Macでお仕事?
Mac歴22年。独立して15年。日に日に減っていく仕事……。そんな売れないデザイナーのひとりごとです。
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公園で拾った白夜行
朝一番で、大宮の印刷会社に、仕上がりイメージを持っていった。

24ページの小冊子を両面プリントして中綴じ製本をすると取りあえず立派な本になる。
素人にホチキスの中綴じは難しいのだが、コツをつかめば、不器用な私でも綺麗にできる。
そのコツは、教えませんけどね(嫌なやつ)。

帰り道にある大宮第三公園に寄って、家から持ってきた朝メシを食おうと、自転車で公園内のベンチを探した。
公園内にベンチは沢山あるが、どれも鳩やカラスのフンがこびりついている。
だから、なるべくフンの少ないベンチを物色した。

その中で木の枝が張り出していない、鳩のフンの飛びにくい場所を発見した。
これなら、フンはこびりついていないだろう、と推測したベンチに行ってみると、フンは背もたれの左隅にある一箇所だけだった。

よし、本日の朝メシ場所は、ここに決定。
自転車を止め、バッグを籠から下ろした。
そのとき、目に入ったのが、ベンチに置かれた分厚い文庫本である。

セピアでコラージュした画像に浮かび上がる文字。
「白夜行」

東野圭吾の有名なミステリーだ。
4、5年前に図書館で借りて、読んだ記憶がある。
薄いダークなイメージのクライムノベルである。

読み終わったとき、松本清張が生きていたら、これを読んで悔しがっただろうな、と勝手に想像した。
抑制の効いた文体と無理を感じさせない心理描写、情景描写。
読後感は重たいが、不思議な余韻を与えてくれる作品だった。

その「白夜行」がなぜ、ベンチに置き去りに?
忘れたのだろうな。
おそらく、慌てていたのだろう。

分厚い文庫本を手にとって、パラパラとめくってみた。
すると、本の間に紙片が挟んであるのを見つけた。
手帳の切れ端のようだ。

その紙に、青いボールペンで文字が書かれていた。
細い文字で書かれた文章を読んでみた。

「これを手にした方。
読み終わったので、所有権を放棄します。
活用していただけると、うれしいです」


変わったことをする人だ。
筆跡からすると、女性だろう。

何も書かずに置いておくと、忘れたと思われるから、「所有権を放棄します」と書いた。
読むのも自由、読まずに誰かにあげるのも自由。
捨てるのはもったいないから、誰かが「活用する」ことを望んで置いていったのだろう。

面白いな。

そこで、ご希望通り、私が活用することにした。
一度読んだ本だが、二度読めば、また新しい発見があるかもしれない。

読む前に、バッグから朝メシを取り出した。
普通のおにぎりの倍以上のボリュームがある握り飯が二つ。
具は、大量のネギ味噌と、自家製の塩辛が入ったもの。

飲み物は、シジミのエキスだけの味噌汁を携帯用魔法瓶に入れて持ってきた。
それを飲みながら、握り飯を頬張る。
そして、文庫本を読む。

引き込まれた。

話の展開がわかっていても、その卓越した文章力が、文字を追うことをやめさせてくれないのである。
気が付いたら、一気に2百ページを過ぎ、第三章まで読み進んでいた。

時計を見ると、11時半。
今日は、急ぎの仕事がないので慌てて帰ることはないが、三月中旬は、まだ寒い。
ベンチには、春の陽光が当たっていたが、体を芯から暖めるほどではない。

帰ることにした。
そして、自転車を漕ぎながら、最初に「白夜行」を読んだ時のことを思い返した。

これをもし、テレビか映画でやるとしたら、ヒロインは絶対に柴咲コウだな。
目で意思を表現できる人しか、この役はできないな、と思った。
そして、男の主人公は、多少、年は行っているが、本木雅弘だな。
表情を変えずに、ことばだけで表現できる男優は限られる。彼こそ適役だ、と思った。

しかし、その後、「白夜行」がテレビ化されたが、配役は、綾瀬はるか山田孝之だった。
私は、そのドラマを見ていないので、コメントできない。
評判が良かったかどうかも、わからない。
私のイメージとは、だいぶ違うが、どちらもいい役者さんなので、もしDVDになっていたら、いつかツタヤで借りて観てみようと思う。

