンテーターが出て、専門的なことを言っているようだが、よくわからない。

短い時間に色々なことを伝えようとするせいか、各コメンテーターが人の話を聞いていない。
本来進行を取り仕切るはずの司会者も話に加わるから、余計わからない。
司会者は「無謀な行為だ!」などと言って熱くならなくていいから、ちゃんと意見をまとめて欲しいものだ。

コメンテーターも掛け持ちをして忙しいようだが、よく聞いていると、彼らも最新の情報を持っているわけではないようだ。
すべてが推測の域を出ない。

私のような素人の目から見ると、北朝鮮に核実験を行うだけの技術力・資金力があるか疑問に思えるのだが、北が「核実験を成功させた」と言うのを、彼らは簡単に信じている。
失敗、というのは、ありえないのか?
ということは、信じるに足る根拠を彼らは持っているはずである。
もし根拠を持っているなら、それこそ聞きたいのだが、司会者が聞いてくれないから、結局はわからない。

北朝鮮に核兵器を持たせたら、危険だ。
各局、各メディアが、そう言い立てるので、そのことは深く理解した。
北朝鮮が、アメリカに相手をしてもらいたい、という願望を持っているらしい、というのもよく判った。

日本が経済制裁をし、世界が制裁をすれば、北朝鮮は困る。
中国にも見捨てられたら、北朝鮮はさらに孤立するのだから、今回の行為は自分の首を絞めるようなものである。
愚かだ。
そう憤るコメンテーターがいた。

だが、そんなことはみんな判っているのではないだろうか。当事者の北朝鮮にも判っているのではないか。
しかし、それでも敢えて無謀な実験に踏み切った背景は、誰も判らない。
おそらく、北朝鮮の指導者にも判らないのではないだろうか。
とりあえず、サイコロの目をふってみて、何が出るか、出てから考えよう、としているように私には思える。
瀬戸際といえば瀬戸際だ。

何が出るか、というのは、大国の反応のことだ。
そして、国際社会の論調。
言い逃れのできない犯罪を犯しても、受け取る側の反応はそれぞれ微妙に違う。
彼らは、それを見極めようとしているのではないか。

この場合、核実験の成功や失敗は、問題ではない。
各国の反応さえ判ればいい。
とりわけ、アメリカと中国、韓国、そして核保有国。
そのあたりの見極めをした上で、これからの方針を決めようか。
私は、北朝鮮がそう思っているように感じる。

闇のように深く大きな沼に、何が棲んでいるかを知るには、できるだけ大きな石を落とした方がいい。
そして今、彼らは大きな石を落とした。

日本は、石の大きさに驚いて、過剰に反応している段階だが、落とした方は「お前なんか眼中にねえよ」と嘯(うそぶ)いているかもしれない。

私は先ず、核保有国、とりわけ中国の反応に興味がある。
出来の悪い不良の弟が、大きな石を落としたのを叱れるのは、兄だけだ。
もし毅然とした態度で叱れないのなら、中国も大したことはない。
大物を気取った、格好だけの若頭という存在でしかない。

「お兄ちゃんだって、去年やってたじゃないか!」
そんな弟の反論に、兄はどう答えるのか。

「俺とお前じゃ、立場が違うんだよ!」

そんな感じ?



2006/10/11 AM 11:27:12 | Comment(12) | TrackBack(0) | [メディア論]

「君が代」に泣いた日
今となっては、少々古い話になってしまったが…。

昨日友人と話をしていると、「その話題」が出た。
彼は、普段はその種の話題には乗ってこない男だが、今回に限り、かなりエキサイトしていた。

9月の終わりに、東京地裁が「国旗・国歌訴訟」で東京都に対して違憲判決を出したことに対してである。
友人のところは「朝日新聞」をとっているのだが、朝日新聞のはしゃぎ具合が気にくわないと言って怒っていたのだ。

