Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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サムライ
十日ほど前、10数年ぶりに頼(らい)君から電話がかかってきた。
頼君は中国人。
私が昔、法律事務所に勤めていたときに、事務所で半年間アルバイトとして働いていた男だ。

頼君は中央大学で法律を勉強する留学生だった。
彼は、中国人独特の訛もなく、日本語の読み書きも完璧にこなせる、頭のいい男だった。

頼君は、大学卒業と同時に母国に帰り、国の研究機関に勤めたらしい。
だが、その後のことは知らない。
国に帰ってからは全く音信不通だったので、彼には申し訳ないが、完全に存在を忘れていた。

だから、受話器から「頼です」と聞こえてきても、全く思い出せなかった。

彼に笑いながら、「サムライのことで喧嘩したじゃないですか」と言われてやっと、記憶の引き出しが開いた。

サムライのことで喧嘩、では訳がわからないだろうが、私たちにとって、一番わかり合える「符帳(ふちょう)」がこのサムライなのである。

昔、仕事の帰りに彼を誘って、よく居酒屋「天狗」で飲んだものだった。
頭が良く、礼儀正しい彼は、思考方法が真っ直ぐで、愛国心も強かった。

13、4年前の中国は、まだ今ほど発展していなかった。
「一人ひとりを比べれば、中国人は日本人に負けていない。働き者だし、物覚えもよく、忠誠心も強い。それなのに何故、こんなにも日本と差があるのか。納得できない」
と言って、いつも彼は嘆いていた。

それに対して、私はこう言うのだ。

明治維新前まで日本には武士(サムライ)がいた。しかし、中国にはいなかった。その違いだよ。

日本には漢字を筆頭に、色々なものが大陸から入ってきた。日本文化のほとんどは、中国大陸からもたらされたものだ。
だから、日本にとって、漢・随・唐王朝は「師」と言っていいだろう。

ただ、唯一違うものがあるとしたら、それがサムライだ。
中国大陸や朝鮮半島では、「武」は下等のもので、「官(役人)」が大きな権限を持っていた。そこが日本とは違う。(江戸幕府は官僚が治めていたが、外様藩では武士が主導権を握っていた藩があった)
日本は色々なものを大陸や半島から取り入れたが、「侍という職業」「侍という意識」だけはオリジナルだ。

そして、その侍が、幕末の日本を救った。
彼らは欧米列強を怖れず、侍の論理で革命を起こした。
この小さな国が列強の植民地にならなかったのは、幾つかの幸運もあっただろうが、「官僚」よりも優秀な「侍」がいたからだと、俺は思っている。
だから、アジアの国のほとんどが列強の植民地化したのに対し、この国はどこの国にも侵略されることなく、JAPANを作り上げた。

しかし、清国には日本と同意義の侍がいなかったから、アヘン戦争で英国の餌食になった。
もし、清国に「官僚組織」を打破するサムライ集団がいたら、今の中国は変わったものになっていただろう。
今頃は日本より遙か先を進んでいたかもしれない。
俺は、中国は百年回り道をした、と思っているよ。


それに対して彼はこう言う。
「清国にも武士はいました。優れた軍人もいました。漢の時代、三国志の時代には数え切れないくらいの実力者がいました。日本の将軍などは、それに比べたら、規模が小さい。日本の武士などは、ただ闘うだけで野蛮で頭が悪い。それが日本を救ったというのは、買い被りです。

アヘン戦争に関しては、運が悪かった。英国がアジアを制するために、一番大きい清国に目を付け、無法に侵略した。清国にとって不運だったのは、「イギリス東洋艦隊」が当時世界で最強だったことでしょう。当時イギリス海軍に勝てる国はなかった。
日本だって、絶対に勝てなかったと思う。日本は運がよかっただけですよ」

確かに運はよかった。
アメリカやフランス、ロシアも日本に目を付けていて、英国はそれらの国と牽制し合わなければいけなかったからね。
しかし、君は知らないだろうが、「薩英戦争」というのがあってね。幕末に日本の薩摩藩とイギリス艦隊が戦ったんだ。
この戦争で、薩摩は負けなかった。勝ちもしなかったが、イギリス艦隊は1度だけの戦闘で、退却していったんだ。

薩摩というのは、日本のちっぽけな藩だよ。清国に比べたら、米粒みたいなもんだ。そんな米粒だって、イギリス艦隊を追っ払うことができたんだ。なぜ、大国である清国にそれができなかったんだ。


「英国は、清国のかなりの部分を手に入れたから、日本侵略に対して真剣ではなかったのでしょう。日本が無事だったのは、清国の犠牲があったからですよ。日本は諸外国にとって、真剣に手に入れるほどの価値がなかったんじゃないでしょうか」

それは、帝国主義というのを間違って解釈しているね。
彼らにとって、目の前にある獲物はすべて自分のものさ。手加減なんかしないよ。強国は、どんな小さな獲物でも逃さない。それが帝国主義という領土ゲームなんだからね。

獰猛な帝国主義から逃れるには、官僚や「官僚的な軍人」では駄目なんだ。強烈な自意識を持ったサムライが必要なんだ。
欧米列強から「クレージー」と怖れられるほど、強烈な存在感を持ったエイリアン(異人種)がね。
官僚的な軍人は国家意識が低いから、「不平等条約」「治外法権、関税自主権」の放棄の意味もわからず、催眠術にかかったようにサインしてしまう。

当時の清国にはこの「官僚」か「官僚的な軍人」しかいなかったんだろう。あるいは、武士はいただろうが、自主性がなかった。官僚と同じように、中華思想にあぐらをかいていた。
今、中国は「核保有」によって、かろうじて大国としての発言権を持っているが、そんな「おもちゃ」を持たないと、アメリカの顔を真っ直ぐに見られないようじゃ、「官僚」の意識は、清国時代と全く変わってないんじゃないかな。


「『核』の問題はデリケートですから、やめましょうよ」
最後はいつも、このあたりで話が止まったものである。

頼君は、2週間日本に滞在するので、その間に会えないかと言ってきたが、彼が都合のいい日と私の都合のいい日が合わないので、結局会うことはできなかった。

お互いのメールアドレスは交換したので、これからはメル友として「国際的に」付き合っていこうと思っている。

「でも、Mさん。サムライの話はもう止めにしましょうね」

そうだな、今さら侍の話でもないものね。侍は遠い昔の話だ。

「日本にはもう、侍はいませんか」

ああ、織田信長を気取った「丸投げの殿」はいるけどね。

「丸投げ? なんですか、それ? 最近の流行語ですか?」

メールで教えてあげる。


2006/06/25 AM 08:41:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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