でも、やっぱりヒロインの柴咲コウは、私の中では譲れないな。
柴咲コウの唐沢水穂(ヒロイン)を絶対に見てみたい。
そして、相手役は、今なら小栗旬だろうか。
年齢的には、本木雅弘より、こちらの方が合っていそうだ。

お互い、暗く沈んだ情念を心の奥底に澱ませて、陽の光を避けるように、白夜の中を、もがきながら行く二人。
笑顔さえ、氷のように冷たく痛々しい「はぐれびと」。

見てみたいなあ。
柴咲コウと小栗旬の「白夜行」。
運命に抗いきれずに、薄絹のような闇の中を懸命に這い進んでいく、この二人の演技を見てみたいなあ。

いや、しかし・・・・・、とまた別のヒラメキが。

ヒロインは、沢尻エリカでもいいかもしれない。
邪(よこしま)な心を隠して、いい人を演じる役を、彼女にやらせてみたい気がする。
はまり役ではないだろうか。
すると、相手役は、小栗旬ではなく二宮和也か藤原竜也の方が合うかも。
非情なまでに犯罪者に徹する役は、彼らにとって新境地になるかもしれない。

いいな。
うん、いいかもしれない。

いやいや、しかし、柴咲コウも、やっぱり捨てがたい。
ああ! どうしよう!

そんな妄想に耽りながら、昨日5百ページ近くまで読み進んでしまいました。

そんな私に、中学2年の娘が舌打ちをしながら言った。

「おまえ、今日の晩メシ、手を抜いたな!」

はい、申し訳ありません。

すべては、「白夜行」を置いていった人が、悪いのでございます。



2010/03/20 AM 06:26:59 | Comment(3) | TrackBack(0) | [こんな本読みました]

相性が悪い
相性の悪い作家というのが、いると思う(いないか)。
私にとって、それは内田康夫氏だった。

友人から何冊か本を借りたことがある(ほとんどが無理矢理押しつけられた)が、毎回30ページ読むとため息をついて、本を閉じることを繰り返した。
何だこのフニャフニャした文章。緊張感のない展開。
これは、本当にミステリーなのか?
「ユダの愛した探偵」というのを何とか我慢して後半近くまで読んだが、苦痛に感じて、結末までは至らなかった。

内田康夫氏は超人気作家である。
その作品は、ドラマ化もされているらしい。
しかし、私とは相性が合わない。
それは、相性が悪いとしか言えないものだと思う。

ベストセラー作家の作品が、面白くないはずはないのだ。
私の感性が、きっとおかしいのだろう。

海堂尊 氏というのも、最近のベストセラー作家である。医者でもある。
友人が彼の作品を絶賛していて、3年前に、彼から「チーム・バチスタの栄光」を借りた。
これも、相性が悪かったようだ。

比喩を多用している文体が、すべて上滑りしているように感じて、物語に集中できなかった。
この程度の話なら、半分の文章でまとめられたのではないか。
そう思ってしまったら、ページをめくる手が、鉛のように重くなって止まってしまっのだ。

百ページも行かずに挫折した。

友人には、「楽しめなかった」と正直に言った。
すると、次に「螺鈿迷宮」というのを貸してくれた。

「これは、おまえ好みかも」と言われて読んだが、30ページで挫折。

友人は、今度は意地になって「ジェネラル・ルージュの凱旋」を貸してくれた。
「これは、俺が一番好きな作品なんだ」

しかし、50ページも行かずに挫折。

「何でだろうな」と友人。

文章に、無駄が多すぎるんだよ。
それが、ミステリーだと言われたらそれまでだが、もっとスッキリまとめられないのかな。
いたずらに文字をこねくり回した比喩は、自己満足にしか思えないんだが・・・。