我が家では、新聞を取っていないので、どの新聞がどうはしゃいで、どの新聞が「けしからん判決」と息巻いていたかは、わからない。
ただ、推測することはできる。
おそらく、はしゃいでいたのは「朝日」と「毎日」で、息巻いていたのは「読売」と「産経」だろう。

友人は…、といちいち書くのも面倒なので、カマタと書く。
カマタは、国旗・国歌に敬意を表するのは、国民として最低限備えるべき義務だと言う。
だから、人にものを教える教師が、率先しなければいけないことなのに、それを怠るとは何ごとか、と憤っているのである。

私も国旗・国歌は、象徴として、特別なポジションに置くべきものだと思っている。
そこは、賛成した。
国というカタチをとるなら、シンボルに拠り所を求めるのは、自然なことだと思っているからだ。
それは、どこの国でもしていることだ。

しかし、私はそれを強制すべきではない、とも思っている。
私に確たる主張があるわけではない。ただ、「強制」という言葉を聞くと、反射的に反撥したくなるだけだ。

要するに、私はひねくれ者なのだ。
だから、カマタに言った。
「俺はただ、強制されるのが嫌いなだけだ。そして、人と同じことをするのも嫌いだ。多数決を取るとしたら、必ず少数派を選ぶ。お前の意見は正論かもしれないが『強制』と言われたら、反撥する」

教育が強制を含むものであるなら、その教育にも反撥する
ただ、それだけだ。
だが、国旗も国歌も認める。
国として、必要なものだからだ。

昔話をしてみたい。

20数年前のことだ。
大学四年の最後、卒業旅行のつもりで、オーストラリアをひとり、貧乏旅した。

シドニー、ブリスベン、ダーウィン、キャサリン、エアーズロックの経路で、ひとり旅した。
ブロークンな英語で、あちこちで旅の恥をかき捨てにし、50日以上自由に動き回った。
エアーズロックからケアンズに行き、最後はメルボルン、シドニーを経由して、日本に帰ろうと思っていた。

そんなとき、ケアンズで、私と同じひとり旅の日本人と知り合った。
サイトーさんという20代後半の男の人だった。
彼とは、一緒に3日間、夜のマーケットや、朝のケアンズの海などを歩き回った。
野鳥の群などを飽きずに見ながら、つまらない話で盛り上がった。

「俺は、中卒だから、教養がなくてよぉ。こうして、世界を見て回って、見聞を広めようとしているわけさ。金はかかるけど、学校行くよりためになるしさ、日本のことも外側から見ると、いいもんだぜ。日本も悪くないなって、思える。日本にいる時は気づかなかったけど、俺って、結構愛国心あるんだって、発見もできたしね」

サイトーさんとは、知り合って4日目に、外人のように抱き合って別れを惜しんだ。
最後までひとり旅でいたら、それほど寂しくは感じなかったかもしれない。
しかし、いったん人と深く触れ合ってしまうと、人恋しさが増す。

その日の夜は、この旅で初めて、酒を飲む場所に行った。
それまでは貧乏旅なので、近づかないようにしていた(現地の人の家に泊めてもらった時は、遠慮なく飲んだが)。
それに、まだ白人至上主義(白豪主義)が多少残っていた時代だったので、パブなどには入りにくかったということもある。
しかし、それよりも、一泊でも多く泊まろうと思っていたのだ。

人恋しさ、というのは、コントロールできない。
食べること、飲むことは我慢できても、一度心が渇いたら、それを癒すのは、人との触れ合いだけだ。

その店は、アップライトのピアノが隅にある小さなバーだった。
疲れた感じの老人が多かったが、それでも、気分は落ち着いた。
その中の一人の老人が、酒を奢ってくれた。
あまり美味くないウィスキーだったが、心に沁みた。
言葉も通じたとは言い難いが、暖かい笑いが、心の渇きを癒した。

そんなとき、白人の初老のピアニストが入ってきて、下手くそなジャズを弾き始めた。
「星に願いを」が一曲目だったが、左手のリズムが悪いせいで、軽快感が全くなかった。
しかし、これも旅のひとこま。悪くはない。笑い話の種としては、悪くない。
客も下手なピアノを楽しんでいるような雰囲気だ。

