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● デジカメの画像はクセモノ |
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チラシやカタログなどの仕事の場合、得意先から、先方で撮ったデジカメの商品画像を使って欲しいというケースが増えた。 一見、こちらの手間が減って楽そうに見えるが、意外とそうでもない。 ひどい画像が多いのだ。 大体が、暗い。ぼやけている。メリハリがない。 蛍光灯の灯りで撮っているから、まったく奥行き感がない。
当然のごとく、フォトショップで加工するのだが、あまりひどいと修正が効かないことがある。 ベタ部分が潰れているものは、どういじっても潰れたままである。 「この暗い部分には溝が掘られているはずなのに、その溝が見えない」 と抗議されても、最初から映っていないものを、どう修正しろというのか。 想像で溝を書けと言われても、現物がなければ書けない。
フォトショップは万能ではない。 私など、自慢するわけではないが、欠陥だらけのデザイナーである。 そんなこと、できるわけがない(開き直り)。
そんなに大事な商品なら、専門家に任せて欲しい。 はっきり言わせてもらうが、シロートがいい写真を撮れる確率など、よほどの幸運がない限り、ゼロに近い。
デジカメは簡単に撮れる。 仕上がりも綺麗になった。 だから、デジカメ万々歳! というのは、シロートの発想である。
この件に関しては、メーカーも悪い。 誰でも綺麗に撮れるような宣伝をして、勘違いを助長している。 スナップ写真なら、それでもいいかもしれないが、仕事で使うことを前提にするなら、スナップ写真のような画像では見る人に失礼だろう。
簡単に撮れる、イコールいい写真が撮れることではない。 そのあたりを勘違いしている人があまりにも多すぎる。 デジカメの2.5インチの液晶モニタで綺麗に見えたからといって、そのまま印刷物用に使えるわけではないのだ。
誰でも気軽に扱える、誰でもいい写真が撮れる、と宣伝するメーカーの戦略に乗せられて、デジカメは市民権を得たが、それはあくまでもパーソナルな分野に限られる。 商品の良さをアピールする商品画像の場合は、シロートに撮ってもらっては困る。迷惑だ。
クライアントは神様です、という人なら、それがどういう結果をもたらそうが、言いなりになるだろう。 しかし、少しでも良いものを作りたいと思っている「ひねくれデザイナー」としては、「シロートが手を出すんじゃネエよ」という気概を捨てるわけにはいかない。
そこで、今回は、知り合いの印刷会社の「撮影用ブース」を借りて、商品を撮り直した。 これは、元々は私が自作したものだ。 我が家は、自慢ではないが大変狭いので、印刷会社さんの一室を借りて、そこに置かせてもらっている。
横幅80センチの立体ボックスを作って、その中に2種類のバックスクリーンを交換して使えるようにしたものである。ライトは「ドイト」で適当なものを買ってきて据え付けた。 バックスクリーンは青と、薄いグレーのグラデーションの2種類を、商品に合わせて使っている。
私が商品画像9点を撮っていると、印刷会社の社長が寄ってきて言った。 「Mさん、ついでにこれも撮ってくれないかな」 見ると、立派な書道の掛け軸である。 自分で書いたものらしい。 躍動感溢れる書体で、「忍耐」と書いてある。 右隅に社長の落款が押してある。
要するに、自慢である。 おそらく、褒めてもらいたいのだろう。 だが、社長は相手を間違えた。
私の母は、書道の達人だ。 だから、書を見る目は肥えている。 母と比べたら、この程度の作など、赤子と大人の違いがある。
私は正直者だ。 だから、「はい、撮っておきます」とは言ったが、褒めたりはしなかった。 社長は明らかに気分を害したように、私をにらみ据えて、その場を離れた。
「忍耐」は書だけか!
こちらは真剣勝負で、商品撮影をしようとしているのだから、それに集中したい。 しかし、ヒマな中小企業の社長には、それが理解できない。 自分の作が褒められることを期待していたものだから、私は完全に悪者になった。
撮影を終わって、帰りの挨拶をしたときこう言われた。 「あの撮影用ブース、邪魔だから持って帰ってくれないかな」
私は、そういうことをストレートに受け取るタチだから、素早く折り畳んで持ち帰ろうとした。 すると、社長は慌てて、「冗談だよ、冗談。これ意外と活躍してるからさ、置いといて構わないよ」と言った。
デジカメも面倒臭い機械だが、人間もけっこう面倒臭いものである。
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2006/09/06 AM 08:45:41 |
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