それに対して、友人はあきらめ顔で言う。
「まあ、お前は、変わっているからな」

そうです。
私は、まぎれもなく変人です。

他にも、その友人は、音楽が好きな男だった。
それも、大御所のミュージシャンが好きなようだ。

例えば、さだまさし、松任谷由実、長渕剛、矢沢永吉、中島みゆき、チャゲ&飛鳥、小田和正、井上陽水、吉田拓郎など。

「松任谷由実の新しいアルバム買ったんだけど、聞く?」
聞かない。
「矢沢永吉の新しいやつ、いいよ。聞く?」
聞かない。

その人たちは、きっと今もいい曲を作っているのだろう。
しかし、その人たちの曲は、昔も聴かなかったから、いまも私は聴かない。
おそらく、一生聴かない。

きっと相性が悪いからだろう。

団地の住民で、オオタケさんというのがいる。
彼は、40歳から50歳前後の男の人を集めて、「男子厨房会」というのを作っている。
会員は、4名だという。

3年前まで、オオタケさんに「Mさんも、入りませんか」と頻繁に誘われていた。
私より4つ年下の小太りの男。

彼は、私がジョギングをしている姿を見て、「Mさんは、いつも走ってるから、そんなにガリガリなんですね」と言う。そして、「貫禄ないですよ」と言われた。

私が買い物袋を両手に捧げて団地内を歩いていると、オオタケさんは袋の中身を遠慮なく見て、「ずいぶん野菜が多いなあ。なに? Mさんは、ベジタリアンなの? ああ、違うの? ベジタリアンみたいな顔してますけどね」と言った。

近所のマクドナルドで、のんびりコーヒーを飲んでいたとき、突然そばに立って、「自営業はいいですね。優雅ですね。なんか、そんな姿を見ると、覇気が感じられませんね」と、オオタケが言った。

団地内を子ども二人を連れて散歩していたら、「Mさんは、子離れしていないんですね。俺なんか、娘と出歩くことなんか、とっくの昔にやめてますよ。気恥ずかしいじゃないですか」と、オオタケは胸を張った。

ガストで得意先の人との打ち合わせを終え、自転車にまたがった時、偶然出くわしたオオタケは「あれ、Mさん、自転車? Mさんって、健康ヲタクだねえ。百歳まで生きるつもり? 家族に嫌われますよ」と、ぬかした。

私が、団地内の遊歩道を歩きながら、iPhoneで仕事先と会話をしていた時、それを見ていたオオタケの野郎は、「Mさん、iPhoneなんか使ってるの? Mさんって、もしかして、外国かぶれ?」と、ほざいた。

ロジャースで食料品を買ってレジで並んでいると、「あれ、Mさん、車がないのに、そんなに買って大丈夫かい? 自転車で持っていける? 運んでやろうか」とオオタケが、タメ口で言った。

冬のある日曜日、ジョギングを終えて、遊歩道のベンチで日向ぼっこをしていたとき、オオタケが通りかかって、私の姿を見て「アハハハ」と笑いやがった。

オオタケには、いつか得意の右フックをお見舞いしてやろうかと思っている。

相性の悪いやつというのは、いるようだ。



2010/01/09 AM 06:22:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | [こんな本読みました]

読書感想文
移動距離の長い得意先がある。
たとえば、静岡、宇都宮、横浜。

車内では、たいていは寝ているが、寝ていないときは、本をよく読む。
文庫本限定だ。
そして、ブックオフで買った105円限定でもある。
だから、旬のベストセラーは、読もうと思っても読めない。

自分のことを、「105円読書家」と呼んでいる。

その105円読書家が、この2ヶ月間に読んだ本の感想文を載せようと思う。

横山秀夫の「クライマーズハイ」。
横山秀夫の著書では、「半落ち」が有名である。何かの賞を取ったと記憶している。映画化もされた。
これは、私も読んだ(105円)。見事な構成で、一気に結末まで読ませるが、私としては、最後がきれいごとで終わった印象が強くて、最後だけ力が抜けた。

「クライマーズハイ」も、映画化されたらしい。しかし、私は「半落ち」も「クライマーズハイ」も見ていない。

物語の主軸は、日航ジャンボ機墜落事故。主人公は、地方新聞社のベテラン記者・悠木。
そして、そこに、「山登り」が絡む。
事故報道の全権デスクを任命された悠木の自己の生い立ちへの負い目。報道への迷い。家族、とりわけ長男と接することへの戸惑い。
そして、植物状態でベッドに臥す友人との約束。
熟練の「山屋」である友人は、なぜ山に登ったのか。

下りるために登るんさあ。

悠木は、その言葉を不可解に感じながらも、その言葉によって彼が伝えようとした真意をいつも諮りながら、嵐のような報道現場に身を置き、時に彼は立ち止まる。
悠木は、骨太でアクティブな男だが、弱さも兼ね備え持っていた。