四曲目が終わった時、リクエストタイムになった。
そこで、私の隣の老人が、ピアニストのそばまで行って、耳打ちをした。
老人は戻ってくる時、私にウィンクをして、軽く笑った。まるで、ハリウッドのバイプレイヤー(脇役)のように。

その時流れたのが、「上を向いて歩こう」だった。
日本人といえば、「スキヤキ」というのがお決まりの時代だった。
下手くそな「スキヤキ」だったが、泣けた。
老人が私の肩を抱いてくれた。

そして、そのあと流れたのが「君が代」だ。
旋律は、かなり違ったが、あちこちに「君が代」が散りばめられていた。
やはり、泣けた。

それを聴いたとき、日本に帰りたい、と思った。

予定では、あと十日は旅を続けるつもりだったが、「もう無理だ」と思った。
そして、三日後には、日本に帰っていた。

おそらく、あの下手くそな「上を向いて歩こう」と、それに輪をかけて下手くそな「君が代」を聞かなかったら、そんなことにはならなかったと思う。

それが、国歌の存在だ。

私にとっての「君が代」は、日本を思い起こさせる歌としてある。
それ以上のものではない。
しかし、それでいい、と思っている。

私が日本人だから、どんな旋律であれ、あの時は国を思う心として、泣けた。
だが、おそらく、強制では泣けないだろうし、泣きたくもない。

強制された歌は、心を癒さない、と思うからだ。



2006/10/09 AM 10:21:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | [メディア論]

一流デザイナーは百キロ
二ヶ月ぶりで会ったタカダは、醜く太っていた。

タカダは、200件以上のHPを手がけた一流ウェブデザイナーだ。
天才的な手際の良さを見せる達人であり、その感性は鋭く、独創的だ。
忙しい男だが、パートナーはいない。
一人ですべての仕事を処理している。
私より15歳以上若いが、尊敬すべき男だ。

しかし、久しぶりに彼の荻窪の事務所を訪ねた時、その身体の膨張具合に、驚愕した。
タカダは、身長は自称165センチだが、私の推測するところ、160センチそこそこだ。
体重も自称80キロと言っていたが、85キロ近くあるのでは、という疑惑を持っていた。

「とうとう、百キロになったか」
私が言うと、タカダはいつもの「エヘヘ笑い」で、「冗談きついっすヨ」と両手を大きく振って、首も細かく振った。(漫画のようだ)

彼は、大学時代、駅伝をやっていた。
当時の写真を見せてもらうと、背は低いが均整のとれた、アスリートの肉体をしていた。
体重も55キロ前後だったらしい。
20キロを1時間10分以内で走っていたというから、そこそこのアスリートだったようだ。

しかし、今は無惨だ。
3年前、市民大会の10キロの部で、陸上短距離専門の私に15分近く後れを取った。
彼はそれから、毎日5〜10キロのジョギングをし、煙草もやめてリベンジを狙っていたのだが、昨年禁煙に失敗し、ジョギングもやめた。

ジョギングのおかげで少々贅肉がとれてきたと思ったら、また太りだした。
しかし、それでもまだ「ポッチャリの範囲」で済んでいた。
今のタカダは、90キロを遥かに超えて、百キロに限りなく近づいているのではないだろうか。
顎が二重どころではない、四重になっている。
そして、相当にヤバイ腹回り。

醜い。

「師匠、やつれましたね、エヘヘ、仕事忙しいんですか?」
タカダは、私の痩せ具合をからかうことで、太ったことを誤魔化そうとしているようだ。

私は、彼の身体を眺めながら、黙った。

一分も黙っていると、タカダは気詰まりを感じたらしく、席を立った。
しばらくして戻ってきた彼の両手には、「銀河高原ビール」のシルバーボトルが握られていた。

「師匠の好きなやつ、買っておいたんですよ。今度きたら、一緒に飲もうと思って。あと4本ありますから、帰りに持っていってくださいよ」

タカダは、私の好物の「銀河高原ビール」で、すべてを誤魔化すつもりのようだ。

確かに「銀河高原ビール」は、美味い。
口に近づけた瞬間、本物の香りがする。
口当たりは優しいが、喉を通りすぎた後の香りは、当然のことだが、発泡酒の比ではない。
濃厚だ。

