Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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不可解な依頼人
独立して2年目から付き合いのある会社があります。

この会社とは、今年で8年目の付き合いになりますから、私にとっては、2番目に長いお得意さまです。担当者もずっと一緒ですので、相手が何を要求しているかも、ほとんど最初の打合せでわかります。

その得意先の担当者と昨日(日曜日)に打合せをしました。

「2年前のあの浄水器のイラストは、ひどかったね」
彼は突然そんなことを言い出しました。
「2年前の浄水器のイラストというと、3月の折り込みチラシに使ったものですか」
私がそう言うと、彼は眉間にしわを寄せて、重々しくうなずきます。

その折り込みチラシに使ったイラストは、ほとんど目立たない扱いで、7センチ×5センチの小さいものでした。
B3のチラシの中では、小さい囲みの中にサブ的に入れたもので、あまりリアルなものは要求しないと言われて作ったものです。
私は正直、ほとんどその仕事を忘れていました。

「あれはそんなにひどかったですか」
私が聞くと、彼はさらに眉間にしわを寄せ、首をゆっくりと縦に振りました。
「あのチラシは今までで、一番反響が少なかったからね」
まるで外国の俳優のように肩をすくめながら、口を少々「への字」にして、彼は言いました。

なぜ今になって、2年前のチラシの反響を言い出すのでしょうか。それもほとんど目立たない扱いの3Dイラストを引き合いに出して。
「あのイラストに関して、今頃クレームが来たのですか」
私は身を乗り出して聞いてみました。
「いや、そうじゃないけど、あの時は本当に反響が少なかったんだよ。その原因を探ると、あのオモチャみたいなイラストが頭に浮かんだんだ」
「しかし、あれはリアルでは邪魔になるからといって、わざと模型のようにしたはずですが」
「そうだけど、反響が悪かった理由は、それしか考えられないんだよ」

彼が芝居がかったように言うので、私も体をソファに大きくのけ反らせて、首を大げさに振りながら、腕を組んで目をつぶりました。
全く彼の意図が読めません。2年前に反響がなかったチラシのことは、始めて聞きました。反響がなかったなら、その場で言えばいいではないですか。なぜ2年後の今になって言い出すのか。この2年間に15回くらいチラシを作っていたのに、なぜそのときに言わないのか。私も自然に眉間にしわが寄っていくのが、自分自身でもわかりました。

私が目をつぶって黙っていると、彼はこう言いました。
「デザイナーは、責任感を持ってやってもらわないとね」
コイツは何を言い出すつもりか。となおも目をつぶっていました。
「反響がない場合は、なぜ反響がないか責任を持って追求しないといけないと思うんだ。ただ仕事が終わって「ハイおしまい」では、無責任だと思うんだけどね」

8年の付き合いで、気心が知れていると思ったのは、どうも間違いだったようです。

デザイナーというのは、与えられた素材を効果的に配置して、人の目を惹く作品を作るのが仕事です。そして、その仕事が形になって(印刷されて)配布された時点で、デザイナーの仕事は終わりなのです。
売り上げ効果云々は、その会社の企画や営業の人が考えるものです。

アイデアを出すのは企画担当、商品を売るのは営業担当、文章を考えるのはコピーライター、会社の方針をアドバイスするのはコンサルタントの仕事です。
そのどこにもデザイナーは含まれません。

なぜ今になってそんなことを言い出すのか。私は目をつぶりながら、そのことを考え続けましたが、よくわかりません。
ゆっくりと目を開けると、私の目線を少しよけながら、彼はこう言いました。

「次回のチラシは斬新なものでいきたいので、アイデアを提出してください」

要するに、彼の方でチラシのアイデアが手詰まりになったのでしょう。チラシの仕事を企画段階から頼みたいということのようです。
2年前の反響の少なかったチラシをなぜ引き合いに出したのか、ワケがわかりませんが、自分のアイデア不足を、他人に押しつける口実として使ったのでしょう。

「企画書を提出すればいいのですね」
「いや、ラフなデザインをいくつか作ってくれるだけでいいよ。そのラフデザインの中から、こちらのアイデアを誘発するものがあれば、それを膨らませて企画は俺が考えるから」

それなら最初から「新しいチラシのラフデザインを考えて欲しい」と言えば済むではないですか。そういったことはよくあることです。初めからそう言ってくれれば、私も眉間にしわが寄ることもなかったでしょう。

日曜日に1時間も電車に揺られて、憂鬱になるような言い方をされたせいで、私は帰りの電車を待つ間、駅のホームでシャドーボクシングをしてしまいました。
正気にかえって辺りを見回すと、白い目で私を見ながら、ゆっくりと私から遠ざかる子ども連れの家族の姿がありました。

仕事をくれた彼の言動も不可解ですが、私も世間から見るとかなり不可解に映ったようです。



2005/05/23 PM 12:46:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | [日記]



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