迷いが支配して、特ダネを逃すこともある。
この墜落事故のときも、結局は、迷いから特ダネを逃した。

孤独。

そして、山登り。谷川岳の「衝立岩」。
幾人もの登山家の命を奪った、垂直な壁。
山に惹き込まれた登山家が感じる極限状態の「クライマーズハイ」。

日航機報道では、迷いに迷った悠木だったが、事故から17年を経て、衝立岩に挑みかかった時には、「クライマーズハイ」を確実に感じていた。
この衝立岩に挑んだ時の、悠木と彼の長男とのエピソードがいい。

悠木と彼の長男は、気持ちがすれ違っていて、お互いの感情をぶつけることができないまま、長男は大人になり、悠木は年を重ねた。
しかし、自分のことを嫌っているとずっと思い込んでいた彼の長男が、悠木のために残した衝立岩垂壁の1本のハーケンが、萎えた悠木の気力を奮い立たせる。
そして、植物状態のまま逝った友人の息子の助けを借りて、最後は衝立岩を征服する。

横山秀夫の筆力は、細部まで力に溢れ、その人物描写、情景描写には圧倒される。
文章を書くことを職業にする人の凄みが、全編に漲って、読後感は、かなり重い。
しかし、どこか爽やかでもある。
そして、これは、その爽やかさが気持ちのいい作品である。

佐々木譲の「笑う警官」。
これも、最近映画化された。見ていない。

この分野は、最近では、「警察小説」と分類されるらしい。
横山秀夫の「半落ち」も、「警察小説」だという。
味気ないジャンルわけ、と感じるのは、私だけか。
警察小説ではなく、「佐々木譲の作品」という表現で十分だと思うのだが。

構成力のない作家なら、上下巻分けた冗長な長編になるところだが、佐々木譲は、それを極限まで贅肉を削ぎ落として仕上げることに成功した。
その精緻な文章力は、驚嘆に値する。
警察社会に身を置いたことがないので、それがリアリティのあるものかは、判断のしようがない。
ただ、こんな世界があっても、絶対に不思議ではない、と思わせる信憑性は、行間のすべてで感じられた。
それが、作家の力量というものだ。

佐々木譲の力量が、すべての面でうかがえる作品。
ただ、私は「笑う警官」というタイトルに、どこか違和感を感じる。
物語では、警官が「うたう(警察の内部情報を暴露する)」ことが、キーワードになっている。
「笑う警官」では、確実に主題から逸れる。
新刊で出たときの「うたう警官」で十分だと思うのだが、これは角川のあざといセンスがそうさせたものだと諦めるしかないようだ。

京極夏彦の「嗤う伊右衛門」。
これも映画化されたらしいが、やはり私は見ていない。

有名な「四谷怪談」を主題にしたこの小説は、怖さよりも、儚さが目立って、そして美しい。
この物語は、幾人かの登場人物の視点で、章ごとに進行していく。
語り部としての京極夏彦の紡ぐ話は、登場人物の心象風景を古典的な表現で描写しながら、静かに深い感慨を我々の心に貼り付けていく。

悪人がいる。
しかし、その悪人にも、悪人たるべく理由がある。
悪人は、その存在は悪だが、悪になった理由には、わずかながら納得するものがある。
それは、人間の中に必ず存在する「悪の部分」に、私が共感したからかもしれない。

しかし、悪は死ぬ。
だが、ここでは「善」も死ぬのだ。

その結末が、哀しくて美しい。
これは、「四谷怪談」だが、私たちが知っている「四谷怪談」とは、違うものだ。
京極夏彦の、「新たな物語」だと言っていいだろう。

伊右衛門が、その生を終えて嗤う。
その嗤いが、どこかもの哀しくて澄んでいる。
そこが、いい。

いま、読んでいるのが、東野圭吾の「さまよう刃」。
これも、映画化されたらしい。
誰が監督で、誰が主演かは、知らない。

長い小説だ。
まだ、70ページくらいしか読んでいない。

今まで読んだところでは、型にはまった導入部という印象が強い。
このあと、物語がどう複雑に織り込まれていくのか。
いまや随一と言っていいストーリーテラー・東野圭吾は、どんな「引き出し」を開けて、我々を驚かせてくれるのか。