ただ、惜しむらくは、高い。
これ一本の値段で、発泡酒2本飲めるのだ。
2本の誘惑には、勝てない。
だから、いつも諦めていた。

それが、目の前にある。
タカダの毛むくじゃらの手に握られているのが気にくわないが、愛おしい姿がそこにある。
しかし、ここで喜びを表すわけにはいかない。

師匠の威厳がなくなる。

私は、視線をゆっくりと、タカダの作りかけのHPが映っているモニタの方に向けた。
そして、「相変わらず、繁盛しているようだな。高級ビールをまとめて買えるほど…な」と言った。
「な」と言った時、タカダの顔を軽く睨んだ。

すると、タカダは、両手に持ったビールを2本差し出し、無理矢理私の両手に握らせた。
そして、また部屋を出ていくと、両手に「銀河高原ビール」を抱えて戻ってきた。

「すみません。あと4本あると言ったのは嘘で、実は6本ありました。これ全部さし上げます」

「いいのか」
私がまた軽く睨むと、タカダは直立したまま機械仕掛けのおもちゃのように頷いた。

「しかし、こんな重いものを持ち帰れと言うのか」
「いや、車でご自宅まで送りますので、ご心配なく」
「そうか、じゃあ、君は今日は飲めないな」

私は、両手に持った「銀河高原ビール」を交互に、少しずつ飲んだ。

それを見て、タカダは「エヘヘ」と笑いながら、6本のビールを持ったまま床に座り込んだ。
その姿は、ダルマを思い起こす。

30歳過ぎて一人暮らしのダルマは、哀れだ。
性格は気が良くて、限りなく優しい。
気配りもできるいいやつである。

上戸彩が理想の女性という、このダルマ。
いいパートナーを見つけてやらなければ。

それが、師匠の役割というものだろう。



2006/10/07 PM 12:16:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

ごちそうさまのマツ
痩せた。

今年の6月は、60.5kgあった。
7月は60kg、8月は61kg、9月は59kgだった。
それが、昨日2週間振りに体重計に乗ったら、56.5kg!

2週間で2.5kgも痩せていた。
ダイエットをしているわけではない。
身長180センチだから、65kgあったとしても、ダイエットをする必要はないだろう。

だんだんと、アンガールズに近づいてきている。

体重が減ったのは、おそらく一日の摂取カロリーが少ないせいだ。
気が付いたら、朝は味噌汁一杯だけで、昼は抜き、夜もおかず二品だけ、というような生活をしていた。

我が家では、私が献立を決めて、料理も担当する。
自分が食うものは自分で決めるから、テーブルで待っていれば、自然に食事が並ぶというわけではない。
家族の食事を作って、食べさせる。
自分も同じものを食べればいい、と思うかもしれないが、先週などは仕事と平行しての料理だったから、つまんだだけで終わることが多かった。
昼は、自分だけのために食事を作るのは面倒だ。抜くことが多い。
一日の摂取カロリーは、糖尿病患者と一緒かそれ以下という、理想的なヘルシーさだ。

体調に関しては、己(おのれ)の身体のことではあるが、よくわからない。
疲れを感じても、仕事をしている時は、気にしない。
仕事が一段落して、疲労感が残っていても、また気にしない。
身体のケアなどしたことがない。身体が痛くても、熱があっても、なるべく普段通りの生活をする。
ひとから「熱でもあるんじゃないの」と言われて、はじめて高熱だったことを知る、というケースが意外と多い。

