Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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怖い話 第二話
そして、祖母が評価した「姉の性格」。
そのことも、私の頭に強烈に刻み込まれた。

確かに、姉はひとの言うことを聞かない。
これは今に至るまで、見事なほど変わっていない。

姉が、「こうだ」と決めつけたら、そのことを覆(くつがえ)すことは、誰にもできない。
父母、教師、恋人、友人、そして私。
誰の言葉も、彼女の心を揺さぶることはできない。理屈も感情も、その他すべてのものが、無惨にも跳ね返されてしまうのだ。

姉は、頭がいい。
何百人の教師の卵を教えてきた、熟練の教師であった祖母がそう言うのだ。それは間違いがない。
私も、姉は大変優秀な頭脳の持ち主だと思う。
父母もそう思っている。
しかし、ただひとり本人だけが、そう思っていないのだ。

「私は頭が悪い、だって学校の成績、良くないもん!」

それはそうだろう。姉の教科書はいつもきれいなまま。書き込みも、折り目も付いておらず、ほとんど新品同様。
彼女の同級生に聞くと、「Hちゃんは、授業中、ノートに落書きばかりしている」と言う。
つまり、授業中はほとんど先生の話を聞いていないのだ。
家に帰っても勉強はしない。絵ばかり描いている。
しかし、授業に全く集中していないのに、成績は普通なのだ。
落ちこぼれではない。

授業をまともに聞いていれば、どれだけ良い成績が取れたことか。
そのことに、本人は気付かない。
ただ、普通の点数が並んだ「通知票」を見て、「私は頭が悪い」と決めつけている。

そんな姉に、祖母も父母も、担任の先生もこう言う。
「Hちゃんは、頭いいのよ。授業を聞いていなくて、ちゃんとわかるんだから。もっと勉強すれば、一番になれるんだよ」
普通なら、そう言われれば、その気になる。
ああ、私はやればできるんだ。じゃあ、やってみよう!
それが、まともな受け止め方だろう。

ところが、姉は違う。
「成績が良くないんだから、頭が悪いに決まっている!」

重ねて言う。
成績は確かに良くはない。だが、悪くもないのだ。
授業をまともに聞かず、勉強もしていないのに、だ。

まわりは、ほめ続ける。
あらゆる言葉を使って、姉をその気にさせようとして、ほめる、ほめる。
しかし、彼女の心は動かない。
「私は頭が悪い」
まるでその思いを変えたら、自分が自分でなくなるかのような頑固さで、周囲の説得を拒絶する。

みんなが、 姉が毎日描いている絵をほめる。
「これだけ、いい絵を描く子は、他にいない」
「色づかいがいい」
「天才的だ」

それに対して、姉は「だって、賞取ったことないもん! だから、私は下手!」と言いきる。

確かに、賞を取るタイプの、一般受けのする絵ではない。
ただし、その独特の感性や表現力は、小学生とは思えないほどの「濃密さ」がある。
33才で早逝した、祖母の夫(つまり私の祖父)は、天才的な日本画家だった。
祖母は、姉の感性は、祖父に似ていると言って喜んでいた。
祖父の天才の血は、間違いなく、姉にそのすべてが受け継がれている。(残念ながら私には一滴も受け継がれてはいない)
専門家に習えば、その能力はさらに磨き上げられるに違いない。
皆がそう思った。

「絵を習いましょう。あなたには絵の才能がある」
祖母、父母、担任の先生が、またも説得する。
しかし、またも姉はこう言うばかり。
「私は下手!何の賞も取ったことないもん!」

神様も仏様も、彼女を説得することはできない。

2006/01/19 AM 11:18:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | [怖い話]



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