それを楽しみにしながら、電車に揺られて、読み進んでいる。



2009/12/28 PM 04:59:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | [こんな本読みました]

内田康夫の文庫本が5冊
本は、比較的よく読む方だ。

電車で長時間移動するときなどは、目をつぶると必ず眠ってしまうので、眠気防止に本を読むことにしている(何度も乗り過ごしたことがあるので)。
眠気を誘うような本は読まないようにしているので、エンターテインメント系を読むことが多い。

東野圭吾宮部みゆき船戸与一佐々木譲志水辰夫浅倉卓弥北方謙三藤田宜永真保祐一乃南アサ京極夏彦などが多い。
全て文庫本で、ほとんどブックオフなどの古本屋で買う。
それも100円コーナーのものだけである。

100円コーナーには、新しい本は置いてないので、古い作品ばかり読むことになる。
ベストセラー作家になる前の宮部みゆきや東野圭吾は、新しいものが100円コーナーに並べられてあったが、今はよほどの幸運がない限り、そんなことはない。

だから、最近彼らがどんな本を出しているのか、私はまったく把握していない。
ベストセラーには興味がないので、何が売れているのかまったくわからない。
ただ、小説のいいところは、年月が過ぎていたとしても、文学的価値が下がらないところだ。
年月がたっても、小説の世界が色褪せるわけではない。
だから、古い小説を読んでも、まったく違和感を持つことがない。

私の場合、暇なときに100円の古本をまとめ買いをする。
10冊くらい買って、ストックしておく。
それを、適当に読んでいく。

3か月前に、文庫本を10冊、メッセという古本屋で買った。
ここは消費税込みなので、丁度千円である。区切りがいい。これがブックオフなら1050円取られる。50円は半端なので、損した気分になる。
消費税が7パーセントになったら、もっと中途半端になる。
消費税は、なくてはならないものだろうが、古本にはかけないで欲しい。
貧乏人をいじめないでください。

この10冊の古本は、先週10冊目の真保祐一の「ボーダーライン」ですべて読み終わったから、私の場合、3ヶ月間で10冊のペースということになる。
これが、多いのか少ないのかはわからない。
私の友人は、あらゆるジャンルの読み物を月に50冊読むというから、彼に比べれば、かなり少ない数と言える。

今週は、読む本がなくなった。
しかし、古本屋に行っている暇がない。金もない。
そこで、昔読んだ本をもう一度読み返そうと思った。

本棚がわりの段ボール箱を漁(あさ)って、もう一度読みたい本を点検していった。
京極夏彦の本は全てが厚いから、段ボール箱の中で激しく自己主張している。
どれも面白かったが、今は超長編を読む気にならない。

宮部みゆきの「蒲生邸事件」も厚い。隆慶一郎の「影武者徳川家康」も上中下巻に別れていて、厚い。浅倉卓弥の「君の名残を」も上下巻に別れていて、厚い。
こうしてみると、私は結構長編好きだということがわかる。

自分では意識していなかったが、これはおそらく同じ100円払うなら、分厚い本の方が得をした気分になる、という貧乏くささによるものだと思う。
300ページの本より、600ページの本の方が、絶対に得だ。
普通のハンバーガーと、ビッグマック。どちらも100円だと言われたら、ほとんどの人がビッグマックを手に取るのではないだろうか。これと同じことである(?)。

そんな風に段ボール漁りをしていると、内田康夫の本が5冊あるのを見つけた。
これは、ミステリィ好きの友人が、これだけは読めなかったといって、私にくれたものである。
彼は、ベストセラー作家が書いたものだから面白いに違いない、と思って読み始めたが、20ページくらい読んで挫折したらしい。

だが、一冊読んで、彼はこう思った。
これは、この本が、たまたまつまらなかっただけだ。たくさんの本を書いているのだから、中にはハズレもあるだろう。きっと、他の作品は面白いに違いない。
そこで、もう1冊買って読んでみるが、また20ページで挫折。
それを繰り返すこと、4度。結局一つも読破できなかったという。

「おまえ、内田康夫の本、読んだことあるか?」
「ああ、『箱庭』というのを読んだ記憶がある」
「面白かったか?」
「いや、ただ長いだけだった」
「そうか、でも最後まで読んだんだな」
「ああ」
「じゃあ、やる」