疲れは人並みに感じるが、焼き肉を食って元気を出そうとは思わないし、栄養ドリンクを飲みたいとも思わない。
甘いものも食べないし、酒で疲れをまぎらわすこともしない。
ジムで汗を流すなどという、しゃれたこともしない。

一時は、ヨメがしつこく薦めるので、総合ビタミン剤を飲んでいたことがあったが、ここ3、4年は飲んでいない。
なぜなら、ビタミン剤を飲んで、疲れが取れたことがないから。
友人などは、美味いもの巡りをしたり、リラクゼーションスポットなどに行って、リフレッシュしているようだ。

彼らからは「そんなんで、よくストレスが溜まらないね」と言われる。

ご心配ありがとう、と言っておく。
もちろん、ストレスは溜まりまくっている、と断言する。

ただ、ストレスを感じても、眠りだけは質が高いらしく、寝覚めは爽快だ。
これは私の健康のバロメーターだと言っていいだろう。

とにかく、どこでも眠れる。
目を瞑ったら、確実に10秒以内に寝る。

電車内やバスの車内はもちろんのこと、取引先の会議室で寝てしまったことがある。
公園の芝生で3時間以上眠ったことがある。
ファミリーレストランで爆睡して、店員に起こされたことがある。(料理は完全に冷めていた)
駅のホームのベンチで一時間以上寝ていたら、駅員が心配して起こしてくれた。
朝、病院の待合室で順番を待っていたら寝てしまい、気が付いたら12時を過ぎていた。

そして、一番の失敗は、プレゼンテーションの途中で寝てしまったことだ。
独立して二年目の、初めてのプレゼンテーションだった。
ほとんど徹夜で資料を整え、いい調子でプレゼンを進めたのだが、相手がプレゼン資料を読んでいる最中に寝てしまったのだ。

時間にすれば2分前後だが、「Mさん、Mさん」と肩を揺すぶられ、夢うつつで返事をした。

「ごちそうさまでした」

笑い話のようだが、本当のことである。
だから、その会社ではしばらく私は「ごちそうさまのマツ」と呼ばれていた。

こんなお気楽な眠りがとれなくなった時、私の身体はどこかが悪い、ということになるのだろう。
しかし、今のところ、眠りに変化はない。
だから、心配はないようだ。


2006/10/05 PM 12:22:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]

やる気が起きない日
急ぎの仕事がなかったので、昨日は休んだ。
ヨメが朝早く花屋のパートに行き、10分の時間差で息子と娘が学校に行った。

何もやる気が起きない。

iTunes」で音楽を聴きながら、ボーッとしていた。
朝飯を作るのも面倒だ。
私はもともと、食べることに対する欲求が乏しい。
おにぎり一個食べただけで満足できるという、安上がりな体質である。
しかし、今日はおにぎりを作るのも億劫だ。

朝寝でもしようかと思ったが、洗濯物が溜まっていることを思い出した。
外は雨が降っているが、室内干し用の洗剤を使えば、衣類が臭くなることもない。
風呂場から水を引いて、全自動の洗濯機を回した。

椅子をそばに持ってきて、洗濯機の音を聞きながら、ボーッとしていた。
洗濯機の回る音というのは、規則的なようでいて規則的ではない。回りながら衣類の形が変わるから、その都度音も微妙に変わる。
しかし、だからといって、面白いわけではない。
音が変わったというだけで感動するほど、ヒマ人ではない。

電話が鳴っているようだ。
ヴィヴァルディの「四季」が鳴っているから、得意先か同業者からの電話だろう。
(我が家の電話は着信鳴り分けができるので、電話の音で相手が判断できる。自慢するほどのことではないが…)
ここから電話までの距離は、7メートルほど。
9歩で行けるが、今日はその距離が遠い。
仕事の電話なら、後でこちらからかけ直せばいい。
だから、腕を組んで、洗濯機の回る音を聞き続けた。

