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● カラオケボックスで打ち合わせ |
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世の中には、信じられない発想をする人がいる。
得意先の担当者に呼ばれて、先方に行くと、「1つしかない応接室がふさがっているので、外で打ち合わせをしましょう」と言われた。
どこに行くかと思ったら、会社から歩いて3、4分の所にあるカラオケBOXだった。 私が驚いた顔で看板を見上げていると、「今時分は客が少なくて静かだから、打ち合わせには丁度いい」と言いながら階段を上っていった。
朝の10時半。 確かに、この時間帯にカラオケに来るのは、暇な大学生か主婦ぐらいだろう。
そして、彼の言ったとおり、店内には全く音が漏れていなかった。 カラオケボックスの廊下が静かだと、何となく居心地が悪い。
ハワイアン風のデコレーションを施した部屋に入り、廊下の自販機で買った缶コーヒーを飲みながら打ち合わせをしたが、どうも落ち着かない。
それほど親しくもない人間と、密室に二人きりというのは、台風前の天気のような、妙な鬱陶(うっとう)しさがある。 しかも、打ち合わせの前に、「今回は予算がないので、いつもより、低めの設定でお願いしますよ」と言われたので、なおさら鬱陶しい。
簡単な仕事なら、その提案は納得出来るが、撮影を任され、納期も短い、報酬も少ないとなると、ただ忙しいだけのサービス仕事で終わってしまう。
そこで、「少なくとも、あと4日納期を延ばしていただけたら、お受けします。納期が延長できないなら、せめて普通の価格設定にしていただきたい」とお願いした。
「う〜ん、それができるならねえ」
要するに、「それが出来るなら、他のデザイナーに出すよ。時間も金もないから、あんたに頼むんだろ」ということだろう。
正直、どんなものでも仕事は欲しい。 フリーランスは、仕事が来なければ干上がってしまう生き物だ。 だから、どんな悪条件でも仕事を引き受ける、という哀しい性(さが)を持っている。 いつもなら、この条件でも引き受けていただろう。
しかし、この密室の鬱陶しさがいけない。 (冷房はかなり効いているが)気分的には、不快指数85以上。 全員不快。まるで熱帯地方にいるような感覚。 だから、すべてが面倒臭くなってしまった。
投げ遣りにこう言った。
「申し訳ありませんが、この条件では無理です。これだけタイトな仕事は、何人もスタッフを抱えているところでなくては、こなせないと思います。残念ながら、今回はご遠慮いたします」
相手は、一瞬気分を害したような顔になったが、思い直して、携帯電話を取って、電話をかけ始めた。 上司に報告しているのだろう。
「こんな仕事、やらねえよ」 とこちらは決めているから、相手の会話を聞くつもりはない。 テーブルの上にある「新曲リスト」を手にとって、ソファにもたれながら、中を見てみた。
ほう、上木彩矢の新曲がもう入っているのか。木村カエラもある。中島美嘉の新曲もある。へえー、Bzの「SPLASH」もあるじゃないか。
「Bzのサウンドはカッコイイぞ」と、私が常日頃言っているから、我が家の子ども二人は、最近やっとBzサウンドに芽生えてきて、MP3プレーヤーで「LOVE PHANTOM」や「Crazy Rendezvous」などを聞いている。 プロモーションビデオなども真剣に見るようになった。 おそらく、この「SPLASH」も、「ダウンロードしておいて」と言い出すことだろう。
などと思っていると、電話が終わったらしく、「わかりました」という担当者の声がした。
は?
「いま、上と相談しましたところ、納期は短くできませんが、価格はいつも通りで結構、ということになりました。来週の月曜朝までに初稿をメールでいただくということで、お願い出来ますか」
それを聞いて、今まで不快だった気分が、避暑地の高原にでもいるような爽快さに変わっていった。 人間の気分というのは、何と簡単に変わるものか。
おそらく、いつものように会社の応接室で仕事の話をしていたら、悪い条件でも引き受けていたかもしれない。 密室の居心地の悪い鬱陶しさが、不愉快をバネにして、自己主張が出来る雰囲気を作り出してくれたのだろう。
だから、たまには、カラオケボックスで打ち合わせというのもいいのかもしれない。
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2006/06/27 AM 11:13:36 |
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