ということで、もらったのだ。
しかし、読む気にならず、3年以上段ボールにしまったままだった。
「箱庭」は、つまらないとは思わなかったが、長すぎると思った。
ダラダラと行き当たりばったりで書いている印象が強かった。

他の本はどうなのだろうか。
「〜殺人事件」というタイトルのものが多い。それだけで、私の読む気は萎える。
本格派のミステリィ作家が、一種のシャレで「殺人事件」と付けるのは許容範囲だが、真面目に「殺人事件」と付けられると、手を抜いているような気がして、本を開こうという気にならない。

そこで、5冊のうち唯一「殺人事件」のタイトルのない「ユタが愛した探偵」というのを読むことにした。

これはつらかった。文体にまったく緊張感がないのだ。
しかし、これは最初はわざと緊張感のない文章を書いて、徐々に盛り上げる手法なのだろうと思った。
そうでなければ、これほどのベストセラー作家が、こんなゆるい文章を書くはずがない。

そう好意的に解釈したが、3分の1読み進んでも、まるで女性向け雑誌の紀行文のような文章が延々と続く。
たとえば「るるぶ」の文章は3頁くらいで終わるから、スッキリ気持ちよく読めるのである。
それが延々と続いたら、間違いなく、ダレる。飽きてくる。

最後に期待しよう。
きっと、最後にピンと張りつめた描写で、一気に盛り上げてくれるに違いない。
そう思って、我慢に我慢を重ねて読み進んだ。
しかし、エピローグの前あたりまで読んで、とうとう匙を投げた。
どこまでいっても、緊張感がない。

もう最後まで読んでも意味がない。
これは、そもそも小説にする程の題材とは思えない。

沖縄が舞台だから、沖縄に興味のある人は感情移入がしやすいかもしれない。
しかし、沖縄に何の先入観も持っていない人間に、紀行文もどきの説明をされてもミステリィとして受け止められない。
ユタをもっと克明に書いていれば、物語に緊張感は出ただろうが、ユタに関しては、又聞きの歴史的背景と感想に終始しているから、沖縄に関する感想文としか思えないのである。

これを傑作と評している人は、当然いるだろう。
沖縄が舞台というだけで、エキゾチックなものや歴史的なものを感じる人には、文体に緊張感がなくても満足は得られるかもしれない。
だが、ミステリィに緊張感を求める私には、ベストセラー作家の筆休めにしか思えなかった。

本を読んでこんなに腹が立ったのは、久しぶりだ。
もし、これを自分で100円払って買っていたら、悔しくて涙を流したことだろう。
100円のハンバーガーを食った方がましだった、と思ったことだろう。
人にもらった本でよかった。

それだけが、救いだった。
(内田康夫ファンの方、ゴメンなさい)


2007/10/28 PM 04:59:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | [こんな本読みました]

ワシントン封印工作/佐々木譲
佐々木譲という作家は、かなり過小評価されているのではないでしょうか。
ハイレベルの作品を数多く世に出しながら、知名度の低い作家に甘んじているように思えてなりません。

初めて読んだ彼の作品は「愚か者の盟約」でした。11〜12年前です。
革命を目指す幼なじみの政治家と秘書。政治の裏表を青臭くならない程度にリアルに描写した作品でした。
地味な題材ですが、大した力量だなぁ、と当時感心した覚えがあります。

その後、「夜にその名を呼べば」「ネプチューンの迷宮」「ハロウィンに消えた」「サンクスギビング・ママ」と読んで、衝撃を受けたのが「ベルリン飛行指令」でした。

これは佐々木譲の「第二次世界大戦シリーズ」の第1作目。
よくある戦記物でもなく、愛国心を煽るものでもありません。
抜群の能力を持ちながら、海軍では札付きパイロットである安藤大尉と乾一空曹を軸に据えて、開戦前の緊張感の中でサムライ魂を貫いた二人を描いた、ロマンあふれる傑作です。

ここでは当時の海外の国際情勢が克明に描かれています。彼の文体は冷静で押しつけがましいところが全くありませんから、そこが逆に読むものに緊張感と臨場感を与えます。
新しいタイプの冒険小説として、大変レベルの高い作品でした。
これほどの作品を書いたら、次は力を抜くだろうと予測していましたが、彼は私のような凡人の考えをはるかに上回る作品を次に発表します。