しかし、退屈である。
洗濯機は忙しく回っているが、その音を聞くという行為は、限りなく退屈だ。
洗濯というのは、どの程度時間がかかるものなのだろうか。
普段、洗濯をしていても、時間を意識したことはなかった。
衣類の量や水量によって時間は変わるのだろうが、一時間以内というのが常識的なところか。

一時間も洗濯機の音を聞くというのでは、芸がない。
そこで、風呂場を洗う、というのを思いついた。
ぬるいシャワーで浴室全体を濡らしてから、換気扇を強にして、ルックを浴槽と壁、床一面に吹き付けた。
あっという間に、一本が空になった。
そのままで、約5分措いておく。
その間に、歯を磨き、顔を洗った。
鏡で顔を見ると、白い鼻毛が覗いていたので、思い切り抜いた。2センチ近い鼻毛だった。白い鼻毛は不気味だ。美しくない。

5分後、小さなデッキブラシで壁と床を軽くこすり、浴槽はスポンジで軽くこすって、洗剤を流した。
その後「ライオンきれいのミスト(お風呂用)」でシュシュッとしておいた。
綺麗になった、気がする。

そういえば、トイレもしばらく掃除していなかった。
トイレクリーナーとブラシで便器の黄ばみを落とした。
タンクも黄ばんでいたので、ゴシゴシした。そして、充電式のハンディクリーナーで床の埃を隅々まで吸った。
その後「ライオンきれいのミスト(トイレ用)」でシュシュッとしておいた。
綺麗になった、気がする。

その後、娘の部屋に掃除機をかけた。
玄関が汚かったので、床をぞうきんで拭いた。
夏の間お世話になった、扇風機の埃をきれいに取り、箱に入れて、押入にしまった。
そうしているうちに、洗濯が終わった音がした。

扇風機と交換で押入から出したセラミックヒーターを浴室に持ってきて、弱で運転した。
換気扇も弱。
浴室には、洗濯物を干すためのバーがあるので、そこに洗濯物をかけていった。
こうすれば、半日で乾くはずだ。

ひと仕事終わって、電話機を覗いて履歴を見たところ、3件記録されていた。
掃除に熱中していたので、聞こえなかったようだ。
留守録には1件。
再生してみると、同業者からだった。
朝から聞きたい声ではない。だから、途中で停止した。

冷蔵庫から、もらい物の発泡酒を取りだして、飲んだ。
仕事部屋の「iTunes」からは、絢香の「三日月」の後半が流れ、その後山田優の「REAL YOU」に変わった。
「シャッフル」で聞いているので、曲の流れは「iTunes」まかせだが、この曲の流れはいい感じだ。

雨は、いつの間にかやんだようだ。
しかし、空はまだどんよりとしている。
よどんだ空を見ながら、2本目の発泡酒を飲んだ。

何もやる気が起きない。

メインで使っているパソコンの電源を入れるのも億劫なので、椅子に座ったまま真っ黒なモニタを眺めていた。
自分の顔がモニタに映っている。
間抜けな顔だ。
発泡酒を口に運んで、目を閉じた。
目を閉じると、眠くなる。そして、確実に眠る。
ただ、危機意識だけは強いのか、発泡酒の缶は眠る前にテーブルに置いた。
我ながら、たいしたものだと思う。

ヴィヴァルディの「四季」が鳴ったので、目が覚めた。しかし、受話器を取る気にはなれない。時計を見ると、午後1時過ぎだ。
おそらく、2時間近く寝ていたのではないか。
椅子に座ったまま寝たから、体がだるい。一度大きく伸びをした。
そして、仕事部屋のフローリングに敷き布団を持ってきて、また寝た。

夢うつつの中で、ヨメが帰ってきた気配を感じたが、そのまま寝た。
その後、娘が顔を覗かせたので、目覚めた。

「グータラ親父、ユイナたちと遊ぶからな。暗くなるまでには帰る。働けよ!」

しかし、また寝た。
次に起きたのは午後4時15分。
パソコンテーブルの上に置いた飲みかけの発泡酒を飲んで、ボーッとした。
この世に、ぬるい発泡酒ほど不味いものはない。
新しい発見である。