「エトロフ発緊急電」
今まで一千冊以上の小説を読んでいますが、間違いなくベストテンに入る作品です。
世を拗ねたひとりの日系人が、「真珠湾攻撃」前夜の緊迫の中で大きな役割を果たすまでを、周りに魅力的なキャラクタを配して、壮大なドラマに仕立てています。

物語のどこにも無駄がなく、必要なものすべてを詰め込んでいるにもかかわらず、くどくならない彼の手法は「ベルリン飛行指令」以上に冒険小説を進化させたものとして、まさしく金字塔と呼ぶにふさわしいものでした。

しかし、彼の快進撃はこれで終わりではないのです。

「ストックホルムの密使」
これは終戦直前の海軍、陸軍トップ達の人間模様や、内閣の様子が生々しく描かれていて、思わず唸ってしまうほど、リアリティにあふれています。上・下巻に分かれていて大変長い作品ですが、長さを感じさせません。
特に「森四郎」という主人公のキャラクタは秀逸で、彼の心の揺れや寂寥感などを、まるで我がことのように感じさせるその文章力は、圧巻です。

そして、「ワシントン封印工作」です。
これも第2次世界大戦が舞台ですから、前3作と同じ流れのもの、としたいところですが、冒険小説とはいえないという点で、私は全く別物と解釈しました。

本作品は、日米開戦前のワシントン日本大使館が舞台になっていて、真珠湾攻撃までの大使館員の外交職務と、大使館にスパイとして送り込まれるタイピスト、そしてそこにアメリカ国務省、FBIが絡んで、戦争回避を大命題として奔走する人々が描かれた長編です。

ただ、前3作と比べて、ストーリー展開などに破綻があります。
主人公のひとりである混血タイピストのエピソードが細切れで、しかも長いため彼女のエピソードの時は、中だるみを感じてしまうのです。

後半のサスペンス部分がよくできているだけに、そのたるんだ部分が残念でなりません。
前3作を知らなければ、あるいは佐々木譲の力量を知らなければ、及第点以上の評価はできます。
しかし、「佐々木ならもっと面白いものが書けたはず」という読み方をした場合、不満は残ります。

ただ、第2次世界大戦をテーマにして、これだけ違う切り口の作品が書ける佐々木譲という作家は、稀有な才能の持ち主だということだけは確かです。


2005/09/02 AM 06:27:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | [こんな本読みました]

擬態/北方謙三
北方謙三の小説はおそらく50冊以上読んでいるでしょう。

初めて読んだのが、「逃がれの街」。
それは生まれて初めて読んだ国産のハードボイルドでした。

退屈な日常の中で、身近な人間に巻き込まれる形で罪を犯してしまう青年。
追っ手から逃げ、街から逃れ、袋小路に追いつめられていき、彼は凶暴なアウトローとして死んでいきます。
日常生活を突然引き裂かれ、のたうち回るように逃れる青年の心が徐々にすさんでいく様が、丁寧で精緻な描写で書かれていて、読み応えがありました。

ハードボイルドといえば、バイオレンスと思われがちですが、それはほんの一部分でしかありません。実際は男の(人間の)生き様を書いたものが多いのです。

北方謙三は特に「男」にこだわった作品が多く、暴力描写も多いのですが、最小限にスリム化した文体は「どぎつさ」「あざとさ」とは無縁で、衒いのないものです。

この「擬態」は「北方版三国志」や「水滸伝」などの時代小説を除けば、久々のボリューム感ある長編小説です。

普通の会社員が徐々に変貌し、本性を現していく様を「擬態」として表現しています。
ただ、この主人公は元から持っている自己内部の「絶望」を飼い育て、知らない間にその「絶望」に支配されていくのですから、本当の「擬態」とは言えないかもしれません。

心の奥底に隠していた「絶望」が、きっかけとは言えないくらい些細なことで増幅し、爆発していく様子を、北方は丁寧に描写していきます。
この「丁寧に」というのは、私が彼の小説を読み始めてから一貫して変わっていない部分です。