5時までボーッとした後、洗面所で素っ裸になり、浴室の洗濯物をしまった。
生乾きではない。フンワリとしている。
そして、シャワーを浴びた。

シャワーを浴びてから、晩飯の支度をした。
ツナ玉子丼と、豚丼(息子用)、大根と豚バラ肉の煮物、小松菜のサラダである。
支度をしながら、冷たい発泡酒を飲む。
冷たい発泡酒は、美味い。湯上がりとなれば、尚更である。しかしこれは、別段新しい発見ではない。

午後8時半過ぎ、息子が高校から帰ってきた。部活があるので、いつも帰りは遅い。そして、腹を空かせている。
しかし、今日は少年ジャンプの発売日だ。
いつもなら、シャワーを浴びてすぐ飯なのだが、月曜日だけはジャンプが先だ。

家族全員に飯を食わせた後、ボーッとした。
今日は何も喰っていない。

何もやる気が起きない。



2006/10/03 AM 10:59:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]

シブヤさんと澁谷氏
物忘れがひどい。

先週の金曜日(22日)に仕事の電話がかかってきた。
電話は女性からで、シブヤと名乗った。
会社名は初めて聞くものだ。

仕事の発注の件で相談したいことがあるので、時間を取ってくれないかと言う。
仕事の話は、大歓迎だから受けた。
土曜日が都合がいいというので、昨日(30日)行ってきた。

場所は新宿。
新宿御苑駅から歩いて4、5分の場所だった。
昔、大学一年で中退した友人が、このあたりで深夜スナックを開業していた。
劇団員だけをスタッフに揃えて、毎晩怪しい寸劇を見せていたが、いつの間にか店を畳んで、彼とも音信不通になった。
そんなことを思い出しながら、会社の前にきた。

ビルの2階。エレベーターがあったが、階段を使った。
社名を確認して、磨りガラスのドアを開けて入った。
受付はない。テーブルの上に電話が置いてあり、訪問先の内線番号を押す方式だ。
押すとすぐにシブヤさんが出た。
一分もたたないうちにやってきたシブヤさんは、薄茶のスーツを着ていた。雰囲気としては秘書だ。
細面で切れ長の目が、意志の強さを感じさせた。

彼女は一瞬何か言いたげな様子を見せたが、軽く笑って、「どうぞ」と応接室に案内された。
この時は、私のアンテナに触れるものは何もなかった。

数分待たされて、シブヤさんが男性を連れてきた。
シブヤさんは、コーヒーカップを乗せたトレイを持っている。
「Mさんは、熱い珈琲がいいんですよね」
私の前に、コーヒーカップを置きながらシブヤさんは言った。

私は驚いて、シブヤさんの顔を見上げた。
どんなときでも熱い珈琲しか飲まない私の習慣を、なぜ彼女が知っているのか。
目が合う。
悪戯っぽい目で私を見て、彼女は私の斜め前に立った。
正面には、30代の男性が立って、私に名刺を差し出してきた。
私も名刺を出した。

肩書きを見ると、代表取締役と書いてある。
その時、代表取締役の下の名字を読んだが、「澁谷」となっていた。
彼女もシブヤ。
偶然にしては、引っかかる。
彼女も名刺を出してきた。
当然、「澁谷」となっているが、肩書きはない。

ほとんど立ちつくした状態の私に向かって、「彼女は私の妻です」と澁谷氏が言った。
だが、この時も私にはまだ、何も思い出すものはなかった。
ただ、いくら鈍い私でも、彼女が私のことを知っているということだけは分かった。

二人が座ったので、私も腰を下ろした。
テーブルに二枚の名刺を並べて置いて、どちらかが話し始めるのを待った。
何気なく、応接室のテーブルの端を見ると、ノートPCが置いてあった。
リンゴのマークが付いている。
そこで、突然ひらめくものがあった。

スガワラさん……、か。

4年前、取引先の小さな会社で、大幅な人員削減をしようということになった。
半分以上が整理の対象になったが、ただ辞めさせるのは可哀想なので、技術を付けさせてから辞めてもらうということになったらしい。
そこで、二人の女子社員にパソコンの操作を教えて欲しい、という依頼があった。

そのうちの一人が、スガワラさんだ。
四日間、9時から5時までPCの操作を徹底的に教えた。
Macを二日、WINDOWSを二日間教えた。Macは、ノートPCを使って教えた。
だから、MacのノートPCを見て、スガワラさんの顔が突然浮かんできたのだ。
二人とも、前向きな子で、知識欲が旺盛だったから、教え甲斐があった。
教わる側の心構えで、授業というのは、どうとでも変わる。
最初のステップを気持ちよくクリアできれば、お互いの心に余裕が生じる。心の余裕は、興味を倍加させる。相乗効果というものだ。

操作を徹底的に教える、といっても、休みは取る。
一時間操作したら、15分休憩、というスケジュールを四日間崩さなかった。
休憩時間は、絶対PCに触らせなかった。面白くなると、つい動かしたくなるものだが、休憩も授業のうちである。
それを二人は忠実に守った。

スガワラさんは、特に気の利く人で、休憩の時、コーヒーメーカーで珈琲を作ってくれた。
彼女の作る珈琲は、私の要望通りの味だったので、感激した覚えがある。
「Mさんは、本当に美味しそうに珈琲を飲みますね」
嬉しそうに、私を見て言っていた。

「あの時の珈琲は美味しかったですよ」
私が言うと、社長夫人となったシブヤさんは、手を叩いて喜んだ。何度も頷きながら笑う姿は、昔と同じだった。

そして、「あの節は、お世話になりました」と言った。
続けて、悪戯っぽく笑いながら「でも、最初は思い出せなかったんじゃないですか。わたし、昔と同じ色合いのスーツを着てきたんですけど」と言った。

頭を下げた。
「私ぐらいの年になると、四年前というのは大昔ですよ。記憶の断片がどんどん死滅していきますから」

シブヤさんは、また何度も頷きながら笑った。
その笑いを引き取るように、隣の澁谷氏が「そろそろ、仕事の話に入りましょうか」とソフトな口調で告げた。
シブヤさんは、この会社のデザイナーとして指揮を執っていたが、今回妊娠8ヶ月となって、産休に入るらしい。

それを聞いて「おめでとうございます」と私が言うと、シブヤさんは目にうっすらと涙を溜めて、泣き笑いの顔をした。
お腹は目立たないが、よく見ると、かなりゆったりとしたスーツだった。
最近の妊婦用のファッションは、機能性重視になっているようだ。

シブヤさんが産休に入ると、仕事が少々滞(とどこお)る。
シブヤさんが、適当な人材を捜していたところ、私のことを思いだして、こちらに話が回ってきた。
だから、できる範囲でサポートして欲しいというのが、先方の申し出である。

こちらに断る理由はない。
そう言うと、二人は立ち上がって最敬礼をした。
こちらも立ち上がって、応えた。

先方はOS X(テン)で作業をしていると聞き、一瞬絶句したが、「いや、OS9でもいいですよ」と言われたので、胸をなで下ろした。

私の珈琲カップが空なのを見て、シブヤさんは「もう一杯作ってきます」と、応接室を出た。
あらためて、私が澁谷氏に「おめでとうございます」と言うと、今度は澁谷氏の目にうっすらと涙が。
スガワラさんは、素敵なパートナーを手に入れたようだ。

新しい珈琲を持ってきたシブヤさんは、私のカップに60度の角度で注いだ。
私の言ったことを覚えていたらしい。

「この香りは…」
「はい、ブラジルです」
シブヤさんが、ウインクをして答えた。
その様子を澁谷氏が、嬉しそうな顔で見ている。

こういう夫婦を見ていると、嬉しくなる。
そして、人生が楽しくなる。



2006/10/01 AM 11:43:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | [Macなできごと]



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