ただ、今回は暴力シーンなどを丁寧に書きすぎたためか、彼が破滅に向かって突き進んでいく「動機」や「意味」がかえって希薄に感じられます。

脇役で魅力的なキャラクターの刑事も出てきますが、かつての「老いぼれ犬」のような物語を超えた存在感とはならず、ただ刑事としては規格外の人物としか感じられないのが残念です。

「時計が止まったような気がした。時の流れが止まったというのではなく、時計の針が止まったという感じなのだが、時計を見ていてそうなったのではない。躰の中で、そういう感覚が起きた。躰の中で、なにかが止まった。」
という書き出しで始まるこの小説は、「逃がれの街」のように社会の理不尽さを表現するのとは違い、あくまで「自己の絶望」だけを主題にしています。

その「絶望」に共感できれば、物語に入り込むのは簡単です。
しかし、「絶望」に共感できなければ、最後の主人公の破滅的な死は、虚しいだけのものになります。
私は「絶望」に共感できなかったので、今回の「破滅的な死」に違和感を感じました。

男の「絶望」は、それが深ければ深いほど「破滅」が鮮明に姿を現してくる。
彼は、それを「擬態」という言葉で表現したのでしょう。
しかし、北方謙三ほどのストーリーテラーなら、「破滅的な死」に関して、もっと違ったアプローチができたのではないかと思えてなりません。




2005/08/07 AM 06:26:01 | Comment(1) | TrackBack(0) | [こんな本読みました]

「秘密」/東野圭吾
東野圭吾の「秘密」(文庫版)を読みました。

大手の古本屋さんでまとめ買いをしてきたものの一つです。

東野圭吾の本は、2年前に「11文字の殺人」というのを読んだことがあります。
いかにもミステリーらしいタイトルだと思って買ったものですが、有り得ないシチュエーションの割りに、結末はそれほど意外でもなく、ミステリーとしては中途半端なものでした。

東野圭吾という人は、私の中のイメージでは、意表をつく筋立てと状況設定で、しゃれたミステリーを書く人という思いがありました。
しかし、「11文字の殺人」にはそれがなく、かなりガッカリした記憶があります。

「秘密」は果たしてどうなのか?

これでガッカリしたら、もう東野圭吾の本は読まない。
そう力んで読み始めましたが、力んだ甲斐はありました。
有り得ないシチュエーションを不自然に感じさせない展開は、主人公平介の視点で物語を進行させたことで、物語に現実感を持たせていました。

事故で死んだ妻の心が、娘の身体に宿るというと、オカルトのような話ですが、そこまで落ちることはなく、東野は巧みな語り口で、物語を進行していきます。

若い娘の肉体を手に入れた妻と、夫平介との暮らしは、娘が10歳の時から始まり、娘(実は心は妻)の結婚で終わります。
そしてこの物語の展開では、確実に老いていく平介の方が、どう考えても不利です。
心は妻でも、見かけの上でも社会生活上でも、彼女は娘なのです。

後半読み進んでいくうちに、平介の娘として、幸せな結婚をしてしまう妻が、憎たらしく思えてきます。
物語の途中で、娘の心が帰ってくるのですが、私はこのあたりから、この本のタイトル「秘密」の意味を考えながら読んでいました。

まわりの人たちに本当のことを隠すという意味での「秘密」なのか、それとももっと深い意味を込めた「秘密」が隠されているのか。

最後の結婚式当日の出来事で、「秘密」の本当の意味がわかります。
決して後味の良い結末ではなく、ミステリーとしては「?」のつく終わり方ですが、ミステリーらしくない結末という点では、東野圭吾らしいとも言えます。

ミステリーの読後というのは、面白かったかつまらなかったの二つしか感想はないのですが、これは何となく余韻の残る読後感を与えてくれました。
こうなると、今まで避けていた東野圭吾のデビュー作「放課後」も読んでもいいかな、という気になります。

学園ミステリーは苦手、という食わず嫌いな私ですが、古本屋さんに置いてあったら、おそらく手を伸ばすことでしょう。

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「秘密」は何年か前に、広末涼子と小林薫主演で映画になっていました。

昨日ヨメに、この本は面白いから読んでみたら、と勧めたら、「ああ、これヒロスエが出た映画の原作でしょ、つまらなかったからヤダ」と言われてしまいました。

映画はそんなにつまらなかったのか。でも彼女はいつ映画を見たんだろう?







2005/07/07 AM 06:47:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | [こんな本